表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/29

第二十三話:屍竜

念動力による攻撃意思およびそれに伴う思考加速の展開。


広大なフロア1つの空間の中央付近に()()人影が3つ、そして奥には巨大な岩のような大きさの魔物がいた。鑑定はドラゴンゾンビLV42。オーガもそうだったが2つ目の街でいきなりLV高いの出すぎだろ。ゲームバランス狂ってんじゃないか?


「だ、だすげてぇ」


歪な影の1つが姿を見せる。なんというか溶けかけてる人間、紫色に染まった皮膚が爛れ、崩れ落ちている。指の先端は既に肉が落ちて白い骨が見えている。うん、R15指定だな。


「ふひゅ」


ユイが息を飲み、口を両手で覆う。小刻みに震えているのは恐怖からか悲しみからか。


実際見たほうもトラウマになるかもしれないが身体が溶けかけているのに死なないというのは本人もド級のトラウマになるだろう。運営よ、初心者集う街でいきなりトラウマ植え付けてどうすんの?ゲーム辞めちゃうよ?


「「「げふっ」」」


揺ら揺ら揺れながら俺たちに助けを求めてきた冒険者3人の上から何かが落ちてきた。その何かが直撃して3人が潰される。最初から潰されていたほうがよかったといえるようなシチュエーションだったが落ちてきたものを見ると巨大な骨の連なり、尻尾だろう。


「ユイッ」


「わ、ひゃ」


俺がユイに飛びついて腰に腕を回し念動力で横にスライドする。ユイのいた場所にはやはり上から人の身長ほどありそうな爪のついた骨掌が落ちてきた。地面を叩き、砂埃を巻き上げる。


ドラゴンゾンビが骨掌に体重を乗せて前進してきた。露出した骨とところどころ付いている腐肉と皮の付いた頭部を見せて、俺たちのほうにその口顎を開ける。


「!」


開けた口顎から紫色の液体のようなものが射出された。脳裏に先ほどの溶けかけた人間の紫色に染まった皮膚が浮かぶ。マズい!


ユイを抱えたまま今度は念動力で後退する。目の前の地面に落ちた液体は臭い臭気を上げて地面を溶解していく。当たったらダメなやつだな、これ。


「ユイ、大丈夫か?」


腕の中で小刻みに震えているユイに声をかけるが返答はない。見ると目をギュッと閉じて両手で頭を抱えていた。俺はとりあえず9階に続く階段に身を滑り込ませた。ここなら落ち着いて話せるだろう。ドラゴンゾンビもこんな狭いところに入ってこれないだろうしな。


階段のところで俺はユイを抱いていた腕を解こうとするとイヤイヤと頭を振りながらユイがしがみついてくる。ユイの背中をポンポンと優しく叩きながら問いかけた。


「ユイ、ホラー映画やパニック映画嫌い?」


コクコク頷きながら俺の胸をポカポカ殴ってくる。う~む。通常ではそれほどインパクトのある攻撃はないだろうから問題ないと思うがボス戦とかだとエグイ攻撃もあるからな。先手必勝なら問題はないが。


「帰ろうか?」


俺がユイに問いかけるとピタッと手が止まった。ユイが顔を上げてウルウルしている目で俺を見上げる。ユイには刺激が強すぎたな~。


「・・・・・や、やる」


え?


てっきり帰るという答えを予想していたんだが目に涙を貯めつつユイが戦うと言ってきた。無理しなくてもいいんだよ?LV42だから帰ったとしても恥じゃない。


「やる。これが終わったらカリツと一緒に冒険できなくなるかもしれないし」


いや、また一緒にすることもあるかもしれないよ?


「やるから今だけパーティー組んで」


パーティー?俺はスキルや能力的にパーティー向きじゃないんだけど。


「組んでっ!」


「お、おうっ」


ユイが俺に迫ってくるので思わず了承の返事をする。ユイが目に涙を貯めながらステータスボードを操作すると俺の目の前にウィンドウが開かれた。


『ユイがパーティー申請をしました。受けますか? Yes or No』


俺がYesを押すとステータスボードが開かれてユイのステータスが表示される。隣でユイが悪い笑顔をしたような気がしたが見ると目がウルウルしているユイだった。見間違えたか?


名前:ユイ

種族:人族

職業:魔術師

職業(副):なし

LV:18【経験値10/190】

ステータスポイント:60


HP(体力)180

MP(魔力)420

STR(攻撃力)18(+5)

DEF(防御力)18

INT(知能)420(+12)

DEX(器用さ)72

AGI(素早さ)36(+2)

LUK(運)90


右手:杖(STR+5、INT+10)

左手:なし

頭:魔術師の帽子(INT+2)

身体:魔術師の服(DEF+2)

足:布のズボン(DEF+2)

靴:布の靴(AGI+2)

アクセサリー:輝星石(緑)

アクセサリー:


ギフトスキル:魔法融合LV3(2種の異なる初期魔法を融合し、操ることができる)


能力値の上昇幅から見て初期装備のようだ。装備の充実も図った方がいいな。魔法融合は初期魔法のみ、LVが上がれば中級魔法、上級魔法なども融合できるようになるのだろうか?


「・・・・・え?カリツ?LV99?HP、MPとDEXとLUK以外0?LUKはunknowってなに?」


ユイが戸惑っている。


「ギフトスキルが念動力って使えないスキルじゃ。思考加速ってなに?」


うん。分かるよ。戸惑う気持ちはよ~く分かる。正道を歩いているユイにとっては俺のステータスボードは未知の領域なんだろう。いいんだよ?この戦いが終わったらパーティー解散しても問題はないからな。


「・・・・・えっと、カリツ、パーティー名なんにする?」


とりあえず俺のステータスボードに関しての疑問の諸々は一旦スルーしたユイが聞いてくる。パーティー名か。う~ん。


「雲外蒼天で」


俺とユイにはぴったりだろう。国語の授業聞いといてよかった。蒼空を見るためなら雲ぐらいいくらでも突き破ってやるぜ。俺は空も飛べるしな、ははは。


パーティー名を登録してユイが俺を真っ直ぐ見る。俺は頷いてドラゴンゾンビのいる10階層に目を向けた。


「まずは俺が奴の注意を引く。ユイは自分の身を守ることに集中してくれ」


俺が言うことに杖を握りしめながらユイがコクコク頷く。


「倒せればいいけど倒せない場合、ユイがMPとINTを増幅させた状態で魔法融合を行って一気に焼き尽くすのがいいかな」


ドラゴンゾンビに限らずアンデッド系には火属性魔法か神聖魔法が効果があるのがお約束だからな。LVが高くても攻撃方法が示されているからセカンデイルで出てきたのだと信じたい。


「よし、いくか!」


俺がそう声をかけるとユイが目を閉じて深呼吸する。次に目を開けた時には目に涙はなく強い力を秘めていた。吹っ切れたようなのでよしとしよう。俺とユイは揃って10階層に降りる。


「ゴガァァァッ!」


ドラゴンゾンビが威嚇するように吠える。


まずは小手調べ。俺が地面を滑るように念動力でドラゴンゾンビ目掛けて移動する。ユイは後方で「え?AGIが・・・・・」とか言ってるけど慣れてもらうしかないだろう。


「ゴッ」


口顎を開いて溶解液?を射出しようとするので身体を横にスライドさせて意識を向けさせる。俺とユイが一直線上にいると流れ弾が当たる場合があるので射線上にユイを入れないように動く。


「ひゅっ!」


短剣を抜いてドラゴンゾンビの指に一撃当てると骨が砕けた。指の骨1本、影響は微々たるものでドラゴンゾンビは意にも介していないようだ。いや、若干怒ってるか?


「ギルルルルッ」


俺を骨掌で押しつぶそうと振り下ろすも念動力で回避する。大きな音とともに地面が陥没して土埃が舞った。当たればただでは済まないだろうが当たるつもりはない。


次は短剣を念動力で飛ばし思考加速を展開、弱点がどこか分からないのでとりあえず頭を狙う。頭蓋を短剣が貫通するが頭蓋骨の眉間部分に穴は開くがそれだけ。


短剣という武器の性質上、打撃点は狭い。貫通力はあるが骨が動いているようなドラゴンゾンビとの相性はよくない。肉があれば会心の一撃の攻撃力が波のように波及するから通じるのだが・・・・・。


「打撃力が必要なんだけどっ!」


俺の短剣の攻撃をものともせずに尻尾や骨掌での攻撃を体捌きで避ける。ユイの能力値は上昇しているだろうが、まだ攻撃するのは避けるべきだ。収納の腕輪の中にも宝箱から出た剣などが入っているがどこまで通用するか。あ、忘れてた。あるじゃん!


「ユイ!ちょっとだけ時間稼いでっ」


俺がユイに声をかけるとユイが頷き詠唱に入る。


「ファイアウォール!」


ユイの力ある声に応えてドラゴンゾンビの目の前に高く広い炎の壁が現れる。おお、すっげっ。


「よし」


俺は収納の腕輪から賽子を2つ取り出して地面に投げる。上手くすれば・・・・・。期待をかけるも装備の出目は1、魔法の出目は2。


俺の手にはどう見ても貧弱な木の棒が握られる。


『棍棒(炎の効果が付与されている。時間が経つと燃え尽きる)』


・・・・・なんだよ、ゾンビとはいえドラゴンだぞ?ドラゴンに木の棒で立ち向かうって狂戦士(バーサーカー)のような蛮族でもしないぞ?しかも、なんだよ?時間が経つと終え尽きるって?完全に付与する効果間違えてるだろ?


燃え尽きるらしいので、そうならないうちに一撃だけでも入れようと炎の壁を回避して俺はドラゴンゾンビに迫る。会心の一撃が入れば骨の1本くらい割れるはずだ。


「ぺきっ」「ボキィッ」


ドラゴンゾンビに打ち込んだ一撃は軽い音を響かせて骨に弾き返された。派手な音をたてて木の棒が折れる。


「は?」


完全に会心の一撃が入ったはずなのに大した効果はなく武器のほうが圧し折れた。思わず手の中の短くなった棒を見る。


いままで破壊不可の儀礼の短剣を使っていたから気づかなかったのだが、もしかして会心の一撃に武器の耐久値が足りなかったのか?耐久値が足りず折れたから会心の一撃の攻撃力が霧散したのか?


「ちっ!」


手の中の木の棒が消えて再び手の中に戻った賽子を握りしめてドラゴンゾンビから距離を取る。まだ炎の壁は生きている。もう一回やってみよう。出目は3と2。今度はどうだ?


『ウォーハンマー(炎の効果が付与されている)』


さっきのよりはいいか。今度は金属製だ。さっきみたいに一撃で折れることはないだろう。


「バゴッ(ぐにゃり)」


・・・・・やったぜっ!掌の5分の1くらい吹っ飛ばした!曲がってもう使えないだろうがな!


「ファイアボール!」


運動会で使う大玉くらいの炎弾がドラゴンゾンビに当たり爆風をあたりに巻き散らす。ユイの普段のファイアボールとは比較にならない大きさと爆風に俺は足に力を入れて耐えた。


「ガアアアアアッ」


顔の前に持ってきた腕の下からドラゴンゾンビを見る。身体に着いた腐肉や皮を焼かれて怒りに震える姿が見えた。その頭蓋骨の穴、空虚な目がユイを捕らえる。


「ゴパァァ!」


ドラゴンゾンビが口顎を開けて溶解液をユイに向けて吐き出した。恐怖からかユイは青い顔をして身体が動かない。思考加速っ!


時間が停まったような空間を駆け抜け、ユイを抱いてその場を離れた。


「えっ?は、はうぁ。ふりゅぅ」


思考加速を解いてユイをドラゴンゾンビから離れた場所で地面に降ろす。身体が密着していたせいで予想外に近いユイの顔を見ると顔を赤くして溜息なのかよく分からない声を出してユイがしゃがみこみそうになるのを無理やり立たせた。


「ユイ、大丈夫だ。あいつがどんな攻撃をしてきても守ってやる!だから」


渾身の一撃を、と言う前に今まで以上に顔を真っ赤にしてユイがコクコク頷く。分かってくれたのならそれでOK!


「じゃあ、継続だ!俺が引き付けるからユイは能力値上昇を」


俺がそう言ってユイを探しているドラゴンゾンビの目線に入るように移動する。賽子を地面に投げて出目も見ないで真っ直ぐドラゴンゾンビに向かって行った。5、出ろ!


願いも空しく手には木の棒に石が括り付けてある石斧らしきものが握られていた。またかよ、せめてモーニングスターくらい出ろよなぁ。当たってもダメージにつながるとは思えないが念動力で飛ばして頭蓋骨に当てる。当たったそばから石が四散した。


ランダムなんだよな、ランダム。


手の中に戻る賽子を握りながら乱数の女神の底意地の悪さに頭痛がする。


「ギギュルルル」


ドラゴンゾンビが前傾姿勢から俺たちを睥睨するように上体を起こした。ここからくる次の行動はおそらく高い位置からの溶解液の広範囲散布か?


俺を見て高くなった頭の口顎を開けて吐き出す体勢に入る。そのとき胸の部分、肋骨の中に黒い球体状のものが見えた。急いでドラゴンゾンビの全身をチェックする。


骨の集合体、中心、唯一骨で構成されていない球体状のもの。


俺は思わず笑みを溢した。


「ユイッ」


「ファイアトルネードッ」


俺の言葉に応えてユイが炎嵐の呪文を放つ。以前に見たものとは違い、桁違いの炎の量と範囲の広さに広場に熱風が吹き荒れる。


「ギギャアアアアアッ」


ドラゴンゾンビが炎の渦の中で苦しそうに身悶えする。身体の骨を、肋骨を溶解させて黒球を一部露出させた。


「ひゅっ!」


俺は息を放ち、短剣を念動力で黒球目掛けて最速で飛ばした。打撃力ではない、貫通力で問題ない。もし足りなければ砕け散るまで貫いてやる。


「グッ、ギアッ、ギュオオオオオ」


やはりか。黒球を一撃貫いただけで骨を攻撃した際には漏れることのなかった苦悶に満ちた呻きがドラゴンゾンビから聞こえてくる。短剣の軌道を曲げて思考加速を再展開、四方八方から黒球のみを狙って攻撃を加えると亀裂が球の表面に蜘蛛の巣のように広がっていく。


短剣を手に戻し思考加速を解除すると黒球が爆発するように粉々に砕け散った。炎の渦の中、断末魔もなくドラゴンゾンビの身体が地に落ち四散していく。


「ふぃ~。やったぜっ!」


「やったーっ!」


俺とユイは砕け散っていくドラゴンゾンビを見ながらハイタッチした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ