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チョビ髭司令

 その夜、3人で食事をしているところへフェルダール師団長がやって来た。

 女性を一人連れている。

「君たち失礼するよ。アリア君に、キース君とリファーヌ君だったね、私はフェルダール。この子は部下のリュクレシカだ」


 俺達は立ち上がって挨拶を受けた。

「宮廷魔術師団のリュクレシカです。私のことはリュカと呼んでください」

 リュカという女性は髪を短く切りそろえた闊達そうな女性だった。

 魔術師というより冒険者か斥候職とかにいそうな雰囲気だ。


「キース君。君の提案が本部で通ったそうだよ。それで明朝より移動を開始することになった。明日は少数精鋭で現地の下見に行く。君たち3人も同行することになる。そこで、このリュカを君たちに付けることにした。騎士たちの中で君たちが困る事の無いようにフォローすることが任務だ」

「あの、俺達のことは呼び捨てでお願いします。それから、師団長様のお心遣いに感謝します」

「あぁ、私に様はいらない。師団長と呼びなさい。リュカも呼び捨てで構わない。騎士団もだが私も君たちに期待をしている。ぜひ頑張ってくれたまえ」


 それだけ告げてフェルダール師団長は去って行った。

 リュカはなぜか残っている。

「あの、リュカは戻らなくていいんですか?」

「できれば少し親睦というか、お話をしたいのだけれど。ほら、距離感が遠いと不都合でしょ。今の内にお互いのことを少し知っておくべきと思って」


 それからリュカを交えて色々と話が弾んだ。

 リュカは宮廷魔術師になって3年の21歳。聖魔法と水魔法が使えるという。

 体力にも自信があるらしく、今回の山の中を歩き回る仕事にうってつけという理由で選ばれたらしい。


「君たちはどこで魔法を覚えたの?」

 リファはすかさず俺を見た。

「俺は母様と、傭兵仲間と、エルフの里の師匠たちから」

「傭兵?エルフの里?なんか、君たちの人生が気になってしょうがないわ。じゃあ、空飛ぶ魔法はエルフの方から?」

「それはキースが自分で考えたの。改良は私もしたけど」

「ねぇ、なんで空を飛ぼうなんて思ったの?そもそも頑張れば飛べると思ったの?」

 これはアリアだ。風魔法の使い手としては空を飛ぶ魔法が気になるのだろうか。


「それは必要に駆られて。エウロの里からジルべリアに来る途中の大きな川が渡れなかったから」

「あそこには吊り橋が掛かってるじゃない」

「落ちてたよ」

「あらら。ね、私も飛べるようになるかしら」

「頑張ればきっと出来るよ。ね、キース?」

「うん。アリアなら大丈夫だ」

「教えてくれる?」

『勿論!』


「あの、私も・・・さすがに図々しいかしら」

 リュカがおずおずと手を挙げた。けど、リュカはダメだ。だって。

「風魔法を使えないと無理だよ。それも魔力操作がすごく上手くて、魔力量も相当多くないと」

「・・諦めます」

 それからリュカから宮廷魔術師の役割や俺達のできる事なんかを情報交換した。



 翌朝。

 サムズが5人の仲間と共に迎えに来た。何でも、サムズのパーティーメンバーで、今回は俺達の護衛をしてくれるらしい。

 挨拶をして、すぐに騎士団の野営地へ向かった。


 騎士たちもすぐに集まってきた。

 そして一人のチョビ髭騎士がお立ち台に上がった。


「我はこの選抜部隊を率いるマッキャン司令であーる。副官はグレン部隊長が務めーる。本作戦は選抜騎士30名、魔術師団員及び冒険者若干名による合同作戦であーる。作戦目標!本地点より50キロル東、6番砦付近の現地調査であーる!作戦名は“雪解け”であーる!本作戦が降り積もった雪を融かすが如く、この行き詰まった状況の打開することを真に願うものであーる。諸君の健闘に期待するところであーる!では諸君!いざ、出った―つ!」


 チョビ髭司令官様の癖の強い号令で、俺達は行軍を開始した。

 二日後、山裾を東へ50キロルを歩き再び山の中へ入ってゆく。

 ここには道などない。騎士部隊が先頭に立って、どんどん奥へと分け入ってゆく。


 4日目、遂に第一アンデッドが現れた、

 ゴブリンだ。

 騎士団が何事もなく倒してさらに進む。でもそこからアンデッドの遭遇率が急激に上がった。そしてそこから半日もしない内に、6番砦付近の目標ポイントの岩棚に辿り着いた。


 その日はその場で野営をして、明日から作戦開始である。

 その日、雪解け作戦の詳細を周知する軍議があり、俺とサムズで出席をした。


「雪解け作戦を立案したグレンだ。これより詳細を説明する。一度しか説明しないから聞き逃すなよ」


 グレン部隊長の説明は要するに、俺とリファで6番砦付近の瘴気を排除できるかの検証を行うことが雪解け作戦という事らしい。


 アリアは俺たちの補助要員。

 リュカは魔術師団代表で成否を確認する。

 騎士団はリュカの護衛と作戦中の陣地確保する。

 サムズ達はアリアと俺達の護衛をするというものだった。


「何か質問のある者はいるか」

 の問いに、騎士から俺達の実力を疑問視する声が上がった。

 しかし、グレン部隊長は「その確認も雪解け作戦に含まれる」と軽く流してしまった。


 俺も一番最後に発言をした。

「私は武器に聖魔法を付与できます。斬るだけでアンデッドを浄化できるので、必要であれば仰ってください」


 アンデッドは、基本魔石を抜くか聖の魔力での浄化でしか倒せない。

 人族の様に魔石を持たないアンデッドは丹田を破壊すれば倒すことができる。

 あとは、手足を落として動けなくすれば時と共に浄化されることもあるとかないとか。

 ただ普通は、瘴気で繋がっていて手足も首もまたくっついてしまうのだとか。実験したことがないからどっちが正しいのか俺には分からない。


 いずれにしても、魔石や丹田の局所をピンポイントに叩くよりも、聖魔法の武器でばっさりやった方がよほど楽だということは知っている。

 という事で、提案してみたら、全員からご希望を頂いた。

 効果時間は凡そ半日ですよ!と付け加えて、作戦前に聖魔法の付与を騎士団の武器に掛けることになった。


 そして翌日、いよいよ雪解け作戦が実行された。

「では、雪解け作戦開始!するのであーる」

 チョビ髭司令官様の号令が下った。


「リファ、行こうか」

 俺とリファは岩棚の上から飛び立った。

 周りで見守る騎士たちから「おおー」とどよめきが上がった。


 上空から見ると、見事に真っ黒い雲海だ。

 山と山の間は1キロルには満たないか。でも、一ヵ所、騎士たちのいる岩棚が大きくはみ出している。

 そこだけは300メトル位の幅しかない。


 その300メトルの幅の山合いを聖結界の魔道具を設置して瘴気を完全に遮断する。

 騎士たちが渡ることが出来れば、この金鉱山の状況は一気に前進するはずだ。


 瘴気を掃うのは俺とリファの役目だ。

 そして、アンデッドを倒すのは騎士、魔道具の設置は魔術師団の仕事になる。

 今、騎士たちがいる山が東にあり、瘴気の雲海を挟んで俺達が登りたい山が西にある。

 その山の反対側に瘴気に元凶があると思われる。


「巨大逆旋風陣!」

 俺が聖の魔力を込めて、リファが大きな竜巻を作った。

 下降気流の方の奴だ。

 リファは上下逆を区別する意味で“逆”をネーミング加えたようだ。その方が、イメージがより掴めるらしい。陣は安全地帯を略してのネーミングだ。


 上空から、逆巻く強風を地上へ向けて叩きつける。

 一気に雲海が晴れて隠れていた地面が見渡せるようになった。

 直径100メトルは越えている。

 以前、魔神の爪痕では30メトルだった。それだけリファの魔力が成長しているという事だろう。

 でも、まだ300メトルには程遠い。

 そこで、俺も同じように巨大逆旋風陣を生み出してリファの旋風の隣に吹きつけた。

 二つの巨大旋風が並んで黒い靄を吹き飛ばして行く。


 うーん・・・なんか今一。


 リファが左周りで、俺も左周りの渦だと渦と渦の間で気流がぶつかって乱れている。というか無駄がある。

 そこで、俺が右周りの渦に変えると、おお!凄い勢いで風が一方に向かって噴き出すようになった。


「わ!凄い!凄い!なんかいい感じじゃない?」

 リファもいい手ごたえと思っているみたいだ。

 この光景は岩棚にいる騎士団たちも見ている。

 良い評価をしてくれるといいのだけど。


 瘴気の晴れた地面にアンデッドが姿を現した。風圧に耐えきれず転がって行く者がいる。

 瘴気を掃えるけど、さすがにこの風でもアンデッドを浄化することはできない。

 一々討伐するしかないのだ。



 俺達は一通りの実験を終えて、岩棚へ降り立った。

 向かえたのは騎士団たちの難しい顔だった。


 グレン部隊長も同様に気難しい顔をしている。

「ご苦労だった。今の作業でどれほどの魔力を消費したのだ?」

「わずかな時間なので、微々たるものです」

 ほお、と驚きの声が聞こえてきた。


 チョビ髭司令がズズイと登場してきた。

 このチョビ髭は、一々芝居がかっていてめんどくさい。

 喋りも動作も大げさというか、それもダサい感じで目についてしまう。いや、耳に残る?

 とにかく強烈な印象が過ぎて夢に出てきそうですごく嫌だ。


「お前達!さすがに風が強すぎるのであーる。あれでは騎士も魔術師も吹き飛ばされてしまうのであーる。このままでは作戦は失敗するのであーる。何か、他に良策はないのーかっ!?」


 喋りがうざい!耳に残る!かんべんしてくれー!

 と、心の中で悲鳴をあげながらも、そんな心の叫びは取り繕った笑顔の裏に隠しておく。


「飛ばされない程度に風圧を抑えることは可能です。他に私が聖結界の魔法陣を設置することも可能です。範囲は20メトル四方くらいです」

「ふむ。であればその二つを試すしかないな」

 グレン部隊長が言うと、チョビ髭司令がまた怒鳴った。

「であれば、なぜ最初からそれを試さぬのーかっ!時間の無駄なのであーる!」

「それは、浄化の風で一気に瘴気を消し飛ばせとのご指示でしたから」

「だまれー!口ごたえは許さーん!貴様ら冒険者風情の助けを借りねばならんこと自体が不愉快なのであーる!貴様達は我らの言う事だけを聞いていれば良いのであーる!」


 だから、言う事聞いてるじゃん!

 指示通りにしたじゃん!

「大変失礼しました」

 腹に据えかねたけど、言い返しても怒られるだけだ。

 でも、不満と怒りが込上げてきた。

 チョビ髭のくせに!変な喋り方しかできないくせに!騎士団で一番変な奴のくせに!

 と心の中だけでうっ憤を晴らす。


「分かった。ではすぐにその方法も試そう」

 グレン部隊長が遮るように話を終わらせてくれた。

 俺達はその後もいくつかの検証を重ね、その後軍議にも参加した。


 結局、範囲50メトルの巨大逆旋風陣で作戦可能と判断された。

 俺は聖結界で魔術師団と護衛数名を入れて魔道具を設置することになった。

 魔法陣ではなく、俺の結界に人が入って移動する。

 リファの旋風範囲には騎士団が展開してアンデッド討伐をするという内容で決まった。

 その報告を、グレンが伝令鳥を飛ばして各所と連絡を取り合っている様だった。



 夜、いつものようにアリアとリュカ、リファと食事を摂った。

 今日の俺は不機嫌だ。だからどうしても無口になってしまう。


「キース、私たちは何も悪くないから気にしない方がいいよ」

「そうそう。お貴族様なんて皆あんなもんよ。大体、自分の無能を棚に上げて威張るか自慢するかしか能がない連中なんだから。あ。ごめんなさい。リュカも貴族だったかしら。あなたのことではないから」

「私は貴族といっても貧乏男爵家の出で貴族らしさなど持ち合わせていませんから。でも、貴族全部があんなのじゃないとは知って欲しいかな。フェルダール師団長はとても素晴らしい方よ。師団長がいたらあの司令官はおとなしくなるのに」

「師団長ってそんなに身分が高い方なの?」

「侯爵家の出よ。血筋を辿れば王家の血も混ざってるって聞いたことがあるわ。でも偉ぶらないし、お優しいし、お強いし、上品で高貴で・・」

「ね、リュカって師団長が好きなの?随分年が離れているよ」

「ち、違うわよ!ただ尊敬してるだけよ!」


 リファの慰めから始まって、アリアが話を逸らしてときめき顔のリュカにリファが突っ込み顔を赤くしたリュカが慌てるという流れだ。

 はぁ。女性が集まると必ずこの手の話になるんだね。

 リファの大好きな分野だし。


 師団長は聖結界の魔道具が不足しているという事で、今その手配をしているそうだ。

 集まり次第、騎士団本体と共に合流することになっている。


「師団長はとっくの昔にご結婚されていらっしゃいますから!」

「え!リュカそれって、もしかして禁断の横恋慕って奴?」

 リファの目がキラキラ輝いている。なんでそんなに嬉しそうなんだ?

「あらら。それは無謀というか、向こう見ずというか。きっとリュカは一緒に仕事しているうちにダンディーなおじさまの魅力に囚われてしまったのね」

「ちがう、ちが・・・」

「キャー!リュカって大胆!で、どうするの?私たちなんでも協力するよ!何でも言って。私そうゆうの大好き!」


「ち、が、い、ま、す、か、ら!」

 リュカがいじられ過ぎてちょっと怒ってる。


「コホン!ところで、キースは聖結界まで使えるのね。とても驚いたわ」

 リュカが無理やり話しの方向をこっちに捻じ曲げてきた。

「あれは聖魔法の上級技よ。魔術師団で聖結界が張れると作戦の指揮を任される位すごい技なのよ」

「さすがキース!」

 俺が褒められるとリファが必ず胸を張る。いつものことだ。

「へぇ。でもその上にまだ聖級があるんでしょ?聖級ってどんな技なの?」

「なんか色々とあるみたいだけど、私はあまり詳しくないのよ。でも知ってるのは広範囲の土地を浄化するとか。あ、聖光気って言って全身に聖なる気を(まと)う技があるわ。師団長はそれで瘴気の中でも聖結界無しで自由に動けるし戦えるのよ」

「それって、キースもできるよね」

「うん」

「本当に?魔術師団でも師団長しかできないのよ!ちょっと見せて!」


 という事で話は逸れて、盛り上がって夜は更けていった。

 


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