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次から次へと

「セシリア、アイリス!」


 お祖父様……?一体、どうしたのかしら?


 声色から焦り具合が見て取れ、私はコテリと首を傾げた。

一先ず話を聞こうと思い部屋の扉を開けると、祖父が直ぐさま中に入る。

後ろ手で扉を閉め、こちらに向き直った。

と同時に、私の肩を掴む。


「セシリア、アイリスはどこに居る?」


「恐らく、中庭だと思いますが……呼んできましょうか?」


「いや、いい……まずはお前に話しておいた方が、いいだろうからな」


「は、はあ……?」


 いまいち状況を掴めず戸惑っていると、祖父は肩を握る手に力を込めた。

どことなく緊張している様子の彼は、真っ直ぐにこちらを見据える。


「落ち着いて聞いてくれ、セシリア」


「は、はい」


「実は先程、皇室から使いの者がやってきて────アナスタシアの逃亡を知らされた」


「なっ……!?お継母様が……!?」


 思わず大きな声を出す私は、慌てて口元を押さえた。

『具体的なことは言ってないから、大丈夫よね?』と不安になる中、祖父は大きく息を吐く。


「それで、屋敷内を少し見せてほしいとのことだ」


「なるほど。私達が……いえ、アイリスが逃亡の手助けをしていないか確認するためですね」


「ああ。でも、していないのはあちらも分かっているだろう。儂らはここ最近、ずっと屋敷に籠っておったからな」


 『あくま形式的なものだと思ってくれ』と言い、祖父はこちらの反応を窺う。

実質公爵家を切り盛りしている立場とはいえ、勝手にあれこれ決めていい訳じゃないため、ちゃんと許可が欲しいのだろう。


「我々の身を潔白するためにも、捜索に協力しましょう。皇室の対応は任せてもいいですか?私はアイリスに声を掛けてきます」


「分かった」


 間髪容れずに頷くと、祖父は直ぐさま踵を返した。

それに習うように私も部屋を出て、中庭へ向かう。

『アイリスはどんな反応をするだろう?』と思いながら合流し、継母のことを話した。

すると、アイリスはどこか複雑な表情を見せる。

死刑の可能性もある以上、逃亡してくれて嬉しいような……家門や皇室に迷惑を掛けて申し訳ないような、微妙な気持ちなのだろう。


 早く捕まってほしいけど……逃亡も罪に加算されたら、死刑の可能性は高まりそう。

それはちょっと……後味が悪いわね。


「大体、どうやって皇城から逃げ出したの……?」


 公爵()という後ろ盾と貴族籍を失い、継母は現在ただの平民女性になった。

そんな彼女が騎士達の目を欺き……もしくは買収して、外に出るなど考えられない。


 どこかに協力者が居た……?でも、誰が……?仮にそうだとして、何故お継母様だけを助けたの?

普通は元公爵のお父様を助けない?


 『どちらに恩を売ればいいか』なんて考えるまでもない二択に、私は悶々とした。


◇◆◇◆


 ────継母逃亡から、早一週間。

今のところ、捜査に進展はない。

強いて言うなら、私達の疑いが晴れたことくらい。

もちろん、まだ疑っている人は一定数居るだろうが。

それでも、もう屋敷をひっくり返すような勢いで捜索されたり、各々のアリバイや証言を徹底的に確認されたりすることはなかった。


 一先ず、いつも通りの日常に戻れて良かったけど……お継母様は一体、どこに身を隠しているのかしら?

これだけ探しても見つからないということは、誰かに匿ってもらっていると考えるのが妥当よね。

さすがに宿を転々としたり、ホームレスのような暮らしをしたりするのは無理だろうし。


 継母の性格を思い返し、私は『暖かいところでゆっくりしているだろう』と結論づけた。

────と、ここでヴィンセントがテーブルに置かれた三通の手紙を手に取る。


「さて、今考えるべきことは────狩猟大会(・・・・)をどうやり過ごすか、だね」


 そう言って、ヴィンセントは皇室主催のイベントの招待状を睨みつけた。

というのも、今回の運営に携わっているのが────最も血の気の多い第二皇子だから。


「ご丁寧にこんな挑発までしてくれている」


 封筒から便箋を取り出し、ヴィンセントはある一文を指さす。

そこには、『各家門の若人達と是非交流を持ちたい』と書かれていた。

これだけなら別になんてことはないのだが……問題は第二皇子も狩りに参加する気であること。

要するに、『各家の子供を最低一人は狩りに参加させろ』と要求しているのだ。

狩り組と待機組は基本序盤と終盤しか、関わりを持てないから。

狩り組に入らなければ、第二皇子の要望を満たせない……つまり、無視した形になる。


 今のエーデル公爵家は皇室に大分お世話になっているから、それは不味い……。

きっとロジャー皇帝陛下は気にしないだろうけど、周りから一体どう思われるか……。


 微妙な立場に居るエーデル公爵家を思い、私は頭を抱えた。

と同時に、ルパート殿下が顔を上げる。


「すまない。多分、私のせいだ。兄上は皇位継承権争いに多大な影響を与えるであろう、エーデル公爵家とクライン公爵家を警戒しているんだと思う」


 『謂わば、牽制だな』と主張し、ルパート殿下は申し訳なさそうに目を伏せた。

巻き込んでしまったことを悔いる彼に対し、私とアイリスはブンブン首を横に振る。


「ルパート殿下のせいでは、ありません。殿下にアイリスの講師をお願いした時点で、こうなることは何となく分かっていましたから」


「お姉様の言う通りです。それにルパート殿下には、返し切れないほどの恩があります。たとえ、殿下のせいであったとしても全く迷惑だとは思いません」


 『むしろ、これでようやく釣り合いが取れるというもの』と言い、アイリスは殿下を励ました。

訓練を通して随分と仲良くなったのか、かなり口調が柔らかい。

『アイリスがここまで心を開くなんて』と少し感動していると、ルパート殿下がスッと目を細めた。


「そう言ってくれると、有り難い」


 どこかホッとしたような素振りを見せ、ルパート殿下はヴィンセントから招待状を一枚受け取る。

恐らく、殿下自身の分だろう。


 主催側の皇族が招待状を貰うなんて、本来有り得ないことなんだけどね。

多分、第二皇子なりの嫌がらせかな?

ルパート殿下(お前)を皇族とは認めない』という……。

お祖父様の話によると、ルパート殿下の母君は小国出身の姫みたいで……一応、正式に婚姻を交わしてはいるけど、帝国貴族から見下されているみたい。


 その影響を受けて、ルパート殿下も結構厳しいお立場に居るのよね。

ただ、戦争で多くの武勲を立てたから騎士達を中心に少しずつ勢力を伸ばしているとのこと。

また、民からの人気も高いため、皇位継承権争いにおいて頭角を現し始めた。

第二皇子があからさまに牽制を行っているのが、いい証拠ね。


 良くも悪くも目立つようになった第三皇子の現状を考えていると、ヴィンセントが手紙を置いた。

かと思えば、こちらに向き直る。


「この際、ハッキリさせておきたいんだけど────エーデル公爵家はこのまま中立を保つつもりかい?」


「それは……どういう意味か、お尋ねしても?」


 これまで守ってきた沈黙を破り、祖父は少しばかり表情を険しくする。

『第三皇子の派閥に入れ、と言うのか?』と警戒心を露わにし、黄金の瞳を真っ直ぐ見つめた。

ただでさえ、大変なときに更なる負担を背負わされそうになって焦っているのだろう。

最近力を付け始めたとはいえ、第三皇子の派閥はまだ安定していないから。

『泥船に乗るようなもの』とまでは、言わないものの……かなり危険な橋を渡ることになるのは、間違いない。


「落ち着いてください、フランシス卿。第三皇子の派閥に入るよう、強要するつもりはありません。ただ、どっちつかずの状態のまま過ごすのは危険だと思いまして」


 ニッコリ笑って祖父を制し、ヴィンセントは『今のエーデル公爵家だと、中立を守れない』と主張した。

中立を貫けるのは、よっぽど影響力のない家門か誰も手が出せないほど強い家門のみだから。

我が家はそのどちらにも該当しない。

また、今代の皇位継承権争い……もとい派閥争いはかなり激化しているため、どこかの勢力について手を取り合うしかなかった。


「とりあえず、先に明言しておきますね。僕達クライン公爵家は────第三皇子派に所属しています。それも、何年も前から」


「「「!?」」」


 ヴィンセントの言動から第三皇子派なのは、何となく見当が付いていたものの……まさか年単位で仕えていたとは知らず、目を剥く。


 そ、そんなに前から……?というか、何でルパート殿下を支持して……?

いや、確かに素晴らしい方だとは思うけど、ヴィンセントの性格を考えると少し引っ掛かる。


 『そもそも、皇位継承権争いに何でこんなに積極的なの?』と眉を顰め、私は悶々とした。

すると、ヴィンセントがこちらを見て苦笑する。


「まあ、当然疑問だらけだよね。じゃあ、ちょっとだけ昔話をしようか」


 そう言うが早いか、ヴィンセントはそっと目を閉じた。

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