五話 ~幼なじみは人畜無害じゃなかったっけ?~
はい。たいへん遅れましたが、最新話更新です。
今回は幼なじみが登場です。
では、どうぞ♪
「―――さあハル君。隠している本を出しなさい!!」
「ねぇ沙奈!それが朝一番に会った幼なじみに言う言葉なの!?」
僕が妹達と戦う決意をした数分後、沙奈が来ると予想していた僕だったが、まさか実際に会って初めに言われた言葉がそんなセリフとは思ってもなかった。
―――ぐっ!もはや僕の身近な連中は、全員僕の本のことを知っていると考えた方がいいのか......ッ!?
冷や汗を流しながら、目の前で仁王立ちしている『幼なじみ』、『琴吹 沙奈』を見つめる。
―――僕より少し小さめの、小柄で華奢な体。僕の身長175センチに対し、沙奈は大体166といった所だろう。しかし女性の平均身長としては普通で、全く変ではない。それどころか出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる。いわば発育の良い方だった。
髪の長さは女性にしては短めで、肩ぐらいの所までしたかない。さらに頭のてっぺんには、ピョンっと一本だけ立っている癖っ毛がある。
髪の色は綺麗で艶のある金。用は金髪。だがこれは別に染めているワケではなく、単に地毛なのだ。
沙奈の母親が外国人なので、いわゆるハーフってやつだね(だけど沙奈の母さんって、かなり日本語ペラペラなんだけどね......発音も良いし)。
さらに頭が良く、性格だってとても優しいし、人当たりも良い人畜無害な美少女。
そんな沙奈と僕との関係は、さっきも言った通り、『幼なじみ』ってやつだ。
―――あ、人畜無害って言ったけど、今だけは別だ。僕にとっては、今の沙奈は無害ではない!
「さあハル君、もう一度言うよ。隠している本を出しなさい!!」
「ちょ、ちょっと待って!!僕は、そんな本持ってないよ?な、何かの間違いじゃないかな......?」
ここはシラを切った方がいい。沙奈ってそうゆう本が嫌いだから、見つかったらまず間違いなく処分される。
そんなの、僕は嫌だ!!
「......本当に持ってない?」
「あ、ああ。間違いなく持ってないよ」
「でも、ハル君のお母さんから、『アイツはどうせそんな本三桁は持ってるハズだよ。ハッハッハッ』って昨日電話で......」
「あの愚母......ッ!!」
いつか絶対報復してやる......ッ!!
って言うか何だよ三桁って!?さすがの僕でもドン引きな数だよ!!そもそもそんなに買うお金ないし!
色んな意味で歯噛みをしている僕に、沙奈はまだ疑いの籠った口調で言ってくる。
「ねぇハル君。本当にそんな数のそんな本を持ってるの?だったら、今すぐ病院に行った方が......」
「やめて!そんな哀れな視線を僕に向けないで!!大体そんなに買うお金ないから!!」
「―――つまり、最低でも一冊は持ってると......?」
「―――あ」
おぉう、なんてこった。ヤっちまったよ......。
へっ。頭の良いヤツァ凄いねぇ。まさかの誘導尋問だよ、こんちくしょう......。
目の前に居る幼なじみの背後に、般若が見えるのは僕の気のせいなのかな?そうだよね、気のせいだよね、アハハ......。 うん。そんなわけないよね、お怒りだよね、分かりますよ。幼なじみなんだから。
「......ハル君?」
「......はい」
「床に額をつけた、完璧な土下座をして?」
「え、でも、それは......」
「ハ・ル・く・ん?」
「......」
床の冷たさが、気持ちいいなぁ......。
あんな怖い声で言われたら、誰だって逆らえないと思うんだよ。
「ねぇハル君。その本、一体どこに隠してるの?」
「え、え~と。どこだったかなぁ......?」
「言わないとそうゆう本を持っていることを、全校放送で学校中にバラすからね?」
「隠し場所は、ベットの下の段ボール箱の中に入っている各教科の参考書のカバーの裏です......」
やめてくれ!!そんなことしたら、あの『親友』は絶対に僕に突っ掛かってくる!!そうでなくとも、僕は社会的死んでしまうからね!?
「は、ハル君......。本当にそうやって隠してるの?嘘は許さないよ?」
「......はい。嘘なんかじゃあ御座いません......」
ああ分かった。男女での幼なじみって、男の方が立場が悪いんだね。だって逆らえないから......。
しかし沙奈さんや、どうしてそんなに引いてるのかな?聞いてきたのって、君からだよね?
健全な男子高校生なら、このぐらいの入念な隠しは必要だってば。―――え?僕だけ?さいですか......。
「まあいいや。とにかく、今からハル君の部屋に行ってくるから、下手な真似はしないでね?」
「......はい」
そう言って沙奈は、本が『半分』隠されている僕の部屋へと向かった。
僕の部屋は二階。ここはリビングなので、上に向かう沙奈の足音が十分に伝わってくる。
「くっくっくっ。引っ掛かったな、沙奈」
―――そう、確かに僕の部屋には本が隠されている。だが、隠されている本は『半分』だけなのだ。しかも、その半分も僕が間違って買っちゃったモノと、『悪友』が押し付けてきたモノだけ。
つまり僕には、捨てられようがすてられまいが何の損害もないのだ!
「本命は、こっちにあるんだよ......!」
僕は予め用意しておいた自分の鞄を開き、中から何冊かの本を取り出す。
ふっふっふっ!僕は学んだのだよ!妹達にバレてしまったのなら、隠し場所を変えるのは当然である!!この時だけは、妹達にバレたことは行幸である。妹達が言ってくれなかったら、今頃半分と言わず、全部捨てられていただろうからね。
僕はこの事に気付かない沙奈に対して勝ち誇りながら、取り出した本をすべて抱えあげる。
『大事ないとこに○○しちゃうぞ♪』
『その巨乳を揉みしだかせて!!』
『天然ドジッ娘を騙して○○する方法』
『幼なじみに対して○○するだけの本』
etc.etc
......。
改めて見てみると、自分の性癖を疑ってしまうな......。しかも四つ目の本だが、これだけは沙奈に見せてはいけない。見られた瞬間、沙奈に嫌われる可能性大だから......いや、下手したら死?
そんなことを考えながら、僕はそれらの本を抱え上げ、新たな隠し場所である脱衣場へと急ぐ。
―――え?なんで脱衣場なのかって?
簡単さ。実は僕ん家の脱衣場にある洗濯機だが、後ろの方に少し隙間があるのだ。この隙間なら入念に探しても見付かる可能性はほとんどないし、僕が帰ってくる間までの期間隠しておくだけなので、何の問題もない。
僕は脱衣場の扉を開き、洗濯機に目を向ける。
さて、後は隠す作業をするだけだ。洗濯機の裏を覗きこみ、その腕が入るか入らないかの隙間に本をどんどん入れ込む。
―――ガサッ。
さて、残りはタイトルが出たあの四冊......と言う所で問題が起きてしまった。
音が、僕の後ろにある脱衣場の扉から聞こえたのだ。しかも、その音が、まるで『本』を落としたかのような音で......。
「......」
僕は、首をギギギッと、まるで機械音でも出そうな感じでゆっくり振り向いた。
そこに居るのは当然......。
「沙......奈」
本を十冊ぐらい抱え込んだ、幼なじみの姿だった。
今の僕は、一体どんな顔をしているのだろうか......。僕の予想では、汗がダラダラだったに違いない。
そんな唖然としている僕を他所に、抱えていた本を床に置いて沙奈はこちらに近付き、僕の目の前にある四冊の本を一冊手に取った。
「『大事ないとこに○○しちゃうぞ♪』......」
本のタイトルを言うときの沙奈の顔が、僕には死神に見える。そう思うのは、付き合いが長い僕だけだろうか?
「『その巨乳を揉みしだかせて!!』......ねぇ」
二冊目を取ってタイトルを言う佐奈。
あ、沙奈の後ろに死神が顕現してる。おかしいなぁ、僕の目がおかしくなったのかなぁ......?
「『天然ドジッ娘を騙す方法』......かぁ」
うわぁお、死神がバカでかい鎌を振り上げてるよ......。僕は、死ぬのだろうか?
そして沙奈は、ついに四つ目の本である『幼なじみに対して○○するだけの本』を持ち上げた。
―――あぁ、これで僕の人生は確実に詰んだなぁ......。僕は来るであろう死の鉄槌を覚悟し、目をつぶった。
「なになに?......『幼なじみに対して○○するだけの』―――」
............?
しかし、いつまでたってもこない鉄槌。僕は疑問を抱きながら、恐る恐る目を開ける。
「............」
そこに居る沙奈は、『幼なじみに対して○○するだけの本』を見つめながら固まっていた。
そう......だよね。
自分の幼なじみが、自分の事を性的な意味で見てたって知ったら嫌だもんね......。やっぱり、この本たちは捨てよう......。
そう決意して、僕は立ち上がる。
「沙奈、ごめん。やっぱりその本たちは、自分で捨てようと思うよ......」
「......ハル君」
「......やっぱり、こんな幼なじみ嫌だだよね「捨てなくていいよ」―――えぇ!?」
い、今沙奈はなんて言った!?僕の聞き間違いじゃなかったら、天変地異が起こるんじゃないかなぁ!?
「む、むしろそうゆう本(幼なじみ系)を買ってもいいよ!!」
「ねぇ沙奈!お前本当にどうかしたの!?病院に行った方がいいんじゃないの!?」
「じゃ、じゃあハル君。私、先に外で待ってるから!!」
そんな僕の心配もどこ吹く風と言った感じに、上機嫌のステップで外に向かっていった沙奈。何故か、さっきの本を持って......だけど。
い、一体何なんだ......?
助かった......のかな?いや、被害は出てないんだし、助かったのか。
ホッと胸を撫で下ろし、終わりよければ全て良し!そう思って、僕は彼女の後を追いかけた。
○●○●○●○●○●○●
所変わって通学路。
通学路を歩いている途中、沙奈に何故あんなに上機嫌だったのかと聞いたのだが、『この鈍感!』って言って怒られてしまった。......何で怒られたんだろう。
しかも隣で沙奈が、時々『ハル君、やっぱりそんな目で私を見てくれたんだね。最近、本気で私に興味がないのかなぁって思って損したよ......』とか延々(えんえん)に言っているのだ。ニヤニヤしながら......。
何故沙奈がそうなってしまったのか、深く考える。
考えるが、答えは出ない。あれか、僕がバカだからだろうか?いや、そんなハズは......。
まあいいや。僕は考えることを止め、別のことを思う。今日もまた、学校の校門をくぐるまではこの日常が続くだろう。そう、思ったのだ。
「ヤッホーお兄ちゃん♪」
「おはよう、ハル兄。それと沙奈さんも」
「うっ、お、おはよ!バカ兄貴!」
この声を聞くまでは、確かにそう思ってたんだ......。
さて、この三人は、言わずとも分かるでしょう......?
読んでくださった方々、ありがとうございます!次回も楽しみにしてくれてると、とても嬉しいですね!!
それではまた。
追伸、何故かサブタイトルがおかしかったので、修正しました。まことに申し訳ない。