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第十五話:魔猪

外からはカケルたち4人の声と地響きのような音、時々爆発するような音が聞こえてくる。俺の隣では商人夫婦が身体を寄せ合い青い顔をしていて、さっきまで元気だった女の子も重い雰囲気に口を開くことなく俯いてしまっていた。


もらったリンゴを齧る。うん、酸味と甘みのバランスがよく美味しい。


「ワイルドボアって強いのかな?」


俺が独り言ちると商人さんが信じられないといった顔で見てくる。


「ここら辺ではワイルドボアは注意を要する魔物です。1体くらいなら問題ないのですが群れになり、群れ全体で怒涛のように突進してくるとEランクのパーティーでも敗走する場合があるんです」


大きい奴もいるけど10頭くらいだから問題ないよね?俺がそう言うと商人さんがさらに青くなる。


「大きい個体はたぶんリーダーです。荷物を諦めなければいけないかもしれません」


見ると女の子が小刻みに震えていた。商人お父さんの話を聞き不安になっているようだ。


俺は立ち上がって幌の後ろを開けて顔を出す。


「出てこないでっ!」


エマの鋭い声が降ってきた。馬車の横で杖を握りしめて周りを警戒している。


「大丈夫そう?」


俺がそう声をかけるとエマはキツイ目つきで俺を見る。裏腹に目尻には涙が滲んでいた。


「大丈夫なわけないでしょっ!?ワイルドボアの大きな群れと戦ってるのっ!カケルもトウも弾き飛ばされて怪我しちゃったしっ!」


傷を負っていてもカケルとトウは前面に立ってワイルドボアたちを威嚇し、ミーナが弓を連射。エマも魔法を撃っているが決定打にはなっていないみたいだ。ミーナの矢とエマのMPにも限りがある。このままではジリ貧だろう。


「よっと」


俺は馬車から地面に降り立ちエマの横を通り抜けて馬車の前に出る。馬車の前ではミーナが矢を番えて弓を引き、それを守るようにカケルとトウが立っていた。


「あ、あなた、何で?」「おい!離れてろっ」「Fランクじゃワイルドボアは無理だ!」


3人が口々に言う。心配してくれるのは嬉しいけど、みんなはもう戦う力は残り少ないと思う。


俺は前に群れているワイルドボアたちを見ながら短剣を抜いた。


大丈夫だ。フォルトゥーナのダンジョンでも猪の魔物と数回、いや数十回戦っている。しかもリーダーと思われる少しい大きい個体より更に大きい個体だった。


「ブキィィィッ!」


群れのうち1体が俺に向かって駆けてくる。新しい()が出てきたので様子見のために攻撃をかけるつもりか?


ちょうどいい。俺も念動力と思考加速、会心の一撃などスキルに関して整理しておきたいのでいい機会だ。


「ふっ!」


俺はワイルドボアの突進を身体を翻すことで避けつつ短剣で攻撃、斬撃を受けたワイルドボアが横に吹き飛ぶ。うん、儀礼の短剣での通常攻撃は思考加速は発動しないで、会心の一撃が発動する。


あ、倒したワイルドボアがドロップアイテムで肉の塊を落とした。ラッキー!


次にファストラスで購入した爆炎石を取り出す。品質は下級。たぶん宝箱から得た最上級のものと比べて攻撃力が低いんだろうけど検証には丁度いい。


手に持って飛ばしてみるとワイルドボアに当たるも爆発は小さくワイルドボアも少し怯むくらい、念動力で飛ばしてみるとワイルドボアに突き刺さり身体がブルっと震えた。身体の中で爆発したのだろうか?


次に儀礼の短剣を念動力で飛ばしてみる。ワイルドボアの1体に一直線に飛び、貫き、四散させた。


「うん。大体分かった」


①儀礼の短剣での通常攻撃(斬る、投げる)は思考加速なし、会心の一撃が発動。


②アイテムでの通常攻撃(投げる)は思考加速なし、会心の一撃もなし。


③念動力で儀礼の短剣、アイテムを使用した攻撃は両方とも思考加速が発動、会心の一撃も発動。


④武器やアイテムを攻撃ではなく、受け渡しみたいな移動を念動力で行っただけでは会心の一撃は発動しなかった。


検証は終了、俺は考えるのをやめて目をワイルドボアに向ける。カケル、トウ、ミーナ、エマが呆然とした顔で俺を見ているのが分かる。横からワイルドボアを倒してしまったことは後で謝ろう。今やるべきことは、、、


「肉、落とせーっ!」


短剣を手にワイルドボアの群れに突っ込む。目の前の1体に会心の一撃を打ち込み四散させた。


「「「ブキュウゥゥゥゥッ!」」」


数体のワイルドボアの雄たけびが上がり、俺に向かって突進してくる。


体捌きで突進をことごとく躱して短剣で攻撃。よし、3体撃破っ!


このまま全部倒してやるぜっ。






「えーと。いきなり横から入ってワイルドボア倒してごめん。それを踏まえた上で頼みがあるんだけど、少し肉譲ってくれないかな?」


ワイルドボアを倒し切ったあとドロップアイテムを拾って馬車に戻った。ドロップアイテムは肉の塊4っ、魔石が3個、牙が3個に耳の欠片が10個だった。耳の欠片は1体につき1つ落ちたけど、なんに使えるんだ、これ?


「いや、お前が倒したんだからお前のものだ」


カケルがそう言うと他の3人はなにも言わずに黙っていた。カケルとトウは鎧がところどころ土や血で汚れ、疲れたように立っている。ミーナとエマも汚れはないが疲れているようだ。


「じゃあ、肉をもらうから他のものはもらってくれよ。あと教えてほしいんだけど耳の欠片ってなにか使えるのか?」


ミーナに魔石と牙を押し付けると「え、えええっ?」と言いながらも受け取ってくれた。


「耳の欠片は討伐した証よ」


エマが耳の欠片について説明してくれる。冒険者ギルドで何か依頼を受けると袋を渡されるようだ。この袋がないと討伐の証は落ちないらしい。依頼の最中で魔物を倒した時に討伐の証を集めてギルドに持っていくと報奨金やランクアップにも繋がることもあるようだ。今回の俺には関係ないか。


「俺、何も依頼受けてないし持っててもしょうがないから使って」


俺はそう言って耳の欠片をエマに渡す。エマはそれを受け取って目を白黒させている。


「い、いやダメだろっ!俺たちは1体も倒せなかった。お前が全部倒したんだからお前が受け取るべきだ」


トウがそう言ってミーナとエマにアイテムを俺に返すように促した。ミーナとエマが顔を見合わせている。


最初に戦っていたのはトウ達であり、俺は横やりを入れたにすぎないことを話す。そして俺は肉の塊を譲ってもらえただけで十分で他のアイテムは必要ないので使ってもらいたいことを再度伝えた。


4人が顔を見合わせている。俺がいると相談しずらいだろうから俺は4人から離れて馬車の荷台に戻った。


「お兄ちゃん、大丈夫だった?」


女の子が心配そうに聞いてくるので笑って頷く。それを見て商人夫婦も安心したように溜息をついた。


「ワイルドボアの肉とリンゴって交換してもらえたりします?」


俺はそう言って肉の塊を一つ取り出した。3つは腕輪に収納済みだ。鮮度を落としたくないからね。


「え?ええ。交換しますよ」


商人さんがそう言ってリンゴを10個並べてくれた。ありがたく貰って、肉の塊を渡す。商人さんも奥さんも女の子もにこにこ笑っている。いい取引だったようだ。3人の笑顔を見ながらリンゴを一つ齧った。やっぱり美味しい。


「カリツ・・・・・くん?」


幌を開けてエマが顔を出して手招きするので馬車から降りると4人と向かい合う。


「みんなと相談したんだ」


「譲ってくれるという申し出を受けたいが本当にいいのか?」


カケルとトウがそう言うのに頷く。


「でも」


ミーナがそう言って言葉を切る。


「セカンデイルの冒険者ギルドに報告に行ったときに討伐の報酬が出るようならカリツ君に渡そうと思う」


エマがそう言うので半分ずつにしようと提案する。いらないと言っても角が立つし4人もなにかと物入りだろう。始めたばかりだと思うし。俺の提案に少し難色を示していた4人だったが何とか押し切った。


馬車に戻る前にカケルとトウにクリーンアップをかけた。汚れていた鎧や服が瞬く間に奇麗になる。


みんなが乗り込むと馬車が動き出す。


「カリツ君、魔法使えるの?魔法書買ったの?高くなかった?」


馬車が動き出すなり魔法職のエマがクリーンアップに喰いついてきた。便利だと思って買ったこと。値段は5割引きでお得感満載だったことを伝えると「私も見つけたかった!」と言って嘆いていた。まあ、出会いは運に左右されるしね。


「それはそうとカリツだっけ?お前強いな。なんでそれでFランクなんだよ?」


カケルが俺に聞いてくる。ファストラスでは魔物相手に戦っていて冒険者ギルドの依頼は受けなかったこと、冒険者になるか生産職にするか決まっていなかったのでギルドへの登録すら街を出る直前になってしまったことを説明する。


「カリツ君くらい強かったら、すぐランク上がるよ!」


ミーナが拳を胸の前で握って力説してくれた。セカンデイルに行ったら冒険者ギルドの依頼受けてみようかと考える。


「カリツ君はどんな依頼がいいの?」


エマが聞いてくるので考える。


「まだ受けたことがないからなんでも。採取もいいし、討伐もいいな。護衛はあたりはずれがありそうだからどうなんだろ?」


護衛は雇い主と良好な関係でないと難しいと思う。それよりは器用さを生かした採取クエストのほうが気楽だと思う。


俺がそう言うと4人がファストラスであった依頼を色々話してくれた。情報を聞くだけでも楽しい。ファストラスは始まりの街ということもあり、フォルトゥーナと会った街ということでも感慨深い街だ。ときどき帰ってみてもいいかもしれない。


「ファストラスでちょっと奥まったところにあるお店なんだけどパンがすごく美味しくて私とエマのお気に入りなの」


ファストラスの冒険者ギルドにある依頼の話からファストラスでの思い出話に移っていった。ミーナが鞄を探って新聞紙のような紙に包まれた塊を出す。紙の包みを開けると、きつね色のパンが出てきた。ミーナが3分の1くらい千切って俺に手渡してくれる。


表面がカリカリで中は柔らかいパンを噛む。噛むごとに小麦の味が口の中に広がる。


「お店の名前教えてもらえる?」


絶対にもう一度ファストラスに行かなければ!

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