14話 モブが告白するとどうなるか?
さて、質問だ。
恋愛ゲームでモブが主人公に告白するとどうなると思う?
答え
『もぉ~、いつもふざけるんだから。告白は本当に愛する人にしないと駄目!』
『どっひゃー』
キラン
朝倉好夫はふざけて告白し、エリスに殴られて星となるのであった。
どうでもいい、ノーマルスチルが1枚埋まるだけ。以上である。
即ち、ふざけて告白したと判断されて、コメディ風に処理されて終わり。よくあるおふざけイベントだ。ランダムに起きるどうでも良いイベントだけど、意外と見るのが難しい狙って見ることができないイベント。主人公が友人と遊ぶスチルとか、お弁当を食べるスチルとかと同等。スチルをコンプするために嫌がられるだけの誰の記憶にも残らないイベントだ。
はい、先生、それが現実となるとどうなるんですか?
答え
「えいっ」
エリスは笑顔で拳を振り上げて、俺を殴ってくるのだ。
「くおっ!」
音速の速さで。
なんとか反応し、横っ跳びで身体を投げ出すように躱す。躱した後に突風が巻き起こり、屋上へと入れる入り口が細かく粉砕されて、空へと舞っていきました。
「容赦ないな! 星になる威力ってやつか。エリス手加減できないのか?」
「ふざけて告白するからだよ〜」
エリスの顔に俺のセリフからの反応はない。世界のルールに支配されている。やはり手加減は不可能だった。
「たあっ」
可愛い掛け声で、可愛くない一撃を繰り出すエリス。その一撃は簡単に人を殺せるどころか、ビルさえも粉砕できる。
この世界は因果関係がある。エリスの拳の威力は唐突に付与されたわけではない。エリスがガンガン取得した戦士系統のスキルの能力だ。最高レベルにまで上がっているスキルはドラゴンとタイマンできる恐るべき力だからだ。
なにせ、俺もエリスもディストピア感の溢れるゲームと思って、スキルを取得してきたから、この世界ではありえぬ力を振るうことができる。
それは俺も同じだ。こっちは魔法で対抗する!
『風は』
『ふざけて告白する好夫、星になるイベントのため、朝倉好夫のスキルを一時的に全て凍結します』
……へ?
目に見えない力が自身から抜けていく感じと表示された内容に、一瞬呆けてしまう。その一瞬の隙が致命的となり、人形と化したエリスの音速の拳が俺の体に突き刺さる。
バリーン
と、ガラスが割れるような音がして、俺の姿が一瞬ブレる。あらかじめ唱えておいた身代わりの魔法が発動したのだ。告白前に強化魔法をアホほどかけておいた。この世界のルールは因果関係を逃れることはできないため、急に魔法が消えたりはしないためである。
だからこそ、戦えると思ってたのに……。
「スキルを凍結してくるとは考えなかったな! これならおかしくないもんな!」
焦りながら次の一撃をステップして躱す。大振りの攻撃は起こりだけを見逃さなければ、なんとか躱せる。
体術スキルさえあればの話だが。今はスキルが凍結されたため、ステップともいえないバタバタとした不様な躱し方となっている。
「ぐうっ! これ躱してもこれかよ」
まるで目の前を新幹線でも通り過ぎていくかのように、拳が過ぎていくと突風が俺の頬を歪めていく。衝撃波が強化されている肉体を吹き飛ばそうと押してくる。
吹き飛ばされてもおかしくない。もしも強化魔法がなければ、既にお星様になっていただろう。
「もぉ~、躱しちゃだめー!」
のんびりとした口調と緩やかな笑みなのに、エリスの踏み込みは神速で一瞬のうちに懐に入ってくる。その速さは俺が瞬きをする間の速さで、全くついていけない。
「グハッ」
エリスの拳の一撃にあっさりと防御障壁が砕かれて、俺に余波が届く。肉体が余波だけでバラバラになりそうな衝撃が奔り、内臓がミキサーにかけられたかのように激痛が責めてる。喉からせり上がってきた血が口から吹き出して、よろけてしまう。
「こりゃ参ったね……。次の一撃には耐えられねーな」
立つのもやっとだ。ガクガクと震える脚を叱咤して、なんとかよろけながらも屋上の柵に手をかける。
エリスの笑みは変わらない。それが不気味であり、哀れみを誘う。その笑みのまま、俺を殴りつけ、お星様に変えるのだろう。
「だけどな……世界さん。勝ったと思ってるだろ? だが、俺がこの展開を読んでなかったと思うか?」
柵に身体を押し付けると、挑発的にニヤリと嗤ってやる。今にも死にそうなのに余裕を見せる俺の笑みに、エリスはピタリと立ち止まり、怪訝な表情となる。
「この世界のルールに則れば、この展開を打破する方法はあるんだぜ? こういう風になっ!」
俺は恐怖を押さえて、足に力を込めると全力で飛び上がり━━柵を越えた。
驚きの表情となっているエリスを視界におさめながら、俺は地上へと落下する。頭から落ちて、このままでは数秒で死ぬだろう。
だが、俺はこの世界のルールを信じている。
現代恋愛ゲーム。全年齢向け。鬱展開は無く、優しいハッピーエンドしかないこの世界を。
それなのに、モブが主人公に告白した挙句に、自殺したらどうなるか? そんな展開を全年齢向けの恋愛ゲームで許されるか? 誰もそんな展開は期待していないし、鬱エンドはこの世界で許されないんだ。
刹那の間に、地上が迫ってくる。
『Error。緊急措置のため、朝倉好夫のスキルの凍結を解除します』
「あぁ、そうするしかないよな、世界のルール的にな!」
世界はモブが告白に失敗して自殺するのを許さない。渋々なのかは分からないが、俺のスキルの凍結を解除した。
感じられなかった力が再び自身に戻ってくるのを感じる。目を細めて、俺は身体を回転させると、足の爪先からまるで木の葉のようにふわりと地上に着地するのであった。
「第二ラウンドといこうか、エリスッ!」
『風となるは肉体。見えない刃が汝等を切り裂く』
単詠唱で空へと手を向けると、突風が刃となって、屋上へと向かう。屋上からはエリスが飛び降りようとしており、風の刃がその肉体を切り裂こうとするが━━。
「えいやっ!」
エリスの拳が消えた。いや、音速の速さでの連続突きだ。その拳はまるで流星のように迫る風の刃を全て打ち砕く。
「トラックだって切り裂けるのに、無傷かよ」
「駄目だよ、よっくん。初級魔法で私を傷つけることなんかできるわけないじゃん」
「そのとおりなんだけどな」
人形と化したエリスなのに、その笑みは先程と違い歪んだもので、目は獣のようにギラギラと輝いていた。きっと俺の顔も同じ感じだろう。
俺のスキルが復活したことに、世界のルールが警戒したのか、今度は無防備に突っ込んで来ない。
だが、負けることはないとも考えているのに違いない。
「無駄な足掻きだよ、よっくん。この距離では私に敵わない」
「それは永遠の命題になってなかったか?」
余裕の笑みを浮かべるエリスだが、理由はある。
俺とエリスはこの世界は魔物が徘徊し、死と隣り合わせと思っていたため、役割を決めた。
エリスがタンク兼アタッカーの前衛。そして、俺は高火力の魔法使いにして支援や回復を使える後衛と。
そのため、俺の体術は魔物から身を守れるくらいの護身程度だし、ステータスも魔法使い寄りで筋力も体力も少ない。対して、エリスはドラゴンと殴り合いをできる怪力と、何度攻撃を受けてもケロリとする膨大な体力を持っている。
遠距離での戦闘ならともかく、戦士と魔法使いがこの近距離で戦えば、ほぼ確実に戦士が勝つ。
「まぁ、ほぼ負けるということは、勝つこともあるということだ! 続きをしようぜ、エリス!」
「もぉ~、ふざけて告白したら駄目だよ!」
俺が叫んだ時には、エリスは目の前にいた。十メートルごときの距離はエリスにとって、無いも同然だ。
そのまま俺の身体を貫く一撃が繰り出されるが━━。
「うさ!」
「まきゅ!」
俺とエリスの間に飛び込んで、その拳を阻むのは、小動物二匹。兎とマーモットであった。音速の拳を受けて、苦しそうにしながらも、それでも防いでいた。
「これは!?」
思いがけない展開に、エリスは瞬時に後ろに下がると、周囲を見渡す。周囲には俺のペットである兎とマーモットたちが目を爛々と輝かせて立っていた。
いや、ペットではない。使い魔だ。俺の魔力により作り上げた魔法生物。
「驚いただろ? こんなこともあろうかと、子供の頃から少しずつ創ってきたんだ、毎日毎日少しずつな」
異様なる使い魔たちを見て、警戒するエリスに肩を竦めて教えてやる。本当に毎日創っていったのだ。クエストで手に入る微々たるゴミのような経験点を集めていき、意味があるのかもわからないことを繰り返してきた。紛れもなく苦行であった。雨の日も雪の日も、地味に創ってきたのだ。
だからこそ、この街は兎とマーモットだらけだ。商店街にも、学校にも、居酒屋にも兎とマーモットはいる。
「こいつらは弱いが、それでもエリスの攻撃を2回は防げる。そして、肉盾があれば魔法使いは無敵だ!」
「うさ!?」
「まきゅ!?」
俺達に任せろと、使い魔たちが俺を見て力強く頷く。忠実なる使い魔たちよ、後で復活させるから、首を横にぶんぶん振らなくても大丈夫。俺の命をお前たちに預けるぜ。
その様子を見て、ルールから逸脱したのか、使い魔相手には適用されないのか、エリスは自身の意思で大笑いを始めた。
「あははは。い、良いよぉ、よっくん! なら、これからは本気の本気で行くよ! これが神居エリスの真の力さ!」
空間の歪みから魔剣を取り出すと、楽しげに狂気に満ちた笑顔を見せて、蝙蝠の翼を生やし、羊のような角を頭に生み出し、漆黒の甲殻が体を覆う。悪魔化だ。前衛が使う攻撃力、耐久力を高める変身スキルにして切り札。
「あぁっ、本気でこい。俺も殺すつもりでいくからな!」
俺も魔法力を高める天使化を使う。前衛が悪魔化が切り札とするならば、後衛の切り札だ。白鳥のような天使の翼、頭には天使の輪。そして、薄っすらと光のオーラが体を覆う。
俺もエリスも凶悪な笑みになっていた。
本来は死と隣り合わせの、紙のように命が軽い世界へと喜んで転生することを了承した俺たち。ゲームでは飽き足らず、生死を賭け金にする愚か者たち。それが俺たちなのだ。
この平和な世界で使い所のないスキルを大量に持ち、世界に絶望し暮らしていた俺たち。きっと本気で戦えるのはこれが最後だろう。
「魔法使いの真髄を見せてやるぜ。脳筋娘!」
「物理が最強ってことを教えてあげるよ、このインテリモドキ!」
楽しげに2人はぶつかり合い━━。光と闇が世界を覆うのであった。
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