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短編集

【短編】うまいこと言ってつよつよパーティーに寄生し続けてたら、いつの間にか幸運の聖女様扱いされてました!?〜確かに悪運だけは強いけど、私に聖なる力なんてありません!〜

作者: 遠堂 沙弥

何も特化した能力のない女の子が、ひたすらパーティーに寄生するだけで成り上がっていったら面白いのでは?

そんな思いつきから出来たお話です。

よろしくお願いします。

 私が冒険者ギルドに入ろうと思ったきっかけは、極貧だったから。


 アホの権化である両親に何も告げず、極貧生活から抜け出す為に家出をして、真っ先に向かった先が冒険者ギルド。そこなら誰でも入れるから。

 そりゃ強さとか、魔法なんかが使える役職持ちの方が歓迎してもらえるらしいけど。一般市民の平民の貧乏人にそんな能力あるわけがない。私にあるのはーー。


「冒険者ギルドに入りたい、ですか。失礼ですがおいくつですか? ギルド協会では、16歳未満の方は保護者の許可が無ければ入会を認められない規則となっております。保護者の方はいらっしゃいますか?」


 知らなかったとはいえ、まさか門前払いな感じになるとは思わなかった。

 さて、どうしよう。私の年齢は15歳と11ヶ月、あともうちょいなんだけど……このまま家に帰るのはごめんだ。私が途方に暮れつつ、街中を彷徨っているとそこそこ強そうなパーティーとすれ違った。


「このハーブを全種類採取って、難易度高くないか?」

「仕方ないわよ、枯れた土地からの依頼は大体そういうのが多いんだから。これも人助けでしょ」

「そうは言っても、草の区別なんてつかないぞ」

「誰だよ、この依頼受けたのは」


 そんな会話が聞こえてきて振り返ると、僧侶風の女性が項垂れたように足を止めた。

 今にも泣きそう。


「すみません。私、薬草の知識が少しばかりあると慢心してました。ある程度は把握しているつもりでしたが、私の知らないハーブが含まれていたなんて」

「はぁ、わかったわかった。泣くなよ。別に怒ってるわけじゃないから」


 あら、優しい。泣き出しちゃった僧侶ちゃんの頭をワシワシ撫でるリーダー風の戦士さん、それでも困ってる状況に変わりはないみたい。「どこかに薬草やハーブに詳しい人物がいないか、探すしかないかな」とか「違約金を払うとなると、今夜は宿に泊まれそうにないなぁ」とか。そんな言葉が聞こえてきたので、私は内心ドキドキしながら冒険者パーティーであろう彼等に思い切って話しかけた。


 最初は「なんだこの女の子は」みたいな反応だったけど、薬草やハーブの見分けが付くことを話して聞かせると彼等の目つきが変わる。「渡りに船」とか「救世主」とか言われて、悪い気はしなかった。

 私は彼等から依頼書を見せてもらうけど、字が読めないから音読してもらう。

 痛み止めの薬草、毒消し草、ラベンダー、カモミール、セージ、ベルガモット、ミント、ローズマリー。

 大半がハーブだった。僧侶のお姉さんは薬草なら少しかじった程度の知識しかないらしく、ハーブに関してはほぼさっぱりだという。それでも緊急性が高く、報酬もそれなりだったということで引き受けてしまったそうだ。

 私は極貧生活の中で培った「草を見分ける能力」があったので、薬草の宝庫と言える近くの森まで案内した。そこには魔物が出るからあまり奥の方まで行ったことがないけれど、さすが冒険者ギルドのパーティー。

 魔物を引き付けてくれてる間に私は急いで採取して、全部回収することに成功した。

 それをさっき門前払いを食らった冒険者ギルドの受付に渡して、任務完了の報酬を受け取っている。私はそれを無言で眺めていると、受付のお姉さんが私の存在に気付いて話しかけてきた。


「さっきの子ね? 保護者の許可が下りればすぐに手続き出来るんだけど」

「あー、この子の保護者は俺です」

「……っ!?」


 びっくりした。リーダーが挙手して保護者を名乗り出る。案の定怪しそうに見つめる受付のお姉さん。

 それでもリーダーは持ち前なのかなんなのか、涼しい顔のまま淡々と続けた。


「俺が冒険者ギルドやってるのに憧れて、自分もなりたいって言い出しまして。この依頼をこなすことが出来たら、冒険者ギルドになるのを許可するって約束したんですよ」

(私が冒険者になりたいってこと、まだ言ってませんが? でもラッキー!)


 それでもまだ疑っている目をした受付のお姉さんに、他のメンバーが私を抱きしめ涙で訴えかけた。


「うちの子をよろしくお願いします!」

「ずっと冒険者になるって張り切ってたんです!」

「なんだったらこの依頼、この子がいなかったら成し得なかったんだ!」


 まだ笑顔はないけれど受付のお姉さんが書類を出して、私に向かって話しかける。


「お名前は?」

「あ、リコです」

「それではリコさん、これにサインして。保護者の方も。審査はありません。誰でも冒険者になれるのが冒険者ギルドです。命大事に」


 ***


「あの、ありがとうございました!」

「いやいや、いいってことよ。実際、リコちゃんがいなかったらさっきの依頼の違約金を払わされるとこだったし」

「お礼が言いたいのはこっちです。ありがとうございますう!」


 彼等が泊まる宿屋兼酒場で、食事を奢ってもらう。そこで私は持ち前の腰の低さと滑らかに回る舌で、彼等の輪の中になんとか潜り込むことが出来た。

 そしてなんと僧侶さんと魔法使いさんと同じ部屋に泊まることが出来た。ラッキーの連続だ。


 翌朝、これからどうするのかと聞かれて困ってしまう私。

 冒険者になることを第一目標にしてはいたものの、特に英雄になりたいとか有名になりたいとか。そういったはっきりとした目的がないことに今頃気付く。

 現状の極貧生活から逃れたい。ただそれだけを理由に勢いのまま家出してきたから、どうしたいと聞かれても困ってしまう。とりあえず冒険者になったからには、ギルドの依頼をこなして、当面の生活費を稼がないといけない。

 こういうのは気心知れた友達と冒険者ギルドに登録して、その場でパーティーを組んで一緒に冒険するというのが最もポピュラーな流れだ。

 あるいは元々本人に生き残る能力が高いことを前提に、ソロで冒険者をやっていくというのも少なくない。

 私はそのどちらにも当てはまらないから、一人でやっていけるものなのかどうか。やっていくとしてさっきみたいな採取的な依頼に限定して引き受けるにしても、魔物が出るような場所に出向くものだと詰む。

 困っていると「期間限定でいいなら、しばらく俺達と一緒に冒険するか?」という素敵なお誘いを受けた。

 私は冒険者に関する知識が乏しい。貧乏だからまともな教育を受けさせてもらってないから、文字の読み書きも出来ない。もし一人で冒険者をやっていくなら、文字が読めないと依頼も受けられない。

 まぁそれは最悪の場合、受付の人が教えてくれるらしいけど。今の年齢だからそれが通じるだけで、これから先……私が大人になっても受付の人に依頼内容を読んでもらうという光景は、マジで恥ずかしい。

 私は頭を下げて、しばらくの間だけ彼等のパーティーに置いてもらうことにした。


 ***


 私は逃げ足が早かった。加えて敵に見つかりにくいという、影の薄さもあったのかもしれない。

 グリスパーティーに期間限定で入って、いくつか依頼をこなしている内に気付いたことだ。

 まだ子供だし、戦闘能力もゴミということで、いつも戦闘に突入したら物陰に隠れてやり過ごさせてもらっていた。その間に近くの素材を収拾したり、戦闘以外で役に立てるよう、微々たるものだけどパーティーのプラスになる行動を心掛けた。

 その中で心得たこと。


「戦闘能力のない者は絶対に邪魔をしないこと」

「戦闘以外で役に立つこと」

「疲れた仲間を癒すことに注力すること」

「仲間の顔色、場の空気、言葉遣い、態度、全てに細心の注意を払うこと」


 これだけを守れば、役立たずな私でもなんとか置いてもらえるということがわかった。

 一応猫の手程度にでも戦闘の役に立てないものかと、戦闘訓練を付けてもらうなどしてもらったけど才能がなかったみたい。圧倒的な筋力不足、素早さも普通以下、せいぜい敵に気取られにくい部分を生かした奇襲くらいのものだけど。これは戦闘能力あっての奇襲だから、私がやったら仲間の足を引っ張るだけだからやめておいた。


 ***


 私が冒険者になる手助けをしてくれたグリスパーティーと別れて、冒険者ギルドの張り紙を眺めていた時だ。

 何かを退治、捕獲、収集、採取、生成とか精製、奪還、などなど。

 そんな一般的な依頼ばかりと思っていたけど、受付のお姉さんからアドバイスをいただいた。


「仲間を探してるなら、パーティーメンバー募集の張り紙なんかどうかしら? きっと素敵な出会いが待っているはずよ」


 その手があったか。

 思えば最初から仲間が揃っているなんて稀だよな、と気付く。冒険の中での出会い、酒場とか街中での出会い、いろんな出会い方から仲間になっていくものとばかり思っていたけど。

 そもそも仲間が募集されている、という簡単な方法にどうして気付かなかったんだろうと。

 誰でも、どこでもいいわけじゃないけど。出来ればあんまりブラックじゃないような、ホワイトなパーティーが望ましい。でもそういうのは仲間に入ってからじゃないとわからないよね?

 まぁそういうところは大体才能持ちとかを選ぶから、私みたいなお荷物はお呼びじゃないか。


 ***


 私はどうやら、人にも恵まれているらしい。親以外だけど。

 次なるパーティーは聖騎士から冒険者に転職した、正義感溢れる人達で組んだものらしい。どうやら王国騎士団のやり方に疑問を感じて、自分達の正義を貫く為に騎士団を辞めて冒険者として困っている人々をダイレクトに助けよう、と思ってのことだと言う。

 元・騎士ライルを筆頭に、同じく騎士団同僚のマイク、ヒルク、ウェイン。ヒーラーのルーナで構成されている。

 そんなパーティーになぜ私が入れたのか?

 どうやら私の薬草の知識と、人柄の良さをグリスパーティーから聞いたらしい。そういう人脈から信用されることもあるのか、と新たな発見をした気分だった。


 ライルパーティーが受ける依頼は、主に人助けが中心だった。

 作物を荒らす魔物退治、洞窟に遊びで入って戻って来なくなった迷子探し、人手不足だから力仕事が出来る人材を求めたものなど。

 そんな中でも私は腕力が強いわけじゃないし、魔法も使えない。だけどグリスパーティーと一緒に冒険したことで得られた、数少ない才能でなんとか仲間としての役割を果たそうとする。

 滋養強壮の手作り料理、どんな愚痴でも聞きますよ……という頷き人形の役目、体の疲れを癒す為にマッサージも覚えた。どうにかしてパーティーに置いてもらえるよう、戦闘センス皆無の私は必死になって戦闘以外のスキルを習得していくことに全力を尽くした。


 ***


 ライルパーティーの冒険者ランクが上がった。

 一重に依頼の達成率の高さ、誠実な行動力、依頼人からの高評価。

 そういった地道にコツコツと積み上げていった努力が身を結んで、彼等の戦闘能力も上がり、最高ランクSから最低ランクEまである中、Cランクへとアップしたライル達。それは同時に私との別れも意味していた。


「本当にすまない。リコにはたくさん世話になったというのに」

「いいんです、そんなことよりランクアップおめでとうございます!」


 冒険者ランクが上がるということは、それだけ難易度の高い依頼が入ってくるということになる。生活能力や仲間の身の回りのお世話にばかりスキルが上がっていく私では、難易度の高い依頼について行くことが出来ない。

 もし強い魔物と交戦中に私が負傷、最悪死んだりしたらパーティーの評価はダダ下がりだ。お世話になった仲間に死んだ後にまで迷惑をかけたくはなかった。


 私はしばらく、自分に見合ったランクの低い冒険者を中心とした仲間募集の張り紙と睨めっこすることになる。


 ***


 あることに気付いてしまった。

 ランクの低い、いわゆる冒険者になりたての冒険者は質が悪い……ということに。

 彼等は思い上がって「自分ならなんでも出来る」という自己肯定感や自尊心が非常に高い人間が、思いのほかたくさんいたのだ。だから私みたいな弱小冒険者は加害対象になりやすい。蔑まされても当然だから文句を言うな、という謎理論だ。だから私はもっとよく人を観察するようになった。

 ランクが低い冒険者なりたて=タチが悪い、というのは全てにおいて当てはまるとも限らない。

 それに気付く前にいくつかDランク冒険者に一時的な仲間入りをしたことがある。つまりただの数合わせだ。

 たまに人数制限を設けている依頼書もある。ランクが低い冒険者、かつ人数がまだ充実していない冒険者避けの対策といったところだろうが。それでも一時的にパーティーを組むことによって、そのルールは意味を成さない。誰が考えたのかわからないけど、穴だらけの対策だ。

 人数制限があり、戦闘が含まれる依頼はなるべく避けて平和的な依頼を中心に受ける冒険者を狙う私。例えばお届け物とか、得意の植物採取、そういったものだ。

 

「リコはさぁ、僕達より長いこと冒険者してるんだろ? どうして特定のパーティーを作って冒険しないんだ?」

「いやぁ、私は戦闘能力がまるでザルでして。私みたいな生活能力しかない冒険者は、こうやって皆さんのお世話をしながらのんびりまったり冒険者やってる方が性に合ってるんですよ」


 えへへ……と気持ち悪い笑い方をしちゃったけど、気の優しいパーティーだから誰も嘲笑したりしなかった。個人的にはやっぱり、こういうのほほんと出来る人達とパーティー組んだ方が少しは気が楽になるなぁ。

 それでも人数合わせの依頼も終わり、今夜で最後。お別れの晩餐会だ。明日にはまた別のパーティー募集の張り紙と睨めっこしなくちゃいけない。


「もし僕達がCランクにまで上り詰めたら、また仲間に入ってよ。リコちゃんの作るスタミナ料理、マジで美味しいからさ」

「うんうん、楽しみにしてるからね! それまでお互い、死なない程度にガンバロ!」


 ***


 気心知れたパーティー全滅の訃報が届いた。

 私がパーティーを出てから、翌日の昼間に起きた悲劇。

 いつも通り、配達の依頼をしている最中に大型の魔物に襲われて、そのまま全員殺されたという。私は冒険者ギルドの受付のお姉さんと親しくさせてもらっていたから、その訃報を誰よりも早く聞かせてもらった。


「今時ない位、とても良い人達で集まったパーティーだったのに。無念です。リコさんも依頼遂行中だけでなく、魔物が出る場所では細心の注意を払ってくださいね……」


 冒険者になって、初めて泣いたのかもしれない。誰かの死を悼んで泣いたのは初めてだ。

 名前すら覚えていない、ただ単に良い人だった……というだけの人達の為に流す涙は、意味があるのだろうか。


 その日から私は、仲間になった冒険者達の名前を覚えるように心掛けた。


 ***


 最初はDランクの、平和そうな依頼ばかりこなす冒険者のパーティーにばかり入れてもらってた。

 だんだんと私の名前と存在が色んな人に覚えられるようになって、いつしか私は「冒険者の手引き人」というあだ名をつけられることになる。


「なんですか、それ? 私が冒険者の手引きって……」

「いや、色々噂になってるんだよ! 弱小、なりたて冒険者に冒険の心得を教えてくれる流れの冒険者がいるって。それがまさかリコさんのこととはつゆ知らず」

「様々な知識と、魔法に頼らない癒し効果、リコさんの手料理にはバフ効果が付いてるなんて噂もあるくらいなんですよ!」

「魔法も使えないのに、バフ効果のある料理って! 矛盾だらけじゃないですか! 別に私はそんな大層な人間じゃないですよ。色んなパーティーを点々としている、ただの最弱冒険者なだけですって!」


 そんな噂が流れて、いつしかそれは他地方にまでどんどん広がっているとは、私も予想してなかった。

 にも関わらず、私の戦闘能力は最初の頃と何も変わらない無能っぷりで。魔法の才能も無し。ただただ人間観察能力、危機察知能力、料理、薬草毒草の知識、マッサージ、アロマテラピー、魔物の解体、目利き……。

 そういった役に立つのか立たないのか。いや、実際にはこれでやっていってるようなものだけど。とにかく戦闘では全く役に立たない私は、ひたすら戦闘以外のことでパーティーに置いてもらうように、努力を惜しんじゃいけない生き方をせざるを得なくなっていた。


 ***


 私の生活能力、癒し能力が買われた。

 Aランク冒険者からの声がかかって、私は難易度の高い依頼に駆り出されている。

 国家転覆を狙った輩が王女に化けて周囲の人間を撹乱しているというもので、本物の王女から依頼があったのだ。自分だけの力では偽王女をどうにかすることが出来ないと。仮に見破ったとして、国家転覆を企むような奴等が弱いわけがない。冒険者ギルド側も、細心の注意を払って信用出来る人材ーーAランク冒険者ミトスに依頼を持ち込んだという。なぜそんな高難易度の依頼に、私が?


「君の洞察力、観察眼、信用に足るものだと聞いた。ぜひ力を借りたい。リコ、協力してくれるね?」


 さすが信用高い冒険者、顔も良い。態度も、言葉遣いも、満点だった。

 私はもう3年冒険者をやってるけど、それでも腰の低さは初年度と変わらない。下手したら更に低くなってるまである。戦闘能力はゴミ以下なので、偽王女だと見破ることが出来た後の戦闘はお任せしましたと言って私は一時的に彼等のパーティーに入ることになった。


 偽王女は確かに外見だけ見れば瓜二つだった。だけどそれだけだ。

 なぜ身近にいた侍従、ましてや実の親である国王や王妃まで気付かないのだろう?

 王女は英才教育を受けている。レディとしての所作も完璧にこなす、まさに淑女。だから耳の良い私にはすぐにわかった。王女は高いヒールを履いていても、姿勢を崩すことなく、しゃなりしゃなりと上品に、足取り軽く歩く癖がついている。だけど偽王女は突発的に王女を演じているのだから、どんなに粛々とした態度を装っていても足の運び方ですぐに違いがわかった。

 恐らく高いヒールを履いて廊下を歩いたり、階段を上り下りしたり、そういったことに慣れていなかったんだろう。時々崩しかける姿勢、階段を下りる時に危うい足取りになるところ。

 どんなに繕っていても、そういった細かい部分でボロが出る。加えて王女は顔にあまり汗をかかないが、偽王女の額は汗で滲んでいる。口角の上がり方が不自然。数え上げればキリがない。

 謁見の間で本物の王女と共に登場し、偽王女を問い詰め、窮地に追いやる。それでもよほど自信があるのか、揺らがない態度。そこで私はお手製のスープを出して、二人の王女に飲ませた。

 一人はむせ返るほどに拒絶反応を起こし、それ以上食べることを拒否する。

 もう一人は美味しいと言って完食した。

 そのスープには、あるきのこが入れている。本物の王女は、大のきのこ嫌いで見ただけで気絶する程らしい。

 大嫌いなきのこスープを美味しいと言って完食した偽王女が、その場で拘束される。

 親子の感動の抱擁はなく、私があらかじめ処方していた安静剤を王女に飲ませて落ち着かせた。アレルギーがあったら大変だったけど、専属の世話係曰く「ただ嫌いなだけ」ということで、この方法を取ったのだ。


 かくして国家転覆騒動は幕を下ろし、ミトスパーティーは国王から多額の報酬をいただいた。

 ミトスパーティーが国レベルの問題を解決したとして、ついに最高峰であるSランクに昇格することとなる。


 ***


 Sランクともなれば、それはもう勇者とか英雄レベルの依頼ばかりこなす超多忙な冒険者となる為、このまま一緒に冒険しないかとミトスに誘われたけれど、丁重にお断りした。

 私は自由気ままに、何不自由なく、お金に困らない暮らしが出来たらそれで良かったから。

 だけど今回の一件で私の知名度がますます上がったらしく、今度は相手の方から私にパーティーに入らないかという依頼が殺到してしまう。

 自分から探す手間が省けたとはいえ、どれもBランク以上の冒険者ばかり。

 私は気が進まないけれど「冒険者の手引き者」という肩書きを利用して、今後も冒険者の手ほどきをする導き手としてやっていきたいという適当な理由を付けて次々と断っていった。


 ***


 ある時、聞き覚えのない名前が出てきて心臓が締め付けられるような思いをした。

 どうやら冒険者の間で、私は「幸運の聖女」という別名が付けられているというのだ。一体全体、何をどうしたらそんな名前が付けられるに至るのか。不思議に思っていたところに「トルクという名の冒険者を覚えていますか?」と、受付のお姉さんに聞かれた。

 当然覚えていない。覚えていないということは、名前を覚えようと誓う前に出会った冒険者なんだろうと、ピンと来た。瞬間、目の前が真っ暗になって、あの日のことを思い出す。胸が重苦しくなるようだ。


「トルクパーティーが全滅した、という話が最近また噂になってまして。どうやらリコさんの噂を元に出て来たみたいなんです」

「どうして、今さら……なんですか」

「トルクパーティーは、リコさんとのパーティー契約が解けた翌日に全滅しています。それがある噂の発端となったようなんですよ」


 困ったように、亡くなった者を悼むように、受付のお姉さんは沈んだ声で話して聞かせた。


「リコさんが抜けたから全滅した、と」

「はぁ!? どうして……っ」

「いえ、違うんです。これには続きが。……リコさんがパーティーを抜けてから不幸に見舞われた、ということなので。逆にリコさんが仲間でいる間は、リコさんの聖なる力でパーティーが守られている……という噂で今持ちきりなんですよ」


 意味がわからない。どうしてそうなるの?


「つまり、リコさんは今ーー冒険者達の間では聖女として敬愛されているんです」


 ど、ど、どどど、どうして? なんでそうなるの?

 当の本人である私は何もしてないのに? なぜ聖女?

 魔法も使えないのに!?


「だからここ最近、リコさんをお守り代わりにパーティーに入ってもらおうという冒険者もいるので、まぁ縁起物としてにっこり微笑みながらついて行けば、それだけでギャラが発生するので良かったじゃないですか」


 受付嬢がそんなこと言っていいの!?


 ***


 私は悪運が強いらしい。

 確かに私は、幸運を呼ぶ力があるかもしれない。これまで培ってきたスキルは全部我流で、繰り返しと経験と勉強で身につけたものだけど。幸運だけはそうもいかない。

 どうりでこれまで特に危険な目に遭わず、無事に生還出来たわけだ。今なら認める。納得する。

 だけど私のことを聖女様と呼ぶのはさすがに勘弁してもらいたい。私はそんな大層な人間じゃないし、何よりそんな呼び名で統一されてしまったら、何も知らない連中が「聖女様、聖なる力を見せて!」とかトンチンカンな無茶振りされそうで怖い。というかすでに実際、ある村の子供にそう言われたことがある。

 冒険者パーティーに入る時には、私は必ず「冒険者ギルドの聖女と呼ばれてはいますが、実際の私は奇跡なんて起こせない一介の冒険者です。奇跡の力をお求めでしたら、今すぐ解雇してください」と前説するのが一連の流れとなってしまった。

 それでも私の生活能力、身の回りの世話や気配り、そういった戦闘に全く役に立たない特殊能力を欲している冒険者もたくさんいるわけで。

 

「聖女リコ様がパーティーにいるだけで、奇跡の力をもらってるようなものです!」


 というわけのわからない理屈で解釈してくる冒険者が、これがまた大半だったりする。

 それでも実際、私の幸運はパーティー内全員に効果を発揮するようで。ピンチに陥っても形勢逆転したり、ラッキーの連続が起きたり、そういった奇跡がちゃんと起きてくれるから私は高値でギャラが発生。ウハウハだ。


 今日も今日とて、私は冒険慣れしたつよつよパーティーにお招きされて、今日も元気に寄生する。

 そうすれば私自身の命の保証は約束されているし、マジで能力不足なパーティーにはそれらしいことを言って依頼内容を変更させたり、丁重にお断りするようにしている。

 そしてそれがまたあらぬ誤解を生んで、私にとって都合の良い噂が広まっていく。


「聖女リコの言う通りにしていれば、依頼は必ず成功する!」


 実際、極貧な平民出の私に奇跡の力なんてありません。

 戦う力も未だにないし、魔法なんて一切使えません。

 あるのはそう、人を見る目と生活能力。

 美味しい料理にマッサージ。

 巧みな話術に、愚痴聞き人形。

 それでも良いと言うのなら、どうぞリコをお雇いください。

 永遠の弱小冒険者リコを、どうぞよろしくお願いいたします。

読んでくださり、ありがとうございます。

あらすじや前書きで「なんの能力もない無能なリコ」と言ってますが、身につけた能力はなかなか出来るものではないから実はすごいのでは? と、私は思います。

でもリコは本当に戦う力は皆無です。

守りながら戦う冒険者の身を考えたら、よろしくないですね。

面白かったらいいね、⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️評価、ブクマ登録など、よろしくお願いします!

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