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第十四話:旅立

白い4人と黒い4人が激突した翌日。俺は闇落ち4人組を呼び出して相談をした。相談内容は俺のプレイヤー構成やスキルを晒け出すことになるのだが、そのデメリットを許容してもやりたいことが見つかってしまった。いわゆる対人戦。


昨日の対戦結果は黒翼が善戦したのだが地力が違う天使の剣が勝利した。本当にまっすぐな戦い方、いわば正攻法をとる天使の剣に職業とスキルを組み合わせた戦い方で善戦する黒翼。どちらのパーティーもとても悩み、工夫し、苦しみ、楽しみながら戦っていた。


俺も戦いたいと思ってしまい、対戦を希望すると快く応じてくれた闇落ち4人組。感謝!


「はははっ、なんだ、その能力値?(極振りって、極振りって極端すぎる)」


「DEXとLUK以外0って攻撃手段あるの?(馬鹿なのかな?)」


「念動力だったんだ(ふふん)」


「えーと(負ける要素が見つからない)」


とりあえず思考加速は使わないで4人に対峙する。儀礼の短剣は攻撃判定を受けない。この短剣であれば思考加速を発動しない状態で戦うことができる。ちなみに短剣を抜いた状態で念動力で動かし攻撃しようとすると発動した。念動力での攻撃と判定されて3km内が思考加速の発動範囲に入る。


移動だけでは思考加速は発動しないので念動力で近づく。地面を滑るような予想外の速さで接近する俺に4人が急いで攻撃態勢をとった。ソウ(死霊魔術師)が素早く呪文を唱えて死霊を呼び出す。その数、十数体が俺を攻撃しようと接近してくる。


「よっ、と」


フォルトゥーナのダンジョンの狼と比べれば遅すぎるスピード。身体を操作して躱す。このくらいのスピードならイメトレした酔拳が試せるかもしれない。フォルトゥーナの時はそんなお遊びしている暇なかったからな。


攻撃が当たらない俺に4人が目を丸くする。


「いただき」


「え?」


サン(黒騎士)に近づき短剣を振る。会心の一撃LV2でクリティカル。STR0だけどLUKはunknownだからな。一回のクリティカルでサンのHPは全損、四散した。


「なっ?これでどうだっ!AGI低下!」


ユート(闇神官)がデバフを俺にかける。身体が少し冷えた気がするがもともとAGI0だぞ?デバフにならん。ユートに近づき一閃、四散した。LUKが上昇したから会心の一撃も使えるな。


「ぶっとばしてやるぜぇっ!」


レーン(狂戦士)が凄まじい圧を放ちながら俺に向かって走ってくる。巨大猪の魔物もかくやという迫力だ。周りを見ればソウが呼び出した死霊がほとんど残っていない。倒して狂戦士の能力値を上げたな。


両刃の斧を振り回す。風が巻き起こり砂を巻き上げる。でも当たらない。斧をふるうレーンが焦ったような顔をするが、その顔に短剣を当てて四散させた。


「あとはっと」


ソウが残っていたけど短剣で一突き、四散した。


一回戦ったので攻略法の糸口は見つかっただろうか?


「どう?」


「「「「無理」」」」


闇落ち4人組が一斉に顔の前で手を振っている。


「いや、そんなこと言うなよ」


俺は困ったように眉を寄せる。何回か戦わなければいけないだろうか?


「AGI0のくせに攻撃が当たらない。デバフの意味がない。しかもバフかかってない状態だから利不利反転も意味ない。一撃が重すぎるけど防御貫通でもかかってんのか?攻略できる糸口が何もない」


「天使の剣より手も足も出ないんだけど」


「天使の剣にも相談してみたら?フレンド登録したんだろ?最前線プレイヤーなら何か考えてくれるかも」


・・・・・サーラ、スノウよろしく。他の2人もお願いできるとありがたい。


「え、えっと、呼んでくれました?」


「どうした?カリツ君」


かくかく、しかじか。対戦よろしく。


リーンとアオイが爆散した。サーラとスノウは攻撃しようとすると目を閉じて縮こまってしまうので攻撃できなかった。小動物か?


サーラとスノウが立ち上がって並ぶ。ペコッとお辞儀して取り出した何かを右手で振った。白旗だ。えっ?降参?まだ戦ってないぞ?


「バフかけてるけど付いていけない。一撃でHP全損するのおかしい。回復もできないでしょ?なんで体捌きだけで魔法を回避できるのか理解できない。そもそも、なぜ私とアオイだけ倒されるんだ?」


結論。


「「「「「「「「ある意味、化け物」」」」」」」」


悲しいこと言わないでください。






「じゃあ、また」


俺はリュックを背負って乗合馬車の傍らで8人と向かい合う。天使の剣の4人と黒翼の4人だ。俺がセカンデイルに馬車で旅立つと聞いて見送ってくれることになったのだ。


「本当に使わなくてもいいのか?」


リーンが聞いてくる。


転移アイテム『転移の巻物』を使えば、現在判明しているシクスティーリアまでであれば転移できると聞いたがゆっくり旅を楽しみたいので分けてくれるというのを断ったのだ。


巻物を使わなくても空を飛んでいけばそれほど時間はかからない。でも旅の行程を楽しむのも俺のゲームの楽しみ方だ。


みんなに握手して回る。会ったことでTWOの楽しみ方が増えた。


「対戦の糸口が見つかったらよろしくお願いします」


8人がそれぞれ苦笑いを浮かべる。


「あまり期待されても困るな」


リーンが代表するように言う。ははは。


「君の力を借りたくなったら連絡してもいいかな?」


「俺で役に立てるようなら」


アオイさんの言葉に返答する。思考加速を使ってしまうとフォルトゥーナ以外だと言葉が間延びしてしまうから連携が取れない。ほんと、パーティー向きじゃないよな。


サーラとスノウが俺を見ているが顔が赤い。俺が顔を向けるとさらに顔を赤くする。


「わ。わわわわわ私たちもい、いいいいい一緒に」


うん?思考加速は使ってないよな?言葉が細切れだ。サーラの言葉に、スノウがぱくぱく口を動かす。一緒?


サーラの言葉は続かず、リーンに向き直る。


「駄目だぞ。お前たちはシクスティーリアでやることがある」


サーラとスノウの首がガクッと音がしそうなくらい前に倒れた。そうだな。天使の剣も黒翼もそれぞれやることがある。見送ってもらって悪いくらいだ。


乗合馬車の荷台に乗り込んだ。先客は7人。ほぼ満員、なかなかの乗車率。手ごろな場所を見つけて腰を下ろす。


「出発するぞ」


俺が乗ると御者さんが声をかけてくれた。幌を開けて8人に手を振る。


闇落ち4人が手を振ってくれるが、なかなかシュールな図になっている。フレンドリーな闇落ち集団って、武器を持って迫ってくるよりある意味怖いよね。通報されないように注意した方がいいぞ。


リーンとアオイが笑顔で手を振ってくれているが、それぞれ、別の腕でサーラとスノウの首根っこを押さえていた。サーラとスノウは赤い顔に目に涙を貯めて、何かを求めるように両手を前に出して動かしている。な、なに?


「「あうううう」」


う、うん。たぶんまたどこかで会うのでよろしく。観光名所、教えてもらえるとありがたい。


がくんと音がして馬車が進みだす。


少しずつ8人の姿が小さくなっていく。


旅立ちだ。俺は8人の姿が見えなくなるまで幌を開けて見ていた。






「えっ?Fランクのまま出発したの?」


乗合馬車の7人の中にプレイヤーが4人乗っていた。3人はNPCで両親と女の子、商人らしく4つの樽に果物などを詰めてセカンデイルに行くようだ。


プレイヤーはそれぞれ剣士のカケル、同じく剣士のトウ、弓兵のミーナと魔術師のエマという構成でパーティーを組んでいるらしい。リア友かな?


自己紹介で冒険者ランクFと言うとミーナに驚かれてしまった。


「ファストラスである程度依頼をこなした方がLVも上がるし冒険者ランクも上がるから行動しやすくなるんだよ」


「名指しで依頼されるような特殊なもの以外はすべてのランクで受けられるけど推奨されるLVはあるから」


「失敗したら信用もなくなるし違約金も払わなきゃいけないんだよ?」


情報をいろいろ教えてくれる。ありがたい。


「初心者なんだろ?焦って前に進むより、じっくり考えて進んだ方がいい。俺たちみたいに冒険者ランクがE、パーティーランクEになれば今回みたいに乗合馬車の護衛も引き受けられるしな」


そうなんだ。よくよく考えると冒険者ギルドの依頼掲示板はあまりチェックしていなかった。一回見て鹿や猪の討伐を見てやめたんだったな。


聞いてみると依頼を受けることで馬車の料金が免除されて無事セカンデイルに到着すれば報奨金ももらえるらしい。羨ましい。


「頼りにしています」


商人のお父さんがそう言って樽からリンゴを4つ取ってカケルたちに渡した。美味しそうだなと思っていると女の子がトテトテ歩いてきてリンゴを俺にもくれる。


「お兄ちゃんも頑張ってね」


おう、頑張る。リンゴのお礼にホーンラビットの魔石をあげよう。チュートリアルの森産だけどリンゴ代くらいにはなるだろう。


ガクンッと衝撃があって馬車が止まった。浮いている俺は大丈夫だったが、みんなバランスを崩して倒れそうになっている。


「どうしたんだ?」


カケルがそう呟いて馬車の前、御者のほうにある幌を開いて声をかけた。前を見たまま固まっている。


「カケル?」


トウとミーナ、エマがカケルの周りに集まる。


俺は短剣を抜いて攻撃を意識する。四方3kmの物体、景色が頭の中に展開された。馬車の前にいくつかの影、その後ろに岩くらいの大きな影を認識する。鑑定を使って調べるとワイルドボアという猪の魔物だった。説明文を見るとお肉は美味しいらしい。


「ど、どうしたんですか?」


商人さんがカケルたちに声をかけるとカケルが振り向く。心なしか顔が青ざめていた。


「たぶんワイルドボア。しかも群れだ」


それを聞いた商人さんも青ざめた。


カケルたちが向かい合って頷きあう。


「数が多いがいつも通り、俺とトウが前に出る。ミーナは後方から攻撃、エマは馬車の安全を確保するように。何頭か仕留めれば逃げだす可能性もある。深追いはするなよ!」


カケルが指揮を執り4人が馬車を降りて前方へ向かって行った。


「ワイルドボアって美味しいんですか?」


青ざめている商人さんと奥さんに尋ねるも答えはない。


「私、好きー」


女の子が答えてくれる。そうなのか、分けてもらってセカンデイルに持って行って焼いてもらおうかな?

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