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第五話:防壁

今日は夏休み前の最終出席日。夏休み前のだるさと夏休みへの期待が入り混じった俺の脇を同じ制服を着た男女が歩いている。


どこからか微妙な圧を感じるのは気のせいか?なんか覚えがある圧なんだが、まさかリアルに聖騎士や大司教がいるわけないよなと思いつつキョロキョロしそうになる。


「おうっ!律、なにキョどってんだよ?」


いきなり後ろから背中を叩かれる。誰だよと思いつつ横に来たやつを確認すると(れん)だった。一応クラスでは仲良くしている一人。


「なんだ蓮か。おはよう」


「なんだってなんだよ?夏休みという目の前の黄金期間を前に学校に行かざるを得なくてアンニュイになってる律に声かけてやったのに」


お前もだろ?並んで歩き高校に向かう。圧は二人だったからこいつじゃないよな。でも圧の一人かもしれない?


「いや、蓮さ。TWOやってるよな?女キャラでやってない?」


「は?馬鹿か。なんでそんなことするんだよ?男キャラだよ。最近職業が狂戦士(バーサーカー)になって泣きたいくらいだよ」


そうだよな。こいつが女キャラ使うわけない。そんなに器用な奴でもないしな。しかし狂戦士か。高校生にしては筋肉質で身体の大きいこいつには合っているかもしれないな。


「なんだよ。話が出るってことはお前もTWO始めたな。金欠は解消したのかよ?」


こいつにも旅行で金欠、TWOが買えないことも話してあったので馬鹿にされたが、早く始めろと暖かい発破をかけられていたのも事実だ。ちなみに三か月半TWOの話は俺らの中では禁止されている。ネタバレとか興醒めだろ?


「ああ、買った」


そうしてリセマラ必須スキルと最低装備をもらったけど。


「おお。じゃあ俺らのパーティーに入らないか?ゲーム内でちょっとぶっ飛んでるやつもいるけどお前も知ってる通り根はいい奴らだし」


期待するような目の蓮を見る。ぶっ飛んでるってお前も狂戦士なんだから十分飛んでるぞ?たしかSTRとHPが規定値以上、INTとAGI、DEXが規定値以下、隠し要素がPVE(対魔物)PVP(対プレイヤー)問わない戦闘回数っていう職業だ。しかも敵、味方、魔物に加えた攻撃回数にともないSTRが急上昇し、DEXが減少していくらしい。攻撃対象に味方が含まれる職業。なんだそれ?何も考えずに向かっていく戦車か、お前は?どっかの戦闘民族かよ。


「ぶっ飛んでるってお前もだろ?」


俺の代弁をしてくれる静かな声が後ろからかかる。目を向けるとまたも同じクラスの朝陽(あさひ)がいた。眠そうな半眼だけどいつも通り。


「なに言ってんだよ。お前だって黒騎士(ブラックナイト)だろうが」


黒騎士はステータスも重要になるが狂戦士と異なるのは仲間の死亡回数という説が濃厚らしい。つまり仲間を犠牲にしてもギルドの依頼をこなし、敵を打ち破るものが黒騎士の条件。一説によると仲間が減るたびにSTRとDEFが爆発的に上昇するらしい。


前衛が狂戦士と黒騎士ってインパクトでかいな。後衛をちゃんと守らないと前衛の意味ないけど理解してんのか、こいつら?


「律、入る?」


朝陽も俺を誘ってくれる。こいつらのパーティーはクラスメイトで組んでいる中堅くらいのパーティーだ。学生だからガチではできない。ガチ寄りではあるけれど勉強もしないといけないしな。最前線のガチの奴らってなにしてるんだろう?暇を持て余してる大学生か窓際社会人か?偏見かもしれないけどよくプレイ時間作れるな。


「いや、いいよ。漸くチュートリアル終わったけど使いモンにならないステータスとスキル構成だからLVアップに勤しまなきゃならないしな」


「なんだよ。また極振りの禁リセマラなのか?」


蓮も朝陽も俺のプレイスタイルを知っているから呆れたような笑いを浮かべる。ほっとけ。


「ファストラスに入れなかったからどうしようかと思ったけど」


「なんだそれ?」


蓮は知らなかったらしいが朝陽は思い当たったように握った手を顎に当てる。最初の街、ファストラスの城門に聖騎士と大司教の仁王様がいたのでキルされるかと思って怖くて入れなかったことを話すと蓮に大笑いされ、朝陽に苦笑いされた。


「聞いたよ。なんか聖騎士サーラと大司教スノウがファストラスで初心者チェックしてたんだろ?」


「ははっ!パーティーメンバー募集でもしてんのかな」


「いや、初心者をあいつらのパーティーメンバーに入れても差がありすぎて碌なことにならないだろ」


蓮と朝陽が楽しそうに話しているけど当事者からしてみるとそんなのんびりした話じゃなかったんだよ。


「見るからに豪華な装備を着けた圧の凄い奴が城門前にいてみろ。なんか気に障れば斬殺、撲殺されるような緊張感をお前たちにも味あわせてやりたい」


俺がそう言うと二人が豆鉄砲を食らったような顔になる。珍しいな。それぞれ少しは女子に人気ある男子だからそんな顔を見せたら悶死する子が出るかもしれないぞ。


「いやPVP、キルしてたら聖騎士や大司教になれるわけないだろ?」


「あの職業って強力だけどかなり制約があるから就くの難しいんだよな」


そうなのだ。TWOでは強力な職業もいろいろあるけどそれに伴い制約が多く、条件が一つでも足りないと就くことができない。いや狂戦士も強力な職業だよ?ときどき仲間をボコるデメリットを許容できれば。黒騎士だって仲間が倒れてるのにヒャッハーしてるのを許容できれば強力な職業だ。


「事前に予習してなかったからな。そんな条件もわからなかったんだよ」


プレイヤーキルすると名前が赤になることも知らなかったしな、ははは。


そうこう話しているうちに学校の門が見える。立っているのは仁王様ではなく生活指導の小田巻先生。圧はそれほどでもない。


「ネタバレは嫌だけど予習は必要ってか?」


蓮の声を聞きながら三人で門を通り過ぎ教室に入っていった。






スピーカーから聞きなれた音楽が聞こえてくると途端に教室内は騒がしくなった。最後の苦行から解放された生徒たちが口々に夏休みの予定なんかを話し始める。俺は帰ってからもLV上げという苦行を続けるわけだが。


「よーし、夏休みだからって浮かれすぎるんじゃないぞ?新学期早々三者面談受けたい奴は先に言っとけよ」


そんな担任である高橋先生の声を聞きながら鞄に教科書などを詰め込む。早く帰ってホーンラビットをどうやって倒すか考えて念動力のLVアップを行わないといけない。ホーンラビットの倒し方を授業中もずっと考えていたけどイメージがわかなかった。「み、御法川くん」街で装備屋か道具屋でも見てSTR上昇の武器を買うかアイテムを買うしかないのだが「御法川くん?おーい」肝心のお金も初期の30000Gしかないからむやみに使うこともできないしな。


「とりあえずLVを上げるためにはホーンラビットをなんとか倒さないとな、、、んなっ!」


そうひとり呟いて顔を上げると目の前には俺と同じぐらいの背丈の女子一人と頭一つ分小さい女子一人が俺の方を向いていた。


「さっきからずっと声かけてたんだけど」


顔を赤くした同じぐらいの背丈女子、委員長とちっちゃい女子、副委員長が半眼で俺を睨んでいる。なんだ?なにか問題があったのか?これから呼び出しでもあるのか?今日は早く帰りたいんだけど。でもこの二人いつも顔赤いよな。デフォルトなのか?


俺が思わず身体を引くと委員長、水無瀬紗良が釣り目気味の目を逸らす。顔も少し逸らしたので動きに合わせて長い黒髪が揺れた。副委員長の五百雀有希はボブカットの艶のある茶色の髪は揺れていないけど垂れ目気味の目をせわしなく泳がせている。


「ん、んと、何?」


俺がどもりながら尋ねると委員長が目を戻し睨んでくる。副委員長も泳いでいた目を俺に固定して睨むように挑むように目に力を入れてきた。俺、なんかしたっけ?


「み、御法川くん、と、突然だけどてゅもりょ」


てゅもりょ?てゅもりょってなに?委員長、盛大にかんだんじゃない?俺が首を傾げると委員長がさらに顔を赤くして口を開くけど声が出てこない。


「さ、紗良ちゃん」「おーい律ぅ」


言葉を発しない委員長の袖を副委員長が引っ張るのと同時に俺に声がかかる。見ると蓮と朝陽、それに結人(ゆいと)蒼空(そら)もいる。ぶっ飛びパーティーメンバーだ。


「帰りにお前の使い物にならないステータスとスキル構成聞かせろよ。笑ってやるから」


「あれ?委員長と副委員長どったの?」


「律、なんかしたのか?」


えーい、うるさい。身に覚えはないのでぶっ飛んでるやつらに指示を出す。


「はーい、結人と蒼空はもうちょっと寄ってもらっていいか?蓮と朝陽は動くなよ」


四人に俺と委員長、副委員長の間に立ってもらう。これでパーティーメンバーによるガードができた。奴らのむこうに委員長と副委員長の姿が隠れたことを確認して鞄を持ってダッシュする。よしっ!離脱っ!


「ちょ、ちょっと御法川く~ん」


副委員長が俺の名前を呼ぶけど止まってはいけない。人生は短いのだ。そしてLV上げには時間がかかる。地道な努力、苦行を行わなければならないのだ。


「ごめん、委員長、副委員長。話はそいつらが聞くから」


「お前っ、友達を売る気か?」


蓮の声が聞こえるけど無視。後ろが姦しいが走り出した俺は止まらない。


初心者に時間を与えよ。






《ゲーム店「ノーチョイス」早川恵理》


「「ううううっ」」


カウンターで突っ伏す二人の女子高生がいる。もちろん水無瀬紗良ちゃんと五百雀有希ちゃんだ。


「うーん。最初の街では見つけることができず出禁になって、パーティメンバーからはこっぴどく叱られて、勇気を振り絞って律くんに直接どこにいるか確認しようとして盛大に紗良ちゃんがかんで、その間に男子四人の壁に阻まれて律くんには逃げられたと」


事実確認を行うとようやく顔を上げた二人がコクコク頷く。なにやってんだ、この二人は。


「掲示板でもかなり書かれてたけど、もう少し目立たずにできなかったの?」


「絶対来るはずだから、うぐっ、見逃しちゃいけないって紗良ちゃんが」


若干しゃっくり上げながら有希ちゃんが説明する。


「えっ、ゆ、有希だって、ぐすっ、ぜ、絶対逃がせないよねって言ってたじゃんっ」


紗良ちゃんもしゃっくり上げている。うーん。


「で?これからどうするの?夏休み入っちゃったでしょ?」


そう言うと二人は顔を上げてお互い頷きあう。


「「掲示板にプレイヤー、カリツの情報求む、情報提供者には転移アイテムを一個進呈で依頼かけてみる」」


「いや、いやいや、転移アイテムって最前線の街で売ってるどの街にも移動できる高額アイテムでしょ?律くん包囲網を作るのは勘弁してあげて?」


「「でも、でもぉ~」」


一歩間違えれば数多のプレイヤーを捕獲者に変えるような過激な案をさらっと提案する女子高生に戦慄するがより穏やかに事を運ぶ方法を考える。


カウンターの下の引き出しを開けて一枚の紙を出す。TWOの予約票だ。そこには昨日購入した男子高校生の名前、住所、電話番号が記載されている。


「あれ~?なんか落としちゃった~」


予約票を手から滑り落した、二人の女子高生の目の前に。それに気づいた紗良ちゃんが鞄から素早く手帳を取り出して要点を記入。有希ちゃんはスマホで写真を撮っていた。


「見ちゃ駄目だよ~。それ、個人情報だから~」


そう言って二人に手を出すと紗良ちゃんが予約票を手に取り渡してくれた。


「よかった、よかった。二人とも何も見ていないよね?」


わざとらしく問うと二人がコクコクと縦に頭を振る。


「ゲーム内で捕獲指令出さないようにね」


またも二人はコクコク頷いていた。

律くんたちが通う高校は個人情報の管理はバッチリです。保護者間では住所や電話番号はある程度共有されていますが紗良ちゃんと有希ちゃんは恥ずかしくて聞けませんでした。


個人情報はむやみに晒してはいけません。

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