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第一皇子との密会

「今日のところは、これでお開きにしましょう」


 ────というヴィンセントの言葉により、私達は解散。

各々心身を休めて、いつも通りの毎日を送った。

その間、ルパート殿下がエレン殿下と連絡を取り、面会日時や場所を調整する。

もちろん、マーティン殿下に悟られぬよう細心の注意を払って。


 第一皇子派と第三皇子派が協力関係にあることを知れば、どのような行動に出るか分からないからね。

せめて、反撃の準備が整うまでは隠し通したい。


 などと考えているうちに、セッティングが終わり────本日、とある別荘で皆と顔を合わせることになった。

アイリスを連れてその場に現れた私は、直ぐさま頭を下げる。

というのも、私達以外もう全員揃っていたので。


「遅くなってしまい、申し訳ありません」


 各自ソファや椅子に腰掛ける男性陣を前に、私は一番最後の到着となったことを詫びた。

すると、エレン殿下がヒラヒラと手を振る。


「いやいや、謝る必要はないよ。約束の時間には、間に合っているのだから」


「それに私達も先程、着いたばかりだからな」


 ルパート殿下も『気にするな』と声を掛け、一先ず着席するよう促す。

と同時に、ヴィンセントがこちらへ視線を向けた。


「道中、不便はなかったかい?」


「ええ、全く。ヴィンセントのおかげよ」


 私とアイリスが安全かつ秘密裏に行動出来るよう色々手配してくれたため、正直かなり助かった。

屋敷を密かに抜け出すまでは、祖父や使用人の力を借りて出来るけど、約束の場所まで第二皇子派や神殿の目を掻い潜って移動するのは無理そうだったから。


 『最悪、欠席する羽目になっていた』と思案しつつ、私はアイリスと共に空いているソファへ腰掛ける。

────と、ここでエレン殿下がパンッと手を叩いた。


「さて役者も揃ったことだし、早速本題へ入ろうか」


 皆あまり暇じゃないため、エレン殿下は社交辞令やら前振りやら全て省略する。

これには、全員賛同した。

密会する時間が長くなればなるほど、敵勢力に気取られやすくなるので。


「まずは、君達の手に入れた情報とやらを聞かせてくれるかな?」


 『今後の方針を立てるのは、そのあと』と告げるエレン殿下に、ルパート殿下はコクリと頷く。


「もちろんです。ヴィンセント、説明を頼む」


「畏まりました」


 ルパート殿下より指名を受けたヴィンセントは、胸元に手を添えて一礼した。

かと思えば、背筋を伸ばす。

事前に打ち合わせでもしていたのか、かなり冷静だった。


「まず、結論から申し上げます。第二皇子は神殿と手を組んでいる可能性が、非常に高いです。というのも────」


 継母の存在は伏せつつ情報共有を行い、ヴィンセントは『以上です』と話を締め括る。

と同時に、エレン殿下が深い深い溜め息を零した。


「なるほど……厄介だね。神殿まで絡んでくるとなると、下手に動けない」


 『参ったな』と肩を落とし、エレン殿下は額に手を当てる。

でも、決してマーティン殿下の失脚を諦めようとはしなかった。


「これからはきっちり連携して、動く必要があるね。マーティン単体ならともかく、神殿も同時に相手取ることになれば、今のままじゃ太刀打ち出来ない」


 『民心の掌握』という点では皇室より絶大な力を持っている神殿に、エレン殿下は警戒心を露わにする。

どことなく険しい表情になる彼の前で、ヴィンセントはおもむろに手を組んだ。


「仰っていることは尤もですが、私達はあくまでライバル同士……協力関係を結んでいるとはいえ、互いの背中を預け合うほどの連携は無理でしょう。どんなに『これは必要なことだ』と、割り切っていても」


 『固まって動くのは、不可能』と説き、ヴィンセントはスルリと自身の顎を撫でる。

────と、ここでエレン殿下が困ったような素振りを見せた。


「君の言いたいことは、分かる。でも、神殿側がマーティンを本気で守り、支え、トップに押し上げるつもりなら私達も相応の対処をして行かないと」


「ええ、分かっています」


 『事の重大さを理解していない訳じゃない』と示し、ヴィンセントは人差し指を立てる。


「そこで一つ提案なのですが────役割分担をしませんか」


「役割分担?」


 思わずといった様子で聞き返すエレン殿下に、ヴィンセントは首を縦に振る。


「ええ。我々第三皇子派が神殿の対処に当たりますので、エレン殿下率いる第一皇子派は第二皇子を処断してください」


「!?」


 ハッとしたように息を呑むエレン殿下は、大きく瞳を揺らした。

エメラルドの瞳に困惑を滲ませる彼の前で、私とアイリスも衝撃を受ける。

この役割分担は初耳だったもので。


 正直、厄介なのはマーティン殿下よりも神殿の方……。

ヴィンセントはどうして、わざわざ苦労を背負い込むような真似を……まさか────私達エーデル公爵家を気遣って?

合同で調査するとなれば、自然とお継母様の正体や過去もエレン殿下に知られることになるから。

それは今後のことを考えると、避けたい。


 『もし、事実を公表なんてされたら……』と懸念を抱き、私は少しばかり表情を硬くする。

ただでさえ急降下しているエーデル公爵家の名声が更に酷くなる、と確信して。

『最悪、没落なんてことも……』と内心青ざめる中、エレン殿下が自身の前髪を軽く掻き上げた。


「こちらとしては非常に有り難い提案だけど……君達はそれでいいのかい?」

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