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俺たちは恋愛ゲームの人形である  作者: バッド


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4/13

4話 恋愛ゲームの学園は特別だ

「と、到着! あぶねー、ギリギリだったか。あと一分?」


 じゃれていた結果、遅刻寸前となったので、少し本気で走った結果、教室に滑り止めセーフ。


「ぉ、ぉろして〜。恥ずかしいから!」


「ん、あぁ、すまんすまん、今降ろすよ」


 というか、間に合わなかったので、花蓮はお姫様抱っこで走ってきた。

 

 りんごのように真っ赤になっている花蓮をおろして、自分の席に座る。一番後ろの窓際という最高の席だ。花蓮はなぜか産まれたての子鹿のように脚をプルプルと震わせて椅子に座る。ちなみに俺の斜め前の席。エリスは俺の隣。


「おはよう、好夫。相変わらず派手な登場だね。花蓮ちゃん、よろよろしてるよ?」


「花蓮のやつ、ほとんど走っていないのに、もう限界みたいなんだ、体力つけないといけないよな」


「いや、あの光景を見て、そう思える好夫が……ま、いつものことか。花蓮ちゃん可哀想に」


 俺の前の席に座る男子が花蓮を見て、半笑いで肩を竦める。俺も花蓮を見ると、体力のなさを友達にからかわれていた。きっと軟弱なっとか言われてるんだろうな。今度体力作りにマラソンにでも誘うか。


 俺に声をかけてきた男子の名前はみなもとひかる。中学のころからの友達だ。中性的な優男。その優しげな雰囲気に女子は騙されるのか、告白する者が時折いる。ちなみに攻略対象ではないと、エリスは安堵していた。


 それよりも気になることがある。エリスのことだ。


「エリスはまだ来てねーのか? 俺たちよりも早く、しかも平等院のリムジンに乗って行ったんだぜ?」


「平等院って、あの平等院財閥の!?」


「そう、あの金持ちの」


 ちなみにこの世界では財閥は許されている。財閥って言葉は恋愛ゲームの分かりやすい金持ちの名称にぴったりだからな。


 車で向かったのに登校していない? ふむ……変だな。もしかしてイベントかな?


「ま、いいか。気にすることもないだろ。それよりも1限の数学の宿題やってきたか? 答え合わせしない?」


「答え合わせという盗み見だよね? やってないよね?」


「お昼にコーヒー牛乳を奢ろう」


「メロンパンもつけてね」


 取り引き成立だ。あの数学の先生怖いんだよ。学科のスキルは取得していないから、素の頭で勉強しないといけないのだ。エリスの心配? するだけ無駄だな。


          ◇


 結局、エリスが登校したのは3限が終わった後だった。特に怪我とかした様子もなく、元気にエリスが教室に入ると友人たちが集まっていく。絶世の美貌の持ち主はスクールカーストはもちろん最高なんだ。


 なにせ美貌以外にも学年首席、スポーツ万能と、神様がこれでもかこれでもかと、天才的な才能を幾つも与えているように完璧超人だからだ。しかも才能をひけらかすことなく、人と付き合うので、男女問わず大人気であった。


「おはよ~。あはっ、もうお昼だからこんばんは?」


「そこはこんにちはでしょ。エリス、なにがあったのよ? もう3限終わっちゃったよ?」


 エリスの友だちが尋ねると、エリスの後ろから鳳がひょっこりと顔を覗かせる。


「すまない。登校中に歩道で蹲っている妊婦がいてね。優しいエリスは病院に連れて行ってとお願いしてきたので運んだのさ。そして赤ん坊が無事に生まれるまで待っていたけど、ようやく産まれたから安心して登校してきた、というわけなんだ。まったくエリスの優しさには頭が上がらないよ」


「そんなことないよ。鳳君が快く了承してくれたから助けることができたんだよ? 鳳君も優しすぎるよ」


「いや、僕はエリスが妊婦に気づかなければ素通りしていたよ。君の優しい心が妊婦を見つけれたんだろう」


「褒めすぎだよ、鳳君。な、なんか今日は暑いね。あ~暑い暑い」


「ふふっ、そうだね。今度美味しいアイスを売ってる店を紹介するよ」


 鳳のキラキラスマイルに、エリスが頬を赤くして、パタパタと顔を扇ぐ。流れるように次のデートも決められた模様。その様子は段々と距離が近づく男女にしか見えず、クラスメイトたちは生温かい目で2人を眺めていた。


 うんうん、すげーな。俺は前世、今世も合わせて苦しむ妊婦と出会ったことねーよ? 普通はそこまで出産近いなら、入院しているか、外を出歩くことはしないんじゃないかな? 明らかにイベントだ。イベントにしてもテンプレすぎる。


「あう〜、まいっちゃった。よっくん、後でノート写させて? お疲れエリスちゃんなの」


「おつ。後でコピーしておけよ」


「いつもありがとうね。よっくん頼りだよ〜」


 照れながら、アハハと笑って椅子に座る姿は自然そのものだ。自然そのもので疑う者はいない。


 だが俺にはわかる。精神はゴリゴリ削られて死にそうになっている。好意? 欠片もないだろう。ただ、ただ、この世界の呪われたルールに憎しみを向けているだけだ。あと、安い経験値に釣られて見捨てた俺への怒り。俺たちは本来は経験値必要ないからな。クソゲーと呼ばれる由縁だ。アクションRPGのシステムを流用しているので、この世界では使わないはずの経験値がなぜか手に入る。なんでだろうね? 運営の適当さがわかるというものだ。


 好意といえば、俺はずっと神居の家に同居しているのに、妬まれるどころか、まったくみんなは意識していない。この件については透明人間かなと思われるほど、俺とエリスに恋愛沙汰の噂はない。ゲームのルール、攻略対象以外は空気である。


 だからいかに親しい関係を見せても無視される。たとえ、うつ伏せに寝て、責めるように睨むエリスを見ても、皆はスルーするのだ。


 スルーできない存在。即ち、俺は無視できない。4限が始まって、教科書を盾に睨むエリスを無視できない。


 銀髪の美貌の持ち主は今日はやけにしつこい。そんなに今日の鳳はしつこかったのだろうか?


『昼休み、非常階段ね。逃げたら呪うから』


 周囲に他人がいるために、ヒロイン的な性格のエリスが口パクしてくる。


 どうやら逃げることはできなさそうだ。こいつ、本当に呪いそうだから怖いんだよ。


          ◇


「まずまずまずまずいの。このままだと非常にまずいの!」


「お昼の弁当失敗してたか? 俺的には美味くできたと思うんだけど」


 お昼休み。誰にも会わないようにして、俺とエリスは非常階段にてお弁当を食べている。


 なぜか顔面蒼白で、アンビリーバボーとムンクの叫ぶ男を体現するエリス。どうやらなにかあったらしい。


「よっくんのお弁当は何時でも最高だよ。くーっ、この唐揚げ冷めてるのにサクサクで中は柔らかくて美味しい」


「冷凍ものも使えないからな。まぁ、料理スキルを使わなければ良いだけで、時短はいくらでもできるからな。分身したり炎を吹いたり?」


 よくあるよな、中華料理一番とか、日本パンッとか、スチル鍋のジャンとかさ。普通の料理方法だよ、普通。


「インフレしすぎた料理漫画みたいだね……そこに疑問を持たない私も私もだけど。唐揚げ一つちょうだい?」


 半眼となりつつも、唐揚げを素早く奪い取る盗賊エリス。気付いた時には、頬張ってムグムグと食べていた。河豚みたいな顔でも、可愛いので美少女はずるい。元の素材が良い人は生まれた時からスタートダッシュで有利だと常々思ってる。


「ほれ、もう一つやるからゆっくりと食べろよ。で、焦っている理由はなんだよ?」


「それが〜、あ〜、好感度を手帳に載せてない?」


「それができれば俺は完璧なサポート役だったんだけど、できないのは知ってるだろ? 俺の名前は好夫だけど、そういったスキルはないの」


 昔のギャルゲーにあったんだ。親友という名のサポート役に電話すると、攻略対象の好感度が分かるやつ。ついでに放置している攻略対象は爆弾マークがついて、爆発すると悪い噂を流されるという強制的に複数の女の子と親しくならないといけないゲームだった。


「こここ、攻略サイトでは、今日の妊婦イベントは星二つに入るイベントなの! 完全に平等院鳳のルートに入ってる証拠なの!」


「あ~、星5個で告白してくるんだっけ? 星二つはまだ余裕あるじゃん」


 この恋愛ゲーム。主人公は攻略対象の好感度は確認できない。なので攻略班が解析して、調べたらしい。それによると星で好感度を扱っており、星5個で告白されるらしい。このゲーム、卒業式で告白するタイプではなく、好感度MAXとなった時点で告白されるという効率的なシステムらしい。


「よゆーないよ! もう星二つのイベントということは、このまま行けば、三年生になった時点で告白されること請け合い! 委託業者はどこ? 私、このルートは委任するっ!」


 ふんぬと、拳を突き上げて叫ぶエリス。だいぶハイテンションだな。


「委任したら、クリアされるんじゃね? というか、食べながら叫ぶなよ。行儀悪いぞ」


「は~い。でもね、このままだと平等院鳳と結婚することになるの。この美貌の持ち主が人のものになるんだよ?」


 大人しく弁当を食べて、俺を見てくるけど、俺は攻略対象じゃないから上目遣いも効果ないよ? それよりも食べてないのに弁当のおかずが次々と消えていくのがとても不思議なんだけど。


 ━━ん? なにか変な発言あったな?


「結婚する? 恋人になるんじゃないのか? 恋愛ゲームって、普通はそういったもんじゃないの?」


「そそ、それがこのゲームは違うの! エンディングで、平等院鳳の場合は、『結婚して公私ともにお互いに支え合って、平等院財閥はこれまで以上に隆盛し、仲良く暮らしました』って、しっかりと最後まで書かれてるの!」


「……それは珍しいな。初めて聞いたんだけど? エンディングって、仲良くデートスチルとかで普通終わるもんなのにな」


「でしょ? となると、わたわた私、きっと自由意志が無くなって、死ぬまでヒロインをやると思う。やらされると思う。記念日には味のしない手作り料理を作って、子どもが生まれて幸せそうに笑顔を張り付けて、嬉しくもないのに、平等院鳳の隣で一生を過ごしていくの……おぇぇっ、考えただけで気持ち悪い」


 ヒロインにあるまじき台詞である。そして、吐きそうになるのは、攻略対象でも百年の恋も冷めそう。


「でも、そうか……。将来までしっかりと描かれているのか。これからも仲良くしていこうとかぼんやりした描写じゃなくて。なんで教えてくれなかったん?」


「教えたくなかったの。言葉にした途端に真実になりそうな気がして。でも、もう駄目! よっくんたずげでー。星四になるとキスイベントもあるんだよ〜」


 号泣してしがみついてくるエリス。よほどショックなのだろうなぁ。たしかに俺がエリスの立場だとエンディングに到達した途端に完全に人形になるのだ。恐ろしくてたまらないだろう。


「……よっくんは本当に私がエンディングに到達してもいいの?」

 

 涙を湛えて見てくるエリス。その深い青色の瞳を見て思う。本当に女神のように整った顔だなぁ。


「よーしよし、俺も少し嫌だし、なにかできないか考えてみるよ。ゲームが本格的にスタートしたということは、裏をつける方法もあるだろうし」


「うぅ……し、信じてるからね? ほんとーに信じてるからね?」


 サラサラのエリスの髪を優しく梳いて、宥めながら思う。


 この女神のような外見の娘が他の男と恋人になるのは少しモヤッとする。本気で考えないといけないだろう。


 うん、外見は気に入ってます。中身? ノーコメントでお願いします。友人とは思ってるよ?

ルックスY。マガポケで連載中です。見てみて〜。

モブな主人公。マンガボックスにて連載してます!

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― 新着の感想 ―
いきなり破水して自宅玄関で双子産んだ知り合いはいますが、道端でピンチは、食パンくわえて遅刻ちこくー並みですものね。どういう策でいくか楽しみです。
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