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ブラックカードX

 カードと言っても鎖のついたプレート付きのネックレスだ。

 形や大きさはこれまでの会員証と同じ。

 ただ、色が黒く、ラメというか光加減でチカチカ光る。砕いた宝石を混ぜ込んだような色合いだ。

 そして、そこには“ランクX”の文字が書かれていた。


「これは特別な力や才能を持つ者、或いは実績を成した者、または本部ギルドのごく一部の職員が持つ事を許されている。そうした者を我々は裏会員と呼んでいる」

 そう言って本部長は首に掛けたカードをちらりと見せた。


「君達はこれまで子供のランクE冒険者として相応の対応に辟易したのではないか?これからは、表向きはランクB、ランクC冒険者として、だがそれでも舐められた時はこのカードを見せると良い。ギルド職員であれば誰でもこのカードの存在は知っている。今回、大王亀討伐、ロゼム金山奪還、屍竜討伐についてはこのブラックカードXに記録されている。これを見せればギルド支部はブラックカード保持者として対応をすることになる。具体的には、あらゆる融通を利かせろ。文句があるなら本部に言え、だ。君達がSランクの依頼を受けても構わない。何故なら超法規的ランクX保持者だからだ。必要な物資や人材を優先的に調達もできるし、あらゆる要望を最優先で通すこともできる。閲覧制限の高い資料も見られるし、ギルド幹部の面会も予約要らずだ。勿論犯罪はダメだ。だが、仮に人を殺しても、弁明があればギルド内では見過ごされる。君達に害を為す者がいればギルマスであろうと排除されることもある。ギルドは君達を中心に回ると言ってもいい位の好待遇だ。否、それはさすがに言い過ぎだな。だが、ギルドはあらゆる面で君達をサポートすることになる。ただし、Xでいくら仕事をしても表のランクは上がらんがな」


 俺達は顔を見合わせた。言葉が出ない。この展開は何なんだ?

 昨日、俺達は犯罪者とか嘘つきとかで拘束されていたのに。

 騎士団もギルドも待遇が変わり過ぎて戸惑いしかない。


「おぉ、そうだ。一つ謝罪をしておかねばな。追放処分についてだが、詫びよう。トッテムの元ギルマスが不当に君達の会員登録を抹消した。これは我らの監督不足だ。本部から調査員をトッテムに派遣していたのだがな、調査内容が膨大過ぎて君達の追放に気付くのが遅れてしまった。ビフリートという元ギルマスは既に王国軍により捕縛されている。罪状は王国に危機をもたらした国家騒乱罪やら何やらまぁ色々だ。財産没収、貴族籍剥奪の上処刑されると既に決まっている。まったく、ギルドの力を己の力と勘違いしたとんでもない愚か者だ。実に嘆かわしい」


「・・・・・」

「・・・・・」

「ぷっ」

 俺とリファは絶句していたのに、アリアは噴き出した。

「はぁーすっきり。次に会ったら顔面引っ掻いてやろうかと思ってたけどその必要もなくなったわ」

 俺は、一歩間違えば俺達も同じ罪状で捕まっていたかもしれないと戦慄した。

 国家騒乱罪だぞ?処刑される可能性だってあったんだぞ!

 なのに、アリアは顔面引っ掻くとかってさ、罰の次元が違い過ぎないか?


「さっきも言ったように、君達は裏ランクではXとなった。だが、ただでXにして優遇するわけじゃない。今後、王国の危機、人族の危機、人々の平和を脅かすあらゆる危機に対して命がけで働いて貰う事になる。“ギルド本部指令”という名目でな。勿論、報酬は出る。融通も利かせる。全面的な協力と支援を我々は惜しまない。引き受けてくれるかね?」


 3人で目配せをする。

「それは、ノエリア王国に行っても変わらないんですか?」

 アリアの質問だ。アリアはそんなにノエリアに行きたいのか?

「変わらない。どの国であってもその国のギルド本部が全面的に君達を支援する」

「ふーん」

「ね、アリアはノエリアに行きたいの?」

 リファが聞いた。

「別に。あなた達のいるところに私はいるわ。でも、もしかしたら向こうに行きたいって思うかもしれないじゃない。念のためよ」

「そう」

「分かりました。引き受けます。どうせ、俺達困っている人を見過ごせないし、危ない魔物が出てきたら戦っちゃうし。リファもアリアもそれでいい?」

 二人共頷いた。


「分かった。では、よろしく頼む」

 そう言って本部長は俺達から黒のXカードを取り上げた。

 そしてまたチリンとベルを鳴らす。

 さっきの人に、黒いカードを渡すとその人は出て行ってしまった。


「今、登録をしに行っている。それから、正当な報酬を振り込むから少し待っていてくれ」

 そう言って書類を取り出して俺達の前に置いた。


「X会員になったから、話せる内容というものもある。そうした情報は他言せぬように。今から言う報酬に関する内容もだ。まず、大王亀討伐。本来は指定ランクAの魔物だ。つまり、A級冒険者へ出す依頼をE級の君達が受けた。大王亀の場合推奨される最低討伐報酬額は金貨50枚。しかし冒険者のランクが下がれば、依頼料も下がる。君達への報酬は金貨2枚だったな。大王亀を倒してそれは少な過ぎると思うかもしれんが、私は妥当と考えている。そもそも、E級がA級を倒しても討伐料は出ないのだからな。ランクEが受け取る報酬は銅貨ベースで、金貨2枚は破格の報酬額と言えるのだよ。次に、大王亀素材の件だ。配分でだいぶ揉めた」

 そう言って1枚の紙を指した。


「本来、魔物素材は討伐者にその素材の所有権がある。それをギルドに売れば6~7割が討伐者へ支払われる。1割は被害の出た場合に地方行政領、3割がギルド手数料及び税になる。今回の場合、君達の正当な取り分は金貨280枚。ところが、バース伯爵がその所有権を強硬に主張してな、どうしても譲らないという。ギルドとしては折半で話を付けた。素材所有権には契約書がない。持ち帰った者が所有権を主張すればそれが通ることもある。故に、君達の取り分は金貨140枚だ。ついでに言うと、バース伯爵領からギルドは撤退することになった。そして、ギルドは君達に一つ借りを作った。それで納得したら署名をしなさい」


 金貨140枚って多すぎて訳が分かんない。

 金欠から解放されるなら何でもいいやと思ってしまう。

 俺はすぐに署名した。


「次に、ロゼム金山の件だが、あれは騎士団管轄だ。ギルドはその報酬額を一切関知していない。騎士団が払うと言った額を事前に提示したが、払う、払わないは騎士団次第だ」

 本部長は俺達の顔を伺った。

 アリアは不満そうな顔をしてる。

 リファは不承不承頷いた。


「最後に、屍竜討伐だ。これはキース、お前が契約を破棄したから討伐報酬は出ない。素材配分もない。本来ランクSの仕事だ。S級であれば、伯爵軍に捕まるような事にはならないし、契約破棄などしない。S級とは普通その位の経験を積んでるものなのだ。これは自己責任だ。異論は認めない」


「構いません。不当な拘束と不当な契約破棄でしたけど、決めたのは俺ですから」


「うむ。一応当事者として事情だけは知っておけ。ランクSの魔物の魔石に関しては王国所有と決まっている。これを所持した場合、国家転覆予備罪で投獄されるから気を付けろ。今回、竜骨等は査定の結果、金貨1200枚と算定された。1割が領地公館、3割がギルド、残る6割はノルドワルド伯爵捕縛と同時に王国が没収した」


「つまり、王国は何もしないで一番儲けたわけね」

 アリアが口を尖らせている。

「君達、大事なことだからよく聞きなさい。せっかく命がけで討伐しても、君達は契約が甘すぎる。事前にしっかり打ち合わせて取り分を確認しなさい。正当な契約をしていれば、屍竜討伐だけで報酬と素材合わせて1220枚の金貨を手に出来た筈だぞ。更に大王亀で140枚取りこぼしてる。素材配分の所有権は通例であって絶対ではない。もっとしっかりしなさい。脅迫してくる者もいるだろう、だがそんな奴に屈するな。貴族はあの手この手でむしり取ろうとするぞ。今後はX会員だ。討伐報酬も素材配分も大金になる。良く考えて最善の契約を結ぶようにしなさい」


「・・はい」

 今一まだお金についてはよく分からないんだよな。

 ちょっと自信がない。

「分かったわ!私に任せて。私がいる限りもう二度と取りこぼさない」

 アリアが立ち上がって宣言した。

 俺達はポカンとしてアリアを見た。

「なによ。私じゃ不服?少なくともあなた達よりはまともな金銭感覚を持っていると自負しているわ!」

「いや、そうなのかな。まぁ、じゃあお金のことはアリアに任せるよ」

「任せなさい!」


 そこに、さっきの人が戻って来た。この人は実は秘書なのかもしれない。

 表の会員証と裏の会員証。一人に2枚づつ会員証が渡された。

「今日、私がここまで話したのは、騎士団から君達が報酬に関して不満を抱いていると聞かされたからだ。だが、取りこぼしたのは自分自身の責任だ。それを分かってほしかった。以上で話は終わりだ。これからの活躍に期待する」


 俺達は本部長の部屋を出た。

 何か世界がガラッと変わった気がした。

 もう無理に依頼受けなくても当分困らないよ。

 それに、裏会員とはいえランクX。こんな事予想していなかった。

 散々脅してくれたケルンギルドのギルマスとお姉さんにこのブラックカードを見せつけてやりたい。

 次にケルンを通りかかったら絶対見せつけてやろうと俺は心に誓った。


 ギルド本部を出るとすぐにクレアに「良かったですね」と言われた。

「会員証返してもらえた上にランクアップ。高額な報酬も貰えて何よりしっかりと信頼されていたのですから。これまでの苦労が報われたのではないですか?」

 確かに、全部報われた気がする。

 うんうんとリファも頷いている。

「それに、悪い奴もしっかり処分されたしね!」

 そうだった。エルフ族は恨み深い種族だった。

 だからアリアはクソギルマスの顔を引っ掻く事に(こだわ)っていたのか。

 俺も一人合点がいってうんうんと頷いた。

 アリアから恨みを買わない様に気を付けねば。



 翌日は王都見物。


「お金も入ったし、防具でも新調したら?」とアリアから提案を受けた。

 防具なら大王亀討伐の前に新調したばかりだ。

 でも、ロゼム金山と屍竜討伐では俺だけ激戦だった。

 ボロボロという程でもないけど痛みはひどい。

 アリアも野営道具屋に用があるらしい。

 という事で、クレアに頼んで王都見物兼買い出しに行くことにした。


 騎士団の馬車に揺られて中心地へと向かう。

 王都は相変わらず混雑している。

 この中から成長したジュリアを探すのか・・


「ね、クレアさん。王都には何人の人が住んでいるんですか?」

「50万人だそうです」

「え?そんなに?」

 どうやって探そう・・


 庶民街の商店通りへと着いた。

 馬車は一旦返して、帰りは乗り合い馬車になるそうだ。

 早速、野営道具屋が見つかった。

 アリアは、収納袋から自分の幕舎を取り出した。

「これ売りたいんです」

「何で?」

 わざわざ売らなくたって持っていればいいのに。

「あら、邪魔じゃない。その袋だって空間は有限なのよ。これから大物をいっぱい狩るのに私の幕舎が邪魔で入らないとかありえないし。それに、キースといる内は必要ないでしょ」

 なるほど。


 そして、凄い安値で買いたたかれたらしく、アリアの機嫌が悪くなった。

「銀貨8枚の品が銅貨5枚ってどうゆう事!」

「それはアリアが使って中古になったからじゃない?」

「買った時も中古だったわ!」

「じゃあ、最初が高かったんだね」

「もう!!」

 アリアがプリプリするから適当な店で甘いお菓子でも食べることにした。

 幾分機嫌が戻ったところで再出発。


 クレアの案内で、大通りを歩いていると人が大勢立ち止まって上を見ている。

「何を見てるんだろ」

「あれはですね、王国から王都民へ王政の布告や、最近の大きな事件などを知らせているのです」

 俺達も傍に行ってみると、石造りの大きな壁が立っていて、その壁面が掲示板になっていた。

 巨大な魔力感知版だろうか。

 凄い巨大装置があるものだと感心していたら、リファが袖を引いてきた。

「キース!あれ!あれ見て!」

 見てるよ?

 と思って何気に目に入った掲示板に“風の旅団”の文字が見えた。

「んん?」

 読んでみるとそこには俺達のことが掛かれていた。



 ―この度、屍竜を討伐した冒険者“風の旅団”に国王陛下が謁見を許されることとなったー

 ―屍竜騒動を起こしたノルドワルド伯爵は貴族籍剥奪の上、処刑と決まったー



 他にも、教会の催しの日時やら火事の注意喚起やらが出ていたけど、そんなのもはどうでもいい。

 何故、俺達のことがこんな大々的に掲示されているのか?

「あら、今回はパーティー名が出たのですね。以前ロゼム金山の問題が解決された時はランクE冒険者としか出なかったですよ」


 こんな事したら俺達すごく有名になっちゃうじゃないか・・


「キース。私恥ずかしい・・」

「リファ。俺も」

「どうして?冒険者なんて名前を売ってナンボよ?どんどん有名になってガッポガッポ稼がなきゃ!」

 アリアは図太い神経している。

 アリアのことがよく分からなくなってきた。いや、また一つアリアを理解したのかな。


「まさに時の人ですね」

 クレア、恥ずかしいからそれ以上言わないでくれ・・

 ざわつく掲示板の前を、俺は顔を赤くして足早に通り過ぎた。


 やって来た防具屋さん。

 この通りというか一帯は武器商人の集まるところらしい。

 多くの冒険者と商人らしき人、騎士風の人で混雑している。


 大店や小店と数多く軒を連ねているからどこに入ればいいのかさえ分からない。

「こっちです」

 クレアが先導して、それほど大きくもない店に入った。

「こんにちは。ご主人居られますか」

「はーい」

 出てきたのはドワーフ族の女の子。

「いらっしゃいませ!」

 元気がいい。でも、ボリューミーな髪型が気になった。

 束ねた藁というか、箒というか見事に逆立ったツインテールだった。

 剛毛とでも言えばいいのか・・


「あ、クレア様。いらっしゃいませ」

「アミカ、こんにちは。今日はこの子に合う防具を見せて欲しくて寄りました」

 アミカという子は俺を見た。目がクリンとして大きい。

「えっと冒険者さんですか?どのような防具をお探しですか?」

「えーと、動きやすくて丈夫で軽くて長持ちする安い胸当てです」

「そんな都合のいい防具はありません。どれか妥協してくれないと。予算はいくらですか?」

「金貨5枚以内で」

 アリアが横から口を出した。

「え!そんなに高い物を買うの?」

「当たり前でしょ!お金入ったんだから。防具ケチると命を落とすわよ!」

「あ、素材は一部提供するから。ほら、あれ出して!あれ!」

「何?」

「赤い鱗!」

 アリアに言われるがままに赤竜の鱗を出すと、アミカが叫んだ。

「おとーさーん!たいへーん!おとーさーん!」

「どうした!」

 ドスドスと奥から大きな足音がして、髪を後ろに束ねた毛むくじゃらのドワーフが出てきた。

 そして、俺達に目もくれず鱗を引ったくった。

「こ、これは!まさか竜鱗か!?どうしたんじゃ?これをどこで手に入れた?」


 毛むくじゃらのドワーフは店の主人のアモンと名乗った。

 ひとしきりアモンの興奮が収まったところで、やっと胸当ての話をした。

「ふう。見るほどに良い鱗じゃ。儂に任せておけ。最高の胸当てを格安で作ってやる。噂の風の旅団がうちに来てくれたとは光栄じゃ。夢にまで見た竜素材じゃ。腕がボキボキなるわい」

 物凄くご機嫌なアモンに連れられて裏庭へと向かう。

 一通り、剣術、拳闘術の動き方を披露した。

 動きが激しすぎて、胸と腹を一体化すると動きが阻害されてしまう。

 やはり胸当てのみを作ることにした。

 ベース素材にワイバーンの皮を使い、竜鱗を急所部分を覆う様に張り付けるらしい。

 アミカのデザイン画を見たけど、中々かっこいい。

 最後にアミカに採寸されて俺達は店を出た。

 製作費は金貨7枚。

 ちょっと足が出たけど、竜素材の加工は大変なのだそうだ。


 その後、街角の大道芸人を見物して、お昼を食べて、ちょっとリファの気になったお店を覗いたりして王都観光を満喫した。


 夕方、宿に戻ると謁見の日取りの伝言が届いていた。

 謁見は翌々日。朝、王宮から迎えの馬車が来るという。


 それまでの楽しかった気分が一気に吹っ飛んだ。

 いかん、もう緊張してきた。

 怒られないと分かっていても、王様に会うって考えただけで冷や汗が出る。

 アリアが失礼なことを言わなければいいけど・・

 俺達、大丈夫だろうか。


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