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第四話 そこから

 十歳まで生きられない子。

 物心がついた頃にはそう言われていた。けれど、生まれた時のことなんて知らないし、私は十歳を超えた。

 すると、皆こう言うの。あなたは幸せね。貴族でお世話をしてくれる人がいて、家族がたくさんいて、治療もしてもらって、何不自由なく暮らしていてって。


 少しでも体調が優れないと、すぐに横にされて、ご飯も柔らかくて薄いのばかりにされる。これでは、体は弱る一方じゃない。

 それでも、母も父も、皆許してくれないの。また熱が出たらどうするの?いつか、元気になったらたくさん遊びましょうねって。


 姉に準備された文通友達は、まるで幼児に送るような手紙しか書いてくれない。それでも、感謝しないといけないらしい。たくさん本を読んだ。ロイド兄様だけが私をちゃんと見てくれていたと思う。

 文通友達に一人だけ、私の手紙を読んで返事を書いてくれる人が出来た。顔を知らないというのも逆にリラックスして、心のこともたくさん書いた。でも、たまに二人と文通しているような気分になる。もしかしたら、侍女と話しながらでも書いているのかもしれない。


 あまり学園に通わないから、最近はドレスも買ってもらってない。登校する度に同じ服で、クラスの男の子から言われたの。お前の家は兄妹が多いし、お前はあまり学園に来ないから服も買ってもらえないんだなって。ひとつも反論出来なくて悔しかった。けれど、私はあの子よりも母に手を握ってもらったり、絵本を読んでもらったり、夜通し付き添ってくれたことがたくさんあるの。きっと、あの子よりも。そういう、人を見下してしまう気持ちも、私にはたくさんあって。だけど、本を読んでいると同じ気持ちの人が出てくるの。私だけじゃないし、恥ずかしいことでもない、人の心ってそうなのかもと思えて楽になった。ロイド兄様にそれを言うと、ローラは物語の中にたくさんお友達や相談相手がいるんだねって言ってくれた。


 学園の合宿はハイキングがあるから行けないと思っていた。だけど、毎年怪我や持病で出られない子がいて、そういう子は馬車で合宿所に向かうって言われたの。私、友達もいないのに。それでも、家族も良い思い出になるって言って、行くことが決まったわ。


 馬車が賊に襲われた。大きな音がして、馬車が止められて。剣を持った人達から川に突き落とされたの。

 正直、私やっと死ぬのかなって思ったわ。十歳までの命と言われてもう十五歳になったんだもの。デビュタントの衣装や装飾品をどうするか相談していたところだったわ。

 一応、既製品だけどネックレスは用意してくれたの。赤みの強い髪をしていた、ルビーの飾られたお祖母様のネックレスをリメイクしたらしい。衣装は、また近くなったら考えましょうって母が言っていたわ。でも知っているの。あの子、それまで生きてるか分からないじゃないって、お姉様と話していたでしょう。気まぐれに部屋を出るもんじゃないって、後悔したわ。


 それでも、やっぱりいざ死にかけると、私は必死になってもがいたわ。あちこち痛い所しかないけど、暴れていたら川岸に流れ着いたの。


 「お嬢さん、大丈夫?」


 誰か知らないけど、若い男性がいた。


 「大丈夫ではありません。立てません」


 そう答えると、その人は私を抱っこして、山小屋みたいな所で暖を取らせてくれたの。山小屋には、若い女性が二人と男性がもう一人いて、女性達が着替えを手伝ってくれたわ。


 「あなた、体が弱いのかしら?」


 そう聞かれて、普段の生活を言ったら、足の傷を見て説明してくれたの。


 「ここ、傷の周りが腫れているでしょう?良くない物が傷から入って化膿しているの。少し削る治療が必要になるわ。しばらく動けないし、それでも構わないわね?そのままにしていたら、あなたの体力なら死んでしまうわ」


 このまま死んでも、なんて思ったりもしたけど、やっぱりいざとなったら生にしがみついてしまうのね。治療をお願いしたわ。感覚が分からなくなる薬を使って、夢現の間に終わっていたの。


 「しばらくここで休んだら良いわ。ここ、見た目は山小屋のようだけど、療養できる所なのよ」


 どうやら、お姉さん達は女医さんと侍女で、助けてくれたお兄さんはここに療養に来ている高貴な方らしいの。もう一人のお兄さんは、高貴な方の侍従なんだって。

 だから、ここは治療が出来るようになっていて、運が良かったねって言われたわ。なんだか嬉しい。


 「ところで、家に連絡しなきゃね。お名前は?」

 「えっと」


 おかしい。名前が思い出せない。


 「すみません、ロ、ロから始まる名前?だったような」


 女医さんが次々質問をしてくれて、答える。これまでの生活は思い出せるのに、名前や人のことがスッポリと抜け落ちたみたい。


 「兄妹がたくさんいるんです。一人はロイド兄様。本をたくさん買ってくれて、お話ししてくれる兄様です」


 ロから始まる名前は兄様の名前だった。それ以外、家族は多かったと思うが顔も思い出せない。


 「記憶喪失の一つですね。まあ、馬車が襲われたんでしょう?きっと、事件になっているはずだからすぐ分かるわ」


 そうは言っても、治療に掛かるお金とか、払えるかな。


 「これも何かの縁だ。ここにいる間のお金の心配はしなくていいし、もし孤児で行く宛もないのなら、仕事の斡旋くらい出来るよ」


 なんて広い心の持ち主でしょうか。神とは実在したのです。

 足が動かせないから何も手伝えない。とりあえず、本がたくさんあったので読んでいるしかないわ。


 「おや、それは隣国の本だが、読めるのか?」

 「はい。前は辞書を引きながらだったのですが、読めるようになりました」


 お兄さんはふむと言って、提案をしてくれた。


 「翻訳をしてみないか?拙くても、直訳で構わない。隣国の本を訳してほしいんだ」


 そう言って、いくつかの本をくれた。それを、どんどん訳していく。することがあって嬉しい。



 「はい、ローナさん、まずは立つところからね」


 ロイド兄様の名前しか思い出せなかったから、もしかしたら兄妹で似た名前だったのかもということで、ローナと呼んでもらっている。足の怪我が落ち着いたので、歩く練習からと思っていたら、まさかの立つところからだったわ。


 「人が初めて立ったみたいだ!いや、生まれたての子鹿か!」

 「ダンさん!笑わないで!!」


 高貴なお兄さんは、ダンさんというらしい。ヨロヨロと歩こうとする私を見て爆笑している。


 「ダン様、そろそろお仕事を」

 「ああ、悪い悪い。面白くてついね」


 ダン様と呼ぶべきなんでしょうけど、ダンさんがそれを許してくれなかったの。療養と言いながら、執務室という部屋でけっこうずっと仕事をしているみたい。書類もたくさん届けられて送り返してってしているみたいだし。


 「ここは山で空気が良いですからね。ここに居るだけでも十分な療養ですよ」

 「たしかに、私、けっこうずっと起きているのに熱も出ていないです」


 気がつけば数ヶ月が過ぎようとしていたが、私は探されていることもなく、普通に暮らしている。


 「傷も塞がりましたね。もう大丈夫ですよ」

 「ありがとうございます!」


 すごい。傷痕と、化膿したところはちょっと抉れたかんじが残ったけど、命には代えられないわ。


 「ローナ、今後はどうする?君は体が弱い方だろう」

 「どうしたらいいんでしょう?」

 「空気のきれいな村、それも街があって買い物に不便のないようなところで、翻訳の仕事をするのはどうだろう」

 「翻訳の仕事、ですか?私にできるでしょうか」

 「ローナの訳したものは十分読めるよ。国境を越えてすぐ、隣国にはなるが良い村があるんだ。読み書きが出来るならすぐ話せるようになるさ。初めは筆談でも良い。あの村は識字率も高いから困らないだろう」


 まあ、そんな理想郷、あって良いのかしら。うまい話にはなんとやらとも言うけれど、ここで乗らなければ野垂れ死んでしまう。私はすぐに決断したわ。


 「ダンさん、ここでお借りした服などは、収入が得られたら必ず返します。もう少しだけ使わせてください」


 恥ずかしいことに着ているものは全てダンさんがどこかからか調達してきてくれたのよね。もしかしたら、姉妹のを借りてきたのかもしれないわ。ちなみに合宿のために着ていた服は裂けたり私の血も着いたりしてて、処分されたそう。


 「ああ、その服はプレゼントだと思って。あと、新生活に必要な物も準備してあげるよ」

 「そんな!悪いです!」

 「優秀な翻訳家になってくれたら十分だよ。しっかり仕事に励んでね」


 結局ノーとは言えず、至れり尽くせりで私は隣国、と言っても国境を越えてすぐの村に行くことになりました。



 「それでは、よい旅を。仕事は直接送らせてもらうからよろしくね」

 「はい!何から何まで、ありがとうございました!」


 なんだかしっかりとした作りの馬車に乗って、隣国の村に向かった。

 目的地の村に着いて、深呼吸をした。

 あまり思い出せない過去はあるけど、湖の底から水面に出たような気分になる。そういえば、美しい湖のある村らしい。ここから、私の人生が始まると思っていきたいわ。

ありがとうございました。

話がググっと動き始めました。

本日三話投稿予定です。

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