3話 僕と契約してよは、詐欺だから注意
俺とエリスが転生した切っ掛けはというと、前世で死亡した人間から選ばれたらしい。と言っても神様から言われたからではない。
俺とエリスは光の玉となって、何もない白い空間に浮かんでいたんだ。たぶん死亡したんだろう。自分が死んだ原因はさっぱり分からないが、死んだことだけは、なんとなく理解できていたんだ。
『おめでとうございます! 貴方たちは、数億人の中で厳正なる抽選の結果、恋……千変万化の世界に転生できる権利を得ました! 転生しますか?』
目の前に表示されたモニター。その内容は極めて魅力的だった。自動メールのような気もしたし、やる気のなさも垣間見えるが、今思うと詐欺メールまんまじゃんとも思ったけど、俺とエリスは狂喜乱舞したものだ。
なぜか文字化けしていたけど、『恋も千変万化』のゲームに違いないと思った。それはタイトルにそぐわないアクションRPGゲームだった。
俺たちはお互いに知らない相手だった。しかし、『恋も千変万化』というゲームを知っており、そのゲームを好きであるとの一点で親友ともいえる絆ができた。『恋も千変万化』は信じられないほどに完成度が高いゲームで、簡単に言うと現代にダンジョンが出現して、魔物が現れる世界で遊ぶゲームだった。
よくある設定のゲームだ。しかし内容が他のゲームと一線を画していた。まるで本物の人間と話しているようなAIが搭載されたNPC。本物と見間違うほどに美麗なグラフィック。ラスボスである邪神を倒す方法も、ハンターとなって倒すルートだけでなく、経営者となって、凄腕のハンターを育て上げて倒す、または魔導科学者となって、強力な魔道具で倒す。はたまた邪神の復活自体を防ぐ探偵となると、千変万化に相応しい多数のルートがあった。それらに伴う数千のスキル。スキルを手に入れるための多くのクエスト。飽きることなく無限に楽しめるんだ。恋愛要素もあって大人気だった。
説明が長くなったが、そんな世界に転生できると言われたんだ。しかも赤ん坊からなら勝確確定。なにせ、ゲーム内時間で3年ほどでプレイヤーは最強になれる。赤ん坊からなら何年鍛える時間があると思う?
誰でも転生一択だろ? 異論は無いよな? そうして俺らは『恋も千変万化』の世界に喜んで転生したんだ……。
俺もエリスもやり込んだゲームだ。欠点は料理を食べても味がしないことだけだった。オレンジジュースを飲んだ時にそれは判明した。母乳は味がしたのに、オレンジジュースは味がしなかったんだ。
なぜかはさっぱりわからなかったが、自分が作る料理だけは味がして助かった。以降、俺は自分が食べるものは自分で作ることとした。
料理は毎回俺のお手製となるが、それでもカバーできたんだ。幸いなことに、醤油などの一部の調味料は対象外で味がした。推測するにゲームのせいだろうと思った。たぶん、『料理作成』にて『食材』として扱われる物はゲーム的に対象外なのだろう。牛乳やチーズも味がしたしな。
料理を覚えるのは大変だったし、幼いから火を使うこととか禁じられて、ろくな物を作れなかったけどな。小学生の頃は、ベジタリアンだと思われたんだぜ。サラダばかり食べていたからな!
おかしいと思ったのは小学6年生の時。ダンジョンがあって、魔物が出現する面白い世界のはずなのに、そもそもダンジョンも魔物もいなかった。
それに合わせて、エリスが空中に選択肢が出てくると言ってきた。最初はからかっているのかと思った。だって『恋も千変万化』は選択肢を求める仕様はなかったからだ。信じられないことだけど、チャットのように打ち込んで会話できた。
だから、その事象がなにかさっぱりわからなかった。だけど選択肢がだんだんと多くなり、自身の行動が勝手に動くとエリスが困り果てて気付いた。選択肢を出す時は迷子の男の子を助けたり、捨て猫を保護する男の子と一緒に飼い主を探したりといったイベントの時だけだと。
これ、攻略対象との過去イベントだと!
俺はやったことがなかったのだが、『恋も千変万化』には、恋愛要素だけを抜いて作った恋愛ゲームがあったのだ。主人公の性別に合わせて自由に恋愛できるゲーム。恐ろしいことに、ダンジョンと魔物の存在を消したのに、『恋も千変万化』のゲーム仕様をそのまんま流用したふざけたゲーム。人気にあやかろうとした凝りすぎたクソゲーと言われる『恋は千変万化』だと、やったことのあるエリスは気付いたのだった。
1文字違いである。会社が間違ってお客様が買うことも考慮に入れた詐欺みたいなゲームであった……。
以降、俺たちは恋愛ゲームの人形として暮らしている。魔法もないし、超人のような肉体にも鍛えられない世界で、この世界の恋愛ゲームのルールに強制的に従い、粛々と暮らしている。
エリスは心折れたが、俺はこのクソゲールールから逃れたいと思っている。運営の思惑を超えた行動をすれば良いのではと密かに考えながら。
◇
リムジンにドナドナドーナされて登校して行ったエリスとは別に俺と花蓮は普通に徒歩で学校に向かっていた。徒歩でも20分くらいで着くから健康のために徒歩なんだ。正直、俺は健康を考えなくても良いんだけど、花蓮が強く言い張るので、高校も徒歩だ。
歩きながら、ガリッとドロップ飴を噛み砕く。俺はいつもドロップ飴を食べている。好きだからではない。前世では食べる機会がそもそも少なかったけど、ハッカ味以外は好きだったけど、それが理由じゃない。おはじきを食べているような無味でしかないが、なにかの拍子に味がするかもと期待しているからだ。
「おにぃ、ドロップ飴好きだねぇ。でも噛み砕くのはルール違反だよ? ちゃんと舐めないと花蓮的にアウトだからねっ?」
隣を歩く花蓮がニシシと笑いながら、手を出してくるので一つあげる。登校中のいつもの風景だ。いつもならエリスもいるんだけど、これからはどうだろうな……高確率で誰かしらが登校に誘うのではないかと予測してる。
「うーん、オレンジかなぁ? ほらほら、おにぃ、オレンジじゃない?」
ドロップ飴は意外と味を見分けるのが難しいため、花蓮は無邪気にお口を開けて見せてくる。なんというか、虫歯一つない白い歯と、艶めかしく動く舌が少しエロい。
「往来で口を開けてみせるなよ。可愛いけどさ、羞恥心を持てよ、羞恥心を」
「え~っ? 可愛いなら良いじゃん。それとも花蓮がお口を開けてると、なにかイケナイことを考えちゃう?」
「とりあえず指を突っ込みたくなるな」
小悪魔的な花蓮へと、スポッと人差し指を突っ込む。美少女のお口に人差し指を入れるのはなんとなく背徳的だな。
「と思ってたけど、なんか生温かいし、ヌメって気持ち悪っ!」
エロチックかなと思ってたけど、普通に気持ち悪かった。ドロップ飴の欠片が指についたせいもある。
「ふざけるなー!!! 乙女に無理やり突っ込んでそれ!? にぃさん、さすがの花蓮も少し怒るからね! 痛かったらどうするの? そっと突っ込んだから痛くなかったけど!」
思わず本音を言うと、花蓮は怒髪天を衝くといった感じでツインテールを逆立てて激昂した。当然である。仲良き友でも礼儀が何とかというやつだ。これは俺が悪い。でも、不自然にツインテールが逆立つアニメのようなエフェクトには感動。こういうところは俺は好きだ。とと、大魔神の怒りを収めないとな。
「突然突っ込むのは無しだからね! 入れて良いって優しく聞いてよ?」
「すまん。謝るよ。ほら、ドロップ飴の欠片が口元についてるぞ? 拭いてやるから、ほら、おとなしくしろ。だからこの話題は終わりにしよう、なっ?」
突っ込んでという言葉は、なぜか俺の社会的な地位を地獄まで落とすような気がするんだ。あらぬ嫌疑でお巡りさんに捕まりそうな予知が働くんだよ。そこのおばさん、スマホをしまうように。
「ったく、もぉ~、少し気安すぎない? 花蓮だって同じ歳なんだからね? おにぃって呼んでても、学年は同じなんだから」
「あぁ、これからはパーソナルスペースに気をつけるよ。ほら、拭き拭きしてあげるから」
ハンカチを常備する清潔感のある男の子。それが朝倉好夫なんだ。
「ほんとーに同じ歳だと思ってない行動にしか思えないよ。まぁ、おにぃとのパーソナルスペースは今のままで良いけどさ。小学生の頃からお世話になってるし。も、もう家族当然だし?」
「それを言うなら、家族同然だ。まぁ、一緒に住んでいる期間も長いからなぁ」
なぜか目を瞑って大人しくなる花蓮の口元を優しく拭いながら苦笑する。うちの両親と神居の両親はいつも4人で旅行をしている。国内は当たり前、海外も行ってて、帰ってくるのは半年に一度といった感じ。金があるのと、ゲーム的なご都合主義が働いていると俺は推測している。ほら、だいたいのゲームや小説だと高確率で海外赴任とかして家に両親いないじゃん? 必要な時にひょっこりと現れてイベントを発生させるためにも、旅行で家にいないのは良い設定なのだろう。
━━ま、まぁ、働かずに遊びまくっているのは俺とエリスのせいであるんだけどな。なので、娘二人だとちょっと危ないし、俺を一人にするのも悪いと二家が話し合い、俺が神居家に同居することになったわけ。だいたい小学三年生の頃からか。
「おにぃは、花蓮のことを女の子って意識してる? なんかいつも扱いが適当すぎるんだけど? そこら辺の子犬とかを扱うような感じするよ?」
「そんなことねーよ? そこまで綺麗にまとめているツインテールは可愛らしいし、小悪魔風な顔立ちも好きだ。なんだかんだ言って付き合いいいしな」
前世ではあり得ない青髪。そして、やはり前世では作れない重力を無視したかのように横に広がるツインテール。美少女なのは言うまでもないし、俺の好みだ。
「ひ、ぴゃあっ。何を急にいふのよ……えへへ、そっか。うん、おにぃのことを花蓮も」
「というか時間ギリギリになるな、遅刻する前に走ろうぜ」
なぜかツインテールを摘んでモジモジし始める花蓮だが、遊んでいたら時間ヤベー。俺ならギリギリで到着できるけど花蓮は無理だ。
「そ、そーゆーところ、花蓮的にアウト! アウトアウト!」
なにか叫んでるけど、走れ走れ。なんか言おうとしてたけど、色っぽいイベントは起きないだろうからな。たぶん悪態をつくところだったんだろう。
なぜ確信できるかって? エリスが俺よりもいち早く転生に承諾した。その結果、彼女は恋愛ゲームの主人公となり、俺はモブになったからな。
モブはモテないんだよ。これはこの世界のルールだからな。
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