第三話:野宿
「はぁっ!」
剣士さんの両刃の剣が輝線を引き現れた魔物、ホーンラビットの一頭を切り捨てた。盗賊さんも両手に持った短剣で鋭い角を弾きながら返す刀で切り裂く。魔術師さんは杖の先に小さな火球を複数作り出しホーンラビットの牽制と迎撃をして、僧侶さんは魔術師さんに魔力を供給していた。
俺はというと、、、
「あっぶなっ」
素早さが足りないので機敏に動くホーンラビットから逃れることはできずに攻撃を受けるけど持ち前の器用さでギリギリ攻撃を躱していた。時々短剣で攻撃してみるけどさすがSTR(攻撃力)5。ホーンラビットの角で弾かれて倒すことはできない。角に弾かれなくても毛皮すら切り裂けないのではないかと疑ってしまう。
「おいっ!避けろ!」
剣士さんの声が聞こえてくる。ホーンラビットの突進を躱して身を低くする。その上を火球が通り過ぎて俺を襲ってきたホーンラビットにあたり爆発した。それと同時に身体が仄かに暖かくなった気がする。
「よし、片付いたな」
剣士さんがそう言って剣を一振りしホーンラビットの血糊を払う。さっきのってなんだったのかな?
「怪我はない?」
そんな疑問も僧侶さんが聞いてきたので頷くことで後回しになってしまった。なんとか回避はできるのでかすり傷もないのを確認する。
ホーンラビットはチュートリアルに出てくるくらいなので弱い魔物なのだろう。もしかしたらLV1の冒険者でもステータス次第では倒せる魔物かもしれない。でも俺のステータスと先ほどの戦闘を見る限り俺に倒せるとは思えなかった。ギフトスキルが戦闘用だったら違うのかもしれないけど。
「まぁ、最初から魔物を倒そうとしても難しいと思うぞ。自分の力とスキルを把握しないとな」
剣士さんがそう言いながら歩き出す。
「念動力で戦えるかな?」
「「「「・・・・・」」」」
はい、わかりました。小枝一本持ち上げるだけのスキルでホーンラビットと、一番弱い魔物とも戦えないというのがNPCの判断なんですね。
「とりあえずパーティーを組まないと魔物は倒せないだろう」
剣士さんがそういうと他の三人が頷く。
「そう。そしてスキルを使い続ければLVが上がって役に立つようになるかもしれない。前例がないのでわからないけど」
魔術師さんが俺を見て言った。うーん、NPCからもフォローされるギフトスキルってなんだろう?雑誌を見るのが怖くなってくる。
「ああ、それと好戦的な冒険者は冒険者を襲うこともあるからそれにも注意したほうがいい」
軽鎧の盗賊さんがそんな物騒なことを宣う。PVPもあるんですね。ちなみにPVPとはプレーヤー同士の対戦と言えば聞こえはいいけど高LVプレイヤーが低LVプレイヤーを狩るなんてことも他のゲームでも多々あるので要注意だ。できれば近づきたくない。
「それとステータスボードはなるべくこまめに確認したほうがいいぞ。戦闘でLVアップしている可能性もあるからな。LVアップすると身体が仄かに暖かくなる」
さっきのはLVアップの印だったのだろうか?俺はステータスボードを出して確認した。
名前:カリツ
種族:人族
職業:なし
職業(副):なし
LV:2【経験値10/30】
ステータスポイント:10
HP(体力)22
MP(魔力)12
STR(攻撃力)2(+5)
DEF(防御力)2
INT(知能)5
DEX(器用さ)150
AGI(素早さ)2
LUK(運)5
右手:短剣(STR+5)
左手:なし
頭:なし
身体:布の服
足:布のズボン
靴:布の靴
アクセサリー:なし
ギフトスキル:念動力LV1
・・・・・伸びが少ない。こんなもんなのか?DEXはかなり伸びているけど他の能力値は一桁しかプラスされていない。
「もしパーティーメンバーが見つからなくても簡単に諦めるないでね。一人での攻略は難しいし、情報収集も面倒だから。手分けして当たったほうがいいと思う」
魔術師さんからもアドバイスをもらう。さっきの戦闘からもわかる通り魔物と戦った場合に経験値はパーティーに所属していれば入ってくるようだ。ただ均等に入ってくるならば俺をパーティーに加える意味は限りなく無いといえる。戦闘で役に立たず逃げ回っているだけのメンバーに均等に経験値が割り振られるのは納得がいかないだろう。自分が同じ立場でもそう考える。今回はNPCとのパーティーなのでそういったことは起こらなかったがプレイヤー同士のパーティーの場合露骨に表れる。
「もうすぐ街に着くぞ」
先頭を行く剣士さんが言うと森から抜けて平原が広がり、その先には石でできた城壁らしきものが見えてきた。
「おお~」
その平原と街の景色にステータスの問題も忘れて嘆息する。さすが話題のTomorrow World Online。素晴らしい景色のリアルさだ。狭い日本じゃ絶対見られない景色の広がりだ。吹きぬく風も気持ちよく草の匂いも香しい。
その城壁の一部に街の入口らしき門があって草原を歩いている人々が向かっている。人の頭には文字らしきものが見えるけど名前、プレイヤー名だろうか?
「ほら、お前も行けよ。あっ、でも街の入口にいる奴らには気を付けたほうがいいぞ。あいつらかなりの高LVみたいだからな」
剣士さんが目を凝らすように城門を見ながらアドバイスをくれた。俺がその言葉につられるように城門を見ると二人のプレイヤーらしき姿が見える。遠目ながらも平原を歩いてくる冒険者たちとは一線を画した装備。二人とも女性だけど職業が剣士と思われる一人が纏っている細身の全身鎧は決して重さを感じさせない白銀に絢爛な細工がされていそうなものでストレートの腰ぐらいまである黒髪との対比が美しい。もう一人の職業が魔法職と思われる人は下手な鎧よりも防御力がありそうな白いローブとティアラらしきものをボブカットの青色の髪に装備して両手で一目で尋常な武器ではないとわかる杖を握りしめている。遠目にも明らかに場違いの高LVプレイヤーであることがわかる。なんか圧も凄いし。
「いやいや、場違いじゃないかな?なんで初めての街にあんなのがいるの?」
しかも入口のわきに陣取ってなにかチェックしているようだ。平原から城門に辿り着いた初心者らしき冒険者は目を合わせないように小さくなりながら二人の前を通っていく。
いや、怖えーよ。PVP?キルしちゃうの?されちゃうの?俺のステータスだったら剣士の人だったら瞬殺、もっと言えば魔法職の人でも杖を振り下ろされれば撲殺されそうなんだけど。
やましいことはないけどおもわず回れ右。四人のNPCが困ったように笑いを浮かべる。
「あー、えーと、森に戻ろ~かな」
うん、あんなのがいるなら森のほうがまだましな気がする。LVアップしながらあの二人がどこか移動するかログアウトするのを待っていたほうがいい気がする。プレイヤーキラーの危ない人は一目でわかるようにしておいてほしい。ゲームの運営会社に要望案件かな?
「でも宿屋でないと寝ることができないよ?」
寝ることでセーブ、ログアウトができるみたい。でも宿屋に着く前に撲殺されたら結局同じだよね?今はチェックしているだけみたいだけど、いつ殲滅戦が始まるかわからないんだし。君子危うきに近寄らず的な?
森に向かおうとする俺とパーティメンバーのNPC四人が向き合う。
「とりあえずパーティーは解消するけどいいか?」
剣士さんが頭を掻きながら言うことに俺は頷いた。いつまでもチュートリアルを続けるわけにはいかないからね。
「お世話になりました」
俺がそう言うと四人が頷く。
「あ、ちょっと待って」
パーティーメンバーから外れて森に歩き出そうとする俺に僧侶さんが声をかけてくれた。腰の袋を探りアイテムらしきものを三つ取り出す。
「これ、屋外で緊急の時に使うアイテム。魔物除け効果があるから休めると思うよ」
へ~、休めるということはセーブができるということ。そんな便利なアイテムがあるのか。でももらって大丈夫なのかな?
「うん。街まで来て森に戻る人は珍しいから。無いと困ると思う」
そういうことならありがたくいただいておく。仁王様のような二人がいなくなれば街の宿屋でセーブできるだろうけど、アイテムがあれば森でもセーブできるようになるのかな。
「じゃあな。俺たちはここまでだがまた会ったときはよろしくな」
たぶんチュートリアルNPCなのでリセマラでもしなければ会うこともないだろう。でもお世話になったので四人と握手を交わす。
「大変だろうけど頑張って!」
「また面白い取得可能なスキルがあれば教えてくれよな」
「こまめに宿屋で休むんだよ」
みなにそれぞれアドバイスをもらい森に歩いていく。チュートリアルが終わってまさか街に入れないとは思わなかったけど思いがけずセーブの手段は確保できた。森でいったんセーブして情報収集だ。初期装備の種類と念動力についてだな。
「よしっ!TWO初日は野宿といきますか!そんなプレイヤーいないだろ」
いるわけない。
あまりの貧弱なステータスと装備に心配した盗賊さんがPVPの危険性を教えて、剣士さんは高LVプレーヤーを圧で検知しカリツくんにアドバイス。
決してLV60越えの女の子二人が悪いわけではない。しょうがないんだよ。LVが上がると自然に圧が出るものなんだよ。