精霊の血を引く者
「我が婚約者を浚った不届き物は貴様たちか」傲慢な剣士はシーラをコンヤクシャと呼んだが。……コンヤクシャって。なんだ?
「猛毒の芋だ。上澄み液を灰汁で毒抜きしてゼリーに」流石教授は博学である。
……。
……。
南の島の冒険を終わらせ久方ぶりに『芸術の都』に私たちは帰ってきた。
世界を奪わんとする黒髪どもの策略を退け、その手先を称して暴虐の限りを尽くした海賊どもを手にかけた私たちは戦い疲れていた。
南方諸島諸国の王たちが特別に建造してくれた特注の船は度重なる嵐で私たちの心と同じくボロボロに消耗し、今にも沈まんとしている。
それでも、ほんのわずかな間しか離れていなかったとはいえ、久しぶりに見る『芸術の都』は懐かしく美しく、気のせいかほのかに優しい香りを感じさせた。
「シーナ。せっかく両親に逢えたのに」
私が声をかけると彼女は無言で首を振った。
「今更死んだ筈の王女が生きていたことになってもみんな困るもの」
彼女の両親と妹は獄に繋がれ、生死の境を彷徨っていたが私たちの戦いの結果解放され、私たちが海賊が支配する反乱軍を制圧した結果王国は解放された。
王宮にて私たちが駆けつけるまでの魔導士たちとの戦い。
彼女は『空中浮遊』を何度もかけられて落とされ、弄ばれる屈辱を受けながらも両親を救いだし、妹を王位につける事に成功したのだ。
「兄様。もう調査は良いのですか? せっかく賢者になれる機会だったのに」
おどけるシーラの隣で彼は「埃っぽい本の山で調査するのはまっぴらさ」と酒瓶を手に片手をぶらぶら。厳密に言うと密航者である。
恋の詩集を読みながらシーラが眉をしかめる。「お兄様。酒臭いです」まったくだ。
「悪夢は解き放たれ、伝説の希望の虹を見たんだ。もう満足さ」膨大な資料を魔導石一つに詰めておどける彼。相変わらず学徒には見えない。
「ラッキィ。お前は高司祭になって多くの人を救うのではなかったのかい」
教授がそうつぶやく。ラッキィは苦笑いして一瞬だけ昔の表情に戻る。
「一人の大事な人も救えず、たった一人の想いにも応えられない。憎しみを捨てられない私にそんな資格はありませんよ」と彼はつづけて私に視線を動かす。
少し『胸が痛む』。不思議な気分だ。
瞳から零れ落ちそうな塩水を潮風の所為と思い、私は外套を翻して座る。
正義神殿の聖騎士団長になる筈だった青年は相変わらず幸運神の加護を手放さず、ラッキィに従うようにフラフラと船に乗った。
前にもまして口数が少ない。ファンの心が癒えるのは何時になるだろうか。
「カリンに久しぶりに逢えるな」「きっと可愛くなっているよ」「もともとあの子は可愛かったからラッキィは楽しみでしょう」他愛もない雑談を交わす仲間たちは激しい戦いと意見の相違を乗り越えて大きな絆で結ばれている。
それは親兄弟にも等しい絆だと思っていたのだ。私たちは。
「我が婚約者を浚った不届きな者達よ。今すぐ投降せよ」
剣に見せかけた長巻を振るってファンを一撃で仕留めた剣士は私たちに勝ち誇ってみせた。




