『冒険者』からは へんじがない ただのしかばねのようだ
『山賊』が動かなくなった。そのまま焼いて土に還してくれといわれた。
兄弟の木は人間にはない。死。……二度と会えない。最後に『山賊ではない。冒険者だ』といわれた。
だから、彼のコトは以後冒険者と呼ぶ。そして彼の名前を忘れない。
……。
……。
「おい。『山賊』。何故動かない」
私がそういって彼を揺らすと彼は呻いた。
人間達が『冬』と呼ぶ季節を10越える前。
私たちは人間達の、とある村を魔物達から護るために闘った。
「どんな傷でも私は癒せるのだ」
そういって完全なる癒しの力を注ぐが……発動しない。
周囲の村人は瞳から塩水を流している。
「命の精霊よ。この者を癒せ! 癒せッ! 癒せっ?! 」
何故だ? 何故だ? 命の精霊の力が、『山賊』から消えていく。
村人達は一斉にくずれおちた。
大声をあげて嘆きの精霊を呼び出し、
瞳から、鼻から塩水を滝のように流す。
「無駄……それよりかさ。ディーヌ」「なんだ? 」
「俺、ウインドって名前があるんだけど……」「ウインド……」
「あはは。やっと呼んでくれたか」「お前が私の名前を呼ばないからな」
「……あと、山賊じゃない。俺は、『冒険者』だ」
「ボウケンシャ……」
「俺の身体は荼毘に臥してくれや……あはは。
あと、わがままなんだが……俺の名前、ずっと覚えていてくれ。
お前って不老不死なんだろ……光栄だぜ……」
動かなくなった。何故だ。
「おい。動かない。癒しの力も効かない……命の精霊の力が去っていく」
「……うああああああん!!!!!!! 」
皆、瞳から塩水を流していてマトモに会話できないらしい。
「死にました……」「私達のためにっ!!!!!! 」
「いい人だったのにっ!!!! 」「冒険者のお兄ちゃんっ!!! 」
「死ぬ? とは?
……身体が壊れたのなら。兄弟の木に作り直してもらうと良い。数百年後には会えるだろう」
「ありません」「……?? どういうことだ? 」
「そのような木は、人間にはありません」「……何? 」
私は驚いて彼の手を握った。動かない。動け。
「ウインド」
動け。人間はこういう相手をなんと言うのだろうか。
「友達を私達の所為でっ……! 」
そうか、『友達』と呼ぶのか。
私はウインドの身体を炎の精霊に預け、その村を去った。
ウインドよ。お前の名前。忘れない。
瞳から塩水が止まらない。
村人曰く、これは『涙』と言うらしい。
瞳から流れ落ちる嘆きの精霊の祝福は、冷たく。暖かかった。