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出頭命令

 それから、俺達は一度バルバリー侯爵領のケシャルへ戻って来た。

 今回はケシャルの街の外に土小屋を造って、今はリファと作戦会議中だ。

 俺達は二人で地図を睨んでいる。


「お母様は、王国直轄領に向かったんじゃないかしら」

「遠すぎると思うんだ。騎士団派遣の可能性は高いと思うけど、鉱山地帯を回り込んで領都に向かうだけで何週間も掛かっちゃう。すごく焦っていた筈だから。でも、かと言って近場で当てにできそうな領が無いんだよなぁ」


 テリーヌ大河川沿いにはガストール男爵要するファンスバード伯爵領、その南のドックウェル伯爵領、更に南のハリスベール伯爵領、その南のアーシェル侯爵領がある。ファンスバード領の北に更に二つ伯爵領があるという。この中で確認していないのはハリスベール領と北の2つの領だ。


「一度ハリスベール領に行ってみようか」

「でも、絶対騎士団出せるほど余裕ないよ。私なら行かないかな。ね、それよりも、お母様の実家ってどこ?普通なら実家に頼ろうとするんじゃない?」


「知らないんだ。家名も爵位も何も知らない」

「そっかぁ。どうにか調べられないかな。あ、恩を売ったことのある領地とか、仲が良かった領地とかも」


 そんなのどうやって調べたらいいんだ?

 少なくとも貴族に会えない事には話も聞けない。

「ギルドじゃ調べられないよね。さすがに・・」

「うん。多分」

「病気になって倒れたお母様が、この次に向かうところ・・か」

 リファの呟きにピンときた!


「あ!治療院だ!多分、一度治療院に行った可能性が高い気がする」

「あ。うんうん。そこで次の行き先を聞いている人がいるかもね」

「よし、明日はケシャルの治療院から当たってみよう!」


 翌日から、ケシャルの街の治療院を片っ端から当たってみた。

 でも、ケシャルの街は侯爵家の領都だけあってすごく広かった。

 それでも根気強く来る日も来る日も探し回った。

 広い街を隈なく探してとうとう全てを調べあげたけど、それでも見つからなかった。

 そして更に範囲を広げてた結果。数日後、遂にケシャル郊外の小さな村の治療院に寄ったことを突き止めた。

 御貴族様の治療だったことから記憶に残っていたと治癒師が言っていた。でも、行き先については記憶していなかった。


 その治療院はアーシェル領に続く街道沿いの村にあった。


「ってことは、アーシェル侯爵家を訪ねるつもりだったのかな」

 距離的に、近い侯爵家はそこしかない。

 母様が向かっていても不思議じゃない。でも、訪ねていないと分かっている。


「何か理由があって訪ねられなかったのか、他に行き先があったのかな」

 訪ねられなかった理由があるとしたら、それは何だろう。

 また不安がよぎった。


「でも方向が分かっただけでも大きな前進だよ!大丈夫。お母様も妹さんもきっと実家にいると思うよ。だって私ならそうするもん」

「母様は、簡単に諦める人じゃない!何年かかろうと絶対に救援を頼み続けたはずなんだ」

 つい、カッとなってしまった。

 母様が領を見捨てて実家に帰ってしまうはずないじゃないか!


「分かってるよ。キースを見てればお母様がどういう人か位何となくわかる。絶対にあきらめない所はきっとお母様似なのね。でもね、病気になって倒れてしまったの。そして無理をして悪化したと思うの。諦めたとかじゃなくて、その時は断念するしかなかったってこと。でも、何年か前に王国の騎士団が調査に行ったって聞いたじゃない。きっとお母様が王国に働きかけたんじゃないかな。と私は思うんだけど」


「・・じゃあ、やっぱり母様とジュリアは母様の実家にいる可能性が高いのか」

「うん」

 ふぅ~。

 心が一気に軽くなった。

「リファ、さっき大きな声出してごめん」

「いいよ。私もキースにたまに怒るし」

「でも母様の実家かぁ。どこなんだろう」

 改めて地図を眺めてみた。

 広大な版図に恐らく数えきれないほど貴族家がいる。

 国王より与えられた大領地もさることながら、その傘下にも小領主ともいうべき貴族が大勢いる。更に、領地を持たず官僚として働く宮廷貴族だって大勢いる事だろう。更に王国騎士とか魔法師、それぞれの領主が雇う騎士やら何やら・・も貴族の内に入るのか?

 多すぎて訳が分からなくなる。


 うーん。


「キース。考えても無駄。まずは、次に向かった方向を調べるのが先だよ。明日から南に範囲を広げて治療院とか宿とか地道に探すしかないと思うよ」

 呆れ声のリファの指摘だった。



 翌日、ケシャルを発つ前に、ギルドへ寄った。

 入金がされているかの確認だ。

 母様の足跡を探し回っている間に随分と日にちが経っていた。

 とっくに入金はされている筈だ。


「あの、あなた達二人に、王国騎士団から出頭命令が出ています」

 カウンターで用件を伝えたら、とんでもない言葉が返って来た。


『はい?』

 二人で顔を見合わせるけど、お互いまったく心当たりがない。


「出頭命令ですか?」

「はい。読み上げますね。“出頭命令 Eランク冒険者キース及びリファーヌの両名に即刻、出頭を命ずる。王国領オルフェール ロゼム街王国騎士団本部”ですって。あなた達騎士団に怒られるようなこと何かしたの?」


「いえ、全く心当たりがありません」

「カメさん殺したから怒られるのかな。もしかしたら王国の守り神だったとか王族で崇拝していた人がいたとか」

 リファが変なことを口走った。

「え?そんな事ないでしょ!」

「何を言ってるか分からないけど、亀を殺してくらいで騎士団が怒るわけないでしょ!」

 心配顔をしていたお姉さんが、アホな子供でも見るような目つきに変わってしまった。


「とりあえず、すぐに向かいなさい。この命令書はもう半月も前に発布されてるの。無視したとか逃げたとかってなったら罪人になってしまうわよ。あ、一度ロゼムのギルドに行って話を聞くと良いわ。これロゼム支部から全支部に出されているから」


「全支部ですか?」

「そう。王国の全ての支部に向けてよ」

「マジですか・・」


 俺達は報酬の金貨2枚を受け取ってすぐに発つことにした。

 王国領オルフェールは今いるバルバリー侯爵領と東西で隣り合っている。

 ロゼムという街は、オルフェールにある鉱山都市なのだそうだ。

 ケシャルから900キロルもある。ずいぶんと遠い。

 何でそんなところから出頭命令が?


 文字通り、すっ飛ぶこと5日、俺達はロゼムのギルドを訪れた。

「これ、受け取って急いできたんですけど、何かご存じありませんか」

 カウンターのお姉さんに出頭命令書を見せた。

 この人も美人だ。


「あ、君たちキース君にリファーヌさんですね。奥でお話しましょうか」

 すぐに小部屋へ連れて行かれた。


「私は、ロゼムギルドのリコルよ。よろしく。さて、君たちバース伯爵領のハーベル支部で大活躍したと聞いたわ。今ね、ここロゼム鉱山が大変なことになっているのは知ってる?」

 ううん、と首を横に振る。


「あら、知らないの?じゃあ、最初から説明が必要ね。ここは王国直轄領オルフェール。この領には金鉱山があるの。ロゼム金山って呼ばれてる。ここロゼムは産出した金で金貨を作っている街よ。その金山の真ん中に半年前、瘴気が突然発生したの。そして、5番砦が一夜にして飲み込まれてしまった。それで、鉱山が今殆ど閉鎖状態なの。王国騎士団や魔術師団が浄化作業にあたってるんだけど未だに進展なし。そこで、騎士団が聖魔法の使える冒険者を王国各地から集めているわけ。まさに猫の手でも借りたいって思ってるのね。分かった?」

 そうにっこり微笑んだ。

「俺達叱られるんじゃないんですか?」

「あらどうして?何か悪いことでもしたの?」

「だって、出頭命令って呼び出しだから」


 あははは、と笑って事情を教えてくれた。

「そっか。何にも知らないと叱られると思っちゃうよね。これは、天下の王国騎士団が平民の冒険者を呼び出すときの常套文句よ。騎士団が来てくださいってお願いするわけにもいかないでしょ。怒られたりしないから安心して」

 そう言ってまたにっこり微笑む。


 何だよ。紛らわしい。

 てっきりブルジェールの二の舞になるかと思ってビクビクしちゃったじゃないか。

 一安心して喜ぶ俺達をお姉さんがニコニコ顔で見てる。

 人当たりの良さと好感度が以前に出会ったハーベルのお姉さんと全然違う。

 ギルドには変な人もいるけど、こんないい人もいるんだ。


「さて、手続きの話なんだけど、急な出頭命令ってことで、移動費用が出ます。この命令書はケシャルのものね。とすると・・ねえ、おかしくない?」

 何かを書き込んでいたお姉さんの手が止まった。

「ケシャルからここまで普通20日くらい掛かるのよ。20日前に命令書を発布して、確認印が5日前。5日前よ?なんでもうここまで来てるの?」

「俺達空を飛べるから、飛んできました。移動は5日間です」

「・・・よくわかんないけどいいわ。じゃあ、20日分の宿泊費というか宿代が出ます。一晩銅貨3枚で計算するから、一人銀貨6枚ね。それから、ランクEは1日あたり一人銀貨1枚。これは騎士団の要請に応じた特別価格ね。それに、貢献度に応じて騎士団で功労金がでるわ。この紙を持って、騎士団本部へ行ってちょうだい」


 叱られないと分かってひとまず安心した俺達は、本部へ向かった。

 本部は山裾を左回りに3日行くと自然と着くらしい。



 そして、本部らしき建物を見つけた。

 リコルさんから預かった書類を渡すと、建物の中へ案内された。

 そして団長室に入った直後の一言目が、「なんだお前ら?ここはガキの来るところじゃねえ!帰ってお飯事でもしてろ!」だった。


 団長は、40手前くらいの金髪のおじさん。唇がひん曲がっていて性格が悪そうに見える。

 嫌な予感がプンプン匂う。

 帰っていいと言うならすぐに帰ろうと思った。


「はい。失礼いたしました。ではご指示通りすぐに帰ります」

 そう言ったのに呼び止められてしまった。

「あ?待て。お前らが大王亀を討伐したガキどもか?」

 ギルドの書類を見て俺達をジロジロと見る。

「ま、いいか。所詮ランクEだ。おい、足を引っ張ったら俺がこの手で処分するからな」

 そう言って親指で首を斬る仕草を見せた。


 残念ながら、ここでひと仕事することが決まってしまった。

 案内された先、鉱山に向かう山道があった。

「ここを3日真っ直ぐ登って行け。騎士団の野営地がある。そこの兵にこの書簡を手渡せばいい」


 そう言われて、山道を辿って飛んでゆくと鉱山中腹に大規模な野営地があった。

 騎士団、魔術師団、冒険者と野営場所が決まっている。商隊まで来ていた。

 戦場さながらの様相だった。

 凄く大勢の人達がいる。見た感じ2千人くらいかな。

 その人達からの遠慮の無い視線にさらされて冒険者の野営場所へ連れて行かれた。


「俺はサムズだ。冒険者をまとめている。ガキが来るところじゃないと思うんだがな・・あっちの端の方で適当に幕舎を立てればいい。野営道具がないなら騎士団に申請しに行け。分からないことはその辺の誰かに聞けばいい。あとは適当に何とかしろ」


 ものすごいざっくりな説明で放り出されてしまった。

 言われた通りに幕舎の端の方で土小屋を造った。

 勿論風呂トイレ付だ。風呂はいつもの土を焼き固めたアレだ。

 トイレは掘った穴の傍に土を盛り上げてスコップを突き立てただけ。用を足したら、土を掛ける。

 でも、机とか椅子が無い。ベッドもない。白コングの毛布を敷いて終わり。

 いつか、いろいろと買いそろえて収納バックに入れたいと考えている。

 夢の家具付きの土小屋だ。

 荷物にならないくせに快適な居住空間を実現したい。できればソファーも欲しいかな。


 一応、お隣の小さな幕舎に挨拶に行ったけど留守だった。色々教えてもらおうと思ったのに・・

 さて、今から何をしようか。

 見た所、皆さん何もしていない。

 リファは小屋で魔力操作の練習を始めてしまった。俺も剣を素振りして時間を潰す。

 夕方になって、何か騒々しくなったと思っていたら、鉱山の奥から騎士や冒険者が大勢戻ってくるところだった。


「ちゃんと仕事をしてる人もいたんだね。今日はお休みの日かと思ったよ」

 いつの間にかリファが隣に立って一緒に見ていた。

「うん、こんなに人がいて一体何に梃子摺っているんだろう」



 暗くなる前に食事の準備を始めた。

 そこへ、とても可憐な少女が近づいてきた。

 こんな物騒な場所には似合わない。でも、胸鎧を付けているし、背中に弓を背負っているから彼女も冒険者なのだろう。

「あなたたちここで何をしているの?まさかと思うけどあなた達も騎士団から命令されて来たの?」

「はい。私はリファーヌ、こっちはキース。あなたは、もしかしてエルフ族ですか?」

 その女の子の耳が尖っている。それにミトに似ている。というかそっくりだ。

「えぇ、そうよ。私はアリア。よろしく」

 俺とリファは思わず顔を見合わせた。

「アリアって・・」

「もしかしてエウロの里のミトの娘さん?ミトによく似ている」

「え?なんで私の里を知っているの?あなた達母さんの知り合い?嘘でしょ?」

 アリアが凄く驚いている。

「半年くらい前に私達エウロの里にいたの。ミトは私の命の恩人で薬学の師匠なの!」

「え、え?どういう事?」

 アリアがまだ混乱している。

 まさかこんな所でこんなにも早く出会うとは・・

「えっと、えっと、そうだ。ミトから伝言を預かっているの!」

 アリアに出会えたことはすごく嬉しい。

 どれ程ミトにお世話になったか、感謝しているかをしっかり伝えたい。そんな思いがリファの表情から溢れていた。


 アリアと一緒に、食事をしながら色々と話をした。

 ミトに頼まれた、生きている位の連絡はするようにという伝言もしっかり伝えた。

 アリアは25歳。でも見た目は16歳くらい。

 青い髪に青い瞳。そして尖った耳の超美形の美少女だ。確か風魔法の天才とかミトが言っていたような。それに聖魔法と水魔法も使えるという。


「私父さんが死んだ途端に母さんと喧嘩ばかりするようになっちゃって。父さんのこと大好きだったから死んだこと受け入れられなかったのよね。ある日、母さんと喧嘩して泣かせてしまったの。それでそんな自分も生活も何もかもが嫌になって里を飛び出しちゃった。今はCランクの冒険者よ。周りからは風のアリアとか風使いのアリアって呼ばれたりしてる。ここでも風魔法駆使してそれなりに活躍してるんだから」


 エウロの里とミトの近況を話して、ひと段落した時、リファがアリアにお風呂を勧めた。

「ま、まさかそんな良いものが?ここにあるの?本当に?」

 凄く驚いて、喜んで、隣の幕舎に駆け込んでいった。

 それで隣の幕舎の持ち主がアリアだと知った。道理でお隣さんが中々帰ってこないなと思ったんだよ。


 俺は急いで浴槽にお湯を溜めた。水魔法が使えるなら必要ないかとも思ったけど、火魔法が使えないと水風呂になってしまう。

 モクモクと水蒸気の煙る風呂場にアリアが顔を出した。

 手にタオルと着替えをしっかり持っている。

「うわー!本当に本当のお風呂じゃない!夢みたい!なんて素敵なプレゼントなのかしら。エルファリア様!感謝いたします!」

 お風呂を作った俺でなく、エルフの神様が感謝されてしまった・・。


 まぁ。そんなに喜んでくれるのなら何でもいいよ。


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