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母様の実家

 アリアは以前よりもだいぶ飛行に慣れたようだ。

 風使いと呼ばれるだけあって風に乗るのが上手かった。

 草原や岩石地帯を抜けて、飛び続ける事8日間。

 少し迷いながらもロレンスク領に無事辿り着いた。

 そこまで来るとソクラの街はすぐに分かった。

 行商人のおじさんを捉まえて聞いたら、今いる道を西に進めば3日で着くという。

 という事は、俺達なら半日だ。


 翌日、ソクラの街に到着した。

 第一印象は凄くさびれた街だった。

 これはガストール男爵のダートの街と良い勝負をするかもしれない。

 活気がない。人の目が虚ろというか、笑顔がない。

 うーん、随分と予想外れだった。


 母様の実家のボスコート家はすぐに分かった。

 屋敷は大きいけど、古くて痛みが見える。

 なんか、ここに母様がいる気がしない。だって、母様がいたらこんなに庭は荒れていないはずだし。


「キース。本当にここ?」

 リファも不審がっている。

「訪ねればわかるでしょ。早くいきましょうよ」

 アリアに急かされた。

「いや、今日は訪ねない。今日のところは明日に面会の申し入れをするだけ」

「それが貴族のルール?面倒くさいのね」

 俺はノッカーを鳴らして、使用人に明日訪れる旨を伝えた。

 その使用人もなんかパッとしない人だった。

 ついでにビビアという女性がいるかを聞いたけど、いないという返事だった。


 母様はやはりここにはいなかった。それは分かった。

 でも、会えると期待していただけにショックは大きかった。

 久々に、激しく落ち込む俺をリファは黙って見守ってくれている。

 それが分かっているだけに、しっかりしなければと思う。

 思うけど、つい無言になってしまった。


「ちょっとキース!あなた暗いわよ」

 アリアはズケズケと踏み込んで来る。

「元々師団長からいないって言われてたじゃない。予想の範囲内でしょ?そこまで落ち込むこと?明日はあなたのお爺さんやお婆さんに会えるかもしれないじゃない。それにお母さんの居場所を教えてもらえるかもしれない。まだ落ち込むには早いわよ!」

 そうなんだけど・・いや、そうだよな。

「キース。私もアリアの意見に賛成。落ち込むのは明日手掛かりが掴めなかったらにしよ」

「うん。ごめん。ちょっと期待が過ぎてたみたいだ。アリアの言う通りだ」

 それからは、普通に会話して、笑ってと明るく振舞う様に務めた。


 そしたら段々楽しくなってきて話に花が咲いてきた。

 あのインテリギルマスの真似をアリアがするとよく似ている。

 目つきとか話し方とか仕草とか。それが面白かった。

 ギルマスを笑い飛ばして、イボガエル伯爵のニマニマ顔を思い出してまた笑い飛ばした。

 嫌なことでも、仲間と一緒に笑い飛ばすと楽しくて仕方ない。

 気分も晴れたところで部屋に戻った。

 明日を待ちきれない思いで、ベッドに入るとすぐに朝が来た。

 なんか、すごくよく眠れた。


「夕べは楽しかったわねぇ。どう?よく眠れたでしょ。へへへ」

 朝食の席で、アリアが変な笑い方をする。

 凄く楽しかったのは憶えてる。でも、記憶が・・

「うん。でも、なんか記憶が一部あいまいというか、なんか俺変じゃなかった?」

「実はね、昨日アリアがキースの果実水にお酒混ぜてたの。気づかなかった?」

「なんですと!?リファはそれ知ってたの?」

「うん、でもキースすごく楽しそうだったから、まぁいっかと思って」

「ははは。その様子じゃ気づいてなかったね。でも楽しかったでしょ?」

 俺は知らない内に酒を飲まされていたらしい。

 それは犯罪じゃなかろうか。


「大丈夫よ。二日酔いになってないんだから。今、気持ち悪く無いでしょ?」

「うん、のどがすごく渇いてるくらい。ちょっとだけ頭痛い」

 何が大丈夫なのかよく分からないけど、確かに楽しかったし、よく眠れたからまぁいい・・のかな?

「暗く沈んでるより笑って過ごした方が楽しいわよ。私のモットーは“お酒は楽しく飲む!”だから、私がお酒を飲んでるときは暗い顔しないでよね!」

 アリアのモットーの為に俺は未成年で酒を飲まされたという事らしかった。

 アリアって、ひどい人だった・・


 そして、支度を整え俺は一人ボスコート邸に向かった。

 アリアとリファは辞退した。今日のところは。


 ノッカーを鳴らすと昨日のメイドが出てきた。

 客間へ案内され、お茶を(すす)っているとご老人が入って来た。


「ビビアの息子を名乗る少年が訪ねてきたと聞いたが君のことかな?私はアンダマン・ゼル・ボスコート。この街の前領主で、本当ならば君の祖父になる」

 優しい目元の老紳士だ。母様や俺と同じ髪色をしている。

 貴族らしからぬ、身形の良い平民の服を着ている。

「はじめてお目に掛かります。キース・クリフロードです。今日は母を探して訪ねました。お会いいただけて嬉しく存じます」

「ふむ。しかし孫のキースは5年以上前に、行方知れずになったと聞いている。その孫が突然現れても合点が行かぬのだ。まず、君はこれまでどこで何をしていたのか、それを聞かせてもらおう」

「はい、その前にこれをご覧ください」

 俺は母様の杖と父様の短剣を取り出した。


「こ、これは!どこで手に入れたのだ!」

 母様の杖を手にしたお爺様は目を見開いてとても驚いている。

「それは、私が5歳の誕生日に母様からいただきました。短剣は父様からです。その日、私の5歳の誕生パーティーが開かれていたのです。ですが、スタンピードが起きて、すぐに街を離れました。その途中で私は馬車から落ちてしまったのです」

「ほ、本当にキースなのか?本当に私の孫なのか?」

「はい、お爺様。長い旅をしてやっとお目に掛かれました」

 お爺様の目から涙が溢れてきた。

 俺もつられて涙が込上げて来た。

「ちょっと待ってなさい。お前のお婆さんも呼んでこよう」

 そして入って来た老婦人は記憶の中の母様に似た人だった。

 顔の形とか、目元とか。


「キース、本当にキースなの?噓ではないのね?」

「ほらこれを見なさい。これは確かに私がビビアに与えた魔法杖。長年私も愛用していたのだ。見間違うはずもない」

 母様の魔法杖はお爺様のお古だったようだ。

 お爺様の記憶にしっかりと残っていた。


 それから、俺が何故迷子になったのか、その後どう生きてきたのかを話して聞かせた。

 祖父母はずっと涙を流して聞いてくれた。

 そして、今は母様を探して旅をしていると話していた時。


 突然入って来た男に怒鳴られた。

「おい!お前は何者だ!妹の息子は死んだんだ。親父もそんな嘘に騙されるんじゃない!」

「止さぬかジョセフ。この子は間違いなくビビアの子だ」

「いや、その子供はとっくに死んだのだ。お前は何が目的だ?金か?養育か?」

「えっと、叔父様ですか?初めまして」

「挨拶などいらん。すぐに屋敷から出て行け!」

「母様と妹の行方を探しています。こちらのお世話になるつもりはありません」

「ビビアの行方なんぞ知らん。大方どこかで野垂れ死んだのだろう」

 あまりな言い草に怒ることも忘れて驚いた。

 母様の兄上だよな。この人。自分の妹を野垂れ死んだって。そんな言い方するか?


「ジョセフ!止さないか!」

 お爺様が声を荒げた。

「せっかく孫に会えたのにあなたはなんてことを言うの。ジョセフ止めて頂戴」

「いや、こいつはあんたの孫なんかじゃない。生きてるはずがないんだ」

「それが生きていたからこうして喜んでるんじゃないの。あなたが何を言おうともこの子はビビアの子よ。ほら、証拠の杖だってこうして・・」

「仮にだ。仮にそいつがビビアの子だとして、一体何の用だ。金でもせびりに来たか?あ?お前なんかに渡す金は銅貨1枚だってないぞ」

「お金は要りません。養ってもらうつもりもありません。ただ母様とジュリアの行方を捜しているんです」

 さっき話した会話が一巡した。

「ふん、どうだかな。とにかく今は俺が当主だ。その俺が出て行けと言ってるんだ。さっさと出て行け!」

 取り付く島もない。

 これではゆっくりと話せないしどうしたものか。

「お願いします。何か心当たりがあったら教えてください!」

「なにもない!いいから出て行け!」

「ジョセフ!」

「親父もお袋もこんな奴と話をするな!お前も早く出て行け!」


 何をそんなに苛立っているのか。

 とにかく俺は屋敷を追い出された。

 見送りに出たメイドに滞在している宿の名を告げるだけで精いっぱいだった。


「どうだった?」

 宿に戻るなりリファが訊いてきた。

「いや、それが・・」

 俺はお爺様とお婆様に会えたこと。身の上話をしていざ手掛かりを聞こうとしたら邪魔が入ったことを話した。

「えー!じゃあ、何も聞けてないじゃん!」

「うん」

「うんじゃないよ!そんな奴ぶっ飛ばして話聞かないと!あーもう!私も付いて行けばよかった」

 リファが来ていたら暴力沙汰になっていたようだ。

 でも、本当に困った。

 明日また訪ねてみようか・・


 その日の夕方、ボスコート家のメイドが宿を訪ねてきた。

「本日は当家の主が大変失礼をいたしました」と頭を下げた。

「大奥様よりビビア様の行方に関することをお伝えする様にと言付かって参りましたが、キース坊ちゃまにお喜びいただけるようなお話ではないかと存じます」

 そう言って、話を聞かせてくれた。

 俺、リファ、アリア3人を前にしてそのメイドは話し始めた。


「ビビア様、ジュリア様はクリフロード領でスタンピードが起きて以降、当家にお越しになったことはありません。ですから、大旦那様も大奥様もビビア様とそのご家族については諦めておいででした。ですが、ビビア様がご結婚された時に付けたカタリアというメイドの母親が一度訪ねてきました」

 リファが心配そうな顔で俺を見る。

 俺はというと、心配されるような顔をしている気がする。

 

 カタリアは俺の乳母だった。良く憶えている。

「その者の話では。カタリアがスタンピードから3ヵ月ほどしたころ、突然実家へ帰って来たそうです。そしてカタリアの話では、救援を求めてビビア様と共に大河川を越えてきたと。その移動の際にキース坊ちゃまは森の中で忽然と消えて行方が分からなくたったと話したそうです。領民と愛する家族を救うため、ビビア様はいくつもの大領地へ救援を願い出たのですが、どこも手を差し伸べてくれるところはなかったと。そしてついに心身を病まれてお倒れになったきり、ほどなく息を引き取られたそうです」


「・・・・・」

 母様の行方が分からずとも、必ずどこかで生きていると信じていた。

 それが亡くなったとはっきり告げられるとどうしていいか分からない。

 信じたくないし、信じられない。

 リファがそっと俺の手を握って来た。

「それでどこでお亡くなりになったんですか?」

 思考の止まった俺の代わりにリファが尋ねてくれた。


「なんでもバルバリー領付近とだけしか聞いていないそうです」

「そう・・ですか。ジュリアは?キースの妹のジュリアについては何か言ってなかったの?」

「いいえ。ジュリアお嬢様については、大奥様は何も聞いておられないそうです」

「そう・・」


「ですが、カタリアは嘘をつくときに何か癖が出る方のようで、その母親は娘が嘘か隠し事をしていると感じられたそうです。ここにカタリアの実家の地図を預かってまいりました」

 そう言って1枚の紙きれをテーブルの上に置いた。


「カタリアに関することは以上です。また、大旦那様と大奥様よりご伝言がございます」

 一呼吸おいて、

「キース。今日はジョセフが済まなかった。しかし、孫が生きていたこと、キースの元気な顔を見ることができて心から嬉しかった。また是非訪ねてきて欲しい。ビビアのことは、私たちは諦めている。もし消息を知ることが出来たら当家へも一報を入れて欲しい」

 以上ですと言って目を伏せた。


「ね、キース。まだ希望が消えたわけじゃないよ。お母様はお亡くなりになったかもしれないけどジュリアはどこかで生きているもの。きっと家族を恋しがってキースが迎えに来てくれるのを待ってる。だから、元気出して」

 顔をあげると、リファが笑みを浮かべていた。でも、瞳が揺らいでる。すごく心配してくれている目だ。

「うん。母の事、カタリアの事教えてくれてありがとう。お爺様とお婆様に言伝をお願いします。“お会いできて光栄でした。必ず母と妹を探しだしてまた報告に行きます。どうかお二人ともお体に気を付けて長生をきしてください”と」

「かしこまりました」

 メイドは恭しく一礼をして帰って行った。


 俺は地図を見つめてふと顔をあげると、リファとアリアが心配そうに俺を見ていた。

 そして、その夜も俺の果実水に酒が混ぜられることになった。


 翌日、陽が高くなるのを待ってカタリアの実家へと向かった。

 そこは、ボスコート家からそれ程離れていない場所にあった。

 少し広めの平民の家のようだ。


 コンコン

 ドアを鳴らすと、40くらいのおじさんが出てきた。

「あの、キース・クリフロードと言います。この家のカタリアのことについてお尋ねしたいことがあって来ました」

「ボスコート家の使いの方からキース様のことは伺っておりました。どうぞ中へ」


 すんなりと案内されて居間のソファーに案内された。そこに老夫人が座っていた。

「これはカタリアの母のマキア。私は兄のセルベスです」

 俺達も自己紹介をして早速本題に入った。

「早速ですが、カタリアがこちらに帰って来た時のことを教えてください。母ビビアと妹のジュリアを探しているんです。手掛かりが欲しいのです」


 答えてくれたのは老婦人だった。

「はい。手掛かりになるか分かりませんが私から応えましょう。あの日カタリアは突然帰ってまいりました。護衛騎士の夫のバートンと共にスタンピードから逃げてきたと言っておりました。荷物番でバートンが馬車から離れられないと言って一人でやって来たのです。ですから私はカタリアの夫という方を見ておりません。カタリアも長居せずに、すぐに出て行ってしまいましたから」


 それから老婦人の口から語られた内容は、ボスコート邸で聞いたことと大差はなかった。

 俺が忽然と消え、心身ともに参ってしまった母様はバルバリー侯爵領で病に倒れ亡くなったと。場所の詳細も言わなかったらしい。そして、二人は王都へ向かうと言って出て行ったという。ジュリアについては一言も話さなかったそうだ。


 でも、王都へ向かったという話は聞けた。

 バートンと言う名の騎士、それにカタリア。

 ジュリアはその二人と一緒にいるはずだ。ならば王都へ向かおう。

 そして、母様はバルバリー領にあるどこかの教会で眠っているのだろう。

 埋葬時には記録は残しておくはずだ。であればきっと母様も見つけることができる。


 母様がなくなっていたのはショックだけど、ジュリアを何としても見つけ出そうという想いが強くなった。


 帰り際、礼を言って去ろうとしたところ、セルベスが言いにくそうに告げてきた。

「迷ったのですが、もう一つお耳に入れておきたいことが。あの日、私は出先で妹によく似た人物を見かけたのです。立派な出で立ちの騎士風の男と一緒でした。遠目からでしたが妹に似ていたので気になって少し見ていたのです。男はとても羽振りのいい様子でした。後からあれが妹だったと知ったのですが、今思えば、妹たちは亡くなられたビビア様の持ち物に手を付けたのではないかと疑っています」

「そうですか。その場に小さい女の子はいましたか?」

「いえ、そこまでは憶えておりません」


 セルベスは申し訳なさそうに目を伏せる。

「教えてくれてありがとうございました。ここを訪ねて本当に良かった。私達も王都に向かいます」


 カタリアの家を辞した俺達は、軽く街を見て回った。

 商店が少ない上に、並ぶ品物も少ない。

 町全体に元気がないのだ。

 このロレンスク領は大きな街道が通っていない。

 その上魔境沿いでもないから冒険者もあまり来ないのだろう。

 王国経済から取り残されたような大領地。その更に田舎の小さな街であればこんなものかもしれない。

 叔父のジョセフはお金ばかり気にしてイライラしていた。

 貴族は普通体裁を気にしてお金がなくてもその事実を隠している。

 体裁を繕う事が出来ない程、ボスコート家は貧しいという事なのだろう。


 領地経営は大変だなと感想を抱いて俺達は北へ向かった。

 ジュリアを見つけたら、母様のお墓を探しに行く。


 だから、次の目指す先は王都だ。

 王都にジュリアを探しに行こう。


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