5話 図書委員って、本当に簡単な仕事なのか?
キンコンカーンと鐘が鳴り、今日の授業の終わりを告げる。クラスメイトたちは各々帰り支度をして、ある者は部活、またある者はバイトに向かい、寄り道をするかと集団で帰宅する者たちもいる。
我らが主人公のエリスといえば━━。
「エリス〜。今日どっかに寄らない?」
「いや〜、今日は帰って復讐しようと思うからさ、寄り道しないで帰ろっかなって。ほら、3限まで休んじゃったし」
「まじめかよ〜。1回くらいサボったって学年首位は揺るがないって〜」
「ううん、やっぱりサボったところは気になるからさ、先に帰るね〜」
エリスは帰宅を選んでいた。友人に誘われても、拒絶していると思われない巧みな話術で誘いを断っていた。泣いて縋り付いてきたのに、それはそれ、これはこれと、俺に復讐する気満々らしい。きっと呪う気だ。夏休みの攻略対象とのデートに無関心だったら、スパ◯ボYの周回データを消されてたからな、血も涙もない奴なのだ。あのゲーム、200面くらいあるから一周するだけで心が折れそうだったのに。
スマホを取り出し、閃光の速さで素早くライヌで連絡しておく。『今日はハンバーグカレーを作るつもりです』と。
スマホの通知を見たエリスが振り向いて、目をキラキラさせてくるので、呪いは免れた模様。
ホッと安堵して、エリスが教室から出るのを見送る。果たして無事に家に帰れるかは運営のみぞ知るってやつだ。頑張れよ、エリス。
「好夫。今日はどうする?」
光が放課後の予定を聞いてくるけど、どうしようかな。花蓮は部活に行っちゃったし、光と遊ぶのもありだ。
この学校での俺の立ち位置を説明しよう。平々凡々なお調子者。時折間抜けなことをするクラスのムードメーカー、帰宅部であり、成績は中の中、運動神経は中の上の朝倉好夫君なのだ。学科テストはスキル頼りではないので頑張らないといけないし、運動は本来の力を出す必要はない。なので、その立ち位置はパーフェクトに主人公のサポート役といえるだろう。この世界、男主人公いないけどね。
とすると、選択肢は決定だ。
「うっひょー、ようやく授業が終わったぜ。なぁなぁ、これからカラオケ行こうぜ! フリータイムで! 俺の運命の相手、この指とーまれ! 一緒にカラオケ行こうぜ!」
わ~いと大袈裟にはしゃいで、お調子者ここに極まるといった感じ。うん、前世ではできないことだ。これ、お調子者のレッテルを貼られているから許されるんだよ。俺もゲームの中だからと、はっちゃけている。
「好夫の運命の相手なんかヤダ〜」
「えぇ~、良いじゃん良いじゃん。カラオケしてる間だけでも良いぜ? 俺の隣に座るだけ!」
「そーお? なら、良いかな? 好夫の奢りなら手も握ってあげるよ?」
「ヤベー、ついに俺の運命の相手が━━」
ノリの良い女子たちと話してると、ガシッと人差し指を掴まれた。地味に痛い。
「おっ、俺の運命の相手候補……お、トオルンじゃん、こんちは」
振り向いた先にはお人形さんのように小柄な女子がジト目で立っていた。今にも噛みつきそうな怖い顔だ。
「先輩。今日は図書委員の番ですよね? なんでカラオケに行こうとか妄言を口にしているのか、この僕に3行でわかりやすく説明してください」
「え~っと、忘れてた?」
「カスっ!」
「いでっ!」
正直に答えたのに、容赦なく膝に蹴りを受けました。
◇
「トオルンさぁ、中学の校舎と高校の校舎離れてるのに、放課後すぐに来るなんて早すぎん?」
「先輩は必ずサボるって信じてましたから、ダッシュで来ました」
「信じるの使い方間違ってない?」
「カラオケに行こうとしてたじゃないですか。合ってます。走って疲れたんで、後でジュース奢ってください」
「しかもジュースの奢りつき! ま、良いけどさ」
廊下を歩きながら、苦笑交じりに隣を歩く女子を見る。俺よりも頭二つは小さいだろう。ショートヘアーがよく似合う目つきの少し鋭い少女。孤高を愛する狼のような空気を醸し出している娘の名前は葛城透。中学三年生の後輩だ。
ショートヘアーの女の子って、俺のタイプなんだよな。しかもツンケンしてるとか、好みにピッタリ。しかも僕っ娘とか最高かよ。
「せ、先輩っ! セクハラ、セクハラで訴えます! なんでそんなことを気軽に口にできるんですか!?」
「あれ、俺、今口に出してた? ごめんごめん、正直者の言葉だから嘘じゃねーよ?」
「じゅ、ジュース2本、うう、さ、3本で忘れてあげましゅっ!」
口を噛み噛み真っ赤な顔で怒鳴るトオルン。脛にビシビシ蹴りを入れてくるので地味に痛い。まぁ、3本くらいおごってやるよ。後輩に手を出す鬼畜とか思われたくないしな。
トオルンは中学三年生だ。俺の記憶違いではない。この学校、小中高大と全てが集まっている付属学園なんだよ。名前は『私立大樹学園』。生徒数5000人、グラウンドは野球場からサッカー場、テニス場まで何面もあり、プールは屋内プールを含めて幾つもありゴルフ場まで存在するマンモスどころか、学生都市と呼んでも良い学園である。
こんなんゲームの中でしか存在しないよな。これだけ子供たちが集まれば、人も大勢集まってくる。だからこその栄える24区飛鳥区ってわけだ。ゲーム的にいうと、攻略対象は大学生から中学生まで用意しましたってことである。さすがに小学生は攻略対象の弟とか妹枠でイベント要員の模様。
そして、俺は図書委員をやっている。楽な委員と聞いて選んだんだ。楽だと思ってたんだ。そもそも委員にならなければよかったんだけど、入学当時にクエストで『委員になりましょう』と出たんだ。クエストなら仕方ないよな? ゲームのお人形朝倉好夫なんだ。
「今日は返却本が多いらしいですよ、先輩」
「うぇー、まじかよ。トオルン、一緒にカラオケ行かない? 二人きりでフリータイムを歌おうぜ。ハニトーも奢っちゃうよ?」
後ろ手に歩きながら顰めっ面になってしまう。だって、この学校の図書館は大きいんだよ。大きいというか巨大なんだ。
「駄目です。返却本を元に戻さないと、利用者が困るんですから、しっかりと働きましょう」
一刀両断でお断りをする真面目な後輩である。揺るぎないその心は尊敬するよ。
「ルールを守るその姿には俺尊敬しちゃうよ〜。ステキ、トオルン」
「カスっ」
シナを作って、惚れたよとからかうと、また蹴りが飛んできた。あまりにも鋭い蹴りだから今度鑑定してやろうかな。
「ま、返却本が多くても、委員もそれだけ多いから大丈夫だろ。気楽にいこ、気楽に。あ、ドロップ飴食べる?」
「頂きます」
ドロップ飴をコロコロとお口の中で転がす可愛い後輩に癒されながら、図書館に到着する。図書室ではない。図書館だ。
なにせ、小中高大、そして教授まで使用する図書館だ。蔵書数は国立図書館に匹敵し、しかも図書館の建物のセンスは面白い。
「この図書館はいつ来ても観光名所になりそうだよな。螺旋式階段で各階層に繋がってるとか、まるで魔法の世界の図書館みたいだよ。魔法ないのに」
単に本棚がずらりと並んでいるわけではない。今時の図書館にふさわしく、パソコンなども設置されており、本の貸し借りは機械で管理されている。昔と違い図書カードなど無いために、この人が借りたんだ、とか図書カードの過去の記録を見てロマンスは発展しない。近代的な施設ではあるが、その内装は見応えがある。吹き抜けの階層に本棚が並び、螺旋式階段が伸びており、まるで魔法の世界の図書館のようだ。
「この図書館って、誰が作ったんですかね? 螺旋式階段って、世界的に見ても珍しいらしいです。僕はこの図書館を見たくて、この学校に来たんです。この学校って6年前に設立されたらしいですけど、その時にこの図書館も建設されたんですよ。どこの金持ちが作ったんですかね」
「金が余ってるどこかの金持ちだろ。それよりも気になることあるんだけど?」
「なんです? ようやく自分の行いを顧みて、地獄で反省する気になりました?」
「俺は地獄でもおちゃらけるから大丈夫。鬼に媚びて看守をするよ。じゃなくて、なんか委員の人数少なくない?」
「全員います。もしかして顔だけでなく、目も悪くなったんですか?」
「先輩に対して毒舌すぎるだろっ! そうじゃなくて、委員は各クラスから1名だろ? 週1で回ってくるのに、とても少なくない? というか、俺とトオルンしかいなくね?」
委員が集まる控室。そこにいるのは俺とトオルン二人きり。普通は後10人はいるだろ?
「皆さん予定が入ってしまったと図書委員グルチャに載ってました。見てないんですか?」
「ええっ!? グルチャで通知あった? いや、ないんだけど?」
スマホでライヌを見るが、今月のシフトとイベントについてしか載ってない。
「あ、先輩を抜いた裏図書委員グルチャでした」
「イジメが始まってる! そういうの傷つくからな? 俺の心はガラスのようなんだから、え、で、なんて書いてあるん?」
「え~と、バイト、ライブ、実況動画の編集、猫のお産、その他エトセトラエトセトラです」
「明らかに嘘だろ、それ。俺のカラオケを止める前にそいつら止めろよ。え、少し見せてよ」
トオルンのスマホを横から覗き見て━━。
「なになに、バイト、ライブ……頑張って? なにこいつら、サボっておきながら、頑張ってとかふざけてんの?」
「人のスマホを横から覗き見ないでくださいっ! スマプラですよ!」
「俺が得意とするキャラは食いしん坊のカビだよ、いてっ、蹴るなって!」
スマホを見られたことがよほど嫌だったのか、またもや蹴りを蹴り出すトオルン。俺の足を駄目にする戦法かな?
「わかった、わかった。まぁ、機械式だし、2人でも大丈夫だろ。というか、この図書館には司書を雇用してあるから委員は本当は必要ないしな」
「今日は全員有給を取って誰もいないです」
「仕事放棄していないか!?」
なぜか今日に限って、誰もいないとか、不幸すぎるだろ。司書は減俸にしてやる。
2人で受け付けカウンターに座り、仕事を始める。結構な人数が返却してきて本が溜まるので、結構忙しい。返却本は手動で元の場所に戻さないといけないのだ。
「2人で働けばすぐですよ先輩」
「結構かかるぞ、これ〜」
どんどん溜まる返却本に、うんざりしてしまう。ちょこまかと子犬のように働くトオルンの姿は癒やされるけど、多すぎない?
「暗くなったら、家まで送ってください。僕は弱いので、襲われます」
「トオルンは可愛いからな。それくらいはお茶の子さいさいだよ」
ムエタイ選手張りに蹴りが鋭いから大丈夫じゃないとは空気を読んで言わないよ。
「っ! ジュ、ジュースも奢りですからね?」
「へいへい。暗くなる前に片付けられるように頑張るか!」
本を積んだ台車を押しながら心持ち急いでいき、結構早めに片付きそうな時にイベントは来た。
「おーい、お前ら。先生方や院生が使った返却本をここにおいていくから片付けておけよ」
嫌味そうな細身のおっさんが、生徒たちと共に大量の本を返却してきた。
その数は数千冊。まじかよ、借りすぎだろ。
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