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襲撃と逃亡

「ですから、お二人には万が一のことを考えてここから脱出してほしいんです。もし、あなた方に何かあれば……」


 その先のセリフは敢えて口にせず、アルマンは強く手を握り締めた。

どこか怯えているような……何かを恐れているような素振りを見せる彼の前で、私とアイリスは互いに頷き合う。


「状況は分かりました。そういうことなら、早く避難しましょう」


 ここに居ても騎士達のお荷物になってしまうため、アルマンの提案を受け入れた。

すると、彼はホッとしたように肩の力を抜いて扉の縁に手を掛ける。


「では、こちらへ」


 『一先ず、一階を目指します』と述べるアルマンに、私達はコクリと頷いた。

二階に居たままでは、玄関からの脱出も窓からの脱出も不可能なので。

『一階にはきっと敵も居るだろうけど、行かなきゃ』と奮起し、部屋を出た。

そして、アルマンに連れられるまま廊下を突き進むと、中央階段に辿り着く。


「────やっぱ、来たか」


 そう言って、階段の手すりから身を起こしたのは仮面を被った見知らぬ男性だった。

黒のローブに身を包み、剣を携える彼は同じような格好の仲間を何人か従えている。


 どうやら、待ち伏せされていたみたいね。

まあ、屋敷の状態と私達の身体能力を知っていれば逃亡を図るため階段へ来るのは分かるか。


 『むしろ、そう誘導されていた可能性も……』と考え、私は身構える。

アイリスやアルマンも臨戦態勢へ入り、相手の動向を見守っていた。


「なあ、一応聞くんだが────大人しく、投降するつもりはないか?」


 仮面の男性は少しばかり身を乗り出し、こちらに選択肢を与える。

と同時に、腕を組んだ。


「そしたら、お前らに危害は加えない。こっちの目的は暗殺じゃないからな」


 『ここは平和かつ穏便に行かないか?』と提案してくる仮面の男性に、私達は少し戸惑う。

ここまで派手に暴れておいて、身の安全を保証するようなことを言うなんて思わなかったから。

まあ、単にこちらを油断させるための罠かもしれないが。


「せっかくのお話ですが、遠慮しておきます」


 色々と不確定要素が多い上、相手のことを信用出来ないので提案を突っぱねた。

すると、仮面の男性は『チッ!』と舌打ちして剣を抜く。


「本当は怪我をさせずに、捕まえたかったんだが……しょうがない。強引に行くぞ」


 仲間に向かって指示を出し、仮面の男性は剣先をこちらに向けた。

かと思えば、一気に距離を詰めてくる。


「お二人とも、私から離れないでください」


 まだ敵が潜んでいる可能性を危惧してか、アルマンはあくまで傍に居るよう指示した。

『分かった』と了承する私達を他所に、彼は短剣を構える。

その途端、硬いものがぶつかり合う音が木霊した。


「「アルマン……!」」


 私とアイリスは思わず大声を上げ、少しばかり表情を強ばらせる。

というのも────アルマンが文字通り身を呈して、敵の攻撃から守ってくれたため。


 仮面の男性の剣撃以外は、ほぼ全て体で受け止めている……後ろに私達が居るから。


 床に飛び散ったアルマンの血を見やり、私は腰を抜かしそうになった。

目の前で誰かが傷つけられる、という状況に慣れてなくて。

恐怖と不安でいっぱいになる私を前に、アルマンは一先ず仮面の男性の剣を跳ね返す。


「大丈夫です、急所は避けましたから」


 動揺している私達を落ち着かせるためか、はたまたこれが素なのか……アルマンは冷静に答える。

と同時に、素手で掴んでいた敵の剣を引っ張り、奪った。

横腹や太腿に突き刺さった剣も、同様。


「とりあえず、さっさと片付けます」


 血だらけの手には目もくれず、アルマンは再び剣を構える。

なので、敵側は少し及び腰になった。

仮面の男性以外、武器を失ったせいだろう。

『素手で応戦するしかない』という状況を前に、彼らはひたすら剣の動きに集中する。

それが最大のミスだとも、気づかずに。


 さすがはヴィンセントの部下とでも、言うべきかしら。強いわね。

何より、戦い慣れている。


 敵の視野が狭くなったのを察知して即座に階段から蹴り落としたアルマンに、私は感心した。

普通は武器を持っていたら、それに頼りがちになるので。

場所、位置、状況……あらゆる要素を加味して、臨機応変に動けるのは素晴らしかった。

『私には、こんなこと出来ないな』と考えつつ、ドミノ倒しのように階段から転げ落ちていった敵達を一瞥する。


「あとは、仮面の男性だけ」


 唯一転倒被害に遭わなかった彼を見据え、私は少しホッとした。

これなら勝てる、と確信して。


「クソッ……!」


 仮面の男性は苛立ちを露わにし、ギシッと奥歯を噛み締める。

せっかくの数の利が、あっさり覆されて焦りを覚えているのだろう。


 剣技だけなら恐らくアルマンの方が上だし、私達も居るから。

あちらの目的とやらを達成するのは、もう不可能。

となると、次に取る行動は────。


「覚えていろよ……!」


 階段の手すりを掴み、ジャンプする仮面の男性は一気に一階まで降りた。

かと思えば、一目散に逃げていく。

階段の踊り場で気絶している仲間には、見向きもせずに。


「薄情ね、あの男」


 どんどん遠ざかっていく足音を聞き流しながら、アイリスは小さく肩を竦めた。

と同時に、こちらを見上げる。


「ところで、これからどうするの?敵はもう引き下がったみたいだし、屋敷に留まる?」


「いえ、予定通りここを出ましょう。まだ残党が居るかもしれないから。それに、また仲間を引き連れて仕掛けてくる可能性だってあるわ」


 『油断出来ない』と主張し、私は表情を硬くした。

が、血だらけのアルマンを見るなりハッとする。


「あっ、でも先にアルマンの手当てかしら?」


「大丈夫です、お気遣いなく」


 『先程も言いましたが、急所は避けてあるので』と述べ、アルマンは前を向いた。


「それより、早く移動しましょう」

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