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喫茶店の上のレフュジーズ  作者: 木須柄はきわ
三章 葉月みのり
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葉月みのり②

 早朝の高速バスでの3時間40分は地獄だった。

 あの、熱した釘を耳に打ち付けられているかのような激痛。

 痛みが目じりからひび割れのように広がって、顔中が干からびていく感覚。

 息の吸いすぎで白くなる頭、手足のしびれ、めまい、吐き気、エトセトラ。

 気休めに飲んだ頭痛薬のよこす半端な眠気のなか、私はちっとも眠れない頭をブランケットで覆い、その小さな隙間から、走るバスの窓を、にらみつける元気もなく、ただ見ていた。

 たったの四時間弱を無限に感じながら見た景色は、いつも退屈な青空ばかりを映していて、絶好の行楽日和という言葉を連想させた。

 嵐ならいーのに。

 と思った。

 風で車体がぐあんぐあんと上下して、雨だだんだん窓を叩いて、雷鳴とどろく。子供の泣く声が聞こえて、大人たちは胃を痛くして、誰もうかうか寝てなんかいられない。

 いっそそんな車内だったらいい。

 自分だけつらい思いをしているのは腹立たしい。だから誰かに八つ当たりをしたいけど、私にはその元気がない。

 だから嵐よ! 私の代わりに吹き荒れろ!

 昔SF映画で、生身のまま火星に放り出された人間が、目玉をむき出しにしてもだえ苦しむシーンを見たが、窓に映る私がまさにそれだった。

 確かに、私は小さいころから乗り物酔いしやすい女の子だった。

 小学校の遠足のバスでゲロを吐いた覚えもある。

 そもそも、バスに乗る前の満員電車の車内でも、すでに怪しかった。

 きっとこの先、どれだけ科学が発達しようと、巨大隕石が地球へ急接近していようと私は宇宙ロケットには乗らないだろう。

 とかなんとか。ひたすら突拍子のないことを考えながらうめいている自分がおかしくて、私はからっからに乾いたのどでイヒヒと笑った。

 そして

「二度と、高速バスなんかに乗るものか」

 と寝ぼけた頭で延々決意し、その矛先を亡き友人へと向けた。


 バスを降りても、私はさらに50分電車に揺られなくてはならなかった。

 電車を降りるころには、まだお昼過ぎだというのに、私は生きる屍のようだった。

 前にみどりちゃんの背中をさすってあげたことを思い出した。

 あれは私と違い、精神的なものだったんだろう。彼女はとてもまいっていた。

 私はぜんぜんそんなことなかった。自分のことが薄情に思えるほど、もっと悲しむべきなのかなあ、と思っていた。

 駅のベンチで干からびていると、スマホに着信があった。警察からだった。

「外のベンチの、セーラー服の方で間違いないですね?」

 見るとロータリーにはすでにパトカーが停まっていた。電車の着く時間をあらかじめ連絡していたのだ。

 私は、もっとやすませてー、と心の中で悲鳴を上げながら、歩み寄ってくる二人のおまわりさんの到着を待った。


 また移動! と思ったが、パトカーも、おまわりさんの運転も心地よかった。

 私は警察署で書類にサインをして、再びパトカーに乗ると火葬場へ向かった。

 火葬場で、小さな木箱に入った、骨壺を受け取った。

 ずいぶんちいさくなっちゃってと思っていると

「今日はホテルをお取りですか? それとも駅までお送りしましょうか?」

 とおまわりさんは言った。

 私は

「もし良ければ」

 と前置きして

「故人が働いていたお店までお願いします。そこからは自分で帰りますから」

 と伝えた。


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