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赤竜討伐 2

 俺は赤竜の顔面に向けて特大の火球を一つ、上空へ1発の火矢を放った。

 アリアが動き始めたはずだ。


 すぐに赤竜が俺を追い回し始めた。

 それを必死に逃げながら巨岩地帯の中央部、討伐隊の潜む岩の真上を高速で目指した。

 赤竜は追ってきている。


 恐らく、怒りで我を忘れているのだろう。

 でも、火焔砲はこない。火焔弾も撃てない筈だ。

 この150秒だけは確実に噛みつくか、体当たりしか攻撃方法がない筈。


 樹海の中にある凡そ1キロル四方の草原。そこが巨岩地帯と言われる場所だ。

 30ケほどの巨石が点在して転がっている。

 草原中央部に10ケ近く巨石が固まっている場所がある。

 そこが討伐ポイントだ。

 

 俺の目前に巨岩が迫って来る。

 目線の先にはカモフラージュに緑色の布を被せたバリスタが両脇に計10台設置されている。

 そして、上空からはアリアが赤竜に突進している筈だ。

 地面に近づいたことで、周囲の風景が凄い勢いで流れて行く。

 巨岩がさらに近づいた。

 激突しない様に侵入角に気を付けながら南から北へ、ほぼ水平に一気に通り抜けた。

 俺の背後上空から迫って来た赤竜も続けて巨岩の真上に差し掛かる。


 その直前、アリアが上空から暴風の塊を赤竜の背中に叩きつけた。

 これは高度が高すぎて下からの攻撃が当たらないと困るから、少しでも巨岩に押し付けるための工作だ。


 そして、巨岩の真上5メトル以内に赤竜を誘導することに成功した。

 速度はかなり速い。

 だけどさっき2度も連携確認を行ったのだ。

 巨体だし、問題ないだろう。


 バンバンバン!

 GRYAAA!


 後方で討伐隊の攻撃音と赤竜の短い悲鳴が聞こえてきた。

 俺はすぐに旋回して背後へと回った。

 これで俺達風の旅団の仕事は終わった。完璧だ!文句は絶対に言わせない。

 そして、討伐隊が攻撃する音を聞きながら俺達は現場から遠く離れた木々に身を潜めた。


 すぐにアリアと続いてリファがやって来た。

「お疲れ!二人共。無事?ケガはない?」

 アリアが労わってくれる。

「うん大丈夫。キースは?」

「俺も平気」

「凄かったわ!あれだけの攻撃をここまで(かわ)し続けてきたんでしょ?信じられない」

「最初はともかく、途中からキースばかり追いかけられてたから、私は特にすごくないよ。でも、キースは凄かった!」

「いやいや。必死なだけたったよ。けどみんな無事でよかった。アリアも締めのはたき落としさ、奇麗に決まってたじゃん」

「ウフフ。ありがと。そこしか出番ないから全力の一撃が決まってほっとしたわ」

「ところで、キース。一つ気になったことがあるの。あの赤竜の腰のあたりに、あの黒杭が刺さってた」

「え?本当に?」

「うん。多分見間違いじゃないと思う。それでね、途中で気づいたんだけど、その時と、最後の時とで杭の辺りの鱗の色が違ったの。真っ黒く範囲が広がってた」

「あー。確かに半身黒かったわよね。そう言う柄の竜かと思ったわ」

「俺は全く気付かなかった」

「そりゃ、キースはずっとあの竜の鼻先にいたんだもん。でも、なんか不安というかこのまま終わる気かしない。嫌な予感がしてならないの」


 俺達は討伐隊の方を見た。

 RUWOWOWOWOwooo!

 その時、威圧混じりの咆哮が聞こえてきた。



 アロンソたちは巨岩の隙間に身を潜め、その時を今か今かと待っていた。

 南方上空で、赤竜が怒りに狂った様子で火焔弾を吐いている。

 その凄まじさは離れた場所にいても十分伝わってきた。

「おい、あんな凄い奴本当に倒せるのか?」

 黒い稲妻のメンバーが声を潜めて尋ねてきた。

「当り前だ!やると決めたらやる。必ず倒せると信じろ。今更ビビってんじゃねぇ!」

 つい、声を荒げてしまった。


 それにしても迫力が凄い。その赤竜を手玉に取って攻撃を躱し翻弄しているキースもまたすごい。

 合図の火矢が撃ちあがった。いよいよだ。


「来るぞ!」

 槍を構える者、矢をつがえる者、魔力を溜める者、破裂球を握り込む者。

 潜む者全員が投擲(とうてき)武器を握りしめた。

 目論見通りならば、すぐに接近戦となる。

 斧を、ハルバードを、剣を、槍を、自前の武器を傍らに置いて攻撃態勢を取った。

 アロンソも槍を強く握りしめた。


 バシューン!

 空気を切り裂いてキースがものすごい速さで真上を飛び去って行った。

 その直後、潜む者全員が上空に向けて武器や魔法を飛ばし突き上げた。

 GRYAAA!


 アロンソの思い描いた通り、見事なまでのタイミングだった。

 一瞬だけど、切り裂かれた翼の被膜も見えた。

 手ごたえもあった。


「よし!全員戦闘開始!」

 

 ズザザアアー

 派手な音が聞こえてきた。撃墜に成功したようだ。

 岩陰から飛び出すと赤竜が地面に伏せている。

「弓隊、放てぇ!」

「バリスタ隊、放てぇ!」


 ヒュンヒュン

 バシュンバシュン

 左右から矢が飛び、バリスタの発射音と共に太い矢が強烈な勢いで射出されて皮膜を破り突き立った。

 すぐに次矢の装填が行われる。きびきびした動きで実に頼もしい。

 よし、順調だ!

「いいぞ!そのまま串刺しにしろ!」


 RUWOWOWOWOwooo!

 しかし、順調なのはそこまでだった。

 赤竜が威圧の一吠えをあげるとその場にいた者は全員動きを止めた。

 な、何だ?この悪寒は。

 足がガクガク震えて、指先を動かすことも躊躇(ためら)われる。

 お、恐ろしい・・


 常人にこの至近距離での竜の威圧は耐えられるものではないのだ。

 矢もピタッと止まった。バリスタも沈黙した。

 ランクAの討伐者も含め、全員が冷や汗を滲ませて身動きできないでいる。


 RUWOWOWOWOwooo!

 二度目の咆哮だ。

 ビクンと固まる者。尻もちを付く者。腰を抜かす者。失禁する者。気を失う者。

 もう戦闘どころではない。


 竜討伐にあたって一番きつい攻撃は火焔砲や図体を生かした攻撃ではない。

 力の足りない者には威圧こそ最大の効果がある。

 それを討伐隊は知らなかった。

 そして、見事に動けなくなったところで、150秒が過ぎ、赤竜の口の中で魔力が赤く光を発した。

 そのおぞましい光をアロンソは恐怖に顔を歪めて眺めているしかない。


 ゴオオー!

 という音と共に熱風が数秒吹き荒れた。

 右に首を向けていたから正面にいるアロンソに直撃はしなかった。

 でも、右翼に展開していた弓隊、バリスタ隊は火焔砲のひと吹きで火だるまになった。

 人も武器も大地も燃え上がった。


 はっ!

 威圧が解けた。

「全員散れー!」

 動ける者は背後の巨石に向かったり、大木の後ろに隠れたり。魔境の密林に向けて逃げだしたりと蜘蛛の子を散らすように駆けだした。


 赤竜は左に首を向けた。そして火焔咆をひと()ぎした。

 そこも一瞬で火の海と化す。

 火焔地獄。そんな言葉が似あう場所に変わってしまった。


 赤竜はバサバサと皮膜を揺らす。すると突き立った矢は抜け落ちて空いた穴が修復されてゆく。

 そのままゆっくり浮上すると、上空から逃げる人族に向けて火焔弾を放ち始めた。

 ボン!ボン!ボン!ボン!


「キャー!」

「ギャー!」

「助けてー!」

 あちこちから悲鳴が上がった。

 運よく火焔砲から逃れた弓隊達が逃げ出すと、赤竜はそっちに気を取られて攻撃をしている。

 逃げる者たちの前方に着地して、尾を何度も振るった。

 土砂と共に人が舞い上がる。


 その隙に、討伐隊の面々は巨石の隙間に向かって走った。

 でも、そうできない者もいる。

 腰が抜けて動けない女冒険者だ。そしてその子を何とか立たせて逃がそうとする若者。

 ひとしきりの攻撃を終えて動く者がいなくなると、赤竜は巨石に目を向けた。

 目が爛々と怒りに染まっている。

 その赤い目が、二人の男女を捉えた。


 GRURurururu


 若者は土魔法で防壁を築いた。厚さ3メトルはある。

 でも、そんなもの竜の魔力を帯びた火焔弾の前に何の意味もなさない。

 ボッ

 僅か一発の火焔弾が吐き出されると、土壁は真っ赤に灼熱して爆散した。

 跡形もなく吹き飛んだその場所に、もう若者も女の姿もなかった。


 続いて、巨石群の上に降り立つと隙間を覗き見る。

 人影があれば、そこに火焔弾を吐き出す。

「ぎゃああー」

 断末魔を残して誰かが死んだ。

 アロンソはもう、恐怖の(とりこ)になっている。戦意は失せ、ひたすら己が無事に生き残る事だけを願っていた。

「うわああー」

 また悲鳴が聞こえた。

 頭上にバサバサと翼をはためく音がすると石と同化したように身動きを止め息を潜める。

 遠ざかれば、ほっと息を吐く。


 一時間か、二時間か、或いはそれ以上なのか、もしかしたらまだ半時間も経っていないかもしれない。

 翼のはためく音が上空へ遠ざかった。


 助かった~

 と思ったのも束の間、頭上に見える空が真っ赤に染まった。隙間に熱風が入り込む。

 目の前の巨岩が焼け、赤く変色してゆく。


 アロンソは虐められた過去の自分の姿を思い出した。

 中途半端に強くなって増長し、空威張りで悦に浸った自分を。

 そんな自分を(わら)った奴等を見返すために、努力を重ねた日々を。

 いつか本物のミスリルの大剣を手にして、連中に怒りの鉄槌を下す夢想に(ふけ)った自分を。

 そう夢見た先に待ち受けていたものが怒り狂った赤竜の火焔地獄とは・・

 なんてことだ・・俺はどこかで生き方を間違えたらしい。

「ウギャー!」

 アロンソの断末魔の叫びが響いた。


 大きな斧を担いだ大柄な冒険者が逃げるも留まるもできずに、巨石の上に飛びだしてきた。

 黒い稲妻のリーダーだ。

「うをおおお!俺が相手だ!生きてる者がいたら援護しろ!」

 大音量の叫びをあげて上空を羽ばたく赤竜を睨んだ。


 そこに、あちこちから氷矢や、石榴弾が飛ぶ。

 まだ、生きている者はいた。

 続いて槍を持った男。矢を放ちながら女冒険者も出てきた。

 皆覚悟を決めた目をしている。


 RUWOWOWOwooo!

 再びの威圧。

 それで勝負は決まった。

 身動きできなくなった生き残りを火焔砲が呑み込んだ。

 一瞬で炭化して崩れ跡形もなく消え去った。


 その後、赤竜は何度もしつこく火焔砲を巨石群に打ち込み、灼熱地獄と化したそこは、岩が溶け大地は白く或いはガラス質に変化していた。


 そうして赤竜討伐隊は全滅した


 その様子を見ていた者が複数人いた。

 王国領地軍の騎士ロンバード、伯爵家騎士団斥候、冒険者ギルド王都本部調査員、そして風の旅団だ。

「やはり討伐は失敗したか。問題はこの後だ。あの赤竜がどう行動するのか、見届けねばなるまい」

 ロンバードが側近に告げた。

「討伐は失敗・・伯爵様に急ぎご報告をしなければ」

「く、やはり無駄死にとなったか。これはビフリート殿の失態。若者の命を一度にこれ程失うとは・・」



 俺達は竜の咆哮を聞いて不吉な推測が現実となることを確信した。

「キース、どうするの?」

 リファがじっと俺を見る。

 アリアが口を挟んだ。

「助けに向かう必要なんてないわ。私達は自分の仕事を完ぺきにこなしたんだから。あとはあいつらの仕事。死のうが生きようがこれ以上手を貸すべきじゃないわ」

「リファはどうしたい?」

「・・助けてあげたい気持ちも少しはあるけど、ちょっと危険すぎる。絶対にキースが狙われるもん。今度こそ命を落とすかも」

「うん。俺も同じ気もち。見捨てるのは忍びないけどこれまで何度も忠告はした。決めたのも命を賭けたのもあいつらだ。ここは手を出さない方がいいと思う」

 もう遠い昔の様に思えるけど、戦場の掟では弱い奴が死ぬ。相手の強さを見極められず、判断を誤った者は自分の命をその代償にするしかない。


 厳しいけど、俺達に関係のない命を救うために俺は自分や仲間の命を賭けられない。

 俺は遠くに上がる火柱をただ黙って眺めていた。


 もう、誰も生き残ってはいないだろう。

 一人でも多く逃げ延びてくれればと願う。

 時間が経ち、いい加減しつこい奴だと思い始めた頃、やっと赤竜は空高く舞い上がった。

 そのまま巣穴を目指すのかと思いきや、北へ進路を取った。


「ちょ、ちょっと!あっちはまずくない?街があるよ」

 アリアが焦った声で俺に言う。


「どうする?」

「とりあえず追いかけよう。見つからない様に後を付けるんだ」

 俺達は赤竜の後を追い始めた。

 これが通常の飛行速度なのか、さっきみたいに速くない。


 空から見れば彼方まで一望にできる。

 竜の巣穴上空からでも街は見えたはずだ。

 でも、一度も魔境を越えて草原に出て来てなかったし街も人も襲われていない。

 きっと赤竜には人族を襲う意思はなかったのだと思う。

 それをこちらから仕掛けて敵に回してしまった。


 ギルマスには、怒った竜が街を襲う可能性があると伝えた。

 その時これ以上被害を出さないために討伐するとか言っていた。

 でもそれは明らかな判断ミスだと思う。

 この進路、行き先はトッテムの街だ。あんな暴れ方をされたら壊滅は免れない。

 一体どれほどの人が死ぬのか・・

 いや、トッテムの街だけで済むのか?周辺の街まで襲わないか?


 そう考えた時、騎士団が言っていた言葉を思い出した。

 たしか、王国に背く行為にならないかと危惧していると。

 やばい。俺達のやったこと完全に王国に背いてるかも・・


「リファ、アリア。全力であれを止めるよ!俺達このままだと犯罪者になっちゃう!」

『え、なんで?』

「俺達が怒らせた竜が街を襲うんだ。ギルドの依頼だろうと伯爵の命令だろうと俺達がやったことに変わりはない。ってことは、街の壊滅も人が大勢死んだのも全部俺達のせいって話になる。あの騎士が“王国に背くことにならなければ”って言ってたのはきっとこのことだったんだ」

「そんな!」

 アリアが悲鳴を上げた。

「キース!どうしよう!」

「止めるしかない!」


 俺達は一気にスピードを上げた。

「アリアは無理するな!もし追ってきたら魔境の中に隠れるんだ!」

 背後から攻撃をする。俺達に気を引いて、南の魔境奥深くへおびき寄せたい。


 ん?なんか違和感がある。

 後ろから見る赤竜は黒い。

 これは黒竜なのか?と思う程に真っ黒だ。


「キース、あいつまた黒くなってる。きっとあの黒杭が影響してるんだよ。杭を抜かないと!」

 俺に、あの赤竜に飛び移って黒杭を抜けと言うのか?リファは。

 それは死ねと同義だぞ?無茶が過ぎないか?


 俺はどうするかを考えながら魔力弾を連発する。

 ギロリと俺を睨んだ赤竜の口内が赤く染まった。

 そして、火焔砲が再び俺に向かって吐き出された。


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