解決の糸口
「こちらとしては非常に有り難い提案だけど……君達はそれでいいのかい?」
『相手は神殿だよ?』と念を押し、エレン殿下はこちらの意向を確める。
さすがに厄介な問題を丸投げするのは気が引けるのか、随分と私達のことを気に掛けていた。
「構いません。一応、解決の糸口は見つけていますので」
えっ?そうなの?
と言いそうになるのを必死に堪え、私はヴィンセントのことを見つめる。
『ハッタリ……ではないわよね』と思案する私を他所に、彼はゆるりと口角を上げた。
「ただ、神殿の対処が終わるまでは派手な行動を控えていただけませんか?」
『第二皇子の粛清は神殿を片付けてから』ということを主張するヴィンセントに、エレン殿下はコクリと頷く。
「それはもちろん。まず、神殿をどうにかしないとマーティンを……帝国の膿を消せないからね。他にも何か要望があれば、出来る限り叶えるよ」
全面的に協力することを誓うエレン殿下に対し、ヴィンセントはニッコリと微笑む。
「では、第二皇子の牽制をお願いしたいです。今、ちょっかいを出されるのは困るので」
神殿のことで手一杯になる未来を案じ、ヴィンセントは盾役をお願いした。
すると、エレン殿下は
「いいよ、任せておいて」
と、快く応じる。
『わざと反感を買うなりして、こちらに意識を向けさせるよ』と言い、エレン殿下は顎に手を当てた。
「要望はそれだけでいいのかい?」
「はい」
「じゃあ────」
そこで一度言葉を切り、エレン殿下はソファから立ち上がる。
「────そろそろ、お開きにしようか」
部屋にある掛け時計を一瞥し、エレン殿下は扉の方へ向かう。
着用していたローブのフードを被りながら。
「先に失礼するよ」
『このあと、用事があるんだ』と語り、エレン殿下はこの場を後にした。
徐々に遠ざかっていく足音を前に、ヴィンセントがこちらへ視線を向ける。
と同時に、少しばかり眉尻を下げた。
「勝手に話を進めてごめんね、セシリア、アイリス嬢。『役割分担の方向で行こう』と決めたのが、今朝でさ。二人に連絡する暇が、なかったんだ」
事前に報告・相談出来なかったことを侘びるヴィンセントに、私とアイリスは首を横に振る。
「謝らないで、ヴィンセント。確かに驚きはしたけど、特に不満はないから」
「それに予め知らされていたとしても、『そうですか』と相槌を打つだけだったでしょうし」
『特段問題はない』ということを強調し、アイリスは少しばかり身を乗り出した。
「それより、先程言っていた『解決の糸口』とは何ですか?」
真剣な面持ちで前を見据え、アイリスは詳しく説明するよう求める。
神殿関係だからか、気になってしょうがない様子。
『上手く行けば、お継母様の仇を取れるものね』と考える中、ヴィンセントはルパート殿下に視線を向けた。
かと思えば、どちらからともなく頷き合う。
「実は今日の早朝、神殿を探らせていた部下から連絡があってね────大量の孤児を使って、何かの実験をしていることが判明した」
「「!?」」
私とアイリスはこれでもかというほど大きく目を見開き、固まった。
だって、孤児を使った実験なんて……絶対ろくでもないことだから。
『世間に公表せず、こっそりやっている時点で怪しいし……』と思いつつ、表情を強ばらせる。
「お継母様の話から孤児が酷い扱いを受けているのは知っていたけど、まさかそんなことまでしていたなんて……」
怒りとも悲しみとも取れる感情を抱き、私は唇を噛み締めた。
と同時に、ヴィンセントが小さく息を吐く。
「正直、気分のいい話じゃないよね。でも、実験の証拠を掴むことが出来れば神殿を一気に追い詰められる」
「狩猟大会の件だけでは対抗する材料に弱かったから、ある意味ちょうどいい。神殿を徹底的に糾弾して、子供を救うぞ」
ルパート殿下は確かな意志と覚悟を持って宣言し、グッと手を握り締めた。
青い瞳に僅かな怒りを宿す彼の前で、私とアイリスは
「「はい」」
と、返事する。
神殿に憤る気持ちは、同じだったので。
『こんなの絶対に許せない』と奮い立つ中、ヴィンセントはパンッと手を叩いた。
「今後は実験の調査に注力する事となる。実際に動くのは僕の部下だけど、神殿を糾弾する際はセシリア達の力も借りるかもしれないから心構えだけしておいて」
『それまでは待機』と言い渡し、ヴィンセントは席を立つ。
「それじゃあ、今日のところは解散しよう」
────という言葉を合図に、私達はそれぞれ家路についた。




