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狙われたのは《ヴィンセント side》

◇◆◇◆


 ────エーデル公爵と夫人を城の牢屋に放り込んでから、早一ヶ月。

僕はなかなか判明しない『元公爵の取り引き相手(見知らぬ人物)』に、苦悩していた。


 人相だけでなく、年齢や性別も分からないなんて……困ったね。

これじゃあ、特定出来ないよ。


「分かっている事と言えば、フードを深く被った人物ということくらいか」


 『徹底的に身元を隠しているな』と溜め息を零し、僕は自室のソファに腰を下ろした。

テーブルに広げた資料を眺めながら、トントンと指先で膝を叩く。


 皇族絡みという時点で厄介なのは分かっていたけど、まさかここまで情報が出てこないとは。

このまま、元公爵や夫人を問い質しても意味がないかもしれないな。


 『別の方向から攻めてみるか』と考えていると、突然目の前にローブの男が現れる。

サラリと揺れる紺髪をそのままに、膝をつく彼は静かにお辞儀した。


「当然の訪問、申し訳ございません。至急、ご報告したいことが」


 エーデル公爵家の監視兼護衛として派遣した筈のアルマンの登場に、僕は少し驚いた。

『何かトラブルでも起きたのか?』と思案しつつ、スッと目を細める。


「なんだい?」


「エーデル公爵家に────どこからか、暗殺者が送り込まれて来ました」


「!」


 ハッと息を呑む僕は、思わずソファから立ち上がった。

普段このように取り乱すことはないのだが、今回はセシリアも関わっているから。

『彼女の身に何かあったら……』と焦りを覚える僕の前で、アルマンは慌てて言葉を紡ぐ。


「エーデル公爵家の方々は全員無事です。暗殺者はこちらでこっそり処分しましたので」


「……生け捕りにはしなかったの?」


「そうしたかったのですが……全員毒を服用して、自害しました」


 プロの犯行を匂わせ、アルマンは『申し訳ございません』と頭を下げた。

今後のことを考えるなら、絶対に生け捕りにするべきだったから。

せっかくの情報源をダメにしてしまった、と反省しているのだろう。


「はぁ……もういいよ。エーデル公爵家の面々に内緒で守り抜くとなると、生け捕りは難易度が高かっただろうし」


 『セシリア達が無傷だっただけで御の字だ』と告げ、僕はソファへ再度腰を下ろす。

死体から情報を得る方向で考え直す中、アルマンはチラリとこちらの顔色を窺った。


「それから、これは私の推測になりますが……」


「構わない。当てずっぽうでもいいから、話してみて」


 『今はとにかく情報が欲しい』と主張すると、アルマンはおずおずと口を開く。


「今回、狙われたのは恐らく────アイリス・レーナ・エーデルです」


「……はっ?」


 セシリアやフランシス卿がターゲットだとばかり思っていた僕は、思わず目を見開いた。

だって、どう考えてもアイリス嬢に暗殺する価値などないから。

エーデル公爵家の血を絶やすために彼女()殺すなら分かるが、彼女()ターゲットにするのはよく分からない。


 何か重要な情報を握っているのか?それとも、単なる怨恨?


 『見るからに他者の恨みを買ってそうだからね』と思案しつつ、僕は口元に手を当てた。


「他に何か気づいた点は?」


「ありません」


 フルフルと首を横に振るアルマンに、僕は『そうか』と頷く。

窓越しに雲一つない青空を見上げ、セシリア達にこのことを知らせるべきかどうか悩んだ。


 知らせるとなると、必然的にアルマンの存在がバレるけど……まあ、セシリアなら許してくれる筈。

黙って護衛するのも限界があるし、この際全て話して正式に許可を取るべきだろう。


「アルマンは持ち場に戻って。僕も直ぐにエーデル公爵家へ向かう」


「はっ」


 何となく僕の考えを察したのか、アルマンは何も聞かずに(こうべ)を垂れた。

かと思えば、一瞬にして姿を消す。一切物音を立てずに。

『相変わらず、静かなやつだな』と思いつつ、僕は席を立った。

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