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第十三話:対人

「「「・・・・・」」」


うん、気まずい。


ファストラスの街を道具屋に向かって俺はサーラとスノウと一緒に歩いている。最前線プレイヤーに買い物に付きあってもらうなんてアイテム選択などの情報面でいいと思うのだが二人は俯いて話してくれないのだ。仕方がないので前を向いてひたすら歩いているのだが一人で来た方が気楽じゃなかっただろうか?


道具屋に行くまでの道には露店などもある。ときどき食べることもあるがなかなかに美味しい。特に甘辛いたれをつけた肉串は絶品である。食感は鶏肉に近い。香ばしい匂いとたれの焦げるジュウジュウという音に食欲が刺激される。


「あ~、サーラさん、スノウさん、陽も落ちてきてるし串焼きでも・・・・・」


「あっ、宿屋で休めば食事はとらなくても大丈夫なんですよ!」


サーラさん、分かってます。初心者だけど分かってますよ。だからそんなに食い気味に話をぶった切らないでもらいたい。


「あ、そ、そうですね~」


思わず溜息が出てしまった。それを見たスノウが俺の顔を覗き込む。


「カ、カリツさんは食べたいんですか?」


それを聞いたサーラが固まった。いや、停止するの多くない?


「まぁ、TWOを楽しみたいので。実際にお腹は膨れなくても味や匂いは楽しめるし、効率的ではないですけどね」


俺がそう言うとサーラが顎に手を添えて考える。いや、そんな考え込むほど重要なことではないと思うのだけど。


数秒考えこんでいたサーラが顔を上げる。そして視線を串焼き屋に据えて前進した。え?なに?串焼き屋のおっちゃん冷や汗かいてるけど。なんか圧が漏れ出てるけど。


「おじさんっ!串焼き3つ!」


「あ、あいよぅ!」


焼いている串焼きをたれに再度浸して香ばしく焼き上げる。なんか手が震えているが突っ込まない方がいいだろう。


「はいっ、みの、違う。カリツ君!」


「あ、ありがとうございます」


サーラに串焼きを一本手渡される。誘ったのは俺なので俺が払いますよ?


「いいのっ!ゆ、違った。スノウも食べよう!」


「う、うん」


俺たちはそれぞれ串焼きを一本ずつ手に持ち、歩きながら食べる。うん、やっぱり絶品。外はカリカリで中はジューシーな肉に思わず笑顔になる。外でも食べたいな、これ。


「ん?」


両側二人が俺を覗き込んでいる。訝し気にしている俺を見て二人は微かに笑ったように見えた。俺が見ていることに気づいてサーラもスノウも目を逸らして自分の串焼きを齧る。






「こんなもんかな?」


道具屋でポーションや毒消し、寝袋などの旅に使うアイテムを調達した。変わったところではツルハシと釣り竿なども検討したがリュックに入らないのであとで買うことにする。収納の腕輪に入れられれば問題ないけどサーラとスノウが一緒だからな。山の中には鉱山みたいな洞窟もあって、川には魚も泳いでいるという話をスノウから聞いたから今後必要になるかもしれない。


あとクリーンアップという魔法の巻物を購入した。埃や汚れを落とせるクリーンアップの魔法は便利だと思ったからだ。ちなみに冒険者にはあまり人気はないらしい。ゲームの中で汚れても気にしないのか?仮想とはいえ臭いもあるぞ?ただ5割引きでお得感満載だった。それに爆裂石(下級)なども購入する。いろいろ試したいこともあるのだ。


「サーラさん、スノウさん、今日は本当にありがとうございました」


宿屋に向かう道を一緒に歩きながら感謝を述べるとサーラとスノウが笑った。だいぶ緊張も解けてきているようだ。


「カリツ君、せっかくフレンドになったんだからサーラでいいよ?」


「私もスノウって呼んでくれれば嬉しいかも」


・・・・・呼び捨ては恐れ多いと言いますか、何と言いますか。ごねたのですが強硬に主張されて呼び捨てにすることになってしまいまする。


「じゃあ、俺のこともカリツで」


そう言うと二人の赤い顔がさらに赤くなった。なんかデジャヴ。いや、まさかね。


「「な、なに?」」


俺が二人の顔を見ていると二人が顔を背けてしまう。


「いや、リアルで同じような反応する女子がいて」


「「ひゅっ」」


俺がそう言うと二人が息をのむ音が聞こえる。


「そ、そそそそそ、その女の子は・・・・・」


「お、見つけた」


うしろから声がかかって肩を掴まれた。たしかセカンデイルに着いたら連絡すると言っておいたんだけどな。


振り返ると全身真っ黒で揃えている4人組がいた。闇落ちか。黒騎士なんか皮膚を露出しているところなく全身が鎧で覆われているから人相もわからない。闇神官と死霊魔術師もフードを深くかぶっているので口元しか見えないし、唯一顔が露出している狂戦士は残忍な笑みを浮かべている。ちなみに狂戦士は上半身も裸の蛮族かと思えるものだった。


「お前ら、よく、その恰好で街に入ってこれたな」


ダメだろ、TPO的に。


「なに言ってんだ。お前よりは冒険者っぽいだろう?」


黒騎士サン(朝陽)の鎧を通した若干ビブラートがかかった声が反論する。たしかに俺の村人装備第二弾に比べれば冒険者っぽい、のか?


「カリツ、その二人は?」


闇神官のユート(結人)から聞かれる。何と答えればいいのか。


「連行中か?」


狂戦士レーン(蓮)が納得したようにサーラとスノウに尋ねる。


「「・・・・・」」


無言の圧力を感じた狂戦士が頬に汗を流しながら後退る。俺の肩に置いた手を放して死霊魔術師ソウ(蒼空)も後退りした。


「サ、サーラ?スノウ?」


俺の声かけも空しく二人の圧は消えない。


「「馬に蹴られて死んじまえーーーーっ!!」」


黒い4人に白い2人が絶叫を浴びせる。スノウが手元で何か操作しているが、次の瞬間ローマのコロシアムのような石造りの建物に移動した。


中央で黒い4人と白い2人が対峙している。サーラとスノウの近くに魔法陣が2っ光り、地面から人影が浮き上がってくる。リーンとアオイが現れて黒い4人と白い4人となったのを俺は一段高い観客席のようなところで確認する。


「サーラ、スノウ?どういうこと?」


「「ぶっ潰~すっ!」」


リーンの問いかけに二人が即答する。いや、女の子がそんな物騒なこと言っちゃダメでしょ。


中央2組のパーティーが対峙する頭上に文字が浮かび上がる。


『Party 天使(あまつかい)(つるぎ) vs Party 黒翼(こくよく)


パーティー戦?


「望むところだぁ!最前線のガチ勢どもがぁ!」


「廃人相手だろうがやってやるぜぇ!ジャイアントキリング(番狂わせ)じゃぁ!」


狂戦士と闇神官もテンションがおかしくなっている。なんかやられ役の雑魚キャラっぽいと感じるのは俺だけか?


一瞬触発の状況で新しい影が召喚?される。


「ファストラスでは珍しいパーティーバトルっ!しかも最前線プレイヤーパーティー天使の剣と中堅パーティーでありながら全員闇落ちしている罪深き黒翼という好カードだぁ!」


テンション高いな、おい。


「実況はAIアイドル、私、レアーちゃん。解説はAIおじさん、クロノスさんで行います!」


「よろしくお願いします。解説のクロノスです」


対人戦はすごいな、実況、解説も入るのかよ。そういえば俺の後ろ観客席っぽいところには続々と冒険者たちが転移してきていた。初心者が多いファストラスで高LVプレイヤー同士の対人戦なんてなかなか観れないだろうからみんな興味があるようだ。


「では、勝敗は最後の一人になるまで戦う殲滅戦。この場で相手プレイヤーをキルしても名前は赤字になりません!もし武器が破壊されたりアイテムを使用したとしても試合後には試合前と同じになっています。存分に戦ってくださいっ!」


なるほど。


「レディー、ゴーッ!」


実況のレアーが号令をかけると8人はそれぞれ戦闘態勢に入る。リーンもアオイも嫌いではないようだ。なに?あのリーンの武器?形状はモーニングスターだけど棘の付いた鉄球の直径が1mくらいあるぞ?盾を装備していない右手で振り回してるけどあの細身でどんだけ力あるんだ?


「おー、リーン(守護者)選手、大盾を構えながら右手でモーニングスターを振り回す。さながら周りは竜巻のようだぁ!」


「対する黒翼はソウ(死霊魔術師)選手が呪文を唱えて死者の魂を強制的に地上に引き摺りだしているぞぉ!」


「いや、悪手ですね。おそらくスノウ(大司教)選手の呪文で消し飛ばされてしまうでしょう」


実況のレアーが場を盛り上げるもクロノスが淡々と解説する。解説は適切のようでスノウが呪文を唱えると地表が広範囲で光り、死霊たちは掻き消されていった。


サーラ(聖騎士)選手は自分にバフをかけて攻撃力アップ、バフのてんこ盛りだ!ああっ!ユート(闇神官)選手は気でも違ったのかっ!味方にデバフをかけてるぞっ」


確かにユートがサン(黒騎士)にデバフを何重にもかけている。その間にもソウが死霊を呼び出し、それをリーンがモーニングスターで蹴散らし、アオイ(大魔術師)が炎の魔法を連打し、サーラが切りつけ、スノウが呪文で掻き消し、レーン(狂戦士)も両刃の斧で殴りつけている。うん?


「黒翼は何をやっているのか意味不明です!自分たちで状況を悪くしているとしか考えられませんっ!ああっ、遂に、遂にっ、リーン選手のモーニングスターがサン選手に放たれました!サン選手ダウンかーっ!」


「利不利反転っ!」


レアーが叫ぶように実況する中、サンが負けじと叫ぶ。利不利反転?スキルか?


サンが叫んだのと同時にサンから尋常ではない圧が放たれる。モーニングスターが直撃するもサンは微動だにせず立っていた。


「なんだ?なにが起こったんだぁっ!」


「利不利反転。バフとデバフを反転させるスキルですね。これはサーラ選手の天敵ともいえるスキルじゃないでしょうか」


「それだけじゃぁねえぜっ!」


クロノスが解説するのと被せるようにレーンが叫ぶ。


「お前らには意味不明だろうけどなぁ!今までのが俺たち必勝のコンボよっ!死霊どもを呼び出すことで()()()()()()、そいつらを倒すことで俺たちの、狂戦士と黒騎士の力を増幅させるっ!」


そうか!


狂戦士は攻撃回数で、黒騎士は仲間が死亡し、減った場合にそれぞれ能力値が上昇する。つまり死霊(なかま)を呼び出し、狂戦士が攻撃を仕掛けることで狂戦士を強化、倒すごとに黒騎士が強化される。しかも闇神官のデバフを反転し能力強化を重ね掛けする。よく考えたな、脳筋ども。


「こ、れ、で、どおだぁっ!」


サンがヘヴィーアックスを振り回すとリーンがモーニングスターを振り回した時と同じように風が巻き起こる。そのままの勢いでリーンの大盾に叩きつけてリーンを吹き飛ばした。


「あ、お姉さ~ん、ビールと串焼き!ビールはキンキンに冷えたやつね!」


すげー、すげーぞ。対人戦。ぷはー、ビールがうまい!

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