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降伏勧告

◇◆◇◆


 ────ゲレル神官の訪問から、五日後。

ヴィンセントより、調査結果を報告された。

当然、その内容に私もアイリスも激怒。

徹底的に上層部を懲らしめることを誓い、神殿の制圧に立ち会う事となった。

ヴィンセントや祖父からは、強く止められたが。


 最初はエーデル公爵家の名誉挽回のために私達の同行も考えていたみたいだけど、さすがに危険だと判断したようね。

血統魔法の成功例もある以上、神殿に本気で抵抗されたら怪我を負うリスクもあるから。

最悪、死ぬ可能性だって……でも、それは皆も同じ。

私達だけ安全なところに居るのは、おかしいわ。

何より、あんな話を聞かされてじっとしている訳にはいかない。


 何の罪もない子供達の犠牲を嘆き、私は『絶対にこの手で助ける』と決意する。

アイリスも同様に覚悟を決め、本番に向けて訓練を重ねた。

少しでも多くの命を救えるように、と。

────そうこうしている間に時間は流れ、ついに当日を迎える。


「セシリア、アイリス嬢。君達はとにかく、自分の身の安全を最優先に動いてね。間違っても、怪我なんてしないように」


 ヴィンセントはいつもより厳しい口調で注意し、こちらの身を案じた。

黄金の瞳に僅かな憂いを滲ませる彼の前で、私とアイリスは素直に首を縦に振る。

心配してくれているのは、よく分かっているので。


「それじゃあ、僕はルパート殿下と最終確認を行ってくるからここで待っていて」


 『勝手にどこかへ行っちゃダメだよ』と言い残し、ヴィンセントは身を翻した。

その途端、騎士服の上に羽織っていた青いマントが小さく揺れる。


 今回、味方か敵か分かりやすくするために衣装を揃えたのだけど、一番似合っているのはやっぱりヴィンセントね。

黒と青を基調としたデザインだからかしら?


 などと思いつつ、私はふと集合場所の広場を見回した。

すると、同じ格好の人間をたくさん目にする。

その中には────ゲレル神官をはじめ、一部の神殿関係者も混ざっていた。


 結局、ゲレル神官に怪しい経歴はなかったから手を取り合うことになったのよね。


 身辺調査の結果を思い浮かべ、私は『まさに清廉潔白だった』と考える。

────と、ここでヴィンセントがルパート殿下を伴って戻ってきた。


「お待たせ。そろそろ、行こうか」


 『もうすぐ決戦の時刻に差し掛かるし』と言い、ヴィンセントは私の隣に並ぶ。

と同時に、騎士や神官達の方へ向き直った。


「皆の者、静粛に」


 パンッと大きく手を叩き、ヴィンセントは周囲から注目を集める。

途端に静まり返る広場の人々を前に、彼は背筋を伸ばした。


「では、ルパート殿下。全体に号令を」


「ああ」


 言葉少なに応じるルパート殿下は、真っ直ぐに前を見据える。

どこか凛とした面持ちで。


「神殿に蔓延る悪を滅するため、立ち上がった者達よ────機は熟した。これより、我々は神殿の本拠地へ赴く」


 そう言うが早いか、ルパート殿下は後ろを振り向いた。

かと思えば、すぐ傍で待機させておいた馬へ飛び乗る。


「私の後に続け、正義を執行するために」


 勢いよく拳を振り上げ、ルパート殿下は走り出した。

その瞬間、周囲から『おおぉぉぉぉおおお!!!』という雄叫びが上がり、移動を開始した。

ルパート殿下を追い掛けるようにして去っていく彼らを前に、私達も用意した馬車へ乗り込む。

そして神殿の本拠地へ直行すると、ルパート殿下の居る最前列に足を運んだ。


「じゃあ、まずは降伏勧告を行いますね」


 ヴィンセントは筒状に丸めた書類を広げ、ニッコリ笑う。

と同時に、目の前の白い建物を見上げた。


「今、神殿に居る全ての者達に告ぐ。即刻、扉を開けて降伏せよ。貴殿らの所業は、もう明るみに出ている。隠し立てしても無駄、と知れ」


 静かな……でもよく通る声で言葉を紡ぎ、ヴィンセントは腰に差した剣へ手を掛ける。

どこか、威圧感を放ちながら。


「要求に従わないのであれば、こちらは武力行使も辞さない。五分以内に、身の振り方を考えるといい」


 『五分以内に出てこなければ、押し入る』と宣言し、ヴィンセントは懐から懐中時計を取り出した。

恐らく、正確に時間を測るためだろう。


「ここまで来て待機なんて、焦れったいわね」


 アイリスは少しばかり眉を顰め、足の爪先で何度も地面を蹴る。

『待ち切れない』といった心情を露わにする彼女の前で、私は苦笑を漏らした。

────と、ここで神殿の扉が開く。


「あ、あの……これは一体、どういうことでしょうか?」


 そう言って、この場に姿を現したのは教皇聖下であるカイル・サム・シモンズだった。

状況についていけない様子の彼は、いそいそとこちらへ近づく。

でも、こちらの気迫に押されてか一定の距離を保っていた。


「我々には、このような仕打ちを受ける心当たりがありません。きっと、何か行き違いが……」


「────黙れ、外道が」


 堪らず口を挟み、一歩前へ出るルパート殿下は僅かに表情を険しくした。

珍しく嫌悪感を表す彼の前で、教皇聖下はたじろぐ。

その後ろに控える神官や聖騎士も、ちょっと及び腰になった。

この場にどこか緊迫した空気が流れる中、ヴィンセントは書類をあちらに見せる。


「非常に残念ですが、行き違いという線はありません。あなた方が孤児を使って非人道的な実験を行っているのは、もう分かっていますから」


 『証拠だって、あります』と強気に出るヴィンセントに、教皇聖下をはじめ悪事に加担したと思われる人間達は表情を強ばらせた。

まさか、バレているとは微塵も思わなかったらしい。


「そ、そんなことが……私は何も知りませんでした!きっと、一部の神官達の暴走でしょう!今すぐ、関係者を洗い出して身柄を引き渡すよう手配します!なので、どうか穏便に……!」


 教皇聖下はあくまで『自分は無関係』という態度を取り、何とかこの場を切り抜けようとする。

こちらはもう全て把握している、というのに……。


「そうですか。ここまで来て、まだ白を切り通すおつもりなのですね」


 ヴィンセントは冷めた目で教皇聖下を見つめ、一つ息を吐いた。

と同時に、剣を引き抜く。相手に見せつけるように、ゆっくりと。


「そちらがその気なら、こちらも遠慮しません────殿下、突撃の合図を」


 隣に立つ紫髪の美青年を見上げ、ヴィンセントはスッと目を細めた。

すると、ルパート殿下は小さく頷いて前を向く。

鞘から、少し剣身を覗かせながら。


「皆の者、掛かれ」

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