1話【財宝を見つけたぞ!】
古びた今にも崩れそうな遺跡、その最奥に二人の男女が訪れていた。遺跡に隠されているとされる財宝を見つけるためだ。
目的は財宝を見つけて億万長者になること。
大それた夢を持つ彼等はトレジャーハンターの大人、ではなく、ただの高校生だった。そして二人は今、遺跡の最奥の豪華な装飾が施された、例えるなら軽自動車一つ分の大きな箱の前に立っていた。
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目の前にある大きな箱。
随分と装飾が施されてるな、もしかするとこの箱の中には、僕達の探し求めていた財宝が入っているかもしれない。
僕は箱の蓋に手をかける。そして力を入れてみた。
もうかなり昔の箱なのだろう、開けるまで気付かなかったが、簡単に鍵が壊れてその蓋が開いた。
中身は案の定、大量の財宝。みたことない金塊や宝石達だった。
僕は思わず近くにいた仲間に言った。
「クレア見てくれ、財宝だ! この遺跡に隠されていたと言われる大昔の金塊の話は本当だったんだ!」
唐突だけれど僕の名前は亜美寺夏木。
女みたいな名前だが、容姿はどこからどうみても男である。多分。
僕の隣に金髪のアメリカ人女性が一人いる。僕が通っている高校での知り合いだ。
クレア・ウォーカーという名前で、とっても可愛い子なのだが、て言うか外国人で可愛くてスタイルも良いし、お洒落のセンスもいいし、見た目に関して言えば、僕の好みにドンピシャなのだけれど。少々、見た目に反してクレイジーというか、がさつなのだ。クレイジー寄りながさつさ。
そんな僕も女性に対してはクレイジーであるが、いや、暴力を振るとかではなく、好感度を上げようと必死になることだ。無類の女好き。自覚はしている。
「夏木……こいつはヤバいわよ! 私達はもしかすると大金持ちになれるかも、というかなれる! 高校を三週間も無断で休んでアフリカ大陸まで渡ってきた甲斐があった、ねえ?」
クレアが言ったことの一部に関して僕は特に何も思わない。
──僕とクレアは高校一年の夏に知り合い、出会ってすぐに意気投合した。
合わないところもあったけど、合うところの方が多かったんだ。
その合うところの一つは目的というのが多いだろう。
僕とクレアは知り合う前からある遺跡について独自に調べていたのだが、たまたまそれが一致したということ。互いにその遺跡に眠る財宝を求めていたということ。
三年生になってのゴールデンウィークに僕達はその遺跡へと向かうことにした。
この日のためにお小遣いやバイト代をずっと貯めていて、それが使えるとなった時は凄く嬉しかった。お金を使うだけでも。
結局、ゴールデンウィーク中に遺跡から財宝を持って帰ることは無理だったわけだけれど。
既にゴールデンウィークが終わって三週間。海外に滞在している期間は実質四週間は超えていると思う。
多分、日本じゃ行方不明とかになってそうだ。
誰にも告げずに二人でここに来たのだから、因みにどうやってここに来たのかと聞かれた場合、その答えは違法な入船だ。
とりあえず僕は行方不明どうとかの事をクレアに話してみる。
「いいじゃん別に、私の事を道具としか思ってない親なんていらないからね」
そう言うクレア。僕も同感だ。
「分かるよ、互いに嫌な両親を持ったものだね。あんな最低な親なんてこっちから願い下げだよ」
まともな親が欲しかった。
「でも大騒ぎだろうな。行方が不明になる事件なんて最近じゃ別に珍しくはないけれど、僕達ただの高校生が急に消えたんだから。しかも同じ学校、同じクラスの生徒がなんだし」
「確かに……、しかもそんな私達がこれから海外で優雅に暮らしていくとは誰も思わないでしょうね」
クレアが笑って言う。
ところで、財宝について詳しく見てみよう。
「夏木、中身を少し探って見ましょうよ」
クレアも同じ考えのようだ。
「宝石とかに傷をつけないようにしてくれよ。売るならできるだけ高く売りさばきたい」
「はいはい、分かってますよ」
言ってる側から無造作に滅茶苦茶に探っていくクレア。
今の返事はなんだったんだよ。
まあいいか。宝が見つかって僕も気分がいい。
多少傷が付いたとしてもこれだけの量だからな、贅沢して暮らしても一生で使いきれるか分からない。
と、ここで僕の手に他の財宝と比べて小さい何かが引っ掛かった。
「ん? なんだろう」
引っ掛かった物を掴み、取り出してみる。
「すごい……」
僕の手に握られていたのは、金と銀で作られたリボルバーだった。六発装填の物らしいけれど、僕は銃についてはよく知らないぞ。
「それ銃? 宝の中にそんなものが入っているなんて物騒ね」
「物騒とはいえ、金と銀をベースに作られてるようでかなり高級そうだよ。多分、鑑賞用とかじゃないかな?」
「形的にはコルト・キングコブラが元みたい。そこそこ銃身が長いわね、完全に個人的な好みだけど私は銃身長い方が好きよ」
やっぱりアメリカ生まれだから銃について詳しいのか?
「そのコルト・キングコブラって言うのは凄いのか?」
「そんなの私には分からないわ。ただ、生産期間は短かったらしいから、結構レア物なんじゃない?」
「そうか……。──弾は入ってないみたいだな、ポケットに入れておこう」
「護身用のつもり?」
「脅し用かな?」
「弾が装填されてるかされてないか丸見えだから、脅しなんて無理なんじゃないかしら」
「でも、ポケットに差し込んでおくと、なんだかかっこよく見えるだろ?」
「どうかな……バカみたい」
「あぁ、そう」
バカと言われてもポケットから銃は抜かない僕。
まだ何かあるかと箱の中を再度探ろうとすると、クレアが口を開く。
「また拳銃見つけたわ。あなたの大好きな金銀装飾の銃よ、よかったわね」
そう言ってクレアは僕にそれを投げてきた。僕はそれを受け取り、まじまじと見つめる。
「……今度は普通の拳銃だな、ゲームとかで見たことあるぞ。確かこれはCz75ってやつだな。それにしてもリボルバータイプじゃなくて、こういうのなんて言うんだ? ただのハンドガンタイプ?」
「セミオートマチックハンドガン、とでも言うんじゃなかった? 私はそこまで銃なんて触らないから分かんないわよ。この先詳しい人が居たら聞いてみたらどう?」
「……そうだな、そうするよ。なんだかそういう人に会えるような気がしてきた」
にしても、セミオートマチックといいリボルバーといい、金銀で作られている上に、彫刻のように模様が彫られているんだよな。
何だかかっこよすぎて幼い中二心がくすぐられる。
「ヤッバ……なにこれ……」
「クレア、どうしたんだ?」
クレアが驚いたような様子を見せたので、僕も驚いた。
「これ……見てよ!」
と言って、その手を突きだし、手に持ったそれを僕に見せつけてくる。
彼女の手に握られていたのは、
「刀じゃないか!」
結構刀身の長い奴だ。二メートル以上はあるんじゃなかろうか。
「日本刀よ、日本刀! 私こんなの初めて見たわ。もう決めた! 誰がなんと言おうとこれは私だけの物よ! 私だけの宝物よ!」
「テンション上がってるな……」
どれだけ刀好きなんだよ。こうなると少し可愛げあるが。
……ちなみにクレアは刃物が好きである。刀だけではなく刃物全部である。理由は知らない。
「でも、ちょっと錆びてるのが駄目ね。今度から富豪になるんだから刀を研いでもらうことにしようっと」
これを納めるための鞘はあるかしら──と言って宝箱の中を一心不乱に探す彼女視界に映す中で、一方での僕は宝箱から妙な物を見つけていた。
「なんなんだろう、これ」
僕が見つけたのはガシャポンから出てきそうなカプセル。だけど材料は金銀、透明なプラスチックでできたものではないので中身が分からない。
「財宝を持って帰る前に、最後にこれだけ開けてみるか」
軽く捻ってカプセルを開ける。
「……開かない。固すぎて開かないぞ。確かに固そうな見た目だけれど」
今度は全身全霊、全力を懸けてカプセルを捻った。
思ったより簡単に開けた。
──その瞬間。
「な、なんだこれは!」
「夏木、何してんのよ!」
何故、叫ばれたかと言うと、僕が開けたカプセルから突然強大な光が発され始めたのだ。
それは目が眩むほどの光。
目の前がほとんど見えない!
「早くその光をどうにかしなさいよ!」
「分かってるよ! とにかく蓋を閉めないと」
蓋を閉めようと、余りに焦っていたせいか、足下に蓋を落としてしまう。
本当に光が強すぎる。
足下がまともに視認できない。
しゃがんで手探りで足下のどこかにある蓋を探す。
数秒の後、異変に気付く。
「あれ……」
光が無くなっていた。
「目が開けれるけれど……どこに行ったんだクレア……宝箱も消えてる?」
光が消えたのと同時に、クレアや宝箱もその場から消えていた。
周囲は真っ白。光が満ちていた時とほとんど同じぐらいの真っ白さ。
だけれど目を開けることができ、周囲をしっかり見て確認できると言うことは、光が消えていると言うことだろう。
「どうすればいい……ん……だ──」
だんだんと体に力が入らなくなってきたのが分かった。
「……!」
僕は力が抜けて、思わず膝を付いた状態になる。
間もなく、うつ伏せになってしまいそうだ。
そして、真っ白な足元に広がる魔方陣のようなもの。
「くそ、なんなんだよ……これは……」
僕はその強制的な脱力感に耐えきれず、ついに倒れてしまった。
僕は死んでしまうのか?
せっかく今の今まで目的の為に理不尽に耐え続けてきたのに……。
せっかくここまで来て財宝を見つけたって言うのに……。
せっかく安息の日々が始まると思っていたのに……。
ああ、最悪だ……。
僕の瞼は無意識に閉じられ、何とか永らえていた意識も一緒に閉じられた。