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プロポーズ

 隣に座る銀髪の女性を見つめ、私は見守ることを決める。

『どうか、後悔のない選択を』と願う私を他所に、ルパート殿下は表情を引き締めた。


「亡くなった家族の穴を埋めるには心許ないかもしれないが、私なりにアイリス嬢のことを愛し、守り、幸せにすると誓おう」


 青い瞳に確かな意志と覚悟を宿し、ルパート殿下は真摯な思いを伝える。

すると、アイリスは小さく瞳を揺らした。


「な、何でルパート殿下がそんなことを……」


 単なる同情や親切にしては度が過ぎているため、アイリスは困惑を示す。

泣き腫らした顔に戸惑いを滲ませる彼女の前で、ルパート殿下は迷わず


「アイリス嬢を好いているからだ」


 と、答えた。

その途端、アイリスは目を見開いて固まる。


「はっ?好い……えっ?」


 動揺のあまり言葉にならないのか、アイリスは言い淀んだ。

目を白黒させて狼狽える彼女に、ルパート殿下はスッと目を細める。


「驚くのも、無理はない。なんせ、私も先程自覚したばかりだからな」


 ……はい?『先程、自覚したばかり』ですって?

つまり、ルパート殿下は恋心を自覚して直ぐにプロポーズしたってこと?


 『なんという行動力……』と心の中で呟き、私は呆れにも感心にも似た気持ちを抱く。

と同時に、ルパート殿下が立ち上がった。


「返事は急がなくていい。ゆっくり考えて、答えを見つけてくれ」


 呆然とした様子のアイリスを気遣ってか、ルパート殿下は猶予を与える。

『今日のところはこれで失礼することにしよう』と告げる彼を前に、アイリスは顔を上げた。

かと思えば、ルパート殿下の服の袖を掴む。


「────なってください、私の新しい家族に」


 少しばかり身を乗り出し、アイリスはルパート殿下のプロポーズに応えた。

なんだか勢いに任せて返事しているような印象を受ける彼女に対し、ルパート殿下は僅かに目を見開く。


「それは私の妻になることを承認した、と見て……アイリス嬢も私のことを好ましく思っている、と見ていいのか?」


「はい」


 間髪容れずに首を縦に振り、アイリスは青い瞳を真っ直ぐ見つめ返した。


「私は強くて、真っ直ぐなルパート殿下のことを────以前より、お慕いしておりましたので」


 『最初はただ憧れているだけだったんですが』と明かすアイリスに、ルパート殿下はもちろん……私も衝撃を受ける。

そんな話、初耳だったので。

『いや、もっと早く言ってよ……』と項垂れる私を他所に、ヴィンセントがパンッと手を叩いた。


「じゃあ、二人は両想いということだね。おめでとう」


 『僕は二人の仲を祝福するよ』と告げ、ヴィンセントはふとこちらを見る。

と同時に、少しばかり表情を和らげた。


「これで気兼ねなく、僕達も結婚話を進められるね」


「えっ?あっ、うん。そうね」


 ルパート殿下とアイリスの恋話に気を取られ、自分の結婚などすっかり忘れていた私は内心苦笑を漏らす。

『そういえば、事の発端は私の輿入れ関連だったな』と思い返して。


「えっと……とりあえず、大団円でいいのかしら?」


「ええ、お姉様と離れ離れになるのは辛いけど、ルパート殿下も一緒なら多分大丈夫だと思うから」


 アイリスは自身の胸元に手を添え、どことなく柔らかい表情を浮かべた。

きっと、ルパート殿下という心強い味方を得られて安心したのだろう。

まだ家族の死を乗り越えられた訳じゃないと思うが、少なからず心に余裕を持てたようで良かった。

『家を出るにあたっての不安が、一つ減った』と思案する中、アイリスはチラリとこちらを見る。


「さっきは無茶を言ってごめんなさい、お姉様」


 『行かないで』と引き止めたことを詫びるアイリスに、私は小さく首を横に振った。


「いいのよ、謝らないで。私も逆の立場なら、同じことをしたかもしれないし……何より、アイリスの気持ちは凄く分かるから」


 『いきなり一人になるのは怖いわよね』と理解を示し、私は優しく頭を撫でる。

────と、ここでヴィンセントが足を組んだ。


「さて、話もまとまったことだし、今後の方針を立てていこうか」


「「「方針?」」」


 反射的に聞き返す私達は、顔を見合わせて首を傾げる。

『まだ話し合うことなんてあるのか』と戸惑う私達を前に、ヴィンセントは顎に手を当てた。


「ルパート殿下とアイリス嬢の婚姻問題について、色々と話し合う必要があるんだよ。このままじゃ、二人────結婚出来ないからさ」


 サラッととんでもないことを口にしたヴィンセントに、アイリスとルパート殿下は直ぐさま反応を示した。


「なっ……!?どうして!?私もルパート殿下も特に婚約者なんて居ないんだから、問題は……!」


「もしや、私達の仲を邪魔するやつが居るのか?なら、今すぐ排除しよう」


「お二人とも、落ち着いて。僕の言いたい問題は全く別のものです」


 片手を上げて二人を制しつつ、ヴィンセントは苦笑いする。

と同時に、居住まいを正した。


「端的に言うと、それぞれの立場による弊害ですかね」


「!」


 『立場』という単語にハッとして、私は大きく瞳を揺らした。

ようやく、ヴィンセントの言わんとしていることを理解したため。

『そうか、だから……』と納得しながら、私は顔を上げる。


「────エーデル公爵家を継ぐ立場のアイリスと次期皇帝を目指す立場のルパート殿下は、互いに嫁入り婿入り出来ないから、結婚不可能ということなのね」


 アイリスが嫁入りすればエーデル公爵家を継ぐ者が居なくなるし、ルパート殿下が婿入りすれば皇位継承権争いを放棄することになる。

他家へ嫁ぐ者を皇帝にする訳には、いかないから。

『権利関係が滅茶苦茶になるもの』と苦悩する中、アイリスとルパート殿下は静かになった。

多分、衝撃のあまり放心しているんだと思う。


「そう、セシリアの言う通り。だから、色々話し合いたいんだ。二人の未来のためにね」


 ヴィンセントはアイリスとルパート殿下の仲を応援したい意向を示し、真剣な顔つきになる。


「出来れば、エレン殿下ともう一度会う前に方針を立てておきたいかな」

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