ディグリーム将軍
「あの、ここはどこですか?」
俺は訳が分からずに傍に立っている兵士に聞いてみた。
ふかふかの絨毯。木目の美しい装飾の細かい家具。
正面に王冠を乗せたおじさんの肖像画。
とても罪人を連れて来るような部屋じゃない。
なのに、俺達はいまだ後ろ手に拘束されたままだ。
「ここは王国軍統合本部だ」
案内した門兵は持ち場に戻り、今は本部から出てきた身分の高そうな兵士が俺達を見張っている。
警邏隊の3人も一緒だ。
ガチャリと側面の扉が開いて、これまた身分の高そうないかつい顔のおじさんが入って来た。
副官を二人も伴っている。
騎士というより、軍人という格好だ。勲章のついた皺ひとつない服を纏っている。
部屋に入って来たその軍人さんはギロリと俺達を見た。
「なぜ、その者たちは拘束されているのか?」
声が太くて怖い。
眼圧だけで人を睨み殺せそうな威風がある。
「ハッ!それは、この者たちが我ら王都警邏隊の取り調べに対し、虚偽の報告をしたためであります!」
警邏隊の一人がやや上ずった声で答えた。
「虚偽報告だと?どんな内容か」
「ハッ!この者達は、竜を討伐したとか、大王亀を討伐したとか荒唐無稽な法螺話ばかりを・・」
ビシッと敬礼して報告する警邏隊を勲章のおじさんは上から遮った。
「それは虚偽ではない!その者達、風の旅団はバース伯爵領にて大王亀を討伐した。次に王領地オルフェン、ロゼム金山にて瘴気の魔物討伐に貢献し、更には先日ノルドワルド領にて屍竜を討伐しておる。王都警邏隊とは王国の危機を3度も救った有為の者達に枷を嵌める愚か者であるか!」
怒鳴っているわけではないが、雷が落ちたかのような威圧がこもっている。
このおじさん怖ぇ・・
「いや、まさか、そのようなはずが・・」
「すぐに枷を取り外せ。そして警邏隊はこの部屋から出て行きなさい」
何か、風向きが変わって来た。
俺達は枷を外されるとふかふかのソファーに座る様指示された。
俺はすぐにリファの頬を癒した。
ふぅ。やっとすっきりした。
「お前達。何やら行き違いがあって嫌な思いをさせてしまったようだ。済まなかった」
軍人さんが真っ先に謝って来た。その謝罪に副官がびっくりしている。
「私は、カルバス・フォンド・ディグリーム。この国の将軍だ」
俺とリファはピンときた。
「もしかして将軍はエレシアさんのお父上でございますか?あ、失礼いたしました。私はキース・クリフロード、隣はリファーヌ・ザビオン、それにエウロの里のアリアです」
「うむ。まだ若いのにしっかりしておるな。私はエレシアの祖父だ。お前達が南の魔境からエレシアを発見した冒険者と聞いている。私はな、孫娘が不憫でならなかったのだ。魔境の奥地で一人寂しく死んでいった孫娘がな。きちんと埋葬をしてやりたいとずっと願っておったのだ。しかし、エレシアはいつまでも見つからず、懸賞金を掛ければ嘘の発見報告ばかり。いい加減諦めたところにお前達が見つけて遺髪を持ち帰ってくれた。心から感謝している」
そう言う将軍の目元が赤くなっている。
「私はどうしても孫娘を見つけてくれた冒険者に礼を言いたかったのだ。発見者は自分たちの情報を遺族に流さない事を望んでいると知ってはいたが、調べさせてもらった」
将軍は後ろに立つ副官に目配せをした。
副官は金貨袋を俺の目の前に置いた。
「それはエレシアを見つけてくれた報奨金だ。ぜひ受け取ってくれ」
リファが俺を見て頷いた。
「あ、ありがとうございます。まさか出頭命令で出向いたのに、こうしてお礼を頂く事になるとは思いませんでした」
「ふむ。いや、エレシアの件は別件だ。本来の呼び出しは別にある。お前達には後日、王陛下に謁見を許されることになっている。今回はその事前準備のための呼び出しだ」
「え、謁見ですか?何故にでしょう」
「心当たりはないのか?」
「もしかして、また怒られるのでしょうか」
俺はちょっとびくびくして質問した。
「ハハハハハ!何故そうなる。先ほど王国の危機を救った者と私は言った筈だ。怒るわけがないではないか」
本当におかしそうに将軍は笑った。
さっきから怒ったり泣いたり笑ったりと忙しい人だ。
「いや、屍竜討伐では王国を危機に晒しました」
「ふむ。寝ていた竜をわざわざ起こして怒らせたのだからな。しかしな、あの竜は遅かれ早かれ屍竜となって暴れたはずだ。そう報告が来ている。ならば、倒せるときに倒した方が良い。そしてお前達は倒したのだ。結果、未来に生じる危機を未然に防いのだ。討伐を成したお前達に功はあっても非はない。が、煽った者は別だ。金に目がくらんだノルドワルド伯爵は重罪に処される。そしてお前達には褒美が与えられるだろう」
はぁ~。アリアが深い溜息をついた。
良かったぁ。
「あの。一つお聞きしたいのですが」
リファがか細い声を上げた
「もしかして大王亀も問題にはなりませんか」
「あぁ。勿論だ。あんな巨大なものが街へ出てきたら大変なことになっていた。隣領のバルバリー侯爵はとても感謝しておったそうだ」
「あー良かった!私、もしかしてあの亀は王国の守り神かもって気になっていたんです。これで安心できました」
「ハハハハハ。この国に亀を崇める信仰はないな。安心すると良い」
「ほんと、安心したわ。この国にもまともな人がいたのね。危うくこの国のことが大嫌いになるとこだったもの」
アリア、若干失礼だぞ!余計なことを言うなよ!と心配になる。
アリアはチョビ髭指令相手に無礼極まりない態度を連発したからな。礼儀に関しては俺の中で全く信用できない。
「ほう、それほどひどい目に遭ったのか。それはどのようなことだ」
「アリア。俺から説明する」
アリアが説明したら将軍相手に無礼極まりない文句を垂れ流ししかねない。
「えっと、大王亀、ロゼム金山、屍竜討伐で、まともな報酬を受け取っていないんです」
「具体的には?」
「大王亀では素材の権利は私達にあると聞いていますが、まだ何も受け取っていません。ロゼム金山では聞いていた報酬額より全然少なかったんです。それに個人の功績は全て騎士団の物になるとかで褒章金は無し。移動費用も出ると聞いてたのですがそれもありませんでした。屍竜討伐に至っては、投獄の上報酬を放棄させられました」
「ふむ」
「それだけじゃありません!」
アリアが身を乗り出した。俺が説明するって言ったのに。
「今日なんて本当のことを話しても全然信じてもらえなかったし、リファーヌなんて殴られてそれでキースは危うく暴発しそうになるし。必死で頑張っても権力を笠に強要されて怒鳴られて奪われてばかり。次から次から本当に嫌な思いばかりしてるわ!もういい加減嫌になったから、ひと段落したら皆でノエリア移住を考えてるくらいよ」
将軍の眉がぴくっと動いた。
それにしてもアリアは俺が暴発しそうになったのを知ってたんだ。
その上であのサバサバっぷりで俺の気を逸らせてくれたのか。この子凄いな。
「ふむ、話は分かった。大きな功績を命賭けで成しても報酬がもらえないでは嫌になるのも分かる。その件、私が調べよう。謁見の日時もまた追って連絡を入れる。宿はどこを取っている?」
「今の時期は混んでるようで宿が取れなかったんです。なので今日これから探そうかと」
「ならば、宿はこちらで手配しよう。何、騎士団で出すから費用は掛からん。おい」
副官に目配せをすると一人部屋を出て行った。
「ありがとうございます」
「なに、王国の功労者だ。構わん」
将軍との会見を終えて、次に王国領地軍第三騎士団本部へと連れて行かれた。
暫く応接室で待たされていると、身分の高そうな軍人が二人入って来た。
「我らは第3騎士団の団長と副団長だ」
俺達も自己紹介をして改めて席に着いた。
「今回は出頭要請に応じてくれたことについて礼を言う。早速だが、ロゼム金山でのお前達に支払われた報酬額を確認したい」
さっき将軍相手に話したばかりだ。
改めて最低額であったことを伝えた。
「そうか、なるほど。ロゼム騎士団のブフカルク団長からは報奨金としてキースとリファーヌに金貨300枚。アリアに50枚を渡したと報告が来ている。更に、通常報酬としてキースに金貨3枚と銀貨8枚。リファーヌも同様。アリアに金貨36枚となっている。これに心当たりはあるか?」
『ありません』
「であるか。以上だ。協力を感謝する」
それだけで話が終わってしまった。何だったんだ?
騎士団から渡されたメモを頼りに宿を目指す道すがら。
「あれって、あのむかつく騎士団長が横領していたって話じゃない?」
「うん多分そう言う事よね。本来私達はそれだけ貰えてたって話よ」
リファとアリアが延々とお金と騎士団長の文句を言っているうちに宿へ着いてしまった。
その宿は、上流階級が泊まるような大きな宿だった。
俺達は、木造2~3階の狭い部屋の宿しか知らない。決まってギシギシと鳴る床や暗い廊下、狭い部屋が定番なのだけど、この宿は違った。
まず、入ってすぐに食堂がない。ギルドみたいな長いカウンターがあった。
「騎士団より承っております。期日は10日間。全て騎士団でお支払いいただくことになっております」
簡単に宿の中を案内された。
奥の食堂にはテーブルに白いクロスが掛けてある。
そんなテーブル見たのはリンドベル侯爵邸以来だ。
宿泊部屋に魔道具の風呂トイレ、更にソファまである。
それに、壁にはお洒落な絵まで飾ってある。
何よりベッドがふっかふかで、いつもの倍の大きさだ。
さらに一人部屋はいつもの安宿の3人部屋よりも広い。
なんて無駄な空間なのか!勿体ない。一部屋の空間で4つか5つは部屋ができるよ。
俺達は宿泊部屋を見て唖然としていた。
「キース。私達こんな凄いとこ泊まって大丈夫?後から怒られないかな」
「将軍様手配だから大丈夫でしょ。でもちょっと気後れするわね」
部屋割りは、俺とリファで二人部屋、アリアが一人部屋に決まった。
アリアがまた呆れている。
夕食を下の豪華な食堂で摂って、ぐっすり眠った。
翌日、陽がだいぶ高く上ったところで、女性騎士が一人やって来た。
「私はクレア。ディグリーム将軍の命によりあなた達を謁見迄の間、連絡役とお世話を仰せつかっております。よろしくお願いします」
何と堅苦しい人か。
この人凄い美人なんだけど、なんか見た目も喋り方も四角張ってる。肩凝りそうだよ。
「あの、クレアさん。私達にそのような硬い言葉は無用でお願いします」
「では、普通に喋ります。あなた達の謁見の準備に衣装を新調する様に将軍から仰せつかっております。本日皆さんのご予定がなければ、謁見に相応しい衣装を調達しようと思うのですが、いかがですか?」
まったく普通になってない・・
いや、この話し方がこの人の普通なのか?この人も残念美人なのか?
俺がちらりとアリアを見ると、アリアが「なによ!」って睨んできた。
こわ。
クレアに連れられて、服飾商に来た。しかも馬車で。
店の中は、貴族の着るようなゴテゴテしい服が目立つところに飾られている。
1階女性貴族向け、2階男性貴族向け、3階礼装用、4階女児向け、5階男児向けだ。
アリアは25歳。しっかりと成人女性なのだが、案内された先が女児向けの4階で膨れてしまった。
「私、成人してるの!若く見られるけど私25歳なの!なのに、女児用ってひどいわ!」
これには店の人がオロオロしてしまった。
アリアは外見は16歳に見えると俺は思ってる。
この国の成人は15歳だから立派な成人だ。年齢も外見も。
でも、もし子供服を着せたら、12、3歳にも見えてしまうだろう。
何しろ、大人にしてはまずまずのペッタンだから。
そう言えば、エルフの里ではミルケットの様な豊満な女性はいなかった。
皆そこそこのペッタンだった気がする。
きっと種族的なものなんだろう。
という事で、アリアは1階へ降りて行った。
俺も自分の服を見に行こうとしたら、リファに手首を掴まれた。
「キースの意見色々聞きたいの」
「うん、いいよ」
軽く応えてしまったことに後悔することになった。
だって、長いんだもん。
どれも可愛いと思う。色が違えば、雰囲気も変わるよ。
でも、全部可愛いことに変わりはない。だからどれでもいいじゃん。
でも、リファにとって、どっちがより可愛いく見えるのかがすごく大事らしかった。
リファの服選びに何度も付き合ってるけど、今回は長かった。
結局、俺は「こっちのピンク色のワンピースを着たリファが一番可愛く見える」と言って決着をつけた。
本当はどっちも同じだ。でも、そうでも言わないと決まらないからさ・・
それに反して俺の服選びはすぐに終わった。
シンプルに、すっきりと見えるものを選んだからだ。
貴族でなくなった俺は貴族のような服を着て睨まれたくない。
少しだけダボっとした白シャツに黒っぽいパンツ。それに青いチェック柄のベスト。それに合わせた靴を履いたらはい、終了。
早かった。
俺の服を選びたそうにしていたリファが微妙な顔をしている。
「あれ?このチョイスダメ?似合わないかな」
「ううん、そんなことないよ。けど、次に機会があったら私が選ぶ」
1階に降りると、アリアが緑色のワンピースを着ていた。
良く似合っている。
「どう?」くるりと一回りしてちょこっとスカートをつまんでポーズを決めた。
ぅ・・可愛い。
がつん!
イタ!
リファから肘鉄を一つもらった。
支払いは騎士団でしてくれた。
何か至れり尽くせりで気味が悪い。
これまでがこれまでだっただけに、すごく違和感を感じてしまう。
その後、また馬車で移動してちょっと高級な店で食事を摂った。
「ねぇ、クレア。騎士団は私達に何でここまでしてくれるのかしら」
アリアも俺と同じ疑問を感じている様だった。
「さぁ。将軍のご指示ですので。でも、将軍はお孫さんの件であなた方に感謝していると言っておられました。その気持ちの表れではないでしょうか。そんな事よりもお料理を楽しみましょう。私、職務でこのような豪華な食事を頂けるなんて夢見たいです。今日ほど騎士団に入って良かったと思った日はありません」
美人なのに、こんな固い口調でしか喋れないのに、この庶民的な思考のギャップ。
本当に残念な人だ。
店を出て、高級宿屋へ戻ると黒服の男性が俺達を待っていた。
「君たちは風の旅団だね?会って頂きたい方がいるので付いてきてください」
「ちょと、あなたは誰ですか。今彼らは王国騎士団の庇護下にあります。勝手に連れて行かれては困ります」
クレアが抗議する。
その男は、とても落ち着いた様子で、騎士団の庇護という言葉にも動じる素振りがない。
俺の感が間違っていなければ相当戦える人だ。
「これは失礼。私は冒険者ギルド本部の使いです。本部から風の旅団に召喚状が出ている筈です。違いますか?」
男は俺を見た。
「確かに召喚状は受け取りました。ギルドにも行きましたけど、知らない、何かの間違いだと言われました」
「ふむ。良くある間違いですな、それは。あなた方は王都ギルドへ行ったのではありませんか?王都ギルドと、王都ギルド本部は別の建物です。ギルド本部は王国全土のギルド運営を行う場所。王都ギルドはその一支部に過ぎません」
知らんよ!そんな事。
「もし宜しければ、騎士団の方もご同行いただいても構いませんよ。えーと」
「王国軍統合本部のクレアです」
「ではクレア殿もご一緒に」
どうする?とリファに目を向けると、頷いた。
「分かりました。クレアさんも一緒に行きましょう」
という事で入ったばかりの宿を出て馬車に乗りギルド本部へと連れて来られた。
これまた立派な部屋に通されてしまった。
ここでは紅茶とお菓子が出てきた。
しかも高級な凄くいいやつが。
アリアが早速手を伸ばして「おいしー」と感嘆すると、リファも、次いでクレアときたら、じゃあ俺も。
呼び出した本人が登場する前にお菓子は無くなってしまった。
コンコン、ガチャリ
部屋へ入って来た人は凄くガタイの良いスキンヘッドのおじさんだった。
背が高い。腕がアリアの胴回りほどに太い。デビルオーガを思わせる強者の覇気を纏っている。
齢は・・40?60?よくわかんない。何歳にでも見えてしまう。
「ふ、小さいな。だが、すでに強いと分かる。将来実に有望な子供達だ」
「私は子供じゃありません!」
アリアが食いついた。
真っ先にお菓子に手を伸ばしておいて良く言うよな。
「ハハハ、これは済まん。詫びよう」
そう言って机の上のベルをチリンと鳴らした。
すぐにお茶を出してくれた人が入って来た。
「菓子と紅茶を全員に」
その一言で、アリアは笑顔になった。
そしておじさんが僅かにニヤリとする。
なんか、このおじさんの手のひらの上で遊ばれてる気がしてきた。
「コホン。私はギルド本部長、ゼファールだ。遠くから呼びつけて済まなかったな。だが、君たちにはどうしても早急に面会する必要があった」
お菓子が来て早速アリアがパクついた。
今、大事な話をしてるのに。ブレないな、うちの残念美人は。
「君達がフォッセの街に突然現れてから今日まで、様々な活躍をしていることは承知している。その上で現在追放扱いとなっていることもだ。まず、追放は撤回する。その上で、私の権限でキース、リファーヌをランクC、アリアをランクBに昇格してもらう。その意味は、昇格させることでギルマス特例などではなく、ギルド指名依頼を受けることを可能にするためだ」
ギルド指名依頼はランクC以上と決まっている。ランクD以下にギルドが指名をするにはギルマス特例指名依頼という方法しかない。
そんな事をしてまで俺達に依頼を受けさせたいということなのか?
「加えて、君たちは私の庇護下に入ってもらう。と言っても束縛するわけではない。いかなるギルドの指名依頼も、君たちの判断で断ることができるようになる。ギルドの規則だの慣習だのと面倒な話は無視して構わない。君たちが思う様に活動するための超法規的なランクを別に与える。それがブラックカードX。これだ」
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