10話【旅立ち】
上の半身を失った体は、その生命活動も停止させ、一気に地面へと崩れ落ちた。
僕は異質な形で倒れている死体に近付く。
近付きながら、すぐ傍で立ち上がろうとしているリリィに声をかける。
「リリィ、大丈夫? 怪我はないか?」
僕はそう言いながら、村長の死体をまさぐる。変な意味ではなく必要な物が、使えそうな物があるならもらっておこうと言う訳だ。
「目立つような外傷はないけど、身体中がとても痛いわ。ずっと押し潰されそうになってたから」
「まあ、そのくらいで済んで良かったと思うよ。今回はどうやら君自身の可愛さに助けられたって感じだ。多分、男なら生かしても売り捌く事ができないから、軽く動けない程度じゃなくて思いっきり潰されてただろうね」
これは客観的に見て思った普通の意見である。
リリィがうつむいて、少し黙っていたけれど僕は特に気にしなかった。
「べ、別に可愛いとかは関係ないわよ」
リリィは顔を上げて堂々と仁王立ちの形で僕に言った。
「ところで夏木はこれからどうするのよ? 私は……私もマリーも多分、村には戻れないと思うからここから離れようと思っているの。これって、突然の出来事だったから今思い付いたばかりでマリーには言ってないけどね」
「僕はまだ分からないよ。でもリリィとマリーはそうした方がいいかもしれないな。だけど、村に心残りはないのかい? 両親とか……言っておかなくちゃいけないんじゃ──」
僕がそうやって二人の事を思ったつもりで言った言葉に、リリィすぐに反応を示した。
「──夏木」
「…………」
「私とマリーには親はいない、捨てられた子供なのよ」
僕はそれを聞いて何て言ったらいいのか分からなくなった。
まさか二人とも捨て子なんて、そんな境遇だとは思わなかったのだ。村の平和そうな雰囲気がそんなことを思わせなかった。
まあそんな見た目平和な村の裏の顔は、随分と酷い残虐な物であったわけだが……、だが、それも僕がその裏の顔を担う村人をかなり殺したから心配はなくなるのだろうか?
「……ああ、その、ごめん」
「別に気にしてないわ。私達はね、街の離れに捨てられていたのを村長に拾われただけなの、だから今回の件で裏切られたって言われてもいいから、もうどうでもいいことなのよ。きっとあいつは最初から私たちを売るつもりだったのかもしれないわね」
昔から私のことになると──とマリーが言っていたが、昔から捨て子同士で家族のように、姉妹のように協力して生活していたのならば、リリィがマリーに固執?していたのも分からなくはない。
よく考えてみたら、捨て子、拾われた、村長に。
そのキーワードから考えると、村長が来たのは村にやって来たのは数年前という訳なので、彼女らが拾われたのはここ数年の……最近の話ということになるのだが。
「謝ったばかりでまた突っ込んでいくけれど、リリィとマリーが拾われたのってここ、最近の話なの?」
そうよ──と言って、リリィは頷いた。
「村にやって来てからまだ一年も経ってないわ。それまでずっと必死に、盗賊のように泥臭く生きてきたものよ。拾われてからはいい生活をマリーと過ごせて幸せだったし、楽しかったけど、まさか村長がこんなこととは思わなかったわよ……」
「そりゃそうだ……」
魔法についてはいつ知ったのか、使えるようになったのかとかを聞いておきたいな。
だが、気にしないとか、どうでもいいとか、そう言うようなことは言っているけれど、僕としてもこれ以上昔の話に足を踏み入れて行くのはデリカシーに欠けると思うので、これを最後にしたい。
「そう言えば、リリィ。魔法はどうやって使えるようになったんだ? 村長にでも教えて貰ったのか?」
「いや、そこは独学よ、そう言えばマリーはとてももったいないのよね、魔力は沢山持ってるのに魔法を覚えようとしないのよ。ああ、そうそう、覚えかたとしたは棄てられていた魔法学校の教科書とかを……使って……」
ああああああああ──とリリィが凄い金切り声を放り出した。
「ど、どうした?」
「私、決めたわ。街の方に行って魔法学校に入ることにする!」
目を輝かせて、そう言うリリィ。初めて見る顔だったので、少しどぎまぎしつつも僕はそれなりの対応をする。
「魔法学校って?」
この世界の者に聞く内容としてはありえない物だったのだろうか、リリィは僕に見下すような顔をしていた。
それは言い過ぎた。悪く言い過ぎた。
具体的に言うなら、『なんでそんなことも知らないの?』って顔だ。
──と言うわけで、リリィによる簡潔な魔法学校講義が始まった。
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魔法学校。
亜美寺夏木がやって来た異世界のほとんどの街に存在する学校。
魔法学校という名の通りで、魔法について学ぶ学校である。まあ魔法以外の一般教養をもちろん勉強していくのだが。
一般教養と魔法の勉強。
これを比で表すならば、一般教養と魔法。四対六と言った感じで魔法の勉強がやや優先されている感じだろう。
いや、やはり三対七と言ってもいいかもしれない。
魔法学校は、第一学部、第二学部、第三学部に分かれているのだ。ちなみに、それぞれの学部は街の中の別々の場所に建築されてある。
基本的に学部と言うのは、小学校、中学校、高等学校 と言ったのと同じような部類の分け方である。
一学部も二学部も三学部も全て三年間の内容で、一学部の三年生を修了できれば、二学部の一年生に。二学部の三年生を修了できれば、三学部の一年生に。という感じで進んでいけるのだ。
基本的には小さい頃から……通常世界での小学四年生頃から入学する。他の街の魔法学校に移るとしても前の学校での級から再開できるので、転校する人も安心である。
特例として、年齢が一学部の一年生に合わないものなら、特殊な試験を行い、その結果に応じた学部の年度から始めることができる。
三学部の次に特学部と言うのがあるが、これは夏木の世界で言う大学みたいなものだ。だが、基本的には特学部に行けるような人は居ないし、例えその誘いが来ても断る人が多いので…………、そう言う訳で特学部の説明は省く。
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「──見たいな感じね。分かった?」
「ああ、まあ何となくね」
本当に何となく。僕が生きてきた世界の学校とかに置き換えて考えることでしっかりと理解ができた。
「じゃあ今すぐにでも街を目指しましょう!」
「いや、本気で言っているのか?」
「本気も本気よ! 今まで私が本気じゃなかった事がある?」
今までって言うか、君とは昔からずっと関わっているような人ではないので知らないよ。
と、言ってみたかったのだがやめた。やめておいた。
「仕方がない。僕もどうせ行くところがないのだし、ついていくよ」
目標、夢でも立てておこうかな。
そうだな、思いきった夢の方が良いよな。
「この世界の財宝と美女を狩り尽くす……」
「……今なんて言った?」
「ん、別に何も言ってないよ。気にしないでくれ」
と、僕は言って、リリィに向かって一つ道具を投げた。
リリィはいきなり投げられたので、落としそうになっていたが、なんとかその手の中にそれを留めていた。
そして首を傾げて疑問。
「何これ?」
僕はさらっとした感じで答える。
「こいつの持ってた神器」
死体の右腕に握られていた神器を、死後硬直にもめげずに引き剥がし、それを渡したのだ。
これから魔法学校に入る上であった方が便利なんじゃないか? という気持ちや、街に辿り着くまでそこそこの旅路になりそうだったので、ないよりはあった方がいいとか考えたのだ。
これからの冒険にきっと役立つだろう。
まだ異世界に来たばかりだけれど、魔法学校を理解したようになんとなくだが、なんとなく楽しくなっていきそうな気がした。
2014/8/20現在
ここまで誤字脱字修正完了しました。
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