第八話 兄妹たちは
本日二話目の投稿です。
「ローラを虐待!?養育放棄!?」
ルーカスは何度も書状を読み返したが、内容が変わることはない。オルシーニ子爵家は、次女であるローラを、長年医師の指示を無視して過度に部屋に閉じ込めていたことについて、子女の虐待と養育放棄の罪に問われている。
「ルーカス、リンジー、ルーナ、三名はローラが亡くなった時既に成人を迎えていたが、加担を認めるか」
騎士にそう問われ、まずはルーナが口を開いた。
「医師から指示があったとは聞いていません。両親から、私達は幼い頃から、ローラが風邪を引けば寝かせてやって食べやすいものを与えると教えられてきましたから」
次に、ルーカスが話す。
「ローラは私が学生の頃に生まれたのですが、外の空気を持ち込むなと言われ、ほとんどローラの部屋に入ったことはありません」
最後に、リンジーが話す。
「僕も同じです。ローラの部屋に入ることも許されませんでした。特に、僕は研究の仕事をしているので、部屋の近くに行くことも許されませんでした」
騎士は三人をそれぞれ見る。三人とも、覚えのない罪に問われているといった顔をしている。この顔を主が見たら何と言うだろうかと思いながら、予め決められた言葉を告げる。
「三名共に、両親からの洗脳とも言える養育環境で育ったと判断する。ローラの虐待及び養育放棄についての加担は認められないが、特に嫡男であるルーカスについては、次期当主として現当主の教育について疑問を持つべきであった。よって、ルーカスについては王宮の選んだ高位貴族の下で二年間、侍従として務めながら当主教育を受け、その後速やかにオルシーニ子爵家の当主となることを命じる」
三人はほっとした様子で頭を下げる。特に、ルーカスは廃嫡や子爵家の取り潰しという可能性を考えていた。侍従として当主教育を受けられるというのはむしろ将来的にはプラスになる可能性もある。
「オルシーニ子爵と子爵夫人については、より詳しく調査が入る。領地没収とはならないが、資産の一部や社交界において醜聞となるだろう。そこは覚悟しておくように」
ルーナは一瞬表情を曇らせたが、当主がルーカスに交代すれば世間の風向きも変わるし、そもそも自分たちも両親から洗脳ともいえる養育環境と言われている。仲の良い貴族の友人達は同情してくれるだろうと考え、数年の辛抱と思うことにした。
リンジーは研究職であるため、世間に疎い人が周りに多い。多少何か言われようと、真面目に研究を進めていけばいい。一応、子爵家と離れるというアピールで寮に入るべきかと考え始めている。
ローラの兄姉が去った後、騎士はエイダンの下を訪れた。
「エイダン殿下、ルーカス、リンジー、ルーナの三名とも、受け入れました。ところで、末の妹にあたるリリアーナは男爵家での養育ですか」
まだ幼いリリアーナは、現状をほとんど理解していない。
「そうだ。オルシーニとは全く関わりのない男爵家で伸び伸びと過ごせば良い。ローラ嬢も妹の養育については心配していたからな」
エイダンの言葉に騎士は疑問を持つ。ローラが妹の心配をしていたという話は聞いたことがなかったからだ。その様子を見て、エイダンの側近、アルマンドが話に割って入った。
「ローラと文通をしていた相手の一人から、報告があったのですよ。事件の再調査で、ローラの私物が持ち出されたことをルーナから聞いたのでしょう。ローラから送られてきた手紙を見せてくれました。そこに、妹について気にかけているとあったのですよ」
騎士はローラの私物については見たが、外から持ち込まれた物があったとは知らなかった。王子殿下が捜査に関わっている時点で、騎士には知らされない何かがあるのだろう。そう思い、それ以上は聞かないことにした。
騎士が退室した後、アルマンドはため息をついた。
「エイダン殿下、油断し過ぎでは?」
「上手くフォローしてくれる側近がいて何よりだと、感謝しているところだ」
「それで、兄姉達へは何もないのですか」
エイダンは王族らしく優雅に微笑んだ。
「罰を与えられて初めて罪を意識するということは少ないだろう?そもそも、罪の意識が無い者に罰を与えても面白くない。しかし、罪の意識が既にある者に罰を与える必要はあるだろうか。罪を正しく理解し、罰を受け止め、反省をすることが正しい流れだろう。けれど、彼らを見ていると色々と考えさせられる。実に興味深い」
アルマンドはそれがエイダン自身の勉強なのか、それとも遊戯的な感覚でいるのか、長く仕えているにも関わらず真意が読めなかった。
「アルマンド、ローラの事件については、ロイドからの再調査依頼があったため、一度調べ直した。その結果、ローラへの虐待が発覚した。そして、両親には罰を与え、兄妹達は同じく教育を受けた被害者でもあるということ、誰がローラのようになるかも分からなかったということで嫡男ルーカスには再教育し、リンジーとルーナの行動について注意を払わせる、幼い妹は別の家での養育を。事件については再調査した結果成果は得られなかった、という所でどうだ」
「それが良いかと。ロイドはどうしますか?隣国の伯爵令嬢を匿っていたという罪も被らせられましたが」
エイダンは用意していた書類にサインをした。
「そこは放っておこう。隣国に行方不明となっていた令嬢を探し出したとだけ伝え、後はロイドの運次第だな。こちらの国としてはロイドも被害者だ。それに、彼は兄妹の中でもまともだ。やはり、読書とは大切だな。国の学園に読書の時間でも義務付けようか」
エイダンはサインをした書類をアルマンドに渡す。アルマンドは書類とエイダンを交互に見る。
「どこが運次第なんだか」
「罪の意識があるロイド、そうでない三人、他の家で養育されるリリアーナ、それぞれがどう育つか気になるし良い例になるだろう」
「ロイドの話では、ロイドとローラの父親は違うようでしたが」
「それでも、面白いじゃないか」
アルマンドはやはり遊戯的な感覚ではと思いながら、書類を王宮の中枢へ提出しに行った。
本日もう一話投稿予定です。