謁見
俺達は今、騎士団に買ってもらった服を着こんで馬車に乗っている。
朝からクレアが迎えに来てくれた。
謁見の作法やらは王宮で事前に教えてくれるらしい。
けど、それでも不安だからクレアにどんな感じなのかと聞いてみた。
「私にはわかりません。陛下に謁見など許されたことはないのですから。大丈夫ですよ。何とかなると私は信じています」
クレアは全く頼りにならなかった・・
そして到着した王宮の待機室。
高級な紅茶とお菓子が出てきたけど、緊張で手を伸ばす気にもならない。
アリア以外は。
「あなた達が要らないなら私が頂くわ」
俺とリファの分をモグモグしている。
リファでさえ緊張してるのに、アリアってほんとブレない。
礼儀作法を教わっていよいよ謁見室へ呼び出しがあった。
扉が開くと、両脇に30人ほど貴族と騎士が並んでいる。
俺達が入るとヒソヒソと声が聞こえてきた。
「まだ子供じゃないか」と驚いているらしい。
アリアが怒りださなければいいけど・・
教わった通り、中央を俺。3歩下がってアリアとリファが左右を歩く。
絨毯に描かれた模様の上で片膝を付いて陛下の登場を待った。
この時間は緊張する。
「陛下がお見えになられます」
壇上に立つ老人の声が静かに響いた。
コツコツと足音が聞こえて椅子に座る気配がして、声を掛けられた。
「風の旅団の者達だな。そう緊張せずとも良い。顔をあげなさい」
恐る恐る顔をあげると、王国軍統合本部で見た肖像画のおじさんがいた。
王冠は乗せていない。金髪碧眼の優しい笑みをたたえる親しみやすそうなおじさんだった。
「風の旅団、リーダーのキース、アリア、リファーヌの3名にございます」
壇上のご老人が陛下に告げた。
「ふむ。ロゼム金山及び旧ノルドワルド領屍竜討伐についてだが、どちらも王国を揺るがす大災難となる所であった。そして、そのどちらにも風の旅団が貢献し解決に導いたと聞く。実に大義であった。その働きに国を預かる者として礼を言う」
「キース。直答を許す」
「は、恐悦至極にございます」
「ははは。まだ緊張しておるな。そう固くならずともよい。よし、褒美を取らす」
ご老人が台紙を読み上げた。
「風の旅団にロゼム金山での貢献を認め、報奨として金貨500枚をこの度の褒美とする。また、旧ノルドワルド領屍竜討伐の功績を認め褒章として金貨500枚を褒美とする」
「あ、ありがとう存じます」
金貨1千枚って・・多くないか?
俺は冷汗が出てきた。
「さて、堅苦しいことはここまでだ。少し質問をしたい。気軽に応えてくれればよい。まず、空を飛ぶと聞いておるがそれについて詳しく聞きたい」
どうやって飛ぶのか、誰でも飛べるのか、飛べる距離は、速さは?などなど。
そんな質問に答える内に、エルベス大魔境の話になった。
魔境の中で川を越えるためにリーフボードを思いついたと話した時だ。
「エルベス山脈を越え、あの大魔境を走破したか!剛毅だな!はははは!」
もしかしてすごく気さくな人なのかもしれない。
「いや、これはこの時間だけでは足りん。後日時間を作るからゆっくり話を聞かせてくれぬか」
「はい。喜んでお話し申し上げます」
周りの貴族がざわざわとしている。
謁見というのはこんな砕けた雰囲気なのか?
何か失礼になってないかと不安になってしまう。
「ところで、フェルダールから聞いたがキースよ、其方はあのクリフロード家の生き残りというのは本当のことか」
「はい、その通りでございます」
「ふむ。今はクリフロード家は存在しないと知っているか」
「はい」
「其方、貴族籍に戻りたいか?この国の貴族になるのであれば、ノエリアには行かせぬぞ」
「可能であれば、家を再興したいと考えております」
「ふむ。この国を嫌っておるという話を聞いているが」
将軍と話した内容は全て伝わっていたようだ。将軍に嘘は言ってないし、この場で取り繕ってもいい結果にはならないだろう。真摯に応えるべきと思う。
「確かに、随分と嫌な目に遭いました。一度はこの国から出て行きたくもなりました。しかし、この国には私達の話に耳を傾けてくれる方や、己の至らなさが招いた結果であると諭して下さる方がいました。私達にも非はあったのです。それに気づかされた以上嫌いとか出て行くという考え方はできません。ここは私の生まれた国です。私はこの国に帰るために苦労してエルベスを越えてきたのですから。私はこの国で生きて行きたいと考えております」
俺の話を陛下は厳しい眼差しで聞いていた。
「ふむ。その気持ち嘘はないな。であれば、成人後に爵位を授けると約束しよう。少し早いが今よりキース・ロブ・クリフロードと名乗ることを許す。クリフロード家を再興すると良い」
「あ、ありがとうございます!」
「うむ、おぉ、そうだ。其方の齢はいくつだ?」
「11歳です」
「では、一年後の話になるが学院へ行きなさい。王立学院を出ていない者に王国爵位は与えぬ。詳細は誰かに話しをさせよう。では、後日。其方の冒険談を楽しみにしている」
陛下は席を立って出て行った。
こうして謁見は終わった。
謁見後、通された別室で褒章の金貨1千枚を受け取り、学院の説明をしてくれる担当者を待っている。
「ねぇ、キースは学院に通うの?」
「うん。行かないと家を再興できないなら行くよ」
「ムグムグ・・学院で何を学ぶのかしら。文字も算学も魔法も十分じゃない」
王宮というところは待合室にメイドとお茶とお菓子が備え付けられている。
アリアを筆頭に、俺もリファも今はお茶菓子を頂いている。
「でも、その間アリアとリファはどうする?」
「勿論。稼ぐわよ。リファーヌと。あなたがお勉強している間、私達は近くの魔境で稼ぐわ」
「リファもそれでいい?」
「う・・ん」
「なんか不満そう」
「うん。キースが学院の女の子にうつつ抜かさないか心配」
「何だそりゃ!」
そこに、ノックがあって学院について説明してくれる人が来た。
「えー風の旅団の皆さんに学院についてご説明をするよう仰せつかりました。エッゲルと申します。早速ですが、お三方の王立学院入学に関するお話をさせていただきます」
「ちょっと!私はいかないわよ!」
アリアが叫んだ。
「え?私も行っていいの?」
リファが笑顔になった。
「お三方と聞いておりますが、勿論辞退は可能です。では、アリア様だけご辞退という事でよろしいですか?」
俺もリファもアリアを見た。アリアが一人になってしまう。
「そんな顔しないで。これまで一人だったんだから気にしないわよ。さっき言った通り私はその辺で稼いでるからあなた達はお勉強しなさいよ」
「では、説明を始めます」
俺達の話をぶった切ってエッゲルが話し始めた。
「基本的な所から。この国では、13歳の齢になる貴族の子弟は王立学院に通う事になります。通わない子は貴族の爵位はおろか、将来要職に就くことはできません。学院は王都、他直轄領にもあります。在学は15歳までの3年間です。将来王国の要職を目指すのであれば、更に3年高等院に通って頂きます。学院はいくつかの専門に分かれています。まず、貴族院。これは領政、文官、侍従、貴族の専門に分かれます。最後の貴族というのはご令嬢方の花嫁修業ですな。次に、騎士院。これは騎士、従士の二つがあります。次に魔術学院。魔法、魔術、薬学に分かれます。他、商学院、工学院。こちらは基本平民向けですな」
そこまで一気に話してお茶を啜った。
「さて、あなた方に合う所で言うと、貴族院の文官、騎士院、魔術学院のいずれかという事になりますが。どれをご説明いたしましょう」
「えっと、魔術学院についてお願いします」
「では、まず魔法コースについて。これは騎士団所属の魔法師集団を目指します。一つの魔法しか使えない方にはこちらをお勧めします。次に、魔術コースは、魔法や魔法陣の研究と研鑽を行います。宮廷魔術師団を目指す方はここですな。宮廷魔術師団は王国各地へ赴き、瘴気、遺跡、不可解な事案の調査とその解決を主とします。勿論研究職もあります。最後の薬学は言わずと知れた薬の生成と研究です。植物、魔木、魔物から有用な成分を取り出して薬の研究をするということですな」
「キースは魔術?」
「うん。そうだね」
「じゃあ私も魔術にする」
「リファ、ちゃんと自分の学びたいものを選ばないと」
「だって、薬学ならもう学んだもん。知ってることをまた学ぶって嫌じゃない?だから、キースと同じでいいの」
「まだ1年の猶予があります。今決めずとも、宜しいかと思いますな。入学前に試験があります。魔術学院では、魔力測定と実践魔法の実技ですな。制服を作る必要もありますから、遅くとも入学の30日前には一度魔術学院を訪ねてください。入学は翌年1月の10日。全員入寮となります。おぉ、学費についてお二方は不要です。学費、寮費とも陛下が全額ご負担下されます。有望の者については貴族、平民問わず陛下がご負担下されるのです。私からは以上です。他、ご不明点は魔術学院もしくは貴族院でお聞きくださいな」
そこで、エッゲルさんは退室していった。
そしてまたすぐにノックがあった。
「ギュスターブ侯爵閣下が別室にてお待ちでございます」
とメイドが告げてきた。
それで3人顔を見合わせた。
「ねぇ!忘れてた。招聘状が2通届いていたじゃない」
「ギュスターブ侯爵と、セルフィフィード伯爵から。もうすっぽりと抜けてたよ!」
「怒られちゃうよ。どうしよう」
「あの、侯爵閣下がお待ちですのでお早くお願いいたします」
俺達の焦りや戸惑いなどお構いなしにメイドは淡々と急かす。
メイドに連れて行かれた部屋は少し豪華な応接室だった。
そこに、貴族が二人、その従者や護衛、メイドなどがいた。
俺達は案内されて対面の席に着いた。
「やっと会えたな。私はギュスターブ、こちらはセルフィード伯爵だ」
「初めまして。風の旅団のキース、アリア、リファーヌです」
「以前に風の旅団宛てに招聘状を送ったのだが届いてはいなかったか?」
「申し訳ありません。お二方の招聘状は届いてはいましたが、王都に向かう途中であり王国騎士団から出頭命令が出てまして、お二方の御領地まで引き返すことができませんでした」
「あぁ。事情は承知している。別に責めているわけではない。だが、一つ急ぎで頼みがあるのだ」
ギュスターブ侯爵がそう言うと、一人の従者が地図を1枚テーブルに置いた。
「これは我が領の地図だ。こっちが王都。東隣のここがセルフィード領だ。以前、セルフィード領で紺紺鳥を大量に討伐したそうだな」
「はい、勝手をしてすみませんでした。果樹園の方達が凄く困っていたのでつい。後から思えば少し度が過ぎたかと反省しています」
「いや、反省などせんでいい」
セルフィード伯爵がずいっと身を乗り出してきた。
俺達は思わずのけ反った。
「私はずっとお前達に礼を言いたかったのだ」
そして、申し訳なさそうに隣のギュスターブ侯爵を見た。
「実に果実の6割が毎年被害に遭っていた。だが、これで領財政も立て直せる。心から礼を言う。だが・・」
「そのせいで我が領で予想もしない被害が出ているのだ!」
話を強引に引き戻した侯爵が地図上の森を指した。
「ここに、以前からグリフォンの番が住み着いている。そのグリフォンは紺紺鳥をエサにしておったのにその紺紺鳥がいなくなった。それで我が領民を襲い始めたのだ。今までは害鳥から領の作物を守る益獣であったが、今は脅威でしかない。お前達にグリフォンを討伐してもらいたい。ぜひ、すぐにでも頼む!」
バンっと両手でテーブルを叩いたからカップがガチャリと音を鳴らした。
侯爵は俺を睨みつけている。何が何でもやらせるぞという気迫というか鬼気迫るものがある。
「グリフォンのせいで、領民は外へも出られぬ。仕事もできぬ。非常に困っておるのだ。頼む!どうか我が領を、ギュスターブの民を救ってほしい!」
あまりの熱量に圧倒された。なんかものすごく熱い人だ。
「あ、あの、侯爵様。その領までここから何キロル離れているのでしょう」
「クッ・・2500キロルだ。普通に旅すれば馬車で60日。だがお前達は空を移動するのであろう。ならばなんとかならぬか?頼む!この通りだ!」
「侯爵ともあろう方が、このような冒険者に頭など下げてはなりません!」
従者と思われる人が見かねたようで、俺達に懇願する侯爵様を諫めた。
「ばかもん!その侯爵の私に打つ手がないから頼んでおるのだ。領と民の為ならば私の頭など幾らでも下げる!邪魔をするな!」
この人目が血走ってる・・
「ねぇ、キースどう思う。他に用事がなければ私は討伐しに行くべきと思うの」
リファは何とかしてあげたいみたいだ。そうゆう優しい子だし、俺も気持ちは何とかしてやりたい。
「アリアの意見は?」
「私はあなた達に任せるわ。でも、一つだけ条件があるわ。ワインの大樽一つ。それだけは譲れないわよ」
確か、ギルド本部長に契約とかお金のことは任せろとか言ってたよな。
それが酒樽って・・アリアに任せて大丈夫なのか?
「じゃあ、お引き受けします」
「おぉ!やってくれるか!では報酬を先に渡しておこう!」
一筆公爵家の執事宛てに書簡を認めてもらい、報酬全額前払いで金貨30枚を受け取った。
ちなみに、セルフィード伯爵も、金貨10枚をくれた。
渋々といった感じだったけど、隣で侯爵様がポンっと大金を出しているのに、伯爵家が謝礼無しでは立場がないのだろう。
そんな推測をしながら、俺達はようやく王宮を出ることができた。
謁見は終わったけど、まだこの高級宿に期日までは泊まってもいいらしい。
その夜、食事をしながら今後の予定を話していた。
「ぷはぁ。で、あなた達、学園までの一年はどう活動してゆくつもり?王都に引きこもるの?」
アリアだけしっかりエールを飲んでいる。
「まずはギュスターブに向かって、その後は王都で妹を探したい」
「ね、キース。私思うんだけど、ジュリアを探すのは来年以降にしない?」
「どうして?」
「1年って結構長いよ。その間にできることがあると思う。例えば、お母様のお墓探すとか、故郷の様子を見に行くとか。だって、学園に入ったら長いお休みってどのくらいあるか分からないけど、今よりは時間に縛られるし動きづらくなるじゃない」
「うーん。確かにそうだけど」
「それに、王都は50万人もいるんだって。その中からどうやって探すの?手掛かり見つけるのも簡単じゃないよ。下手したら何も得るものが無くて一年過ぎちゃうかも。だったら、来年からどうせ王都にいるんだし、今は遠くの方に目を向けてみた方がいいよ。今ならお金もあるし」
「リファーヌの意見に賛成!」
アリアが杯をあげた。
「確かに、今ならお金も時間もあるけど、来年からは縛られるわよね。正直冒険しようって言いたいところだけど、王都に引きこもる位なら私も旅に出たいわ。だって、学園卒業したらどうなるか分からないんでしょ?騎士団なり魔術師団なりに入ったりしたらもっと時間がないわよ。まさかお貴族様が冒険者って訳にもいかないだろうし。時間があるのはこの一年だけ。その間に冒険しながら旅をして目的を一つ一つ果たした方がいいわよ」
「う~、確かに」
「こうゆう時は多数決ね!王都に引き込もりたい人!」
しーん。
まだ考え中だっつうの!
「じゃあ、キースのお母さん探して、ついでにキースの故郷の様子を見に行きたい人!」
「はーい!」「はい」
「・・・・」
ジュリアを早く見つけ出したいというのが俺の本音だ。
でもリファの言う通り、簡単に行くとも思えない。
だから悩んでしまう。
「キース。私もリファーヌの意見が正しいと思う。それにね、御貴族様のお嬢様なんだから、13歳になったらきっと学園に入って来るわよ。学園で待ってればいずれ会えるんじゃないかしら」
「アリア。ジュリアはもう貴族じゃないんだ。学院には入って来れないよ」
「あ、そうか。でもその騎士の養女になっているなら入って来るわよ」
「ま、その可能性はあるかな」
「キース、50万人の中から当てもなく探すよりはよっぽど可能性があるよ。ジュリアのことはその時でいいんじゃない?まずはお母様を見つけてあげようよ?ね?」
リファがここまで主張するのは珍しい。
きっと俺は焦り過ぎて冷静でないのかもしれない。
「分かった。ギュスターブ領で依頼を終えたら、一度バルバリー領のケシャルへ行こう」
今度こそ母様を見つけ出す。
ジュリア、もう少し待っててくれ。いつか必ず探し出すから。
翌日もクレアはやって来た。
確か謁見までって言ってたはずなのにどうしたのだろうか?
「陛下が会食をご希望されております。何でも魔境の話をお聞きになりたいとか。急ですが、明日の昼前に王宮から馬車を迎えに寄こすそうです」
そしてクレアに連れられて、またあの服飾商へと向かう事になった。
何でも、貴族とは、パーティーやら会食には、同じ装いをしないものらしい。
だからよそ行きの服が大量に必要になるのだとか。
何と面倒な・・
同じ服ばかりを着回す者は貧乏貴族として、蔑まれ信用すら失う事もあるのだとか。
お貴族様あるあるなのだそうだ。
「ところで、皆さんはお食事のマナーはご存じですか?ナイフにフォークにといっぱい並ぶのですが、どれが何用とかその順番などご存じですか?」
「知らないわよ!森の民にそんなこと求めないで!」
アリアが叫んだ。
「俺も!」「私も!」
俺も負けじと叫ぶ。
「大丈夫です。私が今晩、食堂でしっかりレクチャーいたしますから!」
ふんす!とクレアが請け負ってくれてた。
でも、多分この人は職務で美味しい料理が食べたいだけなんだろうな、と思ってしまう。
けど、クレアがいてくれて助かった。
その日、俺達は新たに服を買い、マナー講習を受けながら美味しいコース料理を頂いた。
しかもすべて騎士団の支払いで。
こんな湯水のように騎士団のお金使っていいのかな。
だんだん不安になって来た俺だった。




