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第十七話:賽子

「薬草見つけたぞー」


夜だけど月明りと星明りがあるので明るく目も慣れているのか視界は悪くない。星降る大地に行く途中の道で受けた依頼の薬草採取も順調に進む。


「いやー、鑑定スキルって使えるなー」


フォルトゥーナに貰った鑑定スキルを発動して薬草と念じると薬草だけ表示されるのだ。既に20枚採取できてホクホクだ。そんな俺を隣で呆れたように見るミオがいる。


「薬草採取って、受ける冒険者はあまりいないと聞いていたけど本当にカリツはFランクなんだね」


ミオが呆れたような、少し心配そうな顔で俺を見る。


ミオを連れて星降る大地への道中は今のところ魔物も現れず問題なく進めていた。この分なら到着までそれほど時間はかからないかもしれない。


「冒険者ギルドで依頼を受けるのも初めてでさ。採取系の依頼も楽しいと思うんだよ」


ミオにそう返事をするとミオが眉を寄せる。俺の現状を話す度に心配を募らせてしまうようだ。たしかにFランクで安全性の高い採取依頼を受けているパーティーも組まない冒険者だったら心配になると思う。しかも村人装備だからな。ははは。


「ひっ!」


行く先のほうでガサッと音がした。ミオが怯えたように身体を縮め短く声を上げる。俺は既に短剣に手をかざして臨戦態勢、強い魔物だったらマズいので念動力での攻撃発動で思考加速も展開し準備は万全だ。


鑑定をかけると捕えた影はゴブリンのものだった。小さい影が3つ。思わず溜息を漏らして思考加速を解除した。


ゴブリンは緑の肌を持つ人型の魔物でこん棒などで襲ってくることもあるがそれほど脅威とされるものではない。鑑定で確認したゴブリンのLVは8~10、もし襲ってこなければ通り過ぎればいいだろう。


何事もないかのように歩を進める俺にミオもついてくる。ガサガサと葉擦れする音が大きくなるが出てくるつもりか?


「ギゴフッ」「ひゅっ」


ゴブリンが俺たちを見つけて威嚇するように鳴いた。それを見てミオが息を飲む。


儀礼の短剣を抜き念動力で移動、ゴブリンの脇を擦り抜けざまに会心の一撃を打ち込む。3体のゴブリンは一瞬で四散した。ドロップアイテムは魔石3つとゴブリンの耳3つ、討伐の証だ。それらを拾い上げて、それぞれリュックと袋に入れた。


ミオを見ると呆けたように俺を見ている。どうした?


「カリツって強かったんだ」


「いや、ゴブリンだからね。そんなに強い魔物じゃないし」


俺がそう言うと驚いた顔をする。


「ときどき冒険者がゴブリンにやられたって話を聞くから危険な魔物だと思ってた」


危険な魔物だよ?こん棒で襲ってくるし、いきなり大勢で襲ってきたら冒険者もボコボコにされるかもしれないよ?


「ゴブリンくらいならなんとかなるから」


俺がそう言って歩き出すとミオもついてくる。少しミオの俺を見る目が変わってきたように感じる。ゴブリン倒したくらいで評価が変わるなら安いものだ。


そのあとも薬草を採取しながら時々魔物を狩る。ゴブリンや犬が二足歩行になったようなコボルト、それにワイルドボアなどが現れるが難なく倒していった。


「ワイルドボアを見つけた時に「にっくっー」って叫んで襲い掛かるのはやめた方がいいと思う」


魔物が出てもそれほど怖がらなくなったミオが冷静に突っ込みを入れてくる。襲い掛かるって人聞き悪いな。セカンデイルに来る途中で倒したワイルドボアの肉がまだ腕輪の中にある。食べる間もなく出てきたので心残りだったのだ。依頼を達成したら宿屋で焼いてもらおう。


「あっ」


林を抜けると開けた場所に出た。広がる夜空と岩の大地、ここが星降る大地なのだろうか?


確認するようにミオを見ると前を見たまま足早に駆けるように小走りになる。ミオが目指しているのは岩の間に大きく口を開けている穴。そこに希求花があるのだろうか?仄かに明るい穴の中に降りていくミオを見ながら俺も後を追いかける。洞窟の中にも魔物がいる可能性があるから油断はできない。


「な、なに?きゃああああっ」


俺はミオに追いつき腰に腕を回したまま横に移動した。今までミオが立っていたところに巨大な錆びた斧が叩きつけられる。それを見てミオの顔色が変わった。


斧が地面を傷つけながら引かれていく。巨大な毛むくじゃらの腕それに続く巨体、目だけが爛々と光り、俺たちを射抜くように視線が注がれている。鑑定によるとオーガ、LV38の人型の魔物。ここら辺の魔物としてはLV高くね?外にはこのLVの魔物はいなかったからこの洞窟の固有種かもしれない。


ミオの腰に回していた腕を放して開放する。ミオは足に力が入らないのかそのままペタンと座り込んでしまった。目を見開いて固まっている。これでは逃げられない。念動力で運んでもいいのだが、この奥に行かなければいけないのだ。短剣を抜いて構えた。


「グルルァッ!」


オーガが咆哮を上げて斧を頭上に振りかぶる。俺は念動力で飛ぶようにオーガとの間合いを詰めた。


思考加速は使っていない。オーガが振り下ろす斧を身体を翻して避け、短剣を振る。


「ギュアアアアアッ」


オーガはその巨体からは想像できない素早い動きで身体をずらした。俺の短剣は奴の身体に当たらず腕に当たる。腕が断ち切れるがオーガの頭上に表示されているHPバーはいまだ4分の3は残っていた。


「ちっ!」


俺は舌打ちして再度短剣を構えた。いままでフォルトゥーナのダンジョン以外では会心の一撃で一発でHPを削り切ってきた。削り切れなかったのは初めてだ。


オーガは断ち切られた自分の腕を持ち上げ、俺に向かって放ってきた。それを避けるうちにオーガが斧を振りかぶり叩きつけようとする。いまだ動けない()()()


俺はすぐさま思考加速を発動、腕輪のウィンドウをスクロールし爆裂石(最上級)を取り出す。念動力でオーガの背中、ミオが陰になるところまで移動して爆裂石を投げた。そうして再度移動、ミオとオーガの間に立ち、迎撃するように短剣を構える。思考加速解除。


「グゴァ!」


背中で炸裂した爆裂石がオーガの巨体を俺のほうに吹き飛ばす。


俺も前進して短剣をオーガの胸に叩きこんだ。爆裂石の爆発力と俺の会心の一撃に挟まれてオーガの身体が軋みを上げ、耐えきれなくなった身体が上下で千切れた。


断末魔もなくオーガの身体が崩壊していく。


「ふぃ~」


思わず安堵の溜息が漏れる。オーガがミオに狙いを変えたときは焦った。


「ごめんな。怖かったか?」


俺がミオの傍に行き、声をかけるとミオが俺のほうに顔を向け目尻からじわじわ涙が滲んできた。俺の胸に頭をぶつけてしゃっくり上げている。


一歩間違えていればミオが殺されていた。すべては俺の慢心からきていたと思う。LVが高いといっても38、いままで会心の一撃で一発で倒していたから今回も倒せるという誤った読み。反省することは多い。


でも、あんな魔物がいて今までよく見に来れていたな。


「あ、あんな、ま、魔物初めて見たっ。死んじゃうかとおもったぁ!」


ミオが未だ泣きながら俺に言う。初めて?あの魔物が出てくる条件があるのか?


ミオが少し落ち着いたようなので腕を取り立ち上がらせる。もしかしてまだオーガはいるかもしれない。ミオを背中に庇いながら洞窟の先を進む。右に左に折れ曲がる道を進む。


「そういえば、なんで希求花を見たいんだ?」


俺が歩きながらミオに尋ねても後ろのミオからの返事はない。俺は洞窟の奥まで連れていく約束をしただけだから理由が言えないのであれば追及はしない。


「・・・・・弟が、弟が寝込んでて。薬とかでもよくならなくて」


うん?なんかいきなり話が重くなってきたぞ?


「希求花はよほど運がよくなければ開花した花を見ることはできない。でも開花した花には希望を叶えてくれる力があるって話を聞いて」


なるほど。


「でも、花を見る前にミオが魔物に殺されちゃったら意味ないんじゃない?」


俺がそう言うとミオが俯いて下唇を噛む。


「いままではあんな魔物出てきたことない。出てきたとしてもコボルトくらいだった。あんな魔物がなぜ出てきたのか分からない」


そうだろうな。セカンデイルにいる冒険者がどのくらいのLVか分からないけどオーガ相手では苦戦するかもしれない。


「あ、と。俺まだセカンデイルに少しの間いるから、もし今日見れなかったとしても諦めないで声かけて。よかったらまた来るからさ」


俺がそう言ってミオに笑いかけるとミオが少し吃驚したような顔をしたあと微笑んだ。


「ありがとう」


洞窟を先に進むと明るくなってきた。もう少しで希求花のあるところだとミオに教えてもらう。


広い空間に出ると空間の真ん中に1本だけすらりとした茎をもつ植物が生えている。そして茎の先、伸びた先には百合のような白い大きな花がついていた。花自体が光っている。


「ミオ、これが希求花か?咲いてるみたいだけど」


俺がミオに尋ねるがミオは言葉を発することができないほど固まっていた。目は希求花からは離さない。


動かないミオを横目に花に向けて歩き出すと花の光が強くなる。


「うっ、眩しっ」


強い光に腕で目を覆う。目を細めて何とか見ようとすると光の中に小さい姿が見えた。


「何を望む?」


眩い光が収まってくると声が聞こえた。小さい女の子のような幼さの残る声。目を開けると花の前に蝶のような羽がついている白いワンピースを纏ったちっちゃい女の子が見えた。おー、妖精か?


「あたいはメルクリウス様の使いだよ。望みは何?わっ、なにすんだっ!」


俺がメルクリウスとかの使いに近寄ってむんずと掴む。掴んだ手を顔の前に持ってきて逃げようと藻掻いている姿を観察する。初めて見た。


「カリツっ!その子に酷いことしちゃダメ!」


ミオが俺を掴んでガクガク揺さぶる。


「いてっ!」


妖精が俺の手に齧りついて無理やり手から逃れた。


「はーっ、はーっ、こ、この不埒者!お前の願いなんか絶対叶えないぞ!」


怒る妖精を宥めようとミオがオロオロしている。


「いや、初めて妖精を見たからさ。こんなに綺麗で可愛いとは思わなかったんだよ」


「き、綺麗?可愛い?」


俺が正直にそう言うと妖精さんは顔を赤くしてそわそわ、もじもじしている。


「し、しょうがないな。そういうことなら許してあげる。願いも必ず綺麗で可愛い私がメルクリウス様に伝えて叶えてあげるからね」


メルクリウスって誰だろ?話的にはまたまた神族かなと思うのだが。


「私の弟、弟を元気にしてもらいたいっ!」


ミオが妖精さんにお願いを伝える。妖精さんは腕を組んでうんうん頷き地下の天井を見る。


「願いは届けたよ。これを弟さんに飲ませるといいよ」


そう言って妖精さんがミオの手に透明な丸いカプセルのようなものを渡した。ミオが手の中のカプセルをじっと見ている。目が少し潤んでいる。


「さて、君は?」


妖精さんが俺に顔を向ける。え?いや、特にないけど。


「え?ないの?なんでもいいんだよ?」


妖精さんが焦ったように問いかける。


別に困っていることはないし、依頼は自分で達成してこそ、だからな。特にない。


「えっ?ダメだよ。希求花の開花を見ることができるような運を持った者はメルクリウス様に祝福してもらうんだからっ!」


運の値が重要なのか?俺の運がunknownだから花を見れたのだろうか?開花しているからオーガが出現した?俺がいろいろ考えていると妖精さんが小さな手で俺の腕をバシバシ叩いている。


「ねぇ、本当に何も望みないの?」


「ないな」


即答すると妖精さんが顔を歪めて泣きそうになる。俺が悪いことをしてしまっているような罪悪感があるが本当になにもないんだよ。


妖精さんがキッと地下の天井を見る。涙を堪えているようにも見えて思わず目を逸らしてしまった。


「これをあげる!」


え?押し売り?ってなにこれ?賽子(サイコロ)?2つあるけど賭け事にでも使うのか?

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