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第二話:設定

「水分補給よし、トイレよし、休憩これからっ!」


ディスクはセットした。手元にはVRヘッドセットがありその機能を開放する時を待っている。


ヘッドセットを頭につけて視界がディスプレイに占領される。


アバターにはそんなに拘らず、ベースは自分の容姿そのままで髪の色を銀色に変えて目の色を青く変えた。その色の選択に理由はない。シルバーグレイと呼ばれる年齢まではまだまだだし、青い瞳を持つ人は現実でもいるのでそれほど変には映らないだろう。


「今回の変数はなんだ?」


ゲームによってポイントを設定できる能力値が微妙に異なる場合がある。TWOのステータス(能力値)はHP(体力)、MP(魔力)、STR(攻撃力)、DEF(防御力)、INT(知能)、DEX(器用さ)、AGI(素早さ)、LUK(運)の八項目。どこに重点をおくべきか?


「やっぱりDEXにしようかな」


DEXは器用さだ。回避や遠距離武器の扱い、果ては生産職にも適用される可能性がある数値だ。極振りにすると立ち回りはしやすいけど戦闘方法が限定される。まぁ、他の極振りでも同じだけど。


「AGIもあるから回避特化にはならないか?いや、素早さだけあってもコントロールできなければ事故につながりかねないし」


AGI極振りはまた検討してみよう。DEX特化はもしかしたら身体の使い方がとても上手い功夫(カンフー)の達人、おじいちゃん設定になるのかな?酔拳とかイメトレしといたほうがいいのだろうか?


これから長い付き合いになるかもしれない。TWOは自由度が高いけど自分で決める目的しかまだ明らかになっていない。ゲームの最終目標がまだ判明していないので終わりがみえない。いや、最終目標は自分の設定した目標なのかもしれないし、わからないことが多すぎる。


「設定はこれで終了っと」


初期設定のポイントはすべてDEXに注ぎ込んだ。


初期装備の武器や防具、そして重要だと思われるギフトスキルは完全なランダムらしいのでTWOの世界に入るまではわからない。


ディスプレイが様々な光を放ち始める。VRに入る前兆だ。ヘッドディスプレイの中で目を閉じる。不安はない。


「乱数の女神様は微笑んでくれるかな?」


装備品とギフトスキルは気まぐれな女神様の手に委ねられている。いままでの経験上、当たり外れはあるけれどクリアできない事態に陥ることはなかった。乱数にも必ず理由があるはずでクリアする道は必ずあるはずだ。






目を開けるとそこは既に俺の部屋ではなく目に入るのは密集した樹々。木漏れ日から日が高いのはわかるけれど森の中だからか薄暗い。VRに入ったのだ。


周りを確認してとりあえず危険はないことを確認する。ログインしていきなり襲われるとかゲームバランスとしてどうなのということもなく一息つく。


「さて、どうなったかな」


まずはステータスの確認と装備品の確認だ。腰に一振りの短剣っぽいものがあるだけで鎧のようなものは纏っていない。


「パッと見、普通の服だけだけど戦闘職設定じゃないのかな?」


軽鎧もない状態に一抹の不安を感じる。村人じゃないんだからそれなりの装備を期待していたんだけど仕方ない。


「ステータスはっと」


念じると半透明のウィンドウが目の前に開く。俺のステータスが表示された。


名前:カリツ

種族:人族

職業:なし

職業(副):なし

LV:1【経験値0/20】

ステータスポイント:0


HP(体力)20

MP(魔力)10

STR(攻撃力)0(+5)

DEF(防御力)0

INT(知能)0

DEX(器用さ)100

AGI(素早さ)0

LUK(運)0


右手:短剣(STR+5)

左手:なし

頭:なし

身体:布の服

足:布のズボン

靴:布の靴

アクセサリー:なし


あれぇ?本当に村人装備なんじゃない、これ?しかも大半のステータスが0ってどういうこと?ポイント振らないと全部0になるのかな?


なにも事前情報がないので比較もできない。比較したからってこれでゲームを進めると決めているから意味はないんだけど。職業と職業(副)ってなに?副業も標準装備なのか?


重要なのはギフトスキルだ。これで職業がある程度推測できる場合もある。ステータス画面を下にスクロールした。


ギフトスキル:念動力LV1(ものを動かすことができる。有効範囲は周囲1m。LV依存、他の能力値に依存しない)


ずいぶんシンプルなスキルだ。でも説明文からすると影響があるパラメーターはLVのみ。他の能力値、例えばSTRなどには依存しないなら極振りには相性がいいスキルだろう。はっきり言って当たりじゃなかろうか?


「ログアウトしたら調べてみるか」


リセマラで再設定はするつもりはない。念動力でゲームは進めるけどどのくらいの当たりスキルかは興味がある。雑誌に載っているだろう。ものを動かせるスキルか。どのくらいのものなら動かせるのだろう?


「おっ、冒険者か?」


考えていると声がかかった。声のほうに身体を向けると茂みの中から四つの人影が出てくる。この村人装備で冒険者とどうやったら判断できるのだろうと不思議に思うけど四つの人影の上にNPCという表示を見てなるほどと納得した。


NPCはNon-Playable Characterといい、人が操作しているものではない。ゲーム内の登場人物だ。


「こんなところにいるなんて初心者、だよな?装備も貧弱だし」


重そうな重鎧、腰に帯剣しているところを見ると剣士が俺に言うけどほっといてもらいたい。俺が選んだ装備じゃないんだから。


「その装備と短剣じゃここいらへんの魔物が弱くても危険よ。初心者だし。パーティーを組んであげるから慣れたほうがいいんじゃない?」


黒いローブと幅広の帽子、杖を持つこの女の子は魔術師キャラか。たしかにどんな魔物がでてくるかわからない。っていうかやっぱり出てくるんですね魔物。


あとの二人、白いローブを着ている女の子はたぶん僧侶、回復役で黒い軽そうな鎧を着けているのは盗賊だろうか?四人が頷いて剣士がステータスボードを手元で操作すると俺の目の前にもボードが現れる。


「チュートリアルパーティーに参加しますか? Yes or No」


なるほど。TWOのチュートリアル、ゲーム知識のガイド役がこの四人なのだろう。選択できるようだが参加したほうがいいだろう。なにせ村人装備なのでいきなり魔物に襲われても勝てるかどうかわからない。いや自分のせいかもしれないけどSTRが短剣装備で5しかない現状では勝てないだろう。


Yesを選択して剣士さんに向きなおる。


「よし、よろしくな。すぐ近くに街がある。そこに向かうが道中魔物が出たら戦闘に参加してもらうから頼んだぞ」


剣士さんがそう言うが俺が主要な攻撃を行うことはないだろう。チュートリアルなんだから少しは参加するけどメインはNPCになると思う。


パーティーを組むとメンバーのステータスが表示されるようになる。剣士はHP、STRが高く、魔術師と僧侶はINTとMPが高い。盗賊と思われる男の人はDEXとAGI、LUKが高くスキルに探知がある。敵とか罠を探知できるのだろうか?いいな。


「お前、器用さでは俺たちの上をいくが、、、それだけでどうするつもりだ?」


盗賊さんが尋ねてくるけど俺にもわからない。やってみるしかないのだ。


「ここらへんの魔物はホーンラビットくらいだが攻撃力30はないと厳しいぞ」


へ?STR30?


剣士さんの言葉に絶句する。LVアップの補正値がどのくらいかわからないけどなかなか厳しい状況ではないだろうか?いや俺にはギフトスキルの念動力がある。LV依存でほかの能力値に左右されないのなら戦闘でも使えるのではないだろうか?


「「あー、念動力ね」」


魔術師さんと僧侶さんが俺のステータスを見たのか溜息と一緒に憐れむような視線を向けてくる。二人を見た剣士さんと盗賊さんも俺のステータスを見たのか盗賊さんは眉を寄せて、剣士さんは困ったように片手で顔を覆っている。えっ?どういうこと?


「あっと、な。念動力なんだがLV1ならこのくらいの枝なら動かせるぞ」


剣士さんがそう言って落ちていた10cmくらいの細い枝を摘まみ上げた。は?よくわからない。


「念動力のLVを上げた冒険者はいないから何とも言えんが」


え?いないの?


「冒険者、魔物を相手にする人も生産職なんかでも持ってる人はいないと思うよ。役に立たないから」


???


「力を上げて、または魔力で何事でもするほうが手間はないからな」


そう言って四人が歩き出した。もう少し話を聞きたいのだけど話は終わりとばかりにズンズン進んでいってしまう。慌てて俺もついていこうとするけど四人とも早い、早足くらいになってしまう。はい、AGIの差がこんなところでも出てくるんだね。


「とりあえず街まで送ってってやるから頑張れよ」


そう言う剣士さんが振り返って苦笑いするのを小走りしながら俺は見た。

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