レンバス
私の『身体』は食料なるものを定期的に摂取し、排泄を行うように出来ているらしい。
非常に厄介なものである。興味本位で物見になるべきではなかったかも知れない。
人間で言うところの、『若気の至り』である。私は百年程度しか生きていない。
……。
……。
「レンバスを持っているなら言え……」
『山賊』の男は肩を落として何か言っている。
レンバスは我が種族の基本的な持ち物だ。
「そういえば、父と母が七日に一度は口の中に入れ、噛み砕いて飲み込めと言っていたな」
私が思い出すと、彼は大きく息を吐いた。
「その、『はぁ』というお前が口から出す風は臭い。辞めて欲しい」
彼は更に強く息を吐いた。「コレは、ため息って言うんだ」
よくわからないが珍しい行為だ。なんの意味があるのか問い詰めた。
「呆れたり、疲れたり、バカバカしくなったりすると出る」「興味深いな『ハァ』」
「……お前、俺が駆け出しの山賊だからってバカにしてるだろ」
「侮辱をするつもりはないが、人間は常に争いあう下等な生き物だと聞いた」
「お前みたいなヤツをみたら殴りたくなる」「それは困る。この身体は……」
彼は私の言葉を最後まで聞こうとしなかった。
「もう良いから黙ってくれ。俺は山賊を辞めて冒険者になる」「ほう」
「……一緒にくるか? 」「よくわからんが。私は人間の世界に詳しくないようだからな」
「お前、臭いって言いやがったが……メッチャクチャ臭くないか? 」
「……よくわからない異臭を放つ汁や半固形物が身体の下部から勝手に出ようとする。
出るままに放っておいたのだが極めて不愉快だ。やはり『浄水』を使うべきだろうか」
「……トイレって知っているか? 」「なんだそれは? 」
父母から聞いた気もするな。何かを『食べたら』余計なものは排出する必要があると。
「いいから、『浄水』を自分にかけろ。話はそれからだ」
岩だらけの谷を歩きながら、私は初めて『喉を震わせて行う』会話という行為を楽しんでいた。