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祖父の所在

◇◆◇◆


 ────あのあと、直ぐにクライン公爵家を後にした私達は急いで皇城へ向かった。

そこでルパート殿下やエレン殿下と合流し、“混沌を律する剣”の封印を解いてもらう。

と言っても、あくまで一時的なものだが。


 一応、封印解除の許可はロジャー皇帝陛下からもらっているけど、無制限で能力を解放する訳にはいかないから。

それに再封印の手間も、あるし。


 などと考えつつ、私はふと客室を見回した。


「あの……つかぬことをお聞きしますが、お祖父様は今どちらに?」


 『別室で待機しているのかしら?』と思案しつつ質問を投げ掛けると、彼らはそっと目を伏せる。

どこか、暗い雰囲気を放ちながら。


「……フランシス卿なら、前公爵の相手をしておる」


 ロジャー皇帝陛下が代表して祖父の現状を口にし、俯いた。

“均衡を司りし杖”を使用している者に立ち向かうことがどれほど危険なのか分かっているため、こちらに顔向け出来ないのだろう。


「一応避難するよう呼び掛けたんだが、『息子の癇癪を諌めるのは、親の役目だ』と言って行ってしまった。止められなくて、すまない」


 『引き戻そうにも、下手に近づけなくてな……』と言い、ロジャー皇帝陛下は一つ息を吐く。

エメラルドの瞳に憂いを滲ませる彼の前で、私とアイリスはゆらゆらと瞳を揺らした。

『お祖父様は無事なのか』とか、『お父様なら、肉親でも攻撃しかねない』とか考えると不安でしょうがないため。


「わ、私……お祖父様を助けに行ってきます!」


 祖父の一大事に居ても立ってもいられず、私はソファから立ち上がった。

すると、アイリスも同様に席を立つ。

ヴィンセントから、借りた剣や鞭を手に持って。


「私も行きます」


 曇りのない眼でこちらを見据え、アイリスは表情を引き締めた。

────と、ここでヴィンセントがパンッと軽く手を叩く。


「二人とも、一旦落ち着いて。気持ちは分かるけど、今は会議を優先するべきだよ」


 『話し合いの結果次第で対応も変わってくるし』と正論を並べ、ヴィンセントはこちらを説得してきた。

が、私もアイリスも席へ戻ろうとしない。


「ヴィンセントの言い分は、正しいと思う……でも、一刻を争う事態である以上じっとしていられないわ!」


「部屋に籠って悠長に話し合いなどしている暇は、ありません」


 『その間にお祖父様の身に何かあったら……』と懸念を零し、アイリスは私の手を取って歩き出した。

と同時に、ヴィンセントが少しばかり声を低くする。


「セシリア、アイリス嬢。ここへ来るときの約束、覚えているよね?」


「「……」」


 『(ヴィンセント)の指示には、絶対従うこと』というセリフを思い出し、私達は立ち止まる。

でも、祖父の安否を思うと席へ戻る気にもなれず……判断を迷った。

出口の扉とヴィンセントを交互に見る私達の前で、彼は困ったように笑う。


「あのね、二人とも。僕達は別にフランシス卿のことを見捨てるつもりなんて、ないんだよ。むしろ、心情的には今すぐ駆けつけたいところ……だけど、考えなしに突撃したっていい結果にはならないだろうから、対策なり作戦なり立てたいんだ」


 優しい声色で『分かってほしい』と理解を求め、ヴィンセントは自身の胸元に手を添えた。


「大丈夫、そんなに時間は掛からない筈だから」


 『戻っておいで』と述べる彼に、私とアイリスはもう何も言えなかった。

ただただ指示に従って、再度ソファに腰を下ろすだけ。


 よく考えてみれば、私達だけ現場に行っても意味ないわよね。

“混沌を律する剣”がなければ、“均衡を司りし杖”を持つお父様へ反撃出来ないのだから。


 『“無駄死に”や“お荷物”になっていたかも……』と冷静に考え、私は表情を強ばらせた。

今更ながら、自分がどれだけ無茶なことをしようとしていたのか理解して。

『最近、色んなことがありすぎて思考力と判断力が落ちているのかしら』と悩む中、エレン殿下が席を立つ。


「さて、皆の足並みも揃ったことだし、そろそろ会議を始めようか」


 場の空気を明るくするためか、エレン殿下はハキハキと喋った。

かと思えば、少しばかり表情を引き締める。


「まず、先に伝えておきたいんだけど────此度の一件の黒幕……前公爵に“均衡を司りし杖”を渡した人物は、恐らくマーティンとメリッサ皇妃殿下だと思う」


「「「!?」」」


 まさかここでその二人の名前が上がるとは思わず、私達は大きく目を見開いた。

『まさか、我が家の襲撃に失敗したから……!?』と混乱する私達を前に、エレン殿下は手を組む。


「それなら、“均衡を司りし杖”の封印が解かれていたのも納得だし。何より、現在二人の行方を掴めていないんだよ」


 『二人の自室はもぬけの殻だった』と明かし、エレン殿下は小さく肩を落とした。

みすみす逃亡を許してしまったことに、多少責任を感じているらしい。

『もっと、彼らの動向に気を配るべきだった』と反省する彼を前に、私は目頭を押さえる。


「つまり、お父様は時間稼ぎ要員として使われているということですか?」


「多分ね。まあ、本人にその自覚はないだろうけど」


 『ただ現状を打破しようと、足掻いているだけだから』と言い、エレン殿下は自身の顎を撫でた。

と同時に、こちらを見据える。


「とにかく、こちらは二手に分かれて動く必要があるということだ」


 マーティン殿下とメリッサ皇妃殿下の確保も、父の鎮圧も同じくらい重要なことだからどちらか一方に労力を割く訳にはいかない、と言いたいのだろう。


「とりあえず、クライン小公爵には前公爵の鎮圧を担当してもらうとして……」


 “混沌を律する剣”を使わないと父に太刀打ち出来ないため、エレン殿下は早々にヴィンセントの配置を決定した。

それに対し、誰も文句は言わない。

全員、同じ意見だったので。


「問題は残りのメンバーをどちらに割り振るか、だね」


 エレン殿下は少し悩むような素振りを見せ、窓の方に視線を向ける。

こうしている間にも、事態は着実に動いているためちょっと焦っているようだ。

『いっそのこと、派閥ごとに分けるか?いや、でも……』と考え込む彼を前に、ヴィンセントが手を上げる。


「でしたら────セシリアとアイリス嬢をこちらへ割り振ってくれませんか?残りのメンバーはマーティン殿下とメリッサ皇妃殿下の確保及び皇城の警備に、割り当てていただいて構いませんから」


「「「!!」」」


 かなり偏った役割分担に、私達は動揺を示した。

その戦力で前公爵()を鎮圧出来るのか?と。


 自分で言うのもなんだけど、私とアイリスはそこまで強くない。

能力値だけは高い程度。

だから、力任せに戦って勝てる相手なら問題ないけど……真の実力者や自分より力の強い存在には、敵わない。


「ヴィンセント、せめてルパート殿下には助力をお願いした方が……」


 堪らず異論を唱える私に対し、ヴィンセントは小さく首を横に振る。


「いや、ルパート殿下はあちらに割り当てた方がいい。前公爵の鎮圧では、基本的に遠距離攻撃をメインにして戦うから。接近戦を得意とするルパート殿下では、ちょっと相性が悪い」


「い、言われてみれば確かにそうね」


 『適材適所』という言葉を脳裏に思い浮かべ、私は納得を示した。

と同時に、ヴィンセントはエレン殿下やルパート殿下の方へ目を向ける。


「僕はこのように考えていますが、殿下達はどう思いますか?」


「異論はないよ。むしろ、有り難いね。ルパートが居てくれれば、マーティン達の反撃に遭っても安心だから」


「私はヴィンセント側の戦力が足りているなら、この采配で構わない」


 エレン殿下もルパート殿下も、わりとすんなりヴィンセントの提案を受け入れた。

────と、ここでロジャー皇帝陛下が顔を上げる。


「では、その役割分担で行くとしよう。して、皇城の警備は誰が請け負う?」


 残ったメンバー全員がマーティン殿下とメリッサ皇妃殿下の確保に当たっていたら、皇城を切り盛りする人物が居なくなるため、ロジャー皇帝陛下は留守番役を決めようと持ち掛けた。

すると、ルパート殿下が真っ先に手を上げてこう言う。


「自分には、無理です。勝手がよく分からないので」


 最近こちらに戻ってきたばかりで、知識・経験ともに不足しているルパート殿下は素直に辞退を申し出た。

これには、皆『しょうがない』と理解を示す。

さすがに右も左も分からない初心者へ割り振れるような仕事では、ないため。

『最悪、城の守りが崩壊する』と思案する中、エレン殿下はチラリとロジャー皇帝陛下の顔色を窺った。


「私は一通りの業務をこなせますが、まだまだ若輩者なのでここは父上にお願いしたく……」


 第二皇子派の粛清は自分の役目という意識があるからか、それとも報復する機会を奪われるのが嫌なのか、エレン殿下はやんわり警備を断る。

『慣れている父上に任せるのが、一番』と説く彼を前に、ロジャー皇帝陛下は手を組んだ。


「分かった。では、マーティンとメリッサの確保は頼んだぞ」


 皇城の警備を快く引き受け、ロジャー皇帝陛下は席を立つ。

と同時に、真っ直ぐ前を見据えた。


「会議はこれでお開きだ。より詳しい話し合いは、各自で行ってくれ」

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