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手掛かり

 宿に入ってから、少しやりすぎたかなと反省をした。

 結界を壊したのはわざとじゃない。

 本気でって言われたけど、手加減した一発だった。それに、結界を壊す可能性だって事前に言ったし。

 でも、何と言うか言い訳ばかり考えているようで釈然としなかった。

「キースは気にすることないよ。私達何も悪くないもん」

 そう。俺は悪くない。

 なのにこんな嫌な気分になるなんて・・


「リファ。明日ギルドに行って謝って来るよ。俺達は悪くないって所は曲げない。でも、壊したのは俺だから、そこは謝っておきたいんだ。それでその後この街を出ようと思う」

「うん、キースの好きにしたらいいよ」


 それから、地図を広げて旅のルートを考えた。目指す先は母様が騎士団の応援を求めに向かったというナントカ男爵。

 名前が思い出せない。でも、テリーヌ大河川の西岸沿いの街だと思う。

「最速で行こうと思うんだ」


 この国はとにかく広い。

 何しろ、最東端のクリフロード領の真下はバルバドール王国で、最西端の真下はノエリア王国だ。バルバドールからノエリアの間に、モルビア王国とリステル共和国がある。

 今の現在位置はモルビア王国西端の真北と考えると、一国分以上を東へ戻ってどれほどか分からないけど北上しなければならない。地図には主要な街と街道。それに山河が適当に描かれているだけだ。しかも我がクリフロード領は丸々載っていない。腹立つ!


 地図を見れば見るほど困難な長旅になりそうな気がした。

 はぁ。

 モルビア王国で大変な目に遭ったからちょっとこの旅は自信がない。

 ベックもいないのに大丈夫だろうか。



 翌朝、混雑の時間帯を避けて少し遅めにギルドへ向かった。

 早速アゼルの座るカウンターに向かう。

「おはよ。昨日、練武場の結界を壊しちゃったんだ。それで謝りに来たんだけど。誰に謝ればいい?」

「あぁ。聞いてるわ。何でも物凄い魔力を放ったんだって。どこにそんな力があるのかしら」

 アゼルは俺をしげしげと見ながらのんびりしたことを言う。

 怒ってないのかな。


「あの、私達が悪いとはこれっぽっちも思ってません!でも、壊したのは私達だから、一応申し訳なかったかなぁと・・」

 リファは強気で喋り出したけど、最後は声が小さく萎んでしまった。


「気にしなくていいわ。一応あなた達が謝罪に来たと上には伝えておく。けど、今回はギルドのミスよ。だって、ベンとジムが太鼓判を押して推薦した二人だもの。それを疑うなんて。ベンが凄く怒って、あの後ひと悶着あったの。あなた達は悪くない。これは決定事項よ。だから気にしないで」

「あ、ありがとうございます。なんか胸のつかえがとれました」

「立場のある大人がついていての事故でしょ。それを子供に責任を押し付けるほどギルドは腐ってないわ」


 はぁ、良かったー。重たかった気分が一気に晴れた。


「ところで、俺達は今日街を出ます。行先は東の方としかわかりません。ベンとジムにキースとリファーヌがお礼を言っていたと伝えてくれませんか」

「そう。もう行っちゃうのね。了解したわ。気を付けてね」

『お世話になりました』


 二人でアゼルに頭を下げてギルドを出た。


 一度宿に戻って荷物をまとめてから市場へ向かった。

 俺達は移動方法も速度も特殊だから、一日でどこまで進めるか分からない。

 だから、街や村には泊まらない事を前提で旅をしようと思っている。


 収納鞄があるから日持ちもするし、野菜を中心に食料を買い込んだ。

 さて、出発だ。


 北門から出て、畑の間を縫うような街道を歩いて行く。

 人気の少なくなくなったところでリーフボードを取り出した。


「行こう!」

 俺達は青空に向かって飛びたった。



 それから

 ほぼ連日、移動に時間を費やした。

 空を飛べる時間はリファの魔力量に合わせて5時間しか飛べない。

 それも風向きや体調で結構飛行できる時間にばらつきが出る。

 それでも、歩きや馬車に比べれば余程速く進むことができた。

 魔力が底をつき始めると、草原を走る。これも鍛錬の内だ。

 リファが疲れて動けなくなったら野営をする。

 土小屋でお風呂付。リファが喜ぶからそれくらいしてあげるよ。


 俺はまだ体力があるから剣の型と拳術の型を1日置きで行う。

 料理はリファに任せっぱなしにして、せっせと汗を流す。

 早めに眠って、また翌朝空に飛びだす。


 街道や街の傍を極力避けているけど、たまに俺達を見た人たちが驚くことがある。

 多分魔物と間違われているんじゃないかと思う。

 そういう時は(驚かせてごめん!)と心の中で大声で謝って、気づかないふりをして飛び去ることにしている。


 そうして半月は過ぎただろうか。

 俺達は北東方面に向けて今日も飛んでいた。

 すると、何か騒ぐ声に目を向けると、川に子供が流されていた。

 それを馬車や馬で人が追いかけている。


「リファ!」

「うん!」

 リファが種を一粒取り出して発芽、魔力で成長させると長い蔦になった。

 それを上空から垂らす。

 風魔法でうまく誘導して子供のすぐそばに流しつけた。


 その俺達に向かって岸から追いかけて来る人達が何か怒鳴っている。

 ちょっと気になったけど、リファの救出作業を見守っていた。

 すると、氷弾が飛んできた。

 咄嗟にシールドを張って防ぐ。

「え!なんで私達が攻撃されるの?もしかして助けたらいけない子?」

「たしゅけてー!ゴボ、たすけて!」

「その草をしかり掴むんだ。絶対に離すなよ!」

 俺も声を張り上げてその子を励ます。同時に岸からの攻撃にも警戒する。

 また氷弾が飛んできた。

 人命救助を妨害するとは、なんて奴らだ!


 俺は火矢を打ち出そうとして思いとどまった。

 なにか、岸の連中の動きがおかしい。

 一人の男が魔法師らしき人を制止しているように見える。


「お前達は何者か!人族か!」

 でかい声が聞こえてきた。

「俺達は人族だ!この子を助けるが構わないか!」

「頼む!助けてくれ!」


 やっぱり魔物か何かに間違われたらしい。失礼な!

 そこからは攻撃されることも無く、無事子供を助けることができた。


「何者かは知らんが、助かった。我らはアーシェル侯爵家の者だ。侯爵に代わり礼を言う」

 ここで貴族の関係者と出会ってしまった。

 また要らんちょっかいを掛けられることもある。でも、クリフロード領の話を聞くにはちょうどいい。

「あの、俺。いえ、私はキース・ロブ・クリフロード。クリフロード子爵家の子です。こっちはリファーヌ・ザビオンです。少しお話を聞かせてもらえないでしょうか」

「今は取り込み中だ。話はできん。が、クリフロード家の生き残りはいないと聞いている。もし、貴様が(つい)えたとはいえ貴族の名を(かた)っているのであれば、御当家の恩人とは言え処罰は免れないぞ」

 その騎士らしき人は俺を睨んだ。

「私は身分を騙ってなどいません」

 俺も真っ直ぐ視線を返す。

「ふん、いずれにせよリオネルト様の恩人だ。少し休息をして我々は屋敷へ戻る、貴様たちも共に来い。多くはないが謝礼金位でるだろう」


 俺達が助けた子はリオネルト様というらしい。しかも侯爵家だ。

 どうかその侯爵様が話の通じるまともな方でありますように・・

 そう願いつつ、俺達は侯爵家の馬車の後についてそのお屋敷へと向かった。


 ところが、途中で馬車と違う道に誘導されて、着いた先は公館だった。

 その一室で俺達は待たされている。


 別にお茶の一杯も出なくたっていい。

 恩人だからと偉そうにする気もないし、そもそもお茶が出たとしても手を付ける気はない。

 空を飛んで怪しまれているから、何をされるか分かったものじゃないし。

 だけど、ここまで待たされるのはちょっとどうかと思う。


 もう日暮れ時刻だよ?5時間以上待たされてるんだよ?

 こっちは子爵家だって話したのに、お茶もなしで5時間。あり得ない。

 相手が俺達をどう扱っているかが良く分かった。少なくとも恩人とは思っていないらしい。


「もう帰ろうか」

「うん」

 クリフロード家のことを聞けないのは残念だけど、ここにいても時間の無駄だ。

 俺達は部屋を出た。


 そのまま廊下を通ってロビーへ出ても誰も気に掛けない。結構まだ大勢の人がいるけどみんな忙しそうだ。

 一応門に立つ衛士に帰るとは伝えたけど、何のことか分かってないみたいだった。

 俺達はそのまま街へ出た。


 一体何だったんだ?

 今日はその辺の宿に泊まることにした。フォッセを出て初めての宿だ。

 でも、お風呂がない。

 リファ的には宿じゃなくて、土小屋の方がよほど快適なのだそうだ。

 俺も鍛錬場所が広いから野営の方がずっといい。


 ひと部屋を取って、すぐに宿屋で食事をした。

 酒場みたいな雰囲気で居心地が悪い。

 言葉も少なめにさっさと食事を済ませて部屋に戻って眠ることにした。

 ドンドンドン


 眠りについてそんな時間は経っていないと思う。

「なんですか?」

 目をこすってドアを開けると、昼間の騎士がいた。


「なぜ、公館を勝手に出て行った?」

 リファも起きてきた。

「だって、5時間も待たされたんですよ。俺達のことはきっと忘れたのかなと思ったんです」

「なに、そんなに待たされたのか」

「陽は沈んでましたね」

「そうか。だが、勝手に帰ってはならん。侯爵が明日お会いになられる。迎えを寄こすからここで待て。良いな」



 翌日。午前中に侯爵家の馬車が迎えに来た。

 宿の女将がびっくりして固まってしまった。庶民からすれば侯爵家からの迎えなんて縁がないからね。


 今度は、公館ではなく、侯爵家の屋敷に案内された。

 そして立派な部屋に通された。

 立派な部屋と言っても、どっかのバカ公爵のような謁見室ではなく、普通の応接室だ。


「お前達が、リオネルトを助けたという子供か。空を飛んだとか、植物を操ったとか妙な法螺(ほら)話を聞かされてな、正直よく分からん」

 そう言ったのは、いかにも貴族ですという出で立ちのアーシェル侯爵様だ。

 言いながら、金貨の入っているらしい袋をポンっと放り投げてきた。

 まだ30前だろうか。(ひげ)と若さがチグハグな感じの人だった。


「ありがとうございます。その話はすべて本当です」

「ふん。中身は知れたものだ。礼を言われるほど入れておらん。それで、どこでその様な魔法を手に入れたか?」

「エルベス大魔境です。私はクリフロード家の者です。訳あって大河川を流されバルバドールに流れ着き、最近、エルべス大魔境を通ってジルべリアに戻ってきたところです。大魔境は過酷な場所でしたから必死に生き抜いてるだけで色々と出来るようになりました」


「ふむ。そのような話を信じろと?」

「はい。事実です。これをご覧ください」

 俺は剣を鞘ごとテーブルの上に置いた。

「刀身に我が子爵家の家紋が掘られております」


「ふむ。なるほど。しかしな、既にその子爵家は存在しない。滅んだぞ」

 やはり、ギルドで聞いたことと同じことを言われた。

 思わず、顔をしかめて深い溜息が出た。

 隣に座るリファがそっと手を握ってくれた。


「どうだ、うちの養子にならんか?リオネルトの義兄として、友人として、魔法の師となってあの子を支えてくれるならば養子の契約をしてお前を貴族の身分に戻してやろう」

「お断りします。母と妹は生きている筈です。今は家族を探す旅の途中です。領のことも、この目で確認しない事には全滅だとか滅んだとか他人に言われても信じる事なんてできません」


「言っちゃ悪いが、それは無駄な努力だ。数年前、王国騎士団が現地に入った話を知っているか?隣の領が王家の直轄地でな、そこから騎士団が派遣された。その折、我が家臣も随行させて見に行かせたのだ。その者の報告では、魔物が平原に(あふ)れかえっていたそうだ。だから王国騎士団もすぐに帰還した。気の毒だが誰も生きてはいまい」

「でも、いえ。しかし母と妹はこちらへ逃れたのは確かなんです。何とか言う男爵家に助けを求めてテリーヌ大河川を渡ったはずなんです。私はその途中ではぐれてしまいましたが」

「ふむ。そのような話を耳にしたな。確か、子爵夫人がどこかの男爵家に助けを求めて断られたと。その後も近領の領主を訪ね歩いたとか。しかし、どこも手を貸すことなく、その絶望した後ろ姿がとても哀れだったとか。その後どうなったかは知らぬがな」


 母様の後ろ姿が目に浮かんだ。絶望してそれでも領民の為に救援してくれる貴族家を探して回ったのだろう。

 涙があふれそうになった。それを必死に堪えた。


「そ、その断られた方はどこのお方ですか?」

「さぁ。覚えてはおらん。賀会の席での話だ。酔って居ったからな。だが、確か、おぉそうだ。ファンスバード伯爵家のところの男爵だ。うむ」


 それからアーシェル侯爵はその男爵の名前と治める街の名を調べてくれた。

「これはガストールとかいう男爵への紹介状だ。持って行け。もし、気が変わったら当家を訪ねろ。雇ってやる」

 紹介状と一緒に、大領地や街道の描かれた大きめの地図を手渡してくれた。

 どうやらくれるみたいだ。


「ありがとうございました」

 俺達は礼を言って侯爵邸を辞去した。



 そのガストール男爵が治める街は、北北東に向かったテリーヌ大河川沿いのダートという街だった。まだ二つも大領地をまたぐ。でも、大きな手掛かりだ。

 その手掛かりを教えてくれたアーシェル侯爵には心から感謝する。

 公館で散々待たされた事などすっかり忘れて、俺達は再び空へ飛び上がった。



 野営を重ねること半月。その日遂にダートの街に辿り着いた。

 あまり活気のある感じではない。

 むしろ陰鬱(いんうつ)な暗い雰囲気のある街だった。


「なんだかブルジェールの街の雰囲気に似ている気がする。大きさとか人の多さとか違うけど。何となく嫌な感じがそっくり」

 この街に街壁はない。街門もない。

 街道と呼ぶには細い道の途中の集落に、人が集まってそのまま街になった感じだ。

 ブルジェールと似ていると感じるのは、人の表情だと思う。行き交う人に笑顔が全くない。

 ジルべリアにもこんな陰気くさい街がある事に少し驚いた。


 その街の中心にガストール男爵の邸宅はあった。

 大して広くもない敷地を立派な壁で取り囲んでいる。

 到着が夕方だったため、門衛に要件を伝えて訪問は明日にした。

 近くの宿に泊まり翌朝出向くと、午後にもう一度来いと言われた。


「ね、行きたい場所があるんだ。5歳の俺が流された場所に行きたい」


 一度、しっかりとその場所を見て、自分の決意をもう一度固めたいと思った。

 今後、どうゆう結果になろうと、何を言われようと、聞かされようと、俺は家族を探し続ける。

 見つけるまで絶対にあきらめない。その決意を固めたかった。

 ここの所、すぐに絶望して動揺する自分を情けなく思っていた。

 この先耳にする話はきっと嫌な話ばかりだろう。その嫌な話を聞いても耐えられる精神力が欲しかった。


 一度原点に帰って、これまでの自分を振り返る。そしてこの先の覚悟を決めて突き進む。

 その切っ掛けとその時間が欲しかった。


「うん」

 リファが頷いてくれたから、俺は足をテリーヌ大河川に向けた。

 たった一人で流された始まりの場所に、今はリファと共に帰って来た。


 俺は、対岸のジュダーグの森を見つめる。

 その先にある筈のクリフロードの景色を思い出していた。

 そしてあの日の情景を思い出した。


(帰って来たんだな)

 いつか、もう一度来よう。今度は母様とジュリアを連れて。

 必ずまた戻ってこよう。


 俺の心は自然とそう決意していた。


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