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黒ゴブリン

 翌日からは、巨大逆旋風陣でひたすら周辺の浄化を進めることになった。

 魔道具が届かない事には次の作戦に進めないからだ。

 ただそれだけでは勿体ない。せっかくなので選抜騎士が数名、旋風陣に入ってアンデッドを討伐することになった。


 1日目、2日目と何事もなく進んでいたのだけど。

 3日目。

 日が高くなった頃、真っ黒いゴブリンが現れた。

 黒い瘴気を(まと)っているから黒いのか、肌が黒いのかよく分からない。

 ただ、そいつはアンデッドらしく、ぼーっとした感じで現れた。

 そして、迂闊に近づいた騎士を拳の一発で倒した。

 その一撃で騎士の頭が弾けてなくなってしまった。まるで熟れすぎたトマトを弾いたように。


 俺とリファは山合い中ほどの上空にいた。勿論騎士たちは真下だ。今騎士は10人が50メトルの旋風の浄化範囲にいる訳だけど、強敵が現れる事を想定していなかった。


 俺は黒いゴブリンに向けて上空から聖光弾を連発で放った。

 だが、それは軽く避けられてしまった。

 軽いステップでササっと。素早過ぎてゴブリンの動きじゃない。


 それを見たのに、傍にいた騎士二人が斬りかかって行った。

 そして、返り討ちにされてしまった。

 一人は金属鎧の胸が大きく陥没している。あれでは助からない。

 もう一人はハイキックで顎が砕けたか?でも多分生きている。


「撤退だ!全員撤退せよ!」

 小隊長殿が撤退の指示を出した。

 その間も俺は聖光弾を打ち続けている。

「キース!そのまま我らが撤退を完了するまでそいつを引き付けておけ!」

「リファーヌ!お前は俺達の援護しつつ本陣まで同行せよ!」

 ケガ人を回収すると小隊長は即座に撤退を始めた。


 俺は上空からひたすらビシバシ牽制弾を放っていたら、黒ゴブリンは石を拾って投げつけてきた。

 それをシールドと風を操作して(かわ)しまくる。


 あの黒ゴブリンは絶対に身体強化をしている筈だ。

 でも、ゴブリンで身体強化をする個体がいるなんて聞いたことがない。

 しかもアンデッドだ。

 何かがおかしい。

 そう思うと心当たりはあの黒い瘴気の塊のような棒だ。

 あの棒がどんな力や秘密を持っているかは知らない。

 でも、言ってみれば謎だらけだ。

 あの黒ゴブリンにも何か黒い棒に近いものが刺さっているのかもしれない。


 そう思いついたら確かめずにはいられない。

 それに、夜になって野営地に攻め込まれたりしたら困る。

 全滅に近い被害が出てもおかしくない。

 どうしても今のうちに倒しておく必要がある。

 俺は地上へ降り立った。


 昨晩話題に出たばかりの聖光気で体を覆って、黒ゴブリンに近づく。

 さっきまで瘴気が掃われていたけど、リファが騎士団と去ってしまったから今は黒い靄の中だ。

 視界が悪い。

 俺は聖の魔力を込めた霧を発生させた。

 白い霧が黒い靄を侵食してゆく。

 黒か白かの差で、視界が悪い事には変わりない。

 それに、余程の小物でもない限り浄化で倒すこともできない。

 それでも霧の中の異物は感知できる。


 いた。

 前方ちょい左。20メトル先。

「ロックパイル!」

 グギャ!

 シーン

 あれ?当たった?外れた?

 なんか手応えが薄い。

 避けたのか?

 そこに聖光弾を数発放ってみた。

 グギ!

 今度こそ当たった!


 俺が近づこうとしたら、石が飛んできた。

 危ない!

 辛うじてシールドで弾いたけど、間違いなく黒ゴブリンは元気だ。

 どうなってる?

 ひとまず場所を移動する。


 大王亀の時は・・・思い出した。

 黒い棒を抜かない内は浄化も攻撃もあまり効かなかった。

 抜いたとたんに肉が腐り落ちて聖魔法が効き始めたんだっけ。

 ってことは、超接近戦であるかも分からない棒を探して引っこ抜くしかない。


 (しばら)く聖光弾と石の投擲(とうてき)の応酬が続いた。

「キース!どうなってるの!」

 上空からリファの声がした。


「下に降りて戦ってる。多分こいつあの黒い棒と関係があるんだ!」

 俺は声を張り上げた。

 俺の声を察知して石がまた飛んできた。

 石壁を作って対処する。


「リファ!旋風で瘴気を掃って!」

 すると強風が吹いて、霧も瘴気も周りに押しやられていった。

 俺の姿も、黒ゴブリンの姿も(あら)わになった。

 俺より少し大きい。一般的な大きさのゴブリンだ。


 俺の姿を見つけて飛びかかって来た。

 聖光気を纏ったまま、俺も素手で立ち向かった。

 エルフの里のビオラ師匠との立ち合い以来だ。


 うっすらと黒い瘴気を纏っている。それに肌も緑ではなく真っ黒い。

 やっぱり異常な個体だ。黒いゴブリンってだけで違和感が半端ない。

 落ち着いて動きをよく見る。

 魔力量は圧倒的に俺が優っている。だから、一発の威力も俺が上だし、防御も不安はない。

 スピードも俺の方が早い。


 そうした分析を黒ゴブリンの拳を躱しながら冷静に判断してゆく。

 パパパパパ!

 黒ゴブリンは防御を考えない、手数最優先のインファイターみたいな奴だ。

 傭兵で言うと当てられる前に当てちまえ的な、ちょっと尖がった性格の奴に多い戦法だ。

 その一つ一つの拳を強化した腕で防御して、隙をついて胸を打つ。

 バゴン!

 見事ヒット!胸が陥没して、青黒い血反吐を吐いた。


 でも、すぐに再生されて元に戻ってしまった。

 何だこいつは?再生能力が異常だ。

 再び手数優先の攻撃を繰り出してくる。


 正面から見た所、変なものは刺さっていない。

 じゃ裏か?

 こうして超接近戦をしていると、黒ゴブリンの体臭が匂ってくる。

 やっぱり臭い。腐臭だ。耐えられないほどじゃないけど、臭い。


 聖光弾を腹に放ってみた。

 ブシャーっと腐臭と共に肉が腐って、もがき苦しんでいる。

 そして、すぐに再生されてまた向かってきた。


 力が強い事と素早さは厄介だけど、決して強くはない。

 動きが単純で工夫がないし、同じ手に何度も引っかかる。

 おつむが弱いところはアンデッドらしい。

 それだけなら騎士団でも対処可能だったはずだ。

 ただ、そうは言っても簡単に後ろを取られるほど弱くもない。

 一番厄介なのはあの回復速度だ。

 あれでは騎士団が手古摺るのも頷けた。

 

 俺は黒ゴブリンの眼前に聖魔力をたっぷり込めた拳を突き出した。

 咄嗟に腕を交差して躱したところを、腹を蹴り飛ばす。

 仰向けに倒れた直後に、ロックパイルで背中から地面に縫い付けた。

 すかさず聖光弾を放とうとして、止めた。

 蔦が地面から這い出して黒ゴブリンに巻き付いていったからだ。


 いつの間にかすぐ傍にリファが立っていた。

 俺はそれなりに苦労して戦っていたのに、リファがいとも簡単に拘束してしまうとは。

「キース。こいつの身体調べたいんでしょ?」

 拘束してあげたわよと目で訴えてきた。

「ありがと。ナイスフォロー!」

 訴えに応えて褒めるとリファは嬉しそうに笑った。


 身体をひっくり返すと、首、うなじの部分に黒くて細い棒が刺さっていた。

「やっぱりあったね」

 リファは触れないからしげしげと見ている。


 グギーグギー

 黒ゴブリンは身体をくねらせて拘束を解こうとしているけど、リファの蔦は頑丈だから無理だよ!

「リファ、抜くからちょっと離れて。一気に腐って腐臭が噴き出すから風を頼む」

「うん」


 首筋から棒を抜くと、案の定身体が腐り始めた。

 それを風でリファが追いやってくれた。

 骨だけになったところで聖光弾を放って討伐完了だ。


 黒い棒は約20センチメトル。先端に反しがついている。

 深々と刺さって簡単に抜けないようになっていた。

 何より、魔物の大きさに合わせたこのサイズだ。

 かなり意図的な思惑を感じる。


「やっぱり、誰かの仕業だ。騎士団に報告しよう」

 俺達は、すぐに野営地へと戻ることにした。


 野営地に戻ると、チョビ髭司令官が(わめ)いていた。

「グレン部隊長!どうして本作戦で犠牲が出たのであーるのーかっ!我はこの雪解け作戦が死者を出すほど危険を伴うなどと承知しておらーん!」

「いや、武力作戦なればどこでも危険はあります。というより、この鉱山のどこにも安全な場所などありません。それ位の事は承知してください」


 そんな面倒な場面に、俺達は顔をだしてしまった。

「キース、リファーヌご苦労だった。あの黒いゴブリンを倒したというではないか。良くやった」

 グレンが話を逸らすように、俺達を(ねぎら)ってくれた。

 どうやら俺達の戦闘を見ていた者が既に報告をしていたようだ。


「あの、その件でご報告したいことがあります。これをご覧ください」

 チョビ髭の愚図りに突き合わされたくはない。

 さっさと布に包んだ黒い棒を差し出した。


「これがゴブリンの首に刺さっていました。これを抜いたとたん、ゴブリンは腐って普通のアンデッドになりました。でも、この針が刺さっているうちは、聖魔法も効かず、損傷個所が修復されてダメージを与えることができませんでした」


 グレンがその針を手に取ろうとした。

 それを俺は慌てて制止する。

「ダメです!それに触れるだけで触った処から瘴気に(むしば)まれます。聖の魔力で浄化できますけど、下手すればアンデッドになってしまいます」

 以前、大王亀の討伐の話をした時に黒い杭についてもしっかり話をしたはずだ。

 大きさが違うとはいえ、全く迂闊な人だ。


「そうであった。うっかりしていた」

「なんであーるか?我はその様な針の話など聞いてはおらーぬぞっ!」

「報告書は団長へ渡してあります。ご覧になっておりませんか」


 それから事情を知らないチョビ髭司令官様に、一から大王亀討伐の話をすることになった。

「むむむ。では、何者かは知らーぬが悪意ある者の仕業によって今回の事態が引き起こされているという事であーるのか。すぐに団長へ報告書を送らーねばなっ!」

 そこで俺達は司令官の幕舎を離れ、アリアたちの元へ戻った。



 その夜遅く、静かな野営地に突然怒声が響き渡った。

 急を告げる鐘が打ち鳴らされ、騎士たちが幕舎から飛び出した。

 俺達も土小屋から飛び出した。

 何が起きた?


「敵襲!敵襲!東よりアンデッド多数襲来。全員迎え撃て!」

 グレンの怒鳴る声が聞こえた。


 暗闇の密林からアンデッドが湧き出るように迫って来ていた。

 光球がいくつも空へ打ちあがり、その姿を照らし出した。

 人族のアンデッドが多い。おそらく鉱山労働者なのだろう。

 手にシャベルやピックアックス、ハンマーを持っている。

 腐った身体を引きずって腐臭をまき散らしている。

 そんなのがゾロゾロノソノソと無言で暗闇から出てくる。

 人数は数えきれない。


 俺達が普通の子共だったら怖くてちびってるぞ。

 夜中にアンデッドの集団は勘弁してほしいよ。

「まったく。眠いのに!」

 つい愚痴が出てしまった。

 リュカの護衛をサムズに任せて、俺とリファ、アリアも戦列に加わった。


 ここは広い岩棚の上。背後は崖で前方は森だ。

 逃げ場がない。

 でも、逃げる必要はない。数は多いけど強くはないからだ。

 俺達も騎士に交じって次々倒して行く。


 空が白み始める前にアンデッド集団の討伐が終わった。

「おい!誰かマッキャン司令を知らないか!」

「マッキャン司令!どこですか?」

 騎士たちが口々にマッキャン司令を呼ぶけど返事がない。

 まさか殺られた?


「キース、リファーヌ!」

 グレン部隊長の呼ぶ声に行ってみれば、「マッキャン司令とその護衛が行方不明だ。お前達に捜索を頼みたい」と頼まれた。


 そんな簡単に言われても困る。

「暗いですし、空から見ても見つけられません」

「それでもいいから行ってくれ」

「分かりました」


 俺とリファは仕方なくリーフボードを出して光球の明かりを頼りに捜索に出た。

 光球が動けば影も動く。すごく探しづらい。

 それでも木々の隙間を縫う様にして森の中へと進んでいった。

 たまにちらほらいるアンデッドを討伐しつつ、山を下る方向で探した。

「マッキャン司令!どこですかー?」

「しれー!どこー?」


 15分も進んでまったく見つけられる気がしない。

 諦めて別の方向を探そうとした時に、遠くから怒号が聞こえてきた。

 そちらへ行く。

 すると、マッキャン司令と護衛がいた。

 30体ほどのアンデッドに取り囲まれている。

 松明と剣を振り回して牽制をしているけど、騎士とは思えないほど腰が引けていた。


「マッキャン司令!今助けます」

 リーフボードに乗ったまま俺は聖光弾。リファは火球を放って次々と討伐をした。

 俺達からしたら全く手ごたえの無い相手だったけど、マッキャン司令にはとても恐ろしい相手だったようだ。


 股間の辺りがびしょびしょに濡れていた。

 それに気づいてリファが思い切り顔をしかめた。

 俺は何も言わずクリーンを掛けて上げた。


「お、お前達、遅かったではないか。が、救援に来てくれた事は感謝する」

 初めて、普通の喋り言葉を耳にした。

 動揺しているとこの人は普通に喋ることができるらしい。

 なら、いつも動揺してればいいのに・・


「グレン部隊長の命により探していました。アンデッド討伐は終わっています。もう安全ですので野営地の方へお戻り下さい」

 そう告げると、素直に頷いて従ってくれた。

 野営地の明かりが見える場所まで来た時、マッキャン司令は「お前達が見た我の醜態のことは他言無用を命ずる」と言ってきた。

 そして、何事もなかったかのように自分の幕舎へと入って行った。


 チョビ髭司令官は見た目30歳を超えている。

 30過ぎてお漏らしとは・・・

 本人も泣けるほど情けないだろうなと、心情を(おもんばか)りつつその背中を見送った。


 朝飯を食べているとグレン部隊長がやって来た。

「司令の危機を救ったそうだな。礼を言う。あの方は高貴な身分でな、騎士団では名誉職をされておられる。今回は比較的危険の少ない作戦で経験を積んでいただく筈だった。あの状況で逃げだすとは情けない。しかしだ、今回のことは他言無用に願う。騎士の名誉、貴族の名誉は尊重せねばならんのだ。マッキャン司令は追い詰められて仕方なく陣を離れるしかなかったのだ。そいう言う事にしてくれ」

 お漏らしの件もどうせ黙っているのだ。今更もう一つ秘密が増えても問題ない。


「分かりました。余分なことを喋って処罰されたくありませんから」

 グレン部隊長も大変だねと思いながら、俺は快く頷いてあげた。


ここまでお読み頂きありがとうございます。

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この後も新たな展開が続きます。

どうぞ、お楽しみください。

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