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俺たちは恋愛ゲームの人形である  作者: バッド


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番外話 花蓮は過去を思い出す

 神居花蓮。高校1年生。ツインテールにまとめるのは面倒くさいと、本音は思っている女の子。勉学に部活にと頑張っており、双子の姉が一人いる。自画自賛ではないが、自分の顔は良いと思ってる。


 そこまでならたまにいる女子高生だが、変わったことが一つある。それは家に同居している同じ年の男の子がいることだ。


 同年代の男の子が同居。それを聞いたら、皆はラブコメにでもなりそうな環境だと囃し立てる。それはそうだ。花蓮だって、その環境の友人がいたら、ドキドキして面白がって、その男子が好きかと追求するに違いない。


 だが、おにぃと今は呼んでいる男の子、朝倉好夫とは小学生の頃から、友人に話してもそんな恋愛話になったことはない。誰も彼も、そのような環境であると聞いても、ふ~んとの一言で相手は興味をなくし話は終わるのだ。


「不思議よねぇ……なんで花蓮は不思議に思わなかったんだろ。おにぃとの関係を邪推しても良いのに。花蓮とおにぃの関係を誰か囃し立ててもおかしくないのになぁ。……それか、エリスねぇと」


 花蓮は自室の椅子に寄りかかり、眉を顰めて首を捻る。ただの一回もそんな浮ついた話にはなったことがない。自身も今までそのことにおかしさを感じなかった。


 朝倉好夫はどんなイメージかと考えると、軽薄で薄っぺらい笑いをしておちゃらける人と花蓮は答える。辛辣な評価だが、おおむねの人は同意見だろう。顔も平凡で勉強でも運動でも目立たなく、あえてピエロとなることで、陽キャとしての地位を確立しているお調子者だ。


 陽キャグループでは一人はいるタイプ。彼女になるにはちょっとなぁと思われるか、陽キャのカースト上位グループにいるならと、本人ではなく、その立ち位置で彼女になる人がいるくらいの男だ。


 花蓮はそう思っていた。今日の昼までは。


 背凭れに寄りかかり、今日の出来事を思い出す。いつものお調子者の姿は欠片もなく、酷薄な笑みを浮かべてゴリラみたいな護衛の腕を掴み、跪かせている姿は、花蓮にとって衝撃だった。まるで別人のようだと、身体が震えたものだ。クラスメイトたちも同様のようで、畏れを見せていた。


(━━でも、よくよく考えてみると、元々おにぃはそんな感じだった。子供の頃から、敵に対しては虫でも踏み潰すかのように容赦のない冷酷なところと、誰かを助ける時の見返りを求めない優しい心を持つ不思議な人だった。なのに、高校に入学してから、お調子者のイメージになった。時折お調子者のように振る舞うけど、いつもは世間を斜に見ている厭世的な人なのに。なんでだろう)


 毎日の会話を思い出しても、お調子者とは決していえない人なのに、ずっとお調子者と思っていたことに違和感を感じる。だが、どれだけ考えても原因は思いつかなかった。


 過去を思い出す。まだ小さな頃の話だ。あれは小学1年生の頃だ。


           ◇


 当時、神居家は酷く貧乏だった。築百年は経過してそうなボロアパートの四畳半に四人家族で住んでいた。エアコンなどはなく、隙間風はビュービューと入り、食事も時折ソーセージが出ればご馳走と喜ぶレベルだった。


 もちろん誕生日やクリスマスなどは関係ない。日々の暮らしで精一杯であったものだ。それまでは、古着1枚プレゼントで貰ったことも、ケーキを食べたこともない生活だったのだ。


 両親は二人とも優しい人ではあるが、生活能力が皆無であった。父親は仕事にすぐに飽きて辞めてしまうし、母親は貧乏でも、節約をすればなんとかなると思って、パートもしない人であり、勤労意欲ゼロ。もちろん健康な大人二人のために、生活保護などは受けられなかったし、そもそも生活保護を受けるという選択肢も思いつかない人たちだった。


 子供が悲惨な生活をしていても、ケロリとして気にしない人たちであった。


 即ち、花蓮の両親は家庭を持ってはいけない人種であった。少なくとも子供を育てる権利はない人たちであった。


 小学1年生といえば、物事がなんとなくわかり、周りの人たちと自分は違うなぁと気づく心が生まれる頃だ。


 双子であり、姉でもあるエリスねぇは貧乏を苦にしない変わった人で、両親と同じ性格なのか、食べ物にも無頓着であるように見えた。花蓮がご馳走と思っているソーセージ入りのスープも不味そうに食べるし、近所の人たちが自分たちの悲惨な境遇を面白半分でヒソヒソと陰口を叩くことも気にしない。日々、マラソンをしたり、木登りをしたりと一人で遊んでいる不思議ちゃんだった。


「お腹空いたなぁ〜。あの雲全部食べることできないかなぁ」


 ろくに食べるものもなく、休日は給食もないので、家の窓に寄りかかり、花蓮は小さなお腹をさすっていたものだ。


 その日は晴天で、雲が食べられないかと妄想していた。綿あめって、どんな味なんだろうと思っていたものだ。


「よう、なにここ? こんなボロアパートからスタートなの? 小公女セーラみたいな貧乏環境からスタートなわけ? ありがちだなぁ」


 いつの間にか、錆びた手すりに、皮肉げな笑みを浮かべた男の子が座っていた。唐突に現れた少年に、花蓮はポカンと口を開けて唖然としてしまっていた。


 花蓮の住む部屋は2階だ。手すりなんか錆びてボロボロで寄りかかれば壊れそう。登れるわけはないのに、そんな錆びた手すりにいつの間にか男の子はいたのだ。錆びた手すりは傾くこともなく、まるで少年に体重というものが存在しないかのようだった。


「えっと、だ、誰?」


 ここで天使さんとか悪魔ですかと気の利いたセリフを言えれば良かったが、生憎とどこにでもいそうな男の子のため、花蓮は普通に問い質すことしかできなかった。大人振りたいのか、コートを羽織り、ポシェットを肩から斜めにかけている。


「ん? 俺? 俺は世界を救う者だ。え~と、お前のねーちゃん? 妹? のエリスと共にな」


 そして、少年はにやりと笑って、今思えばドン引きすることを口にした。


「よっくん! おおおお、遅いよ。わたわたわた、私頑張ってたんだからね!」


「頑張ったよ? エリスを探すのにどんだけ無駄なスキルを取得したかわかる? なんでお前だけ最強ビルドを黙々と取得してるわけ? 探知系統のスキルレベルを無駄に上げちゃったよ!」


 エリスねぇは少年を知っているようで、プンスカと怒っていながらも、その顔は喜びに満ちていた。よっくんとやらは不満げに口を尖らせて、エリスねぇの頬を掴むとビヨーンと伸びるけど、すぐに不愉快な顔に変わった。


「お前、なんか肌色悪くない? え? ちゃんと栄養とってる?」


「お料理不味いんだもん。皆泥か発泡スチロールの味だし」


「そこで思考停止するなよな。お前、◯グ・ホライズン見たことねーの? ったく、これでも食べろよ。ようやくクッキーを作れたんだ」


 ポシェットから取り出したのはクッキーだった。酷く不格好で焦げているし、小石のようでもある。頑張ったけど失敗しましたという感じがいかにもするクッキーだ。


 だけど、エリスねぇは躊躇いなく食べて、目を丸くして頬を緩めると、すぐにおかわりを求め始めた。


「美味しいっ! こんなに美味しいクッキー初めて! よっくん、もっとちょーだいちょーだい?」


「へいへい。お姫様の言う通りに。お前も食べる?」


「う、うん。ありがとう」


 不思議な少年と評するには平凡すぎる男の子から手渡されたクッキー。固いし、あんまり甘くもないし、焦げた味もする。


「美味しい……」


 今思うと、決して美味しくはない。だがその時は世界一美味しいと思ったのだ。ペコペコのお腹、甘いものなんか食べたことはなかった花蓮にとって、そのクッキーはどんなものよりもご馳走だった。


「ははっ、ありがとう。まだまだたくさんあるから、どんどん食べてくれ」


「うん! えっと、お名前きーていい? 私は神居花蓮だよ。エリスねぇの妹なの」


「よろしく、花蓮。俺の名は朝倉好夫。まぁ、これから有名なハンターになるだろうから、サイン位は上げても良いぞ? きっとプレミアつくはずだから」


「えぇ~、なにそれ〜?」


 よくわからない事を言う少年に、花蓮は久しぶりに笑ったものだ。


「それじゃ、生活環境から変えてやるよ。金はあればあるほどスタートダッシュに有利だかんな。うししし、投資術の力を見せてやるぜ」


 そうして、同じ年のはずなのに、少年はやけに頼り甲斐のある大人のような笑みを返すのだった。


 少年が来てから生活は著しく変わった。父親は株の投資に成功し、あれよあれよと金持ちになった。おにぃの両親も投資に成功しており、金持ちであり、両親たちは遊び呆けることとなった。

 

 花蓮たちは大きな屋敷に住むこととなり、メイドに傅かれて、日々の食事は好きな物が食べられるようになり、服は毎日新しい物を着れるようにもなり、生活に困ることはなくなった。


 激変した生活の中で、少年が一緒に暮らすようになった。その頃には少年に懐いた花蓮はおにぃおにぃと呼ぶようになり、後ろをついて歩いたものだ。

  

 エリスねぇと、おにぃはごっこ遊びが大好きで、魔物と呼ぶ縫いぐるみを置いて、エリスねぇが前衛だとか、囲まれた時のフォーメーションとか、やけに真剣に遊んでいたものだ。


 なんにせよ、おにぃが来なかったら、きっと今も悲惨な生活を花蓮たちはしていたと思う。不思議な少年は花蓮の恩人となった。


           ◇


「そうだよ。おにぃは昔からかっこよかった。お調子者じゃないわっ!」


 過去の記憶を掘り返して、花蓮は強く思う。


「おにぃの弱点は、食べ物の味が分からないこと。自分で作るものしか味わえない。一種の病気なんだろうなぁ。エリスねぇはおにぃの作る食事しか味分かんないみたいだし」


 長年の付き合いで花蓮はおにぃが料理の味を分からないことに気付いていた。ある日、花蓮が作ったクッキーが塩と砂糖を入れ間違えて塩っぱかったのだ、とてもではないが食べられるものではないのに、おにぃは甘いよと美味しそうに食べるので気付いた。エリスねぇは元々不味そうに食べるので、よく分からなかったけど。顔に出る正直者の姉なのだ。


「おにぃの料理だけ……。調べたら警戒している相手の食べ物は食べられない精神的なものだった。むむむ、エリスねぇとおにぃは愛がある? ま、まさかね」


 以来、時折花蓮はおにぃに自分の作った物を食べさせている。味を感じられた時は花蓮のことを警戒することなく、あ、あ、愛していることになるからだ。


「ま、まぁ、私は家族的におにぃが好きなだけで、恋愛的なものはないしっ? それに変なことをしないかも監視しないといけないしねっ。なにせ、この家にいる男はおにぃだけだしっ」


 誰に言い訳をしているか不明な花蓮は、パソコンを起動させる。と、目的のフォルダを確認する。


 フォルダには朝倉好夫の写真がずらりと並んでいた。盗撮、いや、監視のためだ。夜這いとかしてこないように、花蓮は密かに屋敷全体に監視カメラを配置していた。


 もちろんおにぃの部屋にもお風呂にも設置してある。あくまでも用心のため。高校1年生の男1人、女2人の生活は危険だからだ。


「うんうん、これはお互いの生活を守るためよっ! 将来的にも一生一緒に住むんだからねっ!」


 風呂内のおにぃが写っている写真をパスワード付きのフォルダに移しながら独りごちる。鑑賞用、保管用、おかず用としっかりと分け終えると、ふぅと一息つく。


 なにかおかしなことがあったような気がするが、その違和感がなにかは分からなかった。


 おにぃとエリスねぇが一緒にお風呂に入ってる写真であるが、おにぃのことしか気にしない花蓮は、不思議には思わなかった……。


 好夫とエリスがノーマルエンドを迎えるまでは。

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― 新着の感想 ―
番外編うれしいっす。そして、◯グ・ホライズン懐かしい。主君と呼んでくれるキャラが特に好きでした。
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