第四話:判明
「うおぉう」
喉から変な声が出た。手に持ったゲーム雑誌に向かって突っ伏し、そのまま机の天板に頭をぶつける。雑誌の情報が頭の中を駆け回って尋常ではない衝撃を与え続けていた。
「う~。なんだよリセマラ必須って。必須ってなんだよ。そんなもんギフトスキルに入れとくなよ。何考えてんだよ運営はぁ」
森の中で僧侶さんからもらったアイテムを起動してセーブ、ログアウトが無事できた。水分補給しながら開始するまでは先入観を入れないために読まなかった雑誌に目を通してギフトスキル念動力に関して調べると出てきたのがリセマラ必須の文字。曰く、、、
「小枝一本動かすだけのクソスキル」だの「何の役にも立たない、意味不明」だの「大丈夫、これに比べれば他のどんなスキルでも役に立つと思える」だの罵詈雑言としか思えないコメント。
それでも初期のころは少しの間使っていた酔狂なプレイヤーもいたらしい。一か月かかってLV3まで上がったらしいが、その結果は「時間返せ!このやろ~っ!」という絶叫ともいうべき言葉とリセットだったという。
いや、必ず意味はあるはずだ。念動力にも必ず意味が。そうですよね運営さん?
重い頭を上げて雑誌を見るけど食らった衝撃はいまだ消えない。
「初期装備もピンキリだな」
あくまで初期装備なので使えても初めての街(仁王様二人がいて入れなかった街)の近辺だけなのだがSTRやDEFを補正する使い勝手のよい装備もあるようだ。しかも、、、
「使い勝手のいい装備は高値で下取りしてもらえるんだよな」
言っても仕方ないのかもしれない。でも村人装備の布の服一式は買い取り金額最低。一式売ったところで体力回復薬の一番安いものも買えない。
嘆いてばかりもいられない。
パソコンを起動してTWOのWikiに入って再度情報収集を開始する。なにせ三か月半でリセマラ必須とされるギフトスキルだ。雑誌の情報が無さ過ぎる。
「えっと、LV1で周囲1mの小枝なのはわかってるけどLV2では25mくらいで拳より少し小さな石?LV3で50m、拳大くらいの石?」
そんなもんSTR上げなくても普通に持ち上げることできるわっ!しかも念動力をギフトスキルでもらった場合に装備はほとんどが村人装備であることも分かった。
「戦闘職とも考えられず、かと言って生産職のようなスキルでもないため村人装備なのか?ダメじゃん。Wikiでもそれ以上の情報があるなら投稿募集しているところ見ると使っているプレイヤーがいないってことだろ?」
思わず大きな溜息が出てしまった。しかし身体の深いところからフツフツと湧き上がってくるものがあることも事実。
「ふ、ふふふっ。甘いな運営。この程度の逆境で俺が諦めると思うのか?」
なんか衝撃的過ぎて逆にハイテンションになってきてしまったようだ。ものは考えようだ。いままでに他のプレイヤーが使っていないスキルなら何かしら新しい発見がある可能性がある、と同時に本当のゴミスキルである可能性もあるのだがそれはプレイしてみなければわからない!
「とりあえずこのまま続けるとして最初の街に入れないのは問題だよな」
問題は門番のごとき高LVプレーヤー二人、斬殺係と撲殺係だ。プレイヤーキラーの判別方法も載ってるんじゃないかな?なければ運営に連絡しよう。
「お?一度でもPVPでプレイヤーをキルしたプレイヤーはプレイヤー名が赤くなるのか。なるほど」
遠目から見てあの二人のプレイヤーの名前は赤くなく黒かったと思う。TWOのガチ廃人勢が初心者狩りに来ていたわけじゃなかったのか。ん?
掲示板情報だけど最初の街『ファストラス』の入口で立っていた二人のプレイヤーが判明したみたいだった。それぞれ最前線で活躍している聖騎士サーラと大司教スノウということ。
聖騎士と大司教って剣士と僧侶の上位職業?職業なし、無職の俺からしてみたら雲上の存在じゃないか?しかも掲示板情報だと二人の装備も一般的な店では売っていないもので情報開示されていないからどこで取得できるのかもわからない独特な装備らしい。他のゲームだとそれ以上ない職業、装備だと思うけど三か月半でそこまで上げるなんてガチ廃人。お近づきにはなりたくない。
なぜ最前線プレイヤーが最初の街に戻ったのか不明だったが新規プレイヤーが怯えていたことでファストラスの冒険者組合から二人が所属しているパーティーのプレイヤーに連絡がいったよう。パーティーメンバーが派遣されて聞き取りを行ったらしい。
「「友達を探していた」」
これがサーラとスノウの言い分らしいが凄まじい圧にあてられた新規プレイヤーはたまったものではない。自分も被害にあっているからね。結局二人はパーティーメンバーに引き摺られるように連行されていったようだ。
ファストラスに平和が戻った。
「街でも宿屋を利用できるようになった。でも屋外でもセーブとログアウトはあと二回できる。今進めたとしても八方塞がりになる可能性が高いからホーンラビット相手に少しでもLV上げをしといた方がいいだろう。それに合わせて念動力のLV上げもしないといけないよな。一か月でLV3にしかならない、時間はかかるけどやるしかない」
今後は宿屋を優先的に利用しつつ緊急時にはアイテムを使うことで消費を避けてLV上げ(修行)に勤しむことにする。
方針を決めてWikiを閉じた。
明日は月曜日だが夏休み前の最終出席日だ。
「夏休みは修行三昧か」
やってやろうじゃないか。