髑髏騎士
その日の午後、フェルダール師団長、騎士団長、騎士団本隊1千人と聖結界の魔道具が到着した。
そして翌日、早速魔道具設置の作戦が開始された。
ちなみに作戦名は“春の息吹”だった。
このネーミングセンスには首を傾げるしかない・・
リファが巨大逆旋風を起こし瘴気を吹き飛ばす中、俺は聖結界を張って魔道具設置を手伝っている。
ひとまず、対岸の山まで300メトルの直線上に凡そ20個の魔道具を設置する。
魔道具1個につき半径30メトルの効果範囲で、5日間持つらしい。
以前魔道具屋で見た物とは魔石の大きさが違う。
軍装備だから当然なのかもしれないけど、予想以上にちゃんとしたものだった。
出来た結界を通って軍本体が移動して対岸の山へ登り、そこで野営地を新たに築く。
敷設した魔道具は回収して、新たな野営地で使うそうだ。
つまり、騎士団の帰り道がなくなるという事だ。
それだけ騎士団も本気だと見せかけて、実は魔道具も魔石も数を揃えられなかったらしい。
魔石は多少予備があるものの魔道具が不足しているから、幹部の野営場所のみ囲うのだそうだ。
魔石の数から10日そこらで瘴気の元凶を排除して元の山へ戻らねばならない。
そんな作戦に変更されていた。
強硬過ぎないか?と思うのは俺だけなのか?
特に問題も起きず、無事、瘴気の中を騎士団の移動を終えることができた。
そして対岸の山に築かれた新たな野営場所に俺は土小屋を造った。
その夜、フェルダール師団長がやって来た。
「キース。君は聖光気を纏えると聞いたが、本当か?」
一度リュカに見せたように師団長の請いに応じて披露して見せた。
「キース。君は素晴らしい才能がある。たいていの場合、才能や資質とは親から受け継がれるんだ。君のご両親は名のある魔法師と思うんだがちがうかい?」
「私の父はアッシュ・クリフロード、母はビビアです。今は存在しないクリフロード家の生き残りです。そう言えば、母は昔魔術師団にいたと聞いたことがあります。師団長はご存じありませんか」
確か、ジュダーグの森で泣き出したジュリアに、カタリアが母様は魔術師であったと話していたことを今思い出した。
「ビビアだと?君はビビアの子なのか!」
「母様を知っているんですか?」
師団長も驚いているようだけど、俺はもっと驚いた。
もしかしたら師団長は母の実家を知っているかもしれない。
「母の実家をご存じでしたら教えてください!母は生きてます。俺、母様と妹を探しているんです!」
興奮して思わず俺と言ってしまった。
「ビビアの実家は・・ボスコート家だったと記憶している。ボスコート家は確か、ロレンスク伯爵領の小さな街の領主だったはずだ」
師団長は、母様の実家を知っていた!まさかここで母様の実家を知る人に出会うなんて。
「キース、良かったね!お母様の実家が分かって。この仕事が終わったら早速行ってみよ!」
リファも我が事のように喜んでいる。
なんて俺は運がいいんだろうか。
物凄く嬉しくて涙が出てきた。
「何か、君の身分を証明する者はないか?君がクリフロード家の者と証明する何かだ」
俺は父様の短剣と母様の魔法杖を手渡した。
「おぉ。この杖は確かに見覚えがある。こちらの短剣の紋章もきっと証明となる筈だ。領地を失って家の再興は叶わないと思うが、家名を名乗る位は認められる可能性はある」
そう言って返してくれた。
「だが、クリフロード家は領もろとも壊滅したと聞いている。ビビアが生きていると信じたい気持ちは分からんでもないが、期待しない方がいい」
「でも、母様はあの時、救援を呼ぶために領を出ているんです。それはドックウェル伯爵家、バルバリー侯爵家の方からも確認が出来てます。ただその後の行方が分かりません。だからきっと実家に戻っているんじゃないかと思うんです」
「もしビビアが生きているのならば、絶対に私の所へ連絡をしてくるはずだ。それがないという事は、そういう事態も覚悟をしておきなさい」
「でも、数年前に王国騎士団がクリフロード領へ行ったと聞きました。きっと母様が国王様に働きかけて・・」
「否、それはない。あれは辺境とはいえ、王国領土と王国民を案じた陛下のご命令だった。そこにクリフロード家の意思は介在してはおらん。それは私もその決定の閣議に参加しているからよく知っている」
「そうなんですか。でも、きっと母様は実家にいます。もしいなくてもきっと居場所を知っている筈です」
「ふむ。まぁ、訪ねてみるといい。ロレンスク伯爵領はこの直轄領の南西にある。あとで地図をやろう。だが、かなり遠いぞ」
「どれだけ遠くても構いません。以前はバルバドール王国にいたんです。そこに比べたら庭先みたいなものですから」
リファも隣で頷いている。
「ははは。君の身に何が起きこれまでどう過ごしてきたか気になるな。ビビアはかつての私の部下だ。またいずれ時間のある時に私の知るビビアの話をしてあげよう」
その日も忙しいらしく、師団長はそこで話を切り上げ去って行った。
母様の実家の情報を得た。
ならばこんなところでもたついている場合じゃない。
さっさと終わらせてボスコート家を目指そう!
目標が決まるとやる気が起きる。
でも、これは騎士団の軍事作戦だ。ここは歩調を合わせて進むしかない。
今現在は、瘴気の中心部近くへ移動の最中だ。二日間も掛かる。
リーフボードの味を覚えると、じれったくて耐えがたい。
俺達だけなら1時間かそこらでたどり着けるのに。
これだけ騎士がいるから俺達はアンデッドを気にすることなくのんびりと歩を進める。
すると自然とお喋りも増える。
俺はリュカとリファとアリアのとりとめのない会話に耳を傾けて退屈な時間をしのいだ。
話の流れで、騎士団や魔術師団といった軍組織の話になっていた。
まず、チョビ髭司令官は前王の齢の離れた弟なのだそうだ。
それで実権の無い名誉職。
このロゼムの騎士団長は子爵家の人。出世で成り上がったらしい。
けど、黒い噂のある人だから気を付けるようにと忠告をもらった。
王国には騎士院と魔術学院がある。どちらも貴族とそのお付きの平民が学ぶことができる。
貴族階級は卒業すれば全員に王国騎士と王国魔法師の称号が与えられる。
そして、家の爵位に応じて軍の序列階位で所定の地位からスタートすると。
その後は実力と実績で出世は思いのまま。
軍内部では、爵位の高い貴族を部下に持つ低位貴族も多いのだとか。
その出世争いが平和な時代にして軍組織を活性化する動因になっているのだとか。
そんな話に耳を傾けつつ足を動かす。
二日間、山を歩いて現地傍に到着した。
そしてすぐに軍議。
そこで俺とリファで上空から元凶を捜索することが決まった。
その翌日、俺とリファは空から浄化逆旋風陣を放ちつつ、広範囲の捜索を行っている。
対象範囲は長さ20キロ幅6キロ。
そのうち特に瘴気の濃い部分は中央部4キロ四方だ。
上空から見ると、アンデッドがチラホラいる。
のっそのっそと動く者、止まったまま動かない者。
そいつらが俺の強風で転がってゆく。
でもそんなものは無視して元凶を探した。
探すこと1時間。
俺達は何か変な物を見つけた。
ボフンボフンと1分に1回くらいの間隔で黒い煙を吐き出す何かだ。
「なんだ?あれ」
大きさは直径15メトル位か?
瘴気の吹き出し口はまるで大きな壺だ。
黒いけど葉っぱのような物も見えるから植物なのかもしれない。
簡単なスケッチを描いておく。
でも瘴気を吐き出す花なんて聞いたことがない。
何か別の生物なのか?
それから、上空に火矢を3回立て続けにはなった。
元凶らしきものを見つけた時の合図だ。
火矢は高く飛んで最後に爆発した。
それからまた捜索を続けて既定の時間に野営地へと戻った。
「報告します。元凶らしきものを発見しました。下手な絵で申し訳ないのですが、これがその全体の形です。周辺のアンデッドは100メトルの範囲に凡そ30から50匹。以上です」
報告を終えてその場を下がった。
そして、明朝の元凶討伐戦が決まった。
ちなみに作戦名は“春の嵐”だ。
翌朝、範囲結界の魔道具を持った騎士団、魔術師団を瘴気から守りつつ、俺達は瘴気を吐き出す何かへと進軍を始めた。
野営地から南へ2キロル、西へ3キロルの位置だ。
俺とリファ二人で2つの旋風魔法陣を並べて、上空から瘴気を掃いながら200名の騎士と魔術師団を現場まで連れて行く。
俺の旋風範囲にグレンとリュカが、リファの旋風内に師団長と聖結界の魔道具がある。
魔道具は、元凶の傍で安全地帯を確保するために用意されたものだ。
魔術師の待機場であり、ケガ人なんかを運び込むそうだ。
途中、雑魚アンデッドが襲ってきた。
それを騎士たちが問題なく斬り捨ててゆく。
前衛騎士には俺から聖の魔力を武器に付与している。
これで切りつければアンデッドはたちどころに討伐できる。
そろそろ到着かと思われた時、強敵らしきアンデッドが現れた。
一匹はボロボロの黒マントにごっつい全身甲冑を着た骸骨。髑髏の騎士だ。背丈ほどの大剣を携えている。
そしてもう一匹は鎧馬に乗った首の無い騎士、デュラハンだ。こっちは十文字槍を持っている。
まるでこの先へは進ませないと言わんばかりに立ちはだかっている。
「何でこんな奴らがここにいるんだ?」
グレンが呟いた。
「強敵だ!結界の魔道具を発動させろ!」
すぐにグレンから指示が飛んだ。
ちなみに、騎士団長はいない。山の上で全体の指揮を執っている。
「撤退すべきではありませんか!」
部下の進言はグレン部隊長によって即却下された。
「ダメだ!どうせやり合う相手なら此処で倒す。戦闘準備!」
今の俺はやる気に満ちている。
さっさと倒して、さっさと終わらせてロレンスク領へ向かうのだ。
今はリファと俺の旋風範囲は並ぶようにそれぞれ50メトルを覆っている。
そしてアンデッド2匹は俺の旋風範囲の境界線上に立っている。
風は内から外へ向かう強風だ。
髑髏騎士とデュラハンのマントが大きくはためいている。
アンデッドと騎士たちの距離は約10メトル。
まず、髑髏の騎士が動いた。
身を屈めたと思ったら、僅か1歩で距離を詰めて先頭にいた味方の騎士二人を切り下げた。
騎士二人は身体を両断されて血の海に沈んだ。
カタカタカタカタ
髑髏が嗤う。
不気味な奴だ。
俺は上空から聖光弾を放った。
今の俺の魔力はかなり大きい。
力を抑えずに普通に放てば、例えば火球一つでオーガ一匹程度跡形もなく消滅させくらいはできるだろう。
その普通サイズの聖光弾だ。当たれば蒸発する。
スパパパパ
それを髑髏騎士はいとも容易く聖光弾を切り裂いてしまった。
骸骨のくせに膂力と素早さがヤバイ。
きっと生前は高名な騎士だったのかもしれない。
バシューン!
ならばと、少し魔力を込めて聖の魔力風の塊をぶつけた。
聖なる風の極大サイズの榴弾とでもいうべきか。浄化旋風弾とでも名付けようか。
旋風の様な高速回転弾が、上空から地面スレスレで軌道をホップするように変化させた。
思惑通り変則的な軌道は髑髏騎士を捉え、しっかり巻き込んで後方へはじき飛ばした。
しまった!
風の巻き込みが強すぎて両断された騎士の身体も一緒にきりもみ状態で血と内蔵をまき散らしながら飛んで行ってしまった。
周囲の騎士も吹き飛ばされはしなかったけど、ころころ転がった者達がいる。
やば。怒られるかな・・
「こらー!危ないだろうが!!」
やっぱし怒られた。
でも、髑髏騎士も冗談かと思う程派手に転がって吹き飛んで行った。あれは骨折では済まない。
浄化機能付きだからさぞ大変なことになっているだろう。
そう思ったけど、普通に立ち上がって、何事もなかったように歩いてデュラハンの隣に並んだ。
次にデュラハンが動いた。禍々しい鎧を纏った巨馬が一駆けして前足を振り上げた。
その腹に向かって聖光弾が飛ぶ。
それをデュラハンの十文字槍が切り裂いた。
聖光弾を放ったのは師団長だった。
師団長はリファの旋風陣にいたはずだけど、わざわざ援護に来てくれたみたいだ。
「デユラハンは私が相手をする!キース、君は騎士たちと共に髑髏を倒しなさい!」
言うやいなや、師団長は杖を構えて聖光矢を連射し始めた。
デュラハンは弾き返しつつも、瘴気の中へ後ずさりしてゆく。
そして聖光気を纏った師団長も瘴気の中へ踏み込んでいった。
黒靄の奥から閃光が迸る。
激しい戦いが始まったようだ。
「おい、我らも攻撃する。キースは援護を頼むぞ」
グレン部隊長の指示で騎士たちが髑髏騎士に立ち向かっていった。
俺も地上に降りた。
乱戦になれば上空から攻撃なんてしたら仲間を巻き込みそうだ。
俺は邪魔にならない様に、気を使いながら背後からの援護射撃に徹しようと思った。
この国の騎士は強い!
それが一番目の印象だった。
最初の二人は何だったのかというくらい動きが洗練されている。
連携もしっかり機能している。
でも、髑髏騎士はもっと強かった。
決して動きの悪くない騎士たちの斬撃を軽くいなしながら俺の聖光弾もきっちり弾いている。
「アンデッドのくせに!」
一人の騎士が焦れたのか、むやみと突っかかって行った。そして両断された。
甲冑の腹部の継ぎ目を正確に切り裂いている。
カタカタカタカタ
髑髏がまた嗤った。
「お前達!油断するな。そいつはシャーリア聖公国の初代騎士王、カイザック・シャーリアだ!」
『は?』
「その甲冑の紋章だ。騎士にして覇王となった初代皇帝カイザックの棺がシャーリア聖公国から消えたという話がある。その紋章はシャーリアがまだ帝国を名乗っていた時のものだ。もしそいつが本当にカイザックのアンデッドだとしたら相当手強いぞ!」
それは今言う事なのか?
カイザック王といえば誰でも知る稀代の英雄だ。
悪徳領主から民を救うために立ち上がった勇儀の騎士。
領主から始まり最後には周辺国を相手に戦い、一代で王国を築いた千年以上前の騎士だ。
貧しき者も幸せに暮らせる国を作り、その慈愛の精神を基に今のシャーリア聖公国が出来たらしい。
グレン部隊長は、そんな憧れの英雄と戦えと?
ほら、現場が混乱しているじゃないか。黙っておけばいいものを・・
俺はそんな情報は聞きたくなかったな。
ほら。騎士たちも明らかに動揺して怯んでしまったじゃないか。
そこを見逃す髑髏ではなかった。
一振り、二振りで人が二人三人と叩き斬られた。
贓物が宙を舞う。
カタカタカタカタ
人を殺すことに愉悦でも感じてるのか?この髑髏は。
本当にあの英雄なのか?
俺はもう一度浄化旋風弾を放った。
どこまでも吹き飛んでしまえ!と、思いを込めた一発だったけど、横っ飛びで避けられてしまった。
こいつには同じ攻撃は二度も通じないらしい。
厄介だ。
それから、聖光弾の速射に切り替えた。
バシバシバシバシバシバシバシバシ!
それも容易く大剣で弾かれてしまう。
雷撃を使おうかという考えが頭をよぎった。
でも、この騎士団のいる状況では使いたくない。伝説級とか言われる雷撃魔法など迂闊に使えば、後々面倒な思いに煩わされるだけだ。
俺からの攻撃を厄介とでも思ったのか、周りの騎士たちに目もくれず髑髏騎士が一直線に俺の方へ飛びかかって来た。
俺は父様の短剣を引き抜いた。すぐに強化魔法を短剣に付与する。
これで切れ味が跳ね上がった。
ビオラ師匠との特訓で今の俺に接近戦の苦手意識はない。
ただ、ここは騎士や魔術師が多くてとても戦いづらい。
「な、何をしている!貴様らも早く攻撃をしないか!」
グレンが騎士たちに吠えた。
でも、そうじゃない。
俺が戦うのなら場所を空けて欲しいんだ。
欲を言えば全員リファの方に行ってもらいたい。そうすれば俺は自由に動ける。
皆どいてくれないかなぁ、と思っている間に俺は押し込まれた。
キンキンキンキン
髑髏は大剣を小枝でも振るかのようにぶん回してくる。
それを避けつつ受けつつ後ろへ下がる。
安全地帯を動かす訳にはいかないからそのままにして俺だけ下がる形だ。
でも、背後には人がいる。俺達の攻防に反応して大半がどいてくれたけど、そうでない奴もいた。
呆けっと突っ立っていたのか?俺の背中が誰かにぶつかってこれ以上下がれない。
そして俺の体重が掛かったところでそいつはどいた。
俺は、仰向けにひっくり返った。
ヤバ!
目ん玉の無い筈の頭蓋の奥の目が赤く光った。
そして大剣が振り上げられた。




