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第六話:取得

「うおっ」


突撃してくるホーンラビットの1匹を身体を反すことで躱す。躱したそばから別の1匹が死角から突撃してくる。なんでこんなに殺意高いんだ、この兎ども。


昼過ぎに帰宅して水分補給と栄養補給(お昼ご飯)、トイレも済ませて早速VRにダイブした。まず街に行こうとした途中で一匹のホーンラビットと遭遇。AGIが低い俺は逃げることもできず戦闘に入った。


有効な対角兎用戦闘法は思いつかなかったが1匹ならSTR7で何回か攻撃すれば倒せるかとも思ったけど甘かった。


「なんでっ、こいつら仲間連れてくるんだよっ」


いま俺の周りには6匹のホーンラビットがいる。1匹と戦っているうちに形勢不利と見たのか鳴き声を上げて仲間を呼んだのだ。


「「キュイーッ!」」


あ、また呼びやがった。


「くそっ!」


振るう短剣はホーンラビットの角に弾かれて硬質な音を鳴らす。本当にチュートリアル用の魔物なのか?本当に最弱の魔物の一種なんだよな?


「キュウッ」


時々短剣を身体に受けて痛みを訴えるホーンラビットもいるけど倒れない。STR、DEF、AGIが俺より高いから頭の上のHPバーは一撃当てても5分の1も削れない。


「攻撃が当たらないから諦めてくれないかなっと」


突進してきたホーンラビットを躱す。ざっと見るだけで10匹以上に増えている。攻撃が当たらないから諦めるんじゃなくて数を増やして的確に殺しにきてるな、こいつら。


10匹以上の適度に連携した攻撃に曝されて、何度避けたか、何度短剣を突き立てたかわからなくなってきたころにそれは突然来た。


「な~、な~ん~だ~、こ~れ~」


身体が突然暖かくなったかと思うと自分の声がいきなり間延びしたものに変わる。スロー再生のような自分の声、ホーンラビットの動きもスロー再生のように緩やかになった。


これなら避けるのも容易い。なにか後付けスキルが身に着いて有利を取れるのかと喜ぶがそれは一瞬で瓦解した。


身体が動かない。いや動いているのだけど緩慢な動きになっている。まるで思考と身体を切り離されたような感覚。現実ではありえない感覚に焦る。


周りのホーンラビットの位置を確かめる。突撃してくる個体を確認して回避行動に入る。すべてが緩やかで奇妙な感覚。慣れない間は危険、そう判断してステータスボードを出しスキルを確認する。ギフトスキルの下にそれはあった。


スキル:思考加速LV1(思考速度が5倍に増加するスキル。取得条件は自分よりLVの高い魔物10体以上に囲まれて一定時間、一度も攻撃を受けないこと。発動条件は武装時、発動範囲は武器の攻撃圏内)


そうか、()()()()()()が早くなるから魔物の動きも自分の動きも緩慢になったのだ。意味ねぇじゃんっ!


即座に短剣をしまう行動に移る。短剣が鞘に納まると同時に思考加速が解除されて通常の速度に戻る。ホーンラビットの1匹が突撃体制に入る。


「くっ!」


あえて身体に回転行動をとらせて短剣を微かに抜く。思考加速が発動してスローモーションに入った。兎どもの位置関係を一回転する間に把握する。


短剣を鞘に戻すと動きを取り戻す。兎ども見てろよ。お前たちの俺への殺意が自分たちに返っていくものと知れ。


身体を動かして位置をとる。速度をつけ、角を突き付けるホーンラビットをギリギリ躱す。俺を捕らえ損なった角の犠牲になるのは俺の陰にいるもう1匹のホーンラビットだ。


「ギキュウッ」


俺の短剣では貫けなかったホーンラビットの身体をホーンラビットの角が貫き、貫いた身体をエフェクトを残して四散させる。


「やったぜー!」


俺がとどめを刺したわけではないので経験値が入ってくるかは甚だ心もとないが、この団体さんをなんとかしないと街にも行けない。聖騎士と大司教の仁王様がいなくなった街になんとしても入るという思いが戦闘のモチベーションにつながっている。


「どんどんかかってこいやー兎どもっ!」






「しんど」


重い足を引き摺りながら平原を歩く。目の前の城門には昨日見た脅威だと思った二人はいない。


近づくにつれて感慨深い思いがわいてくる。


「今日は宿屋で、あったかい布団でセーブできる。食事なんかも食べられるんじゃないかな?こんだけ兎が出てくるエリアなら名物は兎料理か?」


ちなみにTWOではセーブし、8時間ログアウトするなら食事をする必要はない。時間とともに徐々に回復して8時間後にログインした時にはHPは全快している。かわりに長時間ログインしっぱなしだと徐々にHPが減っていく仕様だ。それはゲーム内での食事やポーションで回復するらしい。


「セーブすればいいんだけど味気ないし。ホーンラビットのドロップアイテム、角と魔石があるし売って食事代に充てるか」


魔物と戦って倒すと時々アイテムを落とす。それは冒険者ギルドや商店で買い取りをしてもらえる。それが冒険者の収入源にもなるのだ。また懐具合が潤っていれば売らずに武器などに加工することも可能になるらしい。


「まぁ言ってもホーンラビット。いくらになるか分からないけど」


食事だけじゃなく、装備品やアイテムも確認しなければいけないのだ。今後、強力な魔物に出会ったときの対処方法を考えなくてはいけない。


「ステータスにポイント割り振ればいいだけだが極振り縛りしてるから無理」


DEX極振りを行っている以上STRやAGIを上げる方法を見つけないとゆくゆくは詰むだろう。装備品でカバーできればいいんだがファストラスで見つけるのは流石に期待しすぎかと思う。少しずつ揃えていくしかない。ぶっ飛び狂戦士パーティーに加入すれば最前線とは言わないまでも装備品の充実した街まで行けるが寄生は性に合わない。


「とりま、冒険者ギルド行って依頼チェック、装備屋行って装備見て、道具屋行ってアイテム見て」


食事はいつだ?HP結構減ってるぞ。






「うまっ!」


テーブルに置かれた皿に盛られた肉を一口齧ると肉汁が口の中に溢れ出す。感覚だけで実際に栄養にはならない。ずっとログインしていれば本当の肉体は餓死するはず。いや意識はVRの中で生き続けるのか?よく分からんがこの鶏肉料理は何物にも代えがたい。なにせTWO内で初めてもらったドロップアイテムを売った金で食べているのだ。兎料理かと思ったけどそんなにメジャーな素材じゃないしな。


肉を食べて酒を飲む。高校生だけどVRの中なら酔うこともないしいいだろ。ぷはーっ、おやじになった気分だ。酒場の賑わいに意識を向ける。


冒険者ギルドに行き依頼を見たがどれもこれも今の俺には無理なものだった。兎しか倒せないのにデカい猪や鹿を倒すのは無理だろう。また冒険者ギルドでの買い取りはギルドに加入してないとできないとのことだった。登録は保留中。冒険者になりたいけどDEX特化だから生産職に誘導されるかもしらんし。


装備屋、道具屋も覗いてみたけどやはり最初の街、それほど購入したいと思われるものはなく道具屋で中古のリュックを買った。アイテム入れだけど今は空。


「爆炎石とかは使えるかもしれないけどな」


道具屋で見つけた爆炎石や裂風石などの赤や緑の石は攻撃力自体は低いけど攻撃手段の一つとなる可能性があった。なによりSTRに左右されないのがいい。兎10匹以上倒したのでLV5にはなってるけどSTRは短剣装備で圧巻の13だからな。たぶんポイント8ポイント分。あれだけ苦労して1LVアップ分のステータスポイントにも届かないのか。


悩みに悩んだけど今回は購入は見送り。買い取りだけしてもらったけど冒険者ギルドより買い取り額は2割くらい安かった。今後はギルドに加入するかどうかも併せて検討だ。冒険者ギルドの他にもギルドはあるみたいだし。


「新しいスキルが取得できたのはよかったけど使えるのかどうか」


新たに取得した思考加速について考える。開始初期、しかも思考だけ加速し、身体にはなんのプラスもないスキル。


「使いこなすのは至難のスキルだよな」


横目でテーブルに隠れて空中に浮いている、浮かしている小枝を見る。念動力もLV上げないといけない。使い続けないとLVは上がらない。思考加速はあまりの使い勝手の悪さに取得したとしても使用はされないと思われる。


「念動力に思考加速、クセのある、クセしかないスキルだけどいまさらリセマラする気はない」


ホーンラビットの攻略法も完成した。邪道かもしれないけど経験値も入ってきたので想定された範囲内だろう。


夏休みはまだ始まってもいない。見てろよ。


「今ある手持ち、これから取得するスキル、かならず攻略して見せる」


見てろよ運営、乱数の女神なんかには負けないからな。

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