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ジルべリアの大地

 リーフボードで木々の上を進むとすごく早いという事が分かった。

 それでも、ここは魔境。頭上にも魔物はいる。


 俺達が珍しいのか、鳥型魔獣がちらほら襲ってきた。

 余裕があれば、魔法を飛ばして対処もできる。でも、そうでないことも多い。

 突然下から現れたとか、群れで襲ってきたりとか。

 そうなると、空中は危険でしかない。

 さっさと魔境の中に降りて自分の足で走ってゆく。勿論リーフボードを抱えてだ。

 抱えて走るとなると、やっぱり重たくて邪魔でしかない。

 それでも、愛着も沸いたし便利だし捨てがたかった。


 そして、今も抱えて走っている。


「キース!あれ!」

 リファが呼び止めた。指さす方を見ると、頭蓋骨が一つ。それに周りにその遺体の骨や荷物が散らばっている。

 随分と古い遺体の様だった。


 一応、埋葬をしてあげよう。穴を一つ掘って埋めるだけだ。3分で終わる。

 という事で、骨を拾い集めて穴の中に放り込んだ。

 荷物も一緒に。

「あれ?この鞄って・・空間収納の魔道具じゃん!」

「うそー!」

 俺が叫ぶとリファがすっ飛んできた。


「ねぇ、本当に?これすごく高価なんでしょ?貰っちゃっていいのかな?」

「さぁ。でも持ち主死んでるし。一応勝手に貰って怒られるよりギルドで聞いて相談してみよ」

「そっか。うんそうだね。私達が泥棒したとか言われるのも嫌だしね」

 でも、リーフボードを抱えて歩かなくなっただけで随分とお得な拾い物だ。

 最後に頭蓋骨を持ち上げると、長い金髪と一緒にギルドの会員証が出てきた。


 “エレシア・ディグリーム RANK A 所属ジルべリア王都支部冒険者ギルド”

 その会員証と金髪も一緒にバッグに入れておく。一応身元証明と遺髪だ。


 鞄の中には。300枚入りの金貨袋、ポーション、食材、水樽、着替え、皮鎧に金属鎧、剣3振り、宝石に複数の魔物素材と色々出てきた。


 腐っているものを捨てて、残りの持ち物にクリーンを掛けて再収納してから俺達はその場を後にした。

 そして、リーフボードを練習しながら北へ向かう。

 たまに魔物が出るけど、順調な旅だった。


 川を渡って8日目。


 森の奥から戦闘音と悲鳴が聞こえてきた。

 リファと顔を見合わせた。

「どうする?様子を見に行ってみようか」

「うん。危なそうだったら助けて上げようよ」


 音のする方向へ向かった。

 そこに、5人の冒険者らしき人達がいた。皆人間族だ。エルフじゃない。


「うわぁ。久しぶりに人に会った」

 リファが隣で呟いた。

 最後に会ったというか分かれたのはベックだ。それから魔物とエルフ族しか見ていない。

 いよいよジルべリアに近づいた感じがしてテンションが跳ね上がった。

 でも、視線のその先では冒険者たちが追い込まれて今にも全滅しそうだ。

 テンション上げてる場合ではなかった・・


 闘っている相手は2匹のヘルグリズリーだ。

 4本腕で3.5メトル。分厚い毛皮の防御と腕力重視の戦闘で暴れ出すと手が付けられない。

 ギルド認定ランクBの中層付近に良くいる熊型魔獣だ。


 一人倒れて動かない。一人は明らかに怪我をして離脱している。

 現在、二人と一人に分かれてそれぞれ相手をしている。


 こうゆう時は何て声を掛けたらいいんだろう。

 おーい?それとも、済みませーん?否、大丈夫ですかー?かな。

 さて、何と声を掛けようか、なんて考えていたらリファが先に声を掛けた。


「お取込み中のところ済みませーん!助けって必要ですかー?」

 どうやら“すみませーん”が正解だったらしい。本当か?


「誰だか知らんが助かる!手伝ってくれ!」

 大きな盾を持ったおじさんが大声で助けを求めてきた。


 俺とリファは目で会話してすぐに動いた。

 リファは二人組の戦っているヘルグリズリーに向かった。茨の蔦を操って足元から一気に腕まで絡め取った。身動きできなくなった所を風刃で首筋をひと撫で。それで決着がついた。

 茨蔦は太い棘を持つ。そんなものが絡まったらさぞ痛いだろうなと、ちょっと4本腕の熊に同情してしまった。


 俺の方は、口の中に石榴弾を一発。それで脳髄まで破壊して仕留めた。毛皮を傷つけないで済むし、苦しみも与えない。実にスマートな殺し業だ。


 ・・・・・・。


 せっかく手伝ったのに、お礼の一言もない。

 しょうがない人達だと思いながらも、倒れて動かない人の所へ行ってヒールを掛けようとした。

 あー、死んでる。

「キース。こっちの人をお願い」

 リファに言われて(うずくま)っている女の人の元へ行った。

 右腕が千切れかけている。背中にも深いひっかき傷がある。


「ヒール」

 魔力が増えて、俺のヒールの効き目はかなり向上している。

 白い光が包み込んで、傷を癒して行く。

 骨もつながった。血も止まった。筋も皮膚も治した。

「はい、終了。血がいっぱい出たから暫くは安静にしてください」

「これ、私が作った体力回復ポーションです。飲めば少しは楽になりますよ」


 親切なリファが、自作ポーションを進呈した。

 結構な効力がある奴だ。

 繋がった腕で握ったり開いているその右手に、リファが小瓶を握らせた。

 グビっと飲み干すと、その人の顔に生気が満ちてきた。

「あの、助かったわ。ありがとう」

 その女性はか細い声でお礼を言ってくれた。


 一言お礼を言われるだけで報われた気がする。

 助けて良かった。

「いや、いやいやいやいや。君たち、ありがとう!だがすごいな。ヘルグリズリーを瞬殺とは。吃驚(びっくり)して何が起きたのか未だに理解が追い付かない。とにかく助かった。礼を言う」

 おじさんからも大きな声でお礼を言われた。

 他の人達も皆怪我をしていたからついでに治しておく。


 おじさん達は、ここで素材の()ぎ取りをしてその場で野営をするという。

 自己紹介で、おじさん達は“沈黙の盾”というBランクのパーティーだと言った。

 おじさんはリーダーのベン。ギルドの依頼でヘルグリズリーを狩りに来て返り討ちに合ったという話だった。


 で、なぜか俺達も一緒に野営を勧められて一晩ここに泊まることになった。


 仲間の一人が死んで沈鬱(ちんうつ)な空気の中、焚火を囲んで“沈黙”の皆さんと一緒に熊肉を焼いている。

 ジュージュー

 皆、無言で誰も喋らない。まさに沈黙状態だ。

 そんな静かな場に熊肉の焼ける音がする。

 いい匂いに誘われてリファのお腹がくぅーとなった。

 こら!リファ、空気読めよ!今はダメだろ。


「ガハハ。もう少し待ってくれな」

 空気が重いと思ったけど、おじさんが声でかいから、それだけで雰囲気が明るくなった。

 リファ、ナイス!

 リファのくぅーが切っ掛けで会話が始まった。

「ところで、君たちのような子供がこんなところで何をしていたんだ?」

「俺達はジルべリアに向かう旅をしているんです。信じてもらえないかもしれないけど、ずっと南から来ました」

「どういうことだ?」

 面倒くさいと思いつつも問われるままに、これまでのいきさつをかなり端折(はしょ)って話した。


「そうか。とても信じられんな。だが分かった。一緒に街まで行こうじゃないか」

「ここから街まで何日くらいかかるんですか?」

「5日だな」

 リファを見ると頷いている。

 色々と相談できる知り合いを作っておくのもいいかと思った。


「うん、いいよ」

 それから、ジルべリアのことを色々と聞いた。


 安定した王国の統治が続いて居心地の良い平和な国らしい。

 それでも、瘴気の湧きが増えてきていて不安を抱える人も多いのだとか。

 クリフロード領については、5年前に全滅したという。

 その一言で、俺の頭は真っ白になった。


 その後、何を話したかも覚えていない。

 一秒でも早く、真実を確認したいという想いと、そんな話聞きたくないという想いがぶつかってずっと混乱していた。


 翌朝、ベンは死んだ仲間を背負って出発を告げてきた。

 俺は親切にも収納バッグに保管させてあげた。

 だって、5日も背負ったままじゃ大変なことになってしまう。

 俺達が収納バック持ちだと知ったらすごく驚かれてしまった。

 実は最近拾ったんだけどね。


 ベン達を先頭に俺とリファは後ろをついて歩いて行く。

 でも凄くペースが遅い。

 これなら先に行ってしまおうかと思ったけど、行けばクリフロード領のことを確かめないわけにはいかない。そしてそんな現実を知りたくもない。

 だから、沈黙の盾の皆さんのペースで一緒に歩いた。



 そして5日後、俺達はロッソ伯爵領、フォッセの街近くの草原に出た。


 ここはジルべリア王国領。夢にまで見た俺の故国だ。

 母様と、ジュリアと、そしてきっと父様もお爺様もお婆様もこの国の空の下、この国の大地の上にいる。


 俺は今、家族と同じジルべリアの大地の上に立っている!!

 帰って来たんだ!


「うわーあぁぁ!」

 気付いたら歓喜の叫びをあげていた。

 両こぶしを突き上げて、喉が潰れるかと思えるほどの叫びを。

 膝を付いて、両手に故国の土を掴んだ。

 その乾いた土に俺の涙がいくつも染みを作った。

 うぅぅ・・


 リファが俺の背中を抱きしめてくれた。

「今までよく頑張ったね。良かったね。あとちょっとだよ。私も頑張るから、早くキースの家族見つけようね。グスッ」

「うん。うん。リファ、ここまでありがと。リファのおかげでここに帰って来ることができた。リファ、ありがと・・」


 沈黙の盾の人達は俺達の奇行に目を丸くしているみたいだ。

 でも、そんな事どうでもいい。

 今は、嬉しくて嬉しくて胸が張り裂けそうなんだ。


「お、おい。お前達大丈夫か?突然どうした?何かあったのか?」

「何でもない。先を急ごう」

 涙をグイっと拭って立ち上がった。

 変な空気になってしまってけど、俺達はフォッセの街に向かって歩き始めた。



 そしてフォッセの冒険者ギルドにやって来た。

 ベンは仲間の死亡を届け出て、そのままどこか奥の方に行ってしまった。


 俺とリファは、会員証を見せて受付のお姉さんにモルビア王国から来たことを伝えた。

 初めて訪れた街ではギルドの受付に会員証を見せるようにとブルジェールのエイミーさんから言われている。

 なのに。

「・・・えっと。そんなわけないでしょ」

 分かっていたけど、全然信じてもらえなかった。

「まぁ信じてくれなくてもいいよ。ところでいくつか質問があるんだけど」

「何かしら」

「クリフロード領の現状を教えてください」

「えっと、そこは5年前にスタンピードが起きて壊滅したわよ」

 その言葉に、俺の思考はまた固まってしまった。

「・・・・」

「でも、誰か生き残った人とかいるでしょ?避難先とかないの?」

 リファが代わりに聞いてくれた。


「一人も生存確認されてない筈よ。3年前に王国騎士団が調査に向かったのは知ってるでしょ?その時は魔物が多すぎて上陸した日に撤退したと聞いてるわ。あそこは大河川に隔てられた孤島のような領よ。騎士団が諦めたくらいだから誰も生き残りはいないと判断されたわ。王国は領地を放棄して、クリフロード家は取り潰しとなっているわね。だからもう王国領ですらないのよ。どう?そんなところでいいかしら?」


 心に突き刺さる言葉がポンポン出てきた。

 一気に不安で心が塗りつぶされた。想像すらしなかった最悪の状況だった。


「もういい。ありがと」

 リファの険のある声が聞こえてきた。

「キース、一旦ここを出よ。私あの女の人嫌い。先に宿をとってゆっくり休んで、それからもう一度出直そうよ」


 俺はリファに引っ張られて、どこか分からないけど宿の部屋に入った。

 情けないけど何も頭が働かない。

 だからリファに全部任せっきりだ。


「キース。なんか大変なこと言われちゃったね。でも、私思うの。まだ絶望するのは早いよ。だって、あんな人に言われたからって信じてやる必要なんてないもん。もっといろいろな人から話を聞こうよ。落ち込むのはそれからでも遅くないよ。どこまで本当か、もっとしっかり調べよ。ね?」


 リファの眉毛が下がっている。すごく不安そうに瞳が揺れている。

 俺の心が折れそうになっているから、リファにこんな心配をさせてしまっているんだ。

 しっかりしなくちゃ。でないとこんな遠くまで付いてきてくれたリファに悪い。


「うん。ごめん」

 しっかりしようと思った直後に出てきた自分の声はすごく沈んでいた。

 俺ってダメだ。こんなんじゃリファを余計に心配させちゃう。

 大きく息を吸って、ゆっくり吐き出した。

「ごめん、リファ。俺しっかりするよ。こんなところで落ち込んでる場合じゃなかった。ありがと」


 でも、その日は何も考えられなくて何も行動を起こせなかった。


 翌日。

 もう一度ギルドへ行った。

 昨日とは別のお姉さんのカウンターに並んだ。


「こんにちは。今日はどんな御用ですか?」

「魔境で、白骨の遺体を発見したのでその報告に。後、遺品を持ち帰ったのでそれはどう処理されるのか教えてください」

 そう言ってエレシア・ディグリームという人の会員証を出した。

「遺体は、魔境に埋めました」

「・・・エレシアの遺体!とうとう見つかったのね。え?君たちが見つけたの?どこで?」

 お姉さんが大きな声を出すから注目を浴びてしまった。


「南の魔境の奥です」

「奥って、君達が行けるような場所じゃないでしょ、そこは。どういう事?」

「たまたま通りかかって見つけたんです。これが遺髪です」

 (くく)ってまとめた金髪の髪の毛をカウンターに置いた。

 周りがまだざわざわしている。


「ちょっと奥へ来て頂戴」


 奥の小部屋に案内された。

「私はフォッセ支部のアゼルと言います。君たちはそのエレシアという女性の事をどこまで知っているの?」

「まったく知りません」

「じゃあ簡単に悦明するわね」


 俺達の見つけた遺体のエレシアはランクA冒険者であると同時に貴族の娘だった。

 3年前、複数のオーガの目撃情報があり、エレシア含む数名の冒険者が討伐に向かい、戦闘の混乱の中でエレシア一人行方不明となったのだそうだ。死亡確認が取れないことから、遺族が賞金を出して遺体を多くの冒険者に探させたことで誰もが関心を寄せることになったという。結局、遺体は見つからず、今ではみんなの関心も薄れてしまったという事だった。


「エレシアの荷物の確認をします」

 そう言って、アゼルは自ら収納袋の中身を机の上にすべて並べた。


 一点一点、慎重に確認を取っていく。

「確かに、エレシアの持ち物と断言できるわね。もう遺族の懸賞金は取り下げられているから、これを返してもご褒美は出ないけどいいかしら」

「その前に返さなきゃいけないものなんですか?」

「えぇ。遺族から申請の出ている物については返却しないとまずいわ。この中で言うと、金貨と武器と防具と宝石ね。素材と鞄はあなた方に所有権が移るわよ」


「じゃあ、それでいいです。あ、ここでこの素材を換金ってしてもらえるんですか?」

「えぇ。今処理しちゃうから少し待っていてくれる?」

 そう言ってアゼルは部屋を出て行った。


「この鞄が手に入っただけでも良かったよ。あ、でもお金が全くないからすぐに稼がないとね」

「うん。実は昨日の宿代あの金貨袋のお金から使っちゃった。素材のお金から返さないといけない」

「そっか。俺何にも考えてなかった。全部リファに任せちゃってごめん」

「ううん、昨日はそれどころじゃなかったでしょ」


 そこにアゼルが入って来た。

「全部で金貨3枚と銀貨6枚、銅貨8枚ね。はい、ここにサインして」

「あの、昨日ここから銅貨を6枚借りちゃったので、この中から返します」

 リファが申し出て清算が終わった。


 遺体発見の連絡やら、遺品の返却やらはギルドで行ってくれるという。

 発見者の俺達の情報は遺族に伝えないように頼んだ。

 褒章金も出ないというし、出たとしてもまた貴族から嫌がらせされても困る。

 もうあんな目に遭うのは懲り懲りなのだ。


 それから冒険者講習を明日の午前中に予約だけして、小部屋を出た。


 Gランクの依頼表の前。

 どんな依頼が受けられるのか確認しに来たけど、碌なものがなかった。

 内容的にはブルジェールで見たものとほぼ同じだ。

 街の中での作業しかない。

 外壁修理、道の清掃、ドブ(さら)い、店舗手伝い、荷馬車積み下ろしなどなど。

 それで一人銅貨3枚だ。

 ブルジェールでは銅貨2枚だったから1枚お得だけど、ここは宿代も高かったらしい。

「うーん。やっぱりこれという依頼はないね」

「宿代は二人部屋で銅貨6枚だったよ。これじゃ食事代がでない」

「こういう下働きみたいな依頼をこなして地道にランクを上げるしかないのかな」


 その日は王国の地図を1枚買って宿に戻ることにした。


ジルべリアお金の単位


金貨        十万円

銀貨        一万円

銅貨         千円

半銅貨       五百円

小銅貨        百円

丸銭         十円 

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