旅に出た
「ディーヌ。次は何処に行きますか」「……『芸術の都』以外なら」
「……いい加減、戻りませんか? 」「……まだ。無理だ」
私は、エルフが決してかからない病にかかり、再び旅に出た。その病を「ジコケンオ」と人は呼ぶ。
……。
……。
「ディーヌ。『夢見る都』が見えてきましたよ」「そうか」
人間の『都』は必ず大きな壁があるものだが、『夢見る都』には無い。
「『芸術の都』の王の紹介状」
『この者とその従者に対して『芸術の都』の王族と同等の待遇を望む』とその書状には書かれている。
命のお礼にと頂いた紙切れだが、実際に何度も私たちの危機を救ってくれている。
もっとも、私の背にある斧を見たもののほとんどは、この羊皮紙を見せる前に丁重な態度になる。
「触れることの叶わぬ青い斧を背負いしエルフの乙女は『芸術の都』の王族の関係者」と通達済みとのことだ。
私の思索は、急にさえぎられた。
「城壁が無いって不思議ですよね」「そうか? 」
私にはよくわからない。
「ファン。あの都の周囲は友好的な『都』ばかりだ。
仮にそれらの『都』と闘いになっても、人間の軍は徒歩と騎馬。
森に沼。西方都市国家群屈指の優れた森林警備隊が護る『夢見る都』を落とす事は不可能だ。
軍人は確かに数百人もいないといわれているが、
『夢見る都』の戦士達は強靭で、『ボウケンシャ』の楽園としても栄えている」
壁など不要だ。むしろ邪魔だ。
そういうと、「『夢見る都』を破壊すると周囲の『都』の財政に激しく影響が出るんでしたっけ」とファンは言う。
ファン……ファルコ・アステリオンという青年は最近『まま』と言わなくなってしまった。
たまには呼んで欲しいのだが『恥ずかしいので嫌です』とのこと。……何故だ。私は悲しい。
「財政や経済などという話は私にはわからぬ。司祭さまに一通り講義を受けたのだが」
「……ふふふ。最後は私のほうが先生になっていましたからね」彼が優秀なのは間違いない。
言葉すら解せぬ『我が子』は、気がついたら一番の賢者となっていた。
知識だけではない。泉のように穏やかな心に反し、その武はいかなる魔をも跳ね除ける。
そして、幸運神の加護を受け、『使途』として目覚めた。
いまではどちらが『親』なのか。少しさびしい。
起こってしまった結果を『後悔』し、自身を『嫌う』。
「ジコケンオ(自己嫌悪)」なる病は本来私たち長命のものには無意味な病だが。
「私は、人間にも、エルフにもなり損ねたらしい」「……」
ファンは何も言わない。ただ、ついてきてくれるだけだ。
「……幸せの星の明かりは、常に人々を照らしている。そうラッキィさんから教わりました。
ミザリィさんがこういってました。その光は人間には見えないだけだと」
それ以上は言わなくていい。
そう心でつぶやくと、彼はそれ以上しゃべらなくなる。
本当に、本当に優秀な子だ。悲しくなるほどに。
――― ディーヌの『壁』が不要になる日まで貴女を護ります。それが『友』二人の願いにして私の願いなのです ―――
黙って『神殿』を出た私を。
星の明かりの元で待っていた彼はそう告げて。
振り切ろうとする私の術すら見破って彼はついてきた。
私たちは、今日も。『星の光』を追い続ける。




