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俺たちは恋愛ゲームの人形である  作者: バッド


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11話 尾行のスタイルってどうする?

「なるほど、エリス先輩の好きな方が問題ないか見極めてほしいと相談されたんですか。その際に躓いて抱き合っているように見えたと。納得しました。先輩が学園の高嶺の花であるエリス先輩とどうこうするわけないですものね。きっと花を手に入れようとしても崖から落ちて死ぬだけですし」


「悪意しか感じないセリフ! もう少し手加減してくれないかな、トオルンや?」


「それに好きな人じゃなくて、お友だち。お友だちが虐められたりしていないか確認したいだけなの」


 どこからどう聞いても無理のある誤魔化しをする転生者、その名は朝倉好夫と神居エリスと言います。


 非常階段で2人で抱き合っていたところを浮気を見られたかのように葛城透に問い詰められて、頭をひねり作り出した言い訳。頭を捻ってそれかよとツッコまれること請け合いの嘘だけど、トオルンはあっさりと信じてくれた。


 俺達も勝算なく考えた言い訳ではない。世界れんあいげーむのルールが補正するだろうと考えてのことだ。そしてそれは上手くいった。


 ……喜ぶべきなのだろうが、トオルンたちがゲームキャラであると教えてくれるので気持ち悪い。矛盾した感情だな。


 というわけで━━。


「薬師寺持統を尾行して人となりを観察しよう作戦開始〜。パフパフドンドン」


 俺たちは第二の攻略対象を尾行するのであった。


           ◇


「薬師寺持統を発見したよ! 見てよ、あそこあそこ!」


 放課後になり、俺たち3人は薬師寺を探したが、エリスがすぐに見つけた。さすがは主人公、本来は「偶然だね〜」とか笑顔でエリス声を掛けるストーリーなのだろう。


 だが、幸いなことにエリスはビルの陰に隠れていたので、イベントは発生しなかった。ここで発生したら、陰でコソコソと男子を尾行する主人公となりストーカー扱いされるから世界のルールも介入できなかったのだろう。


 学園の近辺は学生街ではあるが、多くの大人たちも生活しているので、繁華街も存在する。普通の学生たちが遊ぶ区域と、大人たちが遊ぶ区域。酒の臭いと、どことなく妖しい空気を持つ繁華街へと向かう境目ともいえる道を薬師寺持統は歩いていた。


「薬師寺持統君って、どんな人だっけ?」


「え~と、本当は心優しい人なのに腕っぷしが強いから喧嘩を仕掛けられて、その全てに勝利していたら、いつの間にか乱暴者と言われるようになった人だよ。勉学に励んで、大学に進学して、まともな仕事に就いて、母親に楽させたいんだって」


 改めて薬師寺持統という人柄を確認するべくエリスに問いかけると、ほっそりとした人差し指を顎につけて、思い出すように語る。ふむふむ、テンプレの優しいのに不良と勘違いされる男って奴か。誰も彼も乱暴者と思って距離をとるのに、気にしないで近づく主人公を好きになるパターンね。


「それではまったく情報が足らないです。今日は寝坊して登校したのは3限目。今日はといいますが、かなりの頻度で寝坊してます。留年しないように計算していると思しきずる賢い所あり。成績は赤点が多く、1年生からこの点では進学は厳しいと思われます。学校に友人はおらず、毎日、放課後は繁華街や学生街を彷徨いています。そのため、他の不良に絡まれて喧嘩をすることも多々あり。母親はスーパーでフルタイムのパート。年収360万円。築18年の2LDKのアパートに住んでます。母親は店長と仲が良く、再婚の兆しあり」


 つらつらと語るのはトオルンだった。その饒舌さに俺もエリスもぽかんとしてしまう。


「えっと……トオルン、薬師寺君のことに詳しいね。もしかして好きだとか? なら手伝うこともやぶさかじゃないぜ?」


 無表情で淡々と語っているので、少し怖いよ?


「ッ違います! 僕は先輩たちが薬師寺を調べると聞いて、前情報を調べたんです! 好きな人ではありませんし、なんなら今日知りました!」


 なぜか身を乗り出して、トオルンは顔を顰めて俺の襟を掴んで力説してくる。そっか、放課後までそんなに時間はないはずなのに、それだけ調べたのか。ありがたいけど、すごいな?


「これくらい、友だちに聞けばすぐに分かります。それよりも僕は先輩たちの変装に驚きを隠せないんですけど? なんですか、それ? ハリウッドの特殊メイクですか? 背丈まで違うんですけど、低くなるってどんな手品なんです?」


「今の時代のハリウッドメイクはどんなことも可能なんだよ」


 訝しげな顔になるトオルンの瞳には、俺とエリスの姿が映っている。そこにはいつもとは違う俺たちの姿があった。


 俺はというと分厚い眼鏡をした黒髪おさげの陰キャっぽい少女。エリスはスポーツ刈りで、体格の良い男子である。


 どこからどう見ても、これが朝倉好夫と神居エリスとは思うまい。めいいっぱい頑張って変装をしました。コツは性別を変えること。これならば気づかれることは絶対にない。尾行の基本だよね。コメディ的なサングラスにマスクとかありきたりな変装をするつもりはないのだ。


「尾行するんだから顔を見られたらまずいだろ? 本来は尾行ってのは司令塔を置いて、7人くらいでするものなんだ」


「先輩は一体どこを目指さしてるんですか!?」


 半眼となるトオルンだが、おかしいな、これ常識だよね? エリスは常識だねと頷いているので、トオルンが間違ってるんだろうな。まぁ、一般人ではプロのやり方は分からないか。


 なんのプロかと思われるが、好夫とエリスは漫画からの情報を常識としているのでドヤ顔である。


「さて……では、薬師寺君を見てみるか。……あれが薬師寺君? え、予想はしていたけど、うわぁぁ!」


 俺の目に入ってきたのは、予想とまったく変わらない少年であった。


 金髪に染めたツンツン頭に鋭い目つき、世の中に不満を示すように引き締められた口元、背丈は180センチはあるのに猫背であるのでタッパはあるのにやけに小さく感じられる。着崩した制服の下に見えるヨレヨレのシャツは英語が書いてあり、趣味が中学生時代あたりで止まっていた。


 どこからどう見てもヤンキーである。分かりやすいヤンキーです。なにより目立つのが耳につけたピアスだ。3つもつけており、シルバーがギラギラと光って、まるで周りを威圧しているかのようだった。


「え、あれで母親のためにも勉強を頑張って、苦労をさせないようにしたいと思ってるの? マジで? 誰かと間違ってない?」


「もぉ~! 持統君はね、母子家庭だって馬鹿にされないように、あーゆー格好にしてるの。でも、本当は心優しい人なんだよ? 見かけで判断しちゃ駄目なの! 勉強だって頑張ってるんだから!」


 ドン引きの俺に、プンスカと怒るエリス。なるほど、ニャルほど? ゲーム補正で彼を守る発言しかできないエリスの意見は全然参考にならんな。


 いや、いるけどさぁ。漫画にはいるけどさぁ! 真面目な優等生とヤンキー君のコンビは使い古されたと言っても良いテンプレだけどさぁ。いざ、現実に目の前にするとねぇ……。


「なぁ、トオルン。トオルンはどう思う? 薬師寺君は良い子なのか?」


「はっ。カスじゃないですか。母子家庭を馬鹿にされないように頑張りたい、だからあの格好をしてるんですか? 母子家庭なんか今時珍しくありませんよ。同じ環境の人を馬鹿にしてるんですか? なら、なおさら金髪になんか染めないで、黒髪で真面目な風にすれば良いんです。腕っ節があるということは、運動神経もあるんですよね? 勉強を頑張って、運動部に入って活躍すれば誰も馬鹿になんかしませんよ。というかあのピアスはなんですか? 陽キャでも一つくらいしかピアスはつけませんよ。3つってなんですか、3つって。金髪なのを含めて見れば、少なくともまともな人は近づきませんね。複数のピアスをつけてる人に引く人は結構多いんですよ」


 まるで苦虫をたくさん噛み潰したように語るトオルン。まったく仰る通りです。にしても、饒舌ですね。


「たしかになぁ。おしゃれで付けてる人なら別に気にしないけど、学生でヤンキー君が付けてるのはマイナスイメージしかないかもな」


 個人的な意見だと、男でピアスをつけてるのは業界人とか美容院の店員さんとかとってもオシャレな人か、ちょっと怖い人の2種類のような気がする。俺の周囲の男共でピアスを付けてる人っていないし。


「かもなではなく、間違いなく学生ではマイナスイメージです。それに母親に苦労をかけたくないならバイトでもなんでもすれば良いじゃないですか。それなのに、毎日のように遅刻すれば授業に遅れるのは当たり前です。放課後にあんな格好をして繁華街を彷徨けば、絡まれるのも当然です」


 本人が聞けば立ち直れないだろう正論です。たしかにそのとおりで反論の余地はない。いや、一つだけあるか。彼は恋愛ゲームの攻略対象で、これから主人公に救われる予定だからなんだよ。たしか薬師寺ルートだと、2人で勉強を頑張って、大学に進学。卒業後、公務員試験に受かって幸せな家庭を築くんだったかな。


 母親に苦労をかけたくないのに、あの格好と授業態度、喧嘩三昧と相相反する生活態度。世界れんあいげーむのルールの犠牲者なのかもな。そう思いたい、そうだよね?


「とりあえずエリス先輩の想い人ということはわかりましたので、正直、箱入り娘が外世界の不良に憧れて恋人同士になるも、DVは当たり前、ボロアパートでひも男となったのに、支えないとと風俗で働く悲惨な未来しか見えませんけど、お手伝いはしますよ」


「た、たぶん公務員となる幸せなルートになると思うぜ?」


 毒舌の止まらないトオルンに引き攣りながらも、再び薬師寺の様子を窺う。古着店で古着を物色していたが、買いたい物がないようで、店を出て、また彷徨っている。


「よし、それでは薬師寺君が優しい子なのか、まずはテストをしてみよう」


 空気を変えるために、パンッと一つ手を打って、2人の注目を集める。


「テストですか? どんなテストを?」


「まずは小動物を保護するかのテスト。ほら、捨てられた子猫を保護するとか、優しい心の持ち主じゃん?」


「あぁ、普通の人がするよりもヤンキーがした方がなぜか優しい人と思われるパターンですね。吊り橋効果みたいなもの」


「そ、そうだよ。それじゃ『餓死寸前で弱ったマーモットが薬師寺君の前で倒れる』作戦スタート! これが一番目だ!」


「まきゅ!」


 そこら辺に彷徨いていたペットのマーモットを掴むと、薬師寺君の前に放り投げる。マーモットは自信ありげに親指を立てると、薬師寺君の前に回り込むと歩き出す。


 毎日シャワーを浴びてるので艶のある毛皮。学生たちからクッキーを貰って、でっぷりと太った脂肪のついた身体で、のそのそと歩く。


「ん、なんだこいつ?」


「ま、まきゅ〜」


 薬師寺君がマーモットが歩いてくることに気づくと、よろよろと身体を揺らして、疲れたように壁に寄りかかり、虚無の瞳で空を見上げて、どっしりと座るのであった。

 

 その姿はどう見ても、お腹の空いた捨てマーモットにしか見えない! トドメに『お腹空いたまきゅ』と書いたフリックボードを手に持って完成だ!


「……酔っぱらいか?」


 だが、薬師寺君は一瞥するとそのまま通り過ぎてしまった!


「がーん」


「ガーン」


「まきゅ〜」


 2人と一匹は予想外の対応に驚いてしまう。


「あいつ、心優しくねーよ! ひどくない? 捨てマーモットは保護するだろ?」


「おかしいなぁ。薬師寺君は優しい子なのに……」


「まきゅ! まきゅきゅ!」


 予想外の結果である。俺もエリスも驚いてしまう。


「驚くところありませんでしたよ! なんであれで成功すると思ってたんですかっ! 小さなおっさんが酔っぱらって座り込んだようにしか見えませんけど!?」


「ええっ、マジで!?」


 俺的には予想外なんだけど? どうもトオルンの意見は違うらしい。


「はいはい、で、次のテストはどうするんですか?」


「えっとね〜。次は落とし物をした女の子が落とし物を探しているのを手伝うか、だよ!」


 エリスが作戦を口にすると、トオルンが顔を顰める。


「へー、で、その女の子役は誰がするんですか? ちなみに僕は嫌です。あんな世間を舐めた男にはたとえ紙くずを拾って貰うのも嫌です」


「え、トオルンにお願いしようと思ってたんだけど……」


 早くも2番目の作戦も失敗かなと俺は落胆するが━━。


「ちょうどよい子がいるかな」


「そうですね、他の女の子に迷惑をかけたくありませんし」


 なぜか二人とも、俺を見ていた。え、なに?


「もしかして俺にやれと?」


 たしかに今の姿は眼鏡っ娘なんだけどさぁ……ええっ〜。

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― 新着の感想 ―
トオルンのインテリジェンスがヤヴァイ、どこぞの脳筋同名異人とのギャップもヤヴァイ‼と思ってたら、好夫たちの変装能力もヤヴァかった。 小さな酔っぱらいおっさんマーモットでもかわいいと思います。
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