15話 ノーマルエンドで終わり。だよな?
さて、俺たちの愛の告白イベントの結果を伝えようと思う。
「よっくん。よっくんが本気なのは分かったよ。でも、私は恋愛感情がないの。友だちからはじめよ?」
「えぇ〜。友だちかよ〜」
隕石が落ちて、地震が起きて、地面が深い溝だらけとなって、学舎が消えて更地となった場所で、ボロボロとなった俺たちは寝そべりながら、星空を眺めていた。
いわゆる『お友だちエンド』だ。ノーマルエンド。攻略対象から誰も告白されなかった場合、親友と友だちだと確認し合うだけのエンディング。恋愛ゲームでは必ず一つはあるエンディングだ。
強引ではあるが、もはやエリスはパンチを繰り出す余裕もないし、俺を一撃で星に変える切り札もない。因果関係を柱としているこの世界はついに『好夫、星になる』イベントが不可能と判断してくれたらしい。
「見て、よっくん。スタッフロールだよ」
「マジにゲーム世界だったんだなぁ」
満天の星には、スタッフロールが流れていた。スタッフの名前はどこかで聞いたことのある神様の名前ばかりだ。ていうか、スタッフロールとか、ふざけすぎだろ!
「どうやらこのゲームをクリアしたようだな。あ~、疲れた。何度復活したか分からねぇー」
「無限蘇生はずるいよ。今度やる時は不死鳥の加護使用禁止ね?」
「それならそっちは猫の命禁止な。あれはチートすぎるスキルだろ」
お互いに軽口を叩き合いながらも、どこか清々しい。生死を賭ける世界に転生することを喜んだ戦闘狂の2人。苦労した結果、なにも残らなかった俺たちは初めて本気で全力を使い切った。もう、心残りはない。
「……ねぇ、Endってなったら、この世界はどうなるのかな? 終わり? それとも時間が回帰されてまた繰り返す?」
「どうだろうな。セーブされて他のエンディングを見るなんて展開あるかもな」
寂しそうに呟くエリスへと慰めを口にするでもなく、俺は正直に答える。なにもわからない。リセットボタンを押されることがあるかもしれないし、ロードされるかもしれない。今度こそ一から十まで人形として生きることになるかもしれない。
「だが、まぁ……俺はエリスのそばにいてやるよ。なにせ唯一のプレイヤー同士だからな」
「うん! ずっとそばにいてね、よっくん」
そうして、俺たちは都会ではあり得ない澄んだ空気と、満天の星のもと笑い合うのであった。
◇
これにて、世界は終わる。または巻き戻る、となったらショックを受けるが、そんなことはなかった。
ピピピと目覚まし時計が鳴る中で、ゆっくりと目を覚ます。
「ふわぁ〜。な~んにも変わらなかったな」
人の頭にへばりついている寝ている兎を引き剥がし、腹の上に丸まって寝ているマーモットたちを放り投げる。
あれから3ヶ月程度経ち、春休みも今日で終わり。なにか変わるかと思ったが、なにも起こらなかった。
「うう、暖かくなっても布団が恋しくなる。もしかして前世は布団が恋人だったのかも」
アホみたいな呟きをして、眠気を感じてあくびをしながら、一家族が余裕で住める大きさの部屋を横断し、部屋から出ると隣に向かう。
学校に行く前の日課だ。面倒くさいが放置するともっと面倒くさいことになるので、諦め半分、悟りを開いた修験者のような面持ちで隣の部屋へとノックもせずに入る。
「おはよう、エリス。よく寝た?」
床に漫画本や空になったペットボトル、開封されたポテチの袋などが足の踏み場もない程に転がっている魔境に。
「え、えへへへ、寝てない。ほら、見てみて? これで66連続チャンピオン。ここここで、連続チャンピオンを切らすことできないよね?」
「いい加減、チートを疑われるだろ。運営も心が広いな」
変わらずにボサボサ頭に死んだ目をして、エリスはFPSをしていた。何徹したかは知らないがドラゴンにも等しい体力を無駄に使う少女である。
「おい! 今日から学校だぞ? 春休みは昨日でおしまいだ」
「う、うぇぇぇ!? うそ! だって、昨日春休みに入ったはず。よっくん嘘だと言って〜」
この世の終わりと、死にそうな顔で驚くエリスに苦笑しかない。春休みが昨日からだったら、俺もどれだけ嬉しいことか。しかし、この世は世知辛く、今日から学校だ。
「ほら、2年生になるんだから、高嶺の花として格好をちゃんとしないと駄目だろ」
「シャワー浴びる〜。よっくん連れてって〜」
「へいへい、お姫様の言う通りにしますよ」
手を伸ばしてくる美少女を断る理由などない。お姫様抱っこで風呂場に運び、日課の洗浄をと思ったのだが━━。
「え、エリスねぇ! 何してんの? なんでおにぃと一緒にお風呂に入ろうとしてるわけっ! 色仕掛け? 色仕掛けなの? うちは兄姉の不純異性交遊は禁止なんだからねっ!」
風呂場に入ると、猪のように突進してきた花蓮が怒鳴ってきた。
「えぇぇ〜、よっくんに身体を洗ってもらわないと、学校いけないよぉ」
「何言ってんのよ! なんでこんなことに気づかなかったのかしらっ! 自分で洗いなさいよ! 私の目が黒いうちはおにぃに手を出させないからね!」
そう、今までは世界のルールにより、俺とエリスがどんなことをしても認識されなかったのに、今は認識されるようになったのだ。
「しかし、毎回よく気づくよな」
「それは妹がこの家に監視カメラを仕掛けてるからだよ」
「監視カメラ?」
「うん。え~と、女二人に男一人は危険だからって、妹が監視カメラを仕掛けたのさ。でも、よっくんの部屋とか、お風呂とかはまだ良いけどトイレはどうかなぁって思う。それと保管する動画におかず用ってつけるのはやめたほうが」
「あ~あ~あ~! エリスねぇが何を言ってるのか分からないわっ! ほら、今日は私が洗ってあげるから! おにぃは風呂場から出ていって! ほら、出ていって!」
エリスのセリフに被せて大声で叫ぶと花蓮は俺の背中を押して風呂場から追い出した。
うん、ここは、「えっ、なんだって?」と呟いた方がいいんだろうな。うん、聞かなかったことにしようっと。俺は今日から一応高校2年生。女性に幻想を少しは持っていることになってるのさ。
ノーマルエンドを迎えて、エリスの主人公補正はどうやら無くなったらしい。実を言うと人を前にすると、快活な優しい少女のペルソナも消えているため、コミュ障のエリスのままだ。
本人もさすがにまずいと思ったのだろう。人前では以前と同じような姿になるように演技している。
『エリスねぇ、いつもお風呂に一緒に入ってたわよねっ! いつの間にアプローチしてた? もしかしてしたのしてないの?』
『う、えへへ、し、してない。よっくんとそーゆー関係にな、なるの、少し怖い』
『そう。それなら良いわっ! いい? エリスねぇは美人なんだから、おにぃよりもいい男をたくさん釣れると思うのっ。だからこのまま幼馴染ポジションにするのよっ』
『わ、わからない。けど、うん、もう少し仲良くなりたいかな』
『駄目だから! 絶対に駄目だからね。昨今は目立たない幼馴染が男を掻っ攫うストーリーが多いんだから、明らか主人公ポジションのエリスねぇは諦めてっ!』
風呂場の外まで姉妹の会話が聞こえてくるが、エリスの演技が剥がれかけている。
「やれやれ、いつまで演技が持つことやら」
苦笑混じりに俺は使い魔たちに餌を与えに行くのであった。
◇
高校2年生と言っても、なにも変わらない。クラスメイトは多少変わったが、エリスも花蓮も光も同じクラスだ。ついでに言うと、平等院も。
「なぁ、好夫、光。人生を手堅く一発逆転するにはどうしたら良いと思う? やはり私の顔の良さを利用したヌーチューバーをしたら儲かるかな? あ、その卵焼き食わないならくれ」
「手堅く一発逆転って、矛盾してねーか? お前、金持ちのボンボンキャラだったろ。キャラ変わってるじゃねーか」
人の弁当に手を伸ばしてくる平等院の手をペチリと叩く。
昼休み、なぜか光と一緒に飯を食ってたら、平等院も一緒に飯を食っていた。というか、平等院はコッペパンひとつが昼飯の模様。
「もう少し社会のことを知ってこいと家を追い出されたんだ! 今の私は築百年のボロアパートに住み、仕送りは家賃光熱費含めて、たったの三万円で暮らしてるんだ! 金、金が必要なんだよ!」
「あはは、大変だね、平等院君。それじゃコンビニでバイトとかどうかな?」
「可哀想なことを言ってやるな光。こいつがコンビニでバイトした未来を想像してやれよ」
「ぬぅ! コンビニでバイトくらいできる! で、コンビニってなんの暗喩だ?」
「お前、絶対に闇バイトには手を出すなよ?」
「お~っ、なになに? お前もコンビニでバイトするのか? 俺もバイトしようと思ってるんだよ。平等院一緒に面接受けに行こうぜ」
「うむ、良かろう。コンビニでバイトしてやろうではないか。私とその部下としてなっ! わははは」
「なんでも良いけどよ、小野妹子さんを見つけたら教えてくれよなっ」
アホな平等院の肩に腕を回して、黒髪薬師寺が絡んでくる。なんの因果か、薬師寺も同じクラスなのだ。
金持ちのボンボンキャラの平等院は哀れ貧乏キャラに、陰を背負った世を斜で見ていた薬師寺は底抜けに明るいお気楽なアホキャラにと変わっていた。ノーマルエンドの影響かはわからない。
「先輩、委員会は図書委員にしますよね?」
「トオルンや、高校2年生のクラスに入り浸るのは良くないぞ?」
「僕は先輩が人として生きるように導かなければならないんです。堕落したら、すぐに助けられるようにそばにいることにしました。世界が闇に覆われないようにするための使命です」
そして、可愛い後輩の葛城透は最近押しが強い。闇に覆われるって、なんかの例えか?
「ちょっと、1年生は自分のクラスに戻りなさいよねっ! ただの先輩後輩の関係なんでしょ!」
「ふっ、世界の真実を知らない人は先輩に近づくこともおこがましいです。先輩のそばに居れるのは、正義と愛を持つ乙女のみなんですから」
「それなら残念ねっ、私は遠からずおにぃと、その、乙女ではなくなり……その」
「あくっ! ここに悪魔がいますっ! 悪魔退散っ!」
「誰が悪魔よ、誰が!」
トオルンと花蓮がギャ~ギャ~と威嚇する子猫のように怒鳴り合う。なにがなんだか分からないが、2人は最近いつもこんな感じである。
「前よりも賑やかになって楽しいね、よっくん」
いつの間にか、俺の弁当を食べているエリスがニコニコと笑顔を見せる。選択肢のない、自由の世界。彼女はようやく本当の笑顔を取り戻したのかもしれない。
「このゲームが本当に終わったとしたらなによりだな」
弁当をとられた俺は、仕方なくドロップ飴を口に放り込む。
いつものように、ドロップ飴は味がしなかった。
〜 おしまい 〜
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