とんかつソース
ぼくはとんかつソース。とんかつにかけるソース。
スーパーの陳列棚がぼくの家。
ぼくには兄弟がいる。中濃ソース、ウスター
しかし、関東地方の人間は、このぼく、とんかつソースをよく買っていく。
今日も1人、買われて行った。きっとおいしいとんかつにかけられるんだろうなぁ。
……!あ、お客さんだ!
今日はぼくが買われて行った。
新しい家に着き、とりあえずぼくは、台所の棚にしまわれた。
冷蔵庫じゃなくていいんだ。まだふたを開けていないから。
常温保存てやつ?
スーパーとは違い、棚の中は静かで落ち着くな。
なんとなく寂しいけど……。
兄弟達、どうしてるかなぁ。
なんて事を考えていたら、ぼくを買った奥さんが、ぼくを棚から取り出した。
きっと今日の夕飯は、おいしいとんかつだ!
しかし、匂いがしない。あの、とんかつのいい匂いがしない。不思議だ。
なんて思っていると、奥さんの声。
夕飯ができたらしい。
「ごはんよー」 その声にみんな返事をし、
テーブルにつく。
「いただきまーす」
ぼくはテーブルの上のおかずを見回した。
そして、パニック。
とんかつがない…。テーブルの上にとんかつが、ない……。
旦那さんがぼくを持ち上げ、ふたを開けた。
ぼくは何にかけられるのだろう……。
ふと、下のお皿を見下ろした。
え?目玉焼き……?
夕飯に、何故?
さらにパニックのぼくをよそに、旦那さんが目玉焼きにぼくをかけた。
「朝の残りの目玉焼きなんて」
「もったいないだろう」
……。そりゃ、とんかつソースという名前だけど、用途は色々あるぼく。
とんかつ以外に使われてもいいけど。
最初が、朝ごはんの残りの目玉焼き……。
ちょっと寂しい初仕事。
ああ、とんかつにかけられる日がくるのだろうか。
「明日、焼きそばに使うから、あんまりかけないでね。ソース」
奥さんの声……。
ぼくの名前はとんかつソース。
とんかつソース、なんだけどなぁ。