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リファの能力

 また俺達に日常が戻って来た。

 毎朝ビオラの指導を受けて、午後はドルドの所へ1日置きに学びに行く。

 ドルドの指導の無い日は森で野草や狩をして授業料を採りに出かけた。


 実は、リファが10歳の誕生日を迎えた。

 本人は全く忘れていて俺がホロホロ鳥を持って帰って祝うととても喜んでくれた。

 一番のプレゼントは俺がリファの10歳の誕生日をしっかり覚えていたことだったそうだ。

 リファは俺の10歳を忘れていたから謝られてしまった。

 そんなこと気にすることないのに。

 最後におでこにおやすみのチューをしてリファの誕生日を無事終えることができた。


 そんなある日、森へ向かう俺をビートが待ち伏せていた。

「なぁ、キースちょっと相談に乗って欲しいんだ」

 ビートと会うのは虐めの現場に介入して以来だ。

 まだ虐められてるのか?


「実は、俺もそろそろ練武場に通わないといけないんだ。普通はそこで鍛えて強くなってハンターになるんだ。けど、俺ハンターじゃじゃなくていい。というより魔道具師になりたいんだ。魔道具師になって父ちゃんの為に義足を作ってやりたいんだ。エルフの寿命は長い。父ちゃんまだ200年くらい生きるのにずっと杖ついて不自由な思いをするなんて可哀想だろ?俺にできるか分からないけど、義足作って自由に動ける体に戻してやりたいんだ」

 

 そして俺の顔をおずおずと見てくる。

「つまり?」

「だから、ドルドに俺を紹介してくれないか?頼む!」

「ドルドってかなり偏屈なんだ。俺の場合は里長とミトの口添えがあったから弟子にしてくれた。でも、試験はされたし、その上で授業料もしっかり払っているよ。それでも仕方なくって感じなんだ」

 期待しないで欲しい。というか自分で聞けよ!


「うん。偏屈なのは知ってる。俺も無理かなってちょっと思ってる。でも、やりたいんだ。その気持ち伝えなけりゃ始まらないだろ?」

「じゃあ、ビートが訪ねてくるって話だけはするからあとは自分で説得しなよ」

「わかった」

「明日、夕方に工房に来て」


 その日はそれで話は終わった。

 翌夕方。

「ドルド師匠。実は師匠の弟子になりたいって人がいてこれから来ることになっているんですけど、会って話だけでも聞いてやってくれませんか?」

 実は昨日頑張ってホロホロ鳥を探して仕留めた。それを今日、授業料で渡してある。

 角兎なんかよりもよほど美味しいホロホロ鳥にドルドは朝からご機嫌だった。

 そうなるように仕組んだのだ。


 本当はミトに渡したかったけど、断腸の思いでドルドに渡したのだ。

 ミトなら食卓に並んで俺達の口にも入るけど、ドルドはそんなことはしない。

 そこまでしたのだ。話くらい聞いて貰わないと割に合わない。


「ふん、そんなのばかり来よる。ダメじゃ」

「断るのは会ってからお願いします。俺の口から言うより師匠から言われた方があきらめもつくでしょうし」


「お前から見てどんな風じゃった?才能とやる気はありそうか?」

「才能は分かりません。我慢強い奴だとは思います。やる気は俺よりもありますよ」

「お前にやる気がないとは思えんが」

「俺は覚えたくて通ってるんです。あるに決まってますよ。それ以上にあいつは教わりたいって意思があるってことです」


「・・・まぁ分かった。話くらいは聞いてやる」

 ほっとした。

 第一関門突破だ。


 暫くしてビートがやって来た。ガチガチに緊張している。

「わわ、私はビートです。俺に魔道具の作り方を教えてくださいっ!」

 最後は声を張り上げたものだから煩かった。これは怒られる。

「馬鹿もん!こんな狭い場所で怒鳴るな。普通に話せば聞こえるわい!」

 ほら。

「わしは弟子を取らない主義じゃ。諦めて帰れ」

 はや。もう断られた。ドルド師匠、容赦がないな。


「お、お願いします。俺、父ちゃんの義足を作りたいんだ!」

「なに?お前の父親は誰だ?」

「・・ギルムです。元ハンターリーダーの」

 凄く言いたくなさそうな雰囲気で仕方なくギルムの名を口にした。

「そうか」


 暫く沈黙が続いた。

「キースお前は帰れ。こいつは俺が話をして決める」

 有無を言わせない感じで言うから俺は大人しく工房を出た。

 去り際に見せたビートの不安そうな顔を見たら残って援護してやりたかったけど、やめた。

 これはビートと師匠の問題だ。俺の出る幕じゃない。


 その日、少し遅めに帰るとリファが俺を待っていた。

「キース!やっと帰って来た。ね、見て見て!」

 そう言って俺を薬草園に引っ張ってゆく。

 何か興奮しているみたいだ。どうしたんだろ。


「これ」

 そう言って指さしたのは普通の草だ。特に変わったところはない。

「見てて」

 リファが手を(かざ)すとリファの魔力が草に触れる。すると、草が急激に成長を始めた。

「な、なんだこりゃ!」

「驚いた?すごいでしょ?私植物を操る力を手に入れたみたい」

「ええ!?」

 リファがどんどん凄くなってゆく。


「今日気づいたの。何気なく魔力を当ててみたら急に成長したからびっくりしちゃった。あ、それにこんなこともできるんだよ」

 そう言って見せたのは、蔦が身をくねらすように踊る姿だった。

 まじか・・

 一応俺も同じことをしてみたけど、何も起こらなかった。

 リファだけの特技の様だ。


「あした、ミトと一緒に森でこの力の確認をするの。キースも来て!」

 勿論俺は快諾した。


 その日の夕食時。

 ミトが戸惑っているような変な顔をしていた。

「リファーヌの能力だけどね、私なりに調べてみたんだ。だが今一納得のいく理屈が分からない。ただ、普通じゃないからパラサリアに憑かれた事と関係があると考えた方がいい。かなりの魔力量があるからなのか、魔力の波長が合ったのか、或いは元から特殊な才能の持ち主だったか。いずれも根拠はないし、確かめようもない。本当に不思議な子達だよ」

「待ってよ。俺は不思議な子じゃ無いよ」

「何言ってんのさ。私から見たらあんたも同類さ。雷魔法なんて伝説級の技を使ってるじゃないか。希少度で言ったら、どっちもどっちだよ」


 リファが不思議ちゃんって所まではいい。

 でも俺は違う。いたって普通なはずだ。

「キース!何考えてるか知らないけど、私たち同類だって!ここは喜ぶべきところだよ」

 リファは無邪気だ。ブレない。

 リファの顔を見てたらどうでもよくなってきた。同類でも不思議君でも何でもいいや。


「明日はリファーヌに何ができるか色々と実験だよ。楽しみだねぇ」

 ミトが悪い笑みを浮かべた。

 何かさせられるのか?

 ちょっとリファが心配になる俺だった。



 翌日の昼。

 練武場から帰ってすぐに森へと出かけた。


「さ、ここらで良いだろう」

 ミトは草地で足を止めた。

「早速始めようか。リファーヌ。この草地の野草を成長させてみな」

 30メトル四方くらいか?こうしてみると結構広いよ。


 リファは地面に手をついて魔力を流した。

 すると、手を当てた場所付近の草が伸び始めた。

「ふむ。都合よく辺り一面ってわけにはいかないんだね」


「じゃあ、触れないで魔力を飛ばして操れるか試してみな」

 魔力玉を飛ばして狙いの草に当てる。すると一本だけがグングン成長し始めた。

 更に、左右に揺れ出した。リファが操っているのだろう。

「うん。こっちは問題ないね」

「じゃあ次だよ。あの蔦を使ってあそこの鳥を捕まえられるかい?」

 ミトが差したのは正面奥の樹から垂れている蔦だ。30メトルある。

 そして、その少し右奥にホロホロ鳥が一羽木に止まっていた。


「やってみる」

 リファの目の色が変わった。リファもホロホロ鳥が食べたいらしい。

 昨日、せっかく取って来たホロホロ鳥をみすみすドルドに取られたからか?


 リファが集中してる時の顔で魔力玉を飛ばす。

 すると蔦が(うごめ)きだした。

 何か動きがキモイ。


 それがずるずると動いてホロホロ鳥へ静かに忍び寄る。蛇みたいだ。

 異変に気付いたホロホロ鳥が飛び立った瞬間、蔦が絡みついた。

 ホロロロロロ ホロロロロロ

 見事生け捕った。

「やったー!」

「でかした!これで今夜はごちそう決定だよ!」

 リファとミトが大喜びをしている。

 魔法の実験なのに、趣旨が代わっているような・・


 それから種子から育てた場合、どのくらいの速さで成長させられるかとか、大木を操ったらどうなるかなどを調べていった。


 そして、今トレントを探している。

 トレントは操れるのか、トレントを種子から発芽させたらどうなるかを見たいのだ。


 結論から言うと、大木は操れるけど、枝を揺さぶる程度。根っこや枝をトレントの様に自在に振り回すことはできなかった。

 蔦や草程度なら、魔力を飛ばしても種子から育てても自在に操れる。

 トレントは全く無理。ただ、種子からリファの魔力を込めると普通に操れた。


 これはトレントを味方にできる可能性がある。


 そして、蔦を使って(むち)や縄を武器の様に扱うことができると分かった。

 これは触れていても遠隔でも可能だ。

 これで闘い方の幅がかなり広がる。


 例えば、追いかけて来る奴の足を草で引っかけるとか。

 蔦で縛り上げるとか。吊るすとか叩くとか。

 牽制としても使えるし、素早く動く相手も捕らえられる。

 この間のデビルオーガ戦で使えていたら、もっと簡単に勝てたはずだ。



 リファは新たな才能が開花したことで、弓の訓練を止めてこの“草魔法”を鍛えることにした。


 やることは発芽から攻撃までの時間短縮と、遠隔操作の精度上げだ。

 そして、俺が暇なときに色々な植物の種子を集めて来る。

 集めるためには俺も植物について勉強しないといけない。

 という事で忙しくなってきた。


 調べてみると、もっと広範囲に使える技が増えることが分かった。

 例えば、眠り草。

 花粉を飛ばして眠らせる効果がある。

 幻惑草は幻を見せる。

 酔花は酔わせてしまう。

 そうした危険な魔草の類はそこら中に生えている。まさに宝庫だ。

 一つ種を手に入れれば、リファの魔力で成長させて種子も取り放題。

 なんて便利で多様な魔法だろうか。


 リファってすごい。

 一気にすごい女の子になってしまった。

 それに「この魔法を使ってキースの事いっぱいフォローするね!」って嬉しそうな顔で言うから、本当にブレない子だよ。



 ところで、ビートだけど無事ドルドの工房で修業できることになった。

 何でも、ギルムが片足を失ったきっかけは、ドルドの依頼だったそうだ。

 当時、どうしても手に入れたい素材を狩に行ったハンターがギルム達で、その時に黒狼に襲われてしまったらしい。

 それをドルドは内心申し訳なく思っていたそうだ。

「それで少しでも罪滅ぼしになるなら教えられることは教える」

 と言っていた。


 でも、工房は狭い。だから、俺の休みの日にビートが学びに来ることに決まった。

 あと、ビートは練武場にも通う。

 この里ではハンターになるならないに関係なく、全員練武場へ通うのが習わしだ。

 そうして少しでも戦えるものを増やさなければこの魔境では生存できない。



 そうして月日は過ぎ、エウロの里に運び込まれてから半年が経った。

 リファは最後の診察を受けている。

 俺はそれの結果を部屋の外で待っている。

 毎朝診てもらっているから、絶対に大丈夫という事は分かっている。それでも、きちんと締めくくりでミトから大丈夫の言葉を聞きたかった。


 部屋の扉が開いてリファが出てきた。

「キース!もう里を離れてもいいって」

「あぁ。完全にパラサリアの根は除去できた。長かった治療もこれで終わりだ」


「ミトありがとうございました!」

 俺はミトの手を取ってお礼を言った。

 本当に半年は長かったよ。


 これで、旅を続けられる。


「ところで相談なんだがね、もう少し里に残らないか?あとひと月でいいんだ。それで一通り肝心なことは教え終わる。せっかくここまで教えたからね、中途半端に終わらせるのは嫌なのさ」

 リファが申し訳なさそうな顔をしている。

「キース。私のせいで半年も足止めになったでしょ?だからキースがすぐにでも行きたいんだったらすぐに出発でもいいよ」

「リファは最後まで教えを受けたいんじゃないの?」

「それはそうだけど、これはキースの旅だし」

「リファ。俺の旅だけどリファの旅でもあるよ。二人で旅してるんだから。リファが学びたいなら俺は待つよ」

「いいの?」

「勿論」


「よし、じゃああとひと月だ。二人ともいいね」

 という事で、一か月だけ里の滞在が延長となった。

 そしてまたいつもと同じ日々が続くはずだった。


「キース。あとひと月残るなら英雄の試練を受けてみたらどうだい?」

「師匠、何ですかそれ」

 ビオラに何か変なことを提案された。

 ちなみにもうビオラは俺の敵ではない。

 近接戦でも10回戦って10回勝てる。

 肉体強化を使いこなし始めてから、魔力の質も量も高い俺がビオラ師匠を圧倒し始めた。


 ビオラは悔しがっていたけど、メキメキ成長して上達してゆく俺に呆れて途中からは対抗心を燃やすことさえ馬鹿々々しくなったそうだ。


 でも、強くなれたのはビオラのおかげだ。

 だから、俺は今でも師匠と呼んでいる。


「里の戦士が認めた者なら英雄の試練を受けられる。死ぬこともある厳しい試練だけど達成できる実力ありとみなされた者だけが受けられるんだ」

「それって里長が戦士の中から選ぶんじゃなかったっけ?俺は戦士じゃないし里の者でもないのにいいの?」

「あぁ。お前は特別OKだそうだ」


 半月後、俺の英雄の試練の挑戦が決まった。

 他の里からも挑戦者が来るという。その人の到着を待って試練の内容が伝えられることになった。


 そして、やって来た他里の戦士とは、あのリックだった。

 何でも、デビルオーガの一件以来、バレロの筆頭戦士でありながら周囲から白眼視されるようになったそうだ。

 それは致し方ないだろうと思うけど、本人的には我慢がならないらしい。

 そこで英雄の試練を受けて今一度、栄光と栄誉を勝ち取って威厳を取り戻したいのだそうだ。


 大勢の戦士とハンターが亡くなった原因の人だ。そんなことで栄誉は戻らないと思うけど、俺に反対する理由もない。

 二人で試練を受けることに決まった。


 ちなみにビオラは面白くないらしく、リックの顔を見かけるたびに舌打ちをしている。

 視界に入れるのも嫌なようだ。


 エウロの里に被害はなかったのだからそこまで嫌わなくてもと思うけど、エルフ族は執念深い種族らしい。

 何万年も前に起きたユグドラシル焼失を今でも忘れず、徹底して火を嫌う所にエルフ族の性分が現れている。


 執念深いエルフ族が、勇者になった位で過去の失態を無いものとして尊敬してくれるのだろうか?

 リックは試練を受けるだけ無駄な気がしないでもないけど・・



 いよいよ勇者の試練を受ける時がやって来た。

 


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