さ左遷!?(栄転)
「なんで・・・どうして・・・」
リナは怒っていた。いや、絶望していた。ようやく安定した職につけたと思ったのも束の間、とんでもないところに左遷、いや世間から見れば栄転か?まあとにかく、飛ばされることになったのだ。とても遠い国へ。
ここは多くの種族、生き物が住む星。理性のある生き物達はそれぞれ国を形成していき、あまたの国ができていった。
リナことリナーリャが生まれたのは人の国。一般階級の出身であるリナは城勤めを目指していた。
(ようやく、叶ったと思ったのにな・・・)
先日公務員試験に合格し、見事事務官になったのだが
「どうして戦闘種の国に行くことになってるの・・・」
そう。なぜか勤務地が変わることになったのである。
時はさかのぼり今日の午前。
「あ~、リナーナくん?」
「はい」(リナーニャですけど)
いつも自分の名前を間違えてくるよぼよぼ上司が困ったような顔で話しかけてきた。
「君は戦闘種についてどう思ってるかね?」
「戦闘種、ですか?」
「うむ」
「その名の通り個々の戦闘能力が非常に高く、寿命も長い。我が国としてはぜひ友好関係を築いていきたい種族・・・でしょうか」
「うんうん」
「?」
「そうだよね。仲良くしていきたいよね。彼らとは。」
(ハッ。とてつもなく嫌な予感!)
何かとてもまずいことが起ってしまいそうな雰囲気に汗が止まらなくなってきたリナ。
「じゃ、君行ってこようか」
「え?」
「君は来月から戦闘種の国勤務で。じゃあ、よろしくね~」
「え?ちょっと待ってくださいどういうことですかというか来月?訳が分からないんですけどあのすいませんそれは私の手に負える仕事なんですか断ったら」
「ああ。給料は今の5倍になるからね。」
「え?やったーってちょっ!」
おかしいとは思っていたのだ。城での勤務はなぜかほぼ一人で資料の整理など。なぜほかに同期やらなんやらがいないのかと思っていたのだ。
「つまりは都合よく飛ばせる人間が欲しかったってことかー!」
ドン!
「おい!うるさいぞ」
「あ、」
隣の部屋の住人からの声で我に返る。
ちなみに向こうの国で何かやらかした場合。「それなりの誠意は見せなきゃね」だそうだ。
(あいつら絶対私は家族がいないし、首飛ばし(物理)ても誰も困らなそうとか思って採用しただろ!)
イライライライラ。
(よし。分かった。)
「ぜってー生き抜いてやっからな!」
「だからうるせえぞ!」
「あ」
(この方が新しい上司か・・・)
そして翌月。リナは戦闘種の国のお城、つまりは新たな勤務地へと来ていた。
(それにしても・・・)
「あ、あの」
「デカいな」
(この前まで私が住んでた部屋の天井くらいはあるか?)
「え?」
「え?」
「あえっと」
「ああ。改めまして本日付けでこちらに勤務させていただきます。リナーニャです」
「あ。えと、りなーぬあさん・・・」
(噛んだ・・・)
「う、ごめんなさい・・・えっと」
大きい図体をしているにもかかわらずこの戦闘種はずいぶん謙虚な気がする。
「呼び辛いようでしたらリナで」
「すみません・・・えーと。改めましてリナさん。ようこそ。私はサガリ。あなたの上司です」
「はい。よろしくお願いします。」
(首が疲れてきたな)
リナは人間の中でも比較的小柄な方なのでサガリを見上げると首の角度がえげつないことになるのであった。
「では早速業務内容を・・・」
「あの」
「はい。なんでしょう」
「差し支えなければ、座っても?」
「あ!すみません、気をつかえず・・・長旅でさぞお疲れでしょう。どうぞお座りください」
そういってサガリは部屋の奥にあるテーブルと椅子を指さす。
(椅子、でっか~)
さすが体の大きい種族。椅子も人間のものとは違っていた。
「では失礼いたします」
そういってリナが椅子に座ろうとすると
「サガリ~!人間来たってほんと~!?」
バーン
(いやうっさ)
勢いよく扉を開け入ってきたのはサガリと同じ戦闘種であった。
「に、ニタ~」
「なによ人間独り占めにして~私にも見せなさい!」
(これは・・・あいさつした方がいいな。うん。)
「初めまして。人間の国より参りました。リナーニャです。呼びにくいようでしたらリナ、とお呼びください。」
「リナちゃん!かわいい!かわいいわ!」
(この方は・・・女性なのかな?)
「うふ。はじめましてね。私はニタ。サガリの同僚よ~それにしてもリナちゃんの髪の毛かわいいわね!それ、三つ編みっていうんでしょ~?今度アタシにもやってちょうだい」
(え?髪の毛ある?)
戦闘種の姿かたちは本当に様々なのだがこのニタと名乗った戦闘種は頭部が兜状になっており、髪の毛が生えているかさえも分からない
(まあいっか。)
「分かりました」
「うふ。楽しみにしているわ」
(うん?話がだいぶ脱線しているな?)
この戦闘種は何をしに来たのだろう。
「ニナ。まだ仕事の説明終わってないから。」
「あら~そうなの?じゃあアタシから説明してあげる。ズバリね」
「はい」
「戦闘後の私たちのケアよ~」
「?」
(うん?もしかしていかがわしいことだったりするカナ?)
すっかり失念していた可能性に冷や汗が止まらない。
「え。あの、あの」
混乱しすぎてなにも言葉が出てこない。
「なんだい?」
「さすがに女性限定とかそういうことですよね?」
何とか絞り出した言葉には
「女性?ああ。もしかして知らないかい?」
「はい?」
「私たちの種族って女性、男性とかないわよ?」
「え?」
余計リナを混乱させる回答が返ってきたのであった。
「確か無性別っていうのかな。」
「へ、へえ~」
(頼む。マジであってくれ!私をだますための嘘とかだったら終わる!)
「それで、君に任せたいのは僕らと一緒に戦闘終了後の仲間たちのもとへ行ってけがの治療後、困ってることはないか、とか、必要な物資を聞いて届けるとかっていう仕事なんだけど」
(あらやだ全然健全だった)
「やります。」
(いかがわしくないならそれはもうやらせてもらいますとも。あれ?)
「あら。いい返事。」
「・・・でも、なんでわざわざ人間の手が必要なんですか?」
(やばい絶対なんかある!)
「あ~それはね」
「一言でいうと、私たちの種族が不器用すぎるから、かしら?」
「ほぉ・・・?」
「僕たちは戦闘に特化しすぎて、そのほかのことが全然できないんだ」
「そおなのよ。だから器用な種族が必要だったってわけ」
「なるほど。そうでしたか。分かりました」
(いやそれだけなわけないだろ!?・・・まあ今は言及しないが吉かな・・・とりあえず)
「では、これからよろしくお願いします。」
ニコリとサガリさんが微笑む
「よろしくね~」
「はい。お世話になります。」
(生きていけますように。)
そう願いつつ深々とお辞儀をした。
「じゃあリナの部屋に案内するね」
「あ、ありがとうございます」
と、こうしてリナの戦闘種の国での生活は始まったのであった。
(いやベッドでかいな!)
価値観や物のデカさに戸惑いながら。